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『自由と秩序――競争社会の二つの顔』(猪木武徳 中公文庫 2015//2001)

著者:猪木 武徳[いのき・たけのり] (1945-) 労働経済学、経済思想、経済史。
解説:宇野 重規[うの・しげき](1967-) 政治思想史、政治哲学。
NDC:331 経済学.経済思想
NDC:330.4 経済


中央公論新社


【目次】
目次 [003-009]


プロローグ 013


  I 民主制をめぐって

第1章 リベラル・デモクラシーをめぐる5つの論点 020
  直接民主制と代表民主制 021
  多数決原理と経済厚生 023
  「丸太ころがし」と投票のパラドックス 026
  官僚と民主制 030
  自由とモラル 032
  参考文献 035


第2章 リーダーシップの衰退 037
  日本人はリーダーを望んでいるのか 037
  国際政治の場―― G7とIMF 042
  国際金融機関の中の日本の声 047
  参考文献 052
  補記 053


第3章 日本国憲法と経済政策 055
  専門性の問題 055
    外形標準課税の場合
    功利主義的計算を
    金融政策の場合
  政策決定のスピード 066
  参考文献 071


補論(1) 自己統治とガヴァナビリティー 072
  参考文献 078


  II 市場経済の力と限界

第4章 競争社会の二つの顔 080
  経済競争を封じ込めようとした計画経済 082
  二つの競争と人間の自由 089
  一元的システムの不十分さ 095
  参考文献 102
  補記 103


第5章 視野の短期化と公共の利益 104
  森林に象徴されること 104
  人材の育成と評価 106
  短期資本という乱暴者 111
  研究開発の体制 114
  人材の供給体制の見直しを 116
    専門性の尊重
    専門家の数
    長期的利益と公共の利益
  参考文献 123
  補記 123


第6章 市場経済を中間組織で補完する 124
  民主制の弱点 124
  市場機構の弱点 126
  中間組織のcommonという概念 129
  参考文献 135
  補記 135


補論(2) 官僚批判の行き過ぎは危険だ 136
    官僚は叩かれるもの
    機械的削減より再分配を
    公的部門の規模
    「政」だけで公共の利益は護れるのか


  III 戦後日本の合理主義 

第7章 高等教育と経済学 146
  競争という「装置」 146
  平等社会の野心 149
  もうひとつの「教科書問題」 153
  学問下地に専門性の向上を 157
  非定型の判断力 160
  参考文献 163


第8章 古典の喪失と知性の衰弱 164
  知性の積極性 164
  変化への対応力 168
  思考には「形」がいる 172
  参考文献 177


第9章 ドイツの場合――その多様性と連続性 178
  マールブルグでの経験 178
  統一後の問題 183
  過去とのつながり 186
  参考文献 192
  補記 192


補論(3) 「少子化」という選択 194
    合理性の逆説
    家庭内労働の経済学
  参考文献 203
  補記 204


  IV 国際社会の中の日本

第10章 グローバリズム――日本にとって何が問題か 206
  事実と幻想 206
  世界競争は「言葉の戦い」へ 211
  技術競争と論争力の較差 215
  参考文献 221
  補記 222


第11章 言論の役割 223
  知識の高度化と拡散 223
  知識人と世論 226
  過去の言論を評価する 230
  言論の自由とは 234
  参考文献 236
  補記 237


第12章 アメリカ・ヨーロッパ・アジア 238
  アメリカの漂流 238
  ヨーロッパの連合 243
  カール大帝からサン・シモンの夢想へ 247
  アジアの経済統合と国際協力 250
  参考文献 257


補論(4) 貿易と所得分配 258
    UNCTADの南北対立
    WTONGOの対立
    貿易と所得分配
    中間層こそ社会の要
  参考文献 267


エピローグ 268
    「好感度」という危険な尺度
    統治される能力
    ただシステムを変えればよいわけではない
    自己統治なくして改革はなしえない


謝辞(二〇〇一年五月 著者識す) [279-280]
文庫版あとがき(二〇一五年夏至 著者識す) [281-282]
解説 二〇世紀を振り返る英知の書(宇野重規) [283-290]
  公共性・中間団体・専門家
  市場と民主主義を何とか使いこなす





【抜き書き】


p.34

 モラルは政治の屋台骨でもある。しかしモラルの問題は、ルールを尊重する精神と人間の品位の問題として大切ではあっても、それを議論するだけで、日本にとって何が現在重く大きな問題かを忘れてしまっては、本末転倒であろう。モラル感覚を顕示し合うよりも、問題の軽重を判断する能力を研ぎ澄ますほうが、はるかに重要なのである。政治問題を過度に道徳的に解釈し(over-moralization)、私徳ばかりを云々して公知・公徳を見失ってしまうことだけは避けるべきであろう。



・「中間組織」について。
pp. 130-131

もちろん宗教や中間組織が、大きな民主制国家に対して、つねにプラスに作用するとは限らない。宗教や圧力団体が政治をゆがめたり、団体同士がいわゆる「丸太ころがし(logroling)」を行って、互いに自分たちの私益拡大に協力し合うという現象も起こる。しかし中間組織が存在することは、無い場合よりも、「多数の専制」から国民を守りやすいことは確かであろう。



p.134

 労働組合経営者団体、各種職能団体、消費者団体などが、それぞれのメンバーの利益を公共性になじむものへと転化しているという機能は市場経済において無視することはできない。経営者団体は環境問題について発言したり、ビジネス倫理について綱領を作成したりする。その意味でもNGONPOの役割も大きい。こうした中間組織が、民主主義と市場経済において果たす役割は今後きわめて重要となろう。


……より詳しくは、猪木武徳ed.『〈働く〉はこれから』を参照。