著者:猪木 武徳[いのき・たけのり] (1945-) 労働経済学、経済思想、経済史。
解説:宇野 重規[うの・しげき](1967-) 政治思想史、政治哲学。
NDC:331 経済学.経済思想
NDC:330.4 経済
【目次】
目次 [003-009]
プロローグ 013
I 民主制をめぐって
第1章 リベラル・デモクラシーをめぐる5つの論点 020
直接民主制と代表民主制 021
多数決原理と経済厚生 023
「丸太ころがし」と投票のパラドックス 026
官僚と民主制 030
自由とモラル 032
参考文献 035
第2章 リーダーシップの衰退 037
日本人はリーダーを望んでいるのか 037
国際政治の場―― G7とIMF 042
国際金融機関の中の日本の声 047
参考文献 052
補記 053
第3章 日本国憲法と経済政策 055
専門性の問題 055
外形標準課税の場合
功利主義的計算を
金融政策の場合
政策決定のスピード 066
参考文献 071
補論(1) 自己統治とガヴァナビリティー 072
参考文献 078
II 市場経済の力と限界
第4章 競争社会の二つの顔 080
経済競争を封じ込めようとした計画経済 082
二つの競争と人間の自由 089
一元的システムの不十分さ 095
参考文献 102
補記 103
第5章 視野の短期化と公共の利益 104
森林に象徴されること 104
人材の育成と評価 106
短期資本という乱暴者 111
研究開発の体制 114
人材の供給体制の見直しを 116
専門性の尊重
専門家の数
長期的利益と公共の利益
参考文献 123
補記 123
第6章 市場経済を中間組織で補完する 124
民主制の弱点 124
市場機構の弱点 126
中間組織のcommonという概念 129
参考文献 135
補記 135
補論(2) 官僚批判の行き過ぎは危険だ 136
官僚は叩かれるもの
機械的削減より再分配を
公的部門の規模
「政」だけで公共の利益は護れるのか
III 戦後日本の合理主義
第7章 高等教育と経済学 146
競争という「装置」 146
平等社会の野心 149
もうひとつの「教科書問題」 153
学問下地に専門性の向上を 157
非定型の判断力 160
参考文献 163
第8章 古典の喪失と知性の衰弱 164
知性の積極性 164
変化への対応力 168
思考には「形」がいる 172
参考文献 177
第9章 ドイツの場合――その多様性と連続性 178
マールブルグでの経験 178
統一後の問題 183
過去とのつながり 186
参考文献 192
補記 192
補論(3) 「少子化」という選択 194
合理性の逆説
家庭内労働の経済学
参考文献 203
補記 204
IV 国際社会の中の日本
第10章 グローバリズム――日本にとって何が問題か 206
事実と幻想 206
世界競争は「言葉の戦い」へ 211
技術競争と論争力の較差 215
参考文献 221
補記 222
第11章 言論の役割 223
知識の高度化と拡散 223
知識人と世論 226
過去の言論を評価する 230
言論の自由とは 234
参考文献 236
補記 237
第12章 アメリカ・ヨーロッパ・アジア 238
アメリカの漂流 238
ヨーロッパの連合 243
カール大帝からサン・シモンの夢想へ 247
アジアの経済統合と国際協力 250
参考文献 257
補論(4) 貿易と所得分配 258
UNCTADの南北対立
WTOとNGOの対立
貿易と所得分配
中間層こそ社会の要
参考文献 267
エピローグ 268
「好感度」という危険な尺度
統治される能力
ただシステムを変えればよいわけではない
自己統治なくして改革はなしえない
謝辞(二〇〇一年五月 著者識す) [279-280]
文庫版あとがき(二〇一五年夏至 著者識す) [281-282]
解説 二〇世紀を振り返る英知の書(宇野重規) [283-290]
公共性・中間団体・専門家
市場と民主主義を何とか使いこなす
【抜き書き】
p.34
モラルは政治の屋台骨でもある。しかしモラルの問題は、ルールを尊重する精神と人間の品位の問題として大切ではあっても、それを議論するだけで、日本にとって何が現在重く大きな問題かを忘れてしまっては、本末転倒であろう。モラル感覚を顕示し合うよりも、問題の軽重を判断する能力を研ぎ澄ますほうが、はるかに重要なのである。政治問題を過度に道徳的に解釈し(over-moralization)、私徳ばかりを云々して公知・公徳を見失ってしまうことだけは避けるべきであろう。
・「中間組織」について。
pp. 130-131
もちろん宗教や中間組織が、大きな民主制国家に対して、つねにプラスに作用するとは限らない。宗教や圧力団体が政治をゆがめたり、団体同士がいわゆる「丸太ころがし(logroling)」を行って、互いに自分たちの私益拡大に協力し合うという現象も起こる。しかし中間組織が存在することは、無い場合よりも、「多数の専制」から国民を守りやすいことは確かであろう。
p.134
労働組合、経営者団体、各種職能団体、消費者団体などが、それぞれのメンバーの利益を公共性になじむものへと転化しているという機能は市場経済において無視することはできない。経営者団体は環境問題について発言したり、ビジネス倫理について綱領を作成したりする。その意味でもNGOやNPOの役割も大きい。こうした中間組織が、民主主義と市場経済において果たす役割は今後きわめて重要となろう。
……より詳しくは、猪木武徳ed.『〈働く〉はこれから』を参照。