著者:飯尾 潤[いいお・じゅん](1962-) 現代日本政治論。
【目次】
はじめに [i-v]
目次 [vi-xi]
第1章 官僚内閣制 003
議院内閣制への誤解
1 内閣制度百年と日本国憲法の制定 006
議院内閣制と内閣制の相違
2 空洞化する閣議 009
大宰相主義から「同輩中の首席」へ/元勲内閣から政党内閣へ/二つの理論と権力分立問題
3 内閣総理大臣と分担管理 017
権力集中的な制度/不可欠な政党政治
4 逸脱した日本政治 021
自民党長期政権による誤解/「国務大臣」への誤解
5 議院内閣制とは何か 026
憲法が示す総理の権限/内閣法という制限
6 戦前日本の内閣制度 029
根回しと全会一致
7 官僚内閣制の呪縛 032
議院内閣制の本質
第2章 省庁代表制 035
1 日本型多元主義論と官僚制 036
結節点としての官僚
2 日本官僚制の特質 040
人事の自律/国家公務員法制/事務系キャリアの人事/局長が成功の証/「省庁連邦国家日本」
3 積み上げ式の意思決定 050
政策形成の過程/稟議制論と合議/相互作用による政策決定
4 政策の総合調整 056
予算交渉/組織・定員の総合調整/内閣法制局による法令審査/内閣官房の台頭
5 中央政府と地方政府の関係――集権融合体制 064
「集権」か「分権」か、「融合」か「分離」か/機関委任事務制度の功罪
6 深く浸透する国家 069
民間企業に委託された政府機能/暖昧な「国家」と「社会」の境界
7 所轄による利益媒介システム 074
社会的な利益の代弁者
第3章 政府・与党二元体制 077
1 「与党」とは何か 078
政権党との差異
2 与党の政策審議機構 081
党本部が持つ政策審議機能/政務調査会と総務会/自民党内の法案審査の手順/党議拘束
3 合議(相議)の相手方としての国会議員 088
官僚と国会議員の接触/国対政治と官僚/官僚と政治家の融合
4 族議員の隆盛 094
族議員のさまざまな定義/日本型「鉄の三角同盟」
5 派閥と政治家人事の制度化 097
派閥の制度化/人事経路の確立
6 政治家と官僚の役割の交錯 102
「行政的政治家」の時代
第4章 政権交代なき政党政治 105
1 議院内閣制と政党政治 106
意見集約という役割/望ましい政党制/日本の議院内閣制の脆弱さ
2 一党優位制 111
擬似政権交代/野党への利益配分/最大の要因――中選挙区制
3 目的なき政権 119
長期政権と政策の不在/審議会システム
4 空洞化する国会 123
内閣提出法案と事前審査/党議拘束の意味/短い審議日程と国対政治
5 足腰が弱い政党と民意集約機能 131
野党の役割とは
6 野党の暖昧な機能 133
自律性が乏しい日本の政党/政党と政策
第5章 統治機構の比較――議院内閣制と大統領制 139
1 権力集中と分散 140
イギリス――議院内閣制の成立と発展/アメリカ――権力分立論/フランス――議院内閣制の失敗と半大統領制/韓国――大統領制主導体制/行政権運営の集中と分散
2 政官関係 156
官僚と政治家の微妙な関係/アメリカ――政治的任命制/イギリス――恒久官僚制と政治的中立/フランス――高級官僚の二分化/ドイツ――市民としての官僚と連邦制
3 多数派民主政と比例代表民主政 168
優劣はあるのか/日本の選択
第6章 議院内閣制の確立 173
1 日本の政治に何が欠けていたか 174
戦後日本の政府構造/「権力核」の不在/民主的統制と首尾一貫性の不在
2 議院内閣制をどのように作動させるか 181
求められる政権選択選挙/首相の地位向上/参議院という課題
3 政治・行政改革による近年の構造変化 187
リクルート事件からの道程/選挙制度改革の効果/首相候補と選挙公約/強化された首相の地位/変わる政官関係/崩れはじめた政府・与党二元体制
4 残された改革課題 201
継続的な改革とは/政権公約の問題/従来の選挙公約との違い/新しい政党イメージの必要性
第7章 政党政治の限界と意義 211
1 二院制 213
議院内閣制との緊張関係/参議院に求められる機能/慣例から憲法改正へ
2 官僚制の再建 220
政官関係の規範/自己規律の再建
3 国家主権の融解 223
司法機能
4 司法の活性化 225
グローバリゼーションと国家/地方分権の進展/官民境界線の暖昧化/価値観の多様化と統一への希求
5 議院内閣制と政党政治の将来 233
政党への期待
あとがき(二〇〇七年六月 飯尾潤) [237-239]
主要参考文献 [240-248]
【抜き書き】
・ 本書36頁(第2章 省庁代表制)から。
前章で挙げた「官僚内閣制」という言葉は、官僚が政治を「支配」しているかのような誤解を与えかねないが、そうではない。官僚は一枚岩の集団ではなく、また官僚はさまざまな社会集団とのネットワークのなかで仕事をしており、その関係に拘束されるからである。かつてもてはやされた「日本株式会社論」などは、あたかも中央省庁の官僚が、日本経済の司令塔であるかのように論じたが、そうした説明が実態とかけ離れていることは、すでに常識である。日本の恵まれた環境と民間企業の努力があって、日本の経済的発展があったのであり、官僚の役割は、それを可能にした要素の一部に過ぎない。
最近になって、官僚批判といえば、そのセクショナリズムを問題にすることが多くなったのも、「日本株式会社論」や「官僚支配論」のような、強大で一枚岩的な官僚制が存在しないことがよく知られたからである。また省庁と業界との癒着についても、批判されるようになって久しい。そうした官僚制の構造と、官僚制と社会とのつながりを考えるのが本章の課題である。