著者:中西 正司[なかにし・しょうじ] (1944-) 全国自立生活センター協議会。
著者:上野 千鶴子[うえの・ちづこ] (1948-) ジェンダー論、家族社会学。社会運動。評論。
※2024年11月に『当事者主権 増補新版』が刊行。
【目次】
目次 [i-iv]
序章 当事者宣言 001
1 当事者主権とは何か
2 当事者であること
3 自立支援と自己決定
4 当事者になる、ということ
5 当事者運動の合流
6 専門家主義への対抗
7 当事者学の発信
8 「公共性」の組み替え
1章 当事者運動の達成してきたもの 021
1 当事者運動の誕生
2 自立生活運動の歴史
3 「自立」とは何か?
4 自立生活センターの成立
5 自立生活支援という事業
6 当事者の自己決定権とコミュニケーション能力
7 介助制度をどう変えてきたか
8 自立生活運動の達成してきたもの
9 新たな課題
2章 介護保険と支援費制度 061
1 介護保険が生まれてきた背景
2 介護保険の老障一元化をめぐって
3 支援費制度のスタート
4 介護保険と支援費制度の違い
5 育児の社会化をめぐって
3章 当事者ニーズ中心の社会サービス 081
1 属人から属性へ――自分はそのままで変わらないでよい
2 だれが利用量を決めるか?
3 だれがサービスを供給するか?
4 社会参加のための介助サービスをどう認めるか
5 家族ではなく当事者への支援を
4章 当事者たちがつながるとき 095
1 システムアドボカシー
2 縦割りから横断的な連携へ
3 ノウハウの伝達と運動体の統合
4 組織と連携
5 適正規模とネットワーク型連携
6 法人格の功罪
7 事業体と運動体は分離しない
8 採算部門は不採算部門に対して必ず優位に立つ
5章 当事者はだれに支援を求めるか 125
1 障害者起業支援
2 介護保険と市民事業体の創業期支援
3 政府・企業・NPOの役割分担と競合
4 規制緩和と品質管理
5 雇用関係
6 ダイレクト・ペイメント方式
7 ケアワーカーの労働条件
6章 当事者が地域を変える 147
1 福祉の客体から主体へ、さらに主権者へ
2 家族介護という「常識」?
3 施設主義からの解放
4 精神障害者の医療からの解放
5 脱医療と介助者の役割
6 医療領域の限定
7 サービス利用者とサービス供給者は循環する
7章 当事者の専門性と資格 161
1 ヘルパーに資格は必要か
2 ピアカウンセラーの専門性
3 資格認定と品質管理――フェミニストカウンセリングの場合
4 ケアマネジメントか、ケアコンサルタントか
5 ケアマネジャーの専門性と身分保障
6 成年後見制度と全人格的マネジメントの危険性
7 新しい専門性の定義に向けて
8章 当事者学のススメ 185
1 女性運動と女性学
2 性的マイノリティとレズビアン/ゲイ・スタディーズ
3 患者学の登場
4 自助グループの経験
5 精神障害者の当事者研究
6 不登校学のススメ
7 障害学の展開
おわりに 自己消滅系のシステム 205
あとがき(中西正司/二〇〇三年九月 上野千鶴子) [209-214]
当事者運動年表 [1-2]
【抜き書き】
当事者主権は、何よりも人格の尊厳にもとづいている。主権とは自分の身体と精神に対する誰からも侵されない自己統治権、すなわち自己決定権をさす。私のこの権利は、誰にも譲ることができないし、誰からも侵されない、とする立場が「当事者主権」である。
(p. 3)
女や子ども、高齢者や障害者、性的少数者や患者などの社会的弱者とは、「自己定義権」を奪われてきた存在だった。その人たちが自分自身について語る言葉は、聞く値うちのない言葉として、専門家から耳を傾けてもらえなかったのである。/専門家は「客観性」の名において、当事者の「主観性」を否定してきた。当事者学があきらかにするのは、当事者でなくてはわからないこと、当事者だからこそわかることがある、という主観的な立場の主張である。したがって、当事者主権とは、社会的弱者の自己定義権と自己決定権とを、第三者に決してゆだねない、という宣言でもある。/専門家が「客観性」の名においてやったことに対する批判が、ここにはある。というのも、「客観性」や「中立性」という名のもとで、専門家は、現在ある支配的な秩序を維持することに貢献してきたからである。
(pp. 16-17)
だれかを代弁することも、だれかに代弁されることも拒否し、私のことは私が決める、という立場が当事者主権だから、代表制の民主主義にはなじまない。/そのためには「最大多数の最大幸福」を基準とするような「公共性」の理念を組み替えなければならない。公共性は、少数者の犠牲のもとに成り立ってはならない。ラディカルな民主主義の立場は、少数者であっても多様性を容認し、他人と違っていていい権利、違うからといって差別されない権利を擁護してきた。
(p. 18)