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『かくれた次元』(Edward T. Hall[著] 日高敏隆,佐藤信行[訳] みすず書房 1970//1966)

原題:The Hidden Dimension (1966年)
著者:Edward Twitchell Hall, Jr. (1914-2009) 文化人類学。異文化コミュニケーション論。
訳者:日高 敏隆[ひだか・としたか] (1930-2009) 動物行動学。
訳者:佐藤 信行[さとう・のぶゆき] (1929-) 文化人類学
NDC:361.5 文化.文化社会学:文化変容,社会進歩,社会解体
NDC:361.6 社会集団
件名:人間生態学
件名:空間知覚
備考:有名な随筆。


かくれた次元 | みすず書房

 今日の世界では、われわれは、多くの情報源からのデータに圧倒され、さまざまの文化に接触し、世界中いたるところで人びとにインヴォルヴされてゆく。それとともに、世界全体とのかかわりが失われているという意識もしだいに強くなっている。
 本書は、人間の生存やコミュニケーション・建築・都市計画といった今日的課項とふかく結びついている“空間”利用の視点から人間と文化のかくれた構造を捉え、大量のしかも急速に変化する情報を、ひとつの統合へと導く指標を提供するものである。
 ホールは、二つのアプローチを試みる。一つは生物学的な面からである。視覚・聴覚・嗅覚・筋覚・温覚の空間に対する鋭敏な反応。混みあいのストレスから自殺的行為や共食いといった異常な行動にかられるシカやネズミの例をあげ、空間が生物にとっていかに重要な意味をもつかを示す。人間と他の動物との裂け目は、人びとの考えているほど大きくはない。われわれは、人間の人間たるところがその動物的本性に根ざしていることを忘れがちである。
 もう一つは文化へのアプローチである。英米人・フランス人・ドイツ人・アラブ人・日本人などの、私的・公的な空間への知覚に関して多くの興味ぶかい観察を示し、体験の構造がそれぞれの文化にふかく型どられ、微妙に異なる意味をもつことを示す。それはまた疎外や誤解の源でもあるのだ。
 このユニークな把握は、人間に人間を紹介しなおす大きな助けとなり、急速に自然にとってかわり新しい文化的次元を創り出しつつあるわれわれに、新鮮な刺激と示唆をあたえてやまない。

【目次】
口絵写真(1〜26) [/]
日本版への序 [i-ii]
まえがき [iii-viii]
目次 [ix-xi]


第一章 コミュニケーションとしての文化 003


第二章 動物における距離の調節 013
  動物におけるスペーシングの機構(逃走距離・臨界距離・接触性動物と非接触性動物・個体距離・社会距離)
  人口調節
  トゲウオの連鎖
  マルサスの再検討
  ジェームズ島での大量死
  捕食と人口


第三章 動物における混みあいと社会行動 037
  カルフーンの実験(実験のデザイン・シンクの発達・求愛とセックス・巣づくり・子の保育・なわばりと社会組織・シンクの生理的結果・攻撃行動・軽度のシンク・カルフーンの実験の要約)
  混みあいの生化学(外分泌学・糖銀行モデル・副腎とストレス・ストレスの効用)


第四章 空間の知覚――遠距離受容器 目・耳・鼻 062
  視覚空間と聴覚空間
  嗅覚空間(嗅覚の化学的基礎・人間の嗅覚)


第五章 空間の知覚――近接受容器 皮膚と筋肉 076
  オフィスにおけるかくれたゾーン
  温度空間
  触覚的空間


第六章 視覚的空間 095
  総合としての視覚
  見える機構
  立体視


第七章 近くへの手掛りとしての美術 111
  現代の諸文化の対照
  知覚の歴史としての美術


第八章 空間のことば 130
  知覚への鍵としての文学


第九章 空間の人類学――組織化のモデル 145
  固定相空間
  半固定相空間
  非公式空間


第十章 人間における距離 160
  空間の力動性
  密接距離
  個体距離
  社会距離
  公衆距離
  距離はなぜ「四つ」か?


第十一章 通文化的関連におけるプロクセミックス――ドイツ人・イギリス人・フランス人 182
  ドイツ人(ドイツ人と侵害・「プライベートな圏」・空間の秩序)
  イギリス人(電話の用い方・隣人・寝室は誰の部屋か・話し声の大小・目の行動)
  フランス人(家庭と家族・開いた空間のフランス的使用・星型と格子型)


第十二章 通文化的関連におけるプロクセミックス――日本とアラブ圏 206
  日本(混んでいるというのはどの程度からか・日本人の空間観念、「間」を含む空間)
  アラブの世界(公共の場での行動・プライバシーの観念・アラブ人の個体距離・向いあうこと、あわないこと・インヴォルヴメント・囲みこまれた空間についての感情・境界)


第十三章 都市と文化 228
  制御の必要
  心理学と建築
  病理学と過密人口
  単一時的時間および多元時的時間
  自動車症候群
  包括的共同体建築
  未来の都市計画の趣意書


第十四章 プロクセミックスと人間の未来 249
  形対機能、内容対構造
  人間の生物学的な過去
  解答の必要
  文化をぬぎすてることはできない


付録 遠近法の13のヴァラエティーに関するジェームズ・ギブスンの論文の摘要 [261-267]
訳者あとがき(一九七〇九月 日高敏隆 佐藤信行) [269-270]
文献 [1-14]





【メモランダム】
・本書のよくある誤用について、注意喚起がなされている。
「日本人はハイ・コンテクスト文化、○○人はロー・コンテクスト文化」論にまつわる誤解(寺沢拓敬) - エキスパート - Yahoo!ニュース

本当のところ①「原典は気軽なエッセイ」
 まず、ホールが著名な文化人類学者であるという権威のためか、この文化類型が「揺るぎない真実」かのように喧伝されることがあるが、それは間違いである。ホールの原典とされるもの(『文化を超えて』等)は、いずれもリラックスしたエッセイであり、実証性をそもそも狙っていない。もっとも、彼の人類学者としての鋭い着眼点が随所に散りばめられた名著であることは疑いないが、それはいわば「豊かな可能性を秘めた仮説のリスト」であり、実証済みの事実とは別次元のものである。


【関連記事】
『わきまえの語用論』(井出祥子 大修館書店 2006)