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『「日本人と英語」の社会学――なぜ英語教育論は誤解だらけなのか』(寺沢拓敬 研究社 2015)

著者:寺沢 拓敬[てらさわ・たくのり] (1982-) 社会言語学・応用言語学・英語教育史。
NDC:830.7 英語 >> 英語教育


研究社 - 書籍紹介 - 「日本人と英語」の社会学 ――なぜ英語教育論は誤解だらけなのか


【目次】
まえがき(2014年12月吉日 寺沢拓敬) [iii-vi]
目次 [vii-x]
図表一覧 [xi-xiv]


序章 はじめに 001
  データ分析による英語言説の検証
  社会統計
「日本人」と英語の関係を探る意義 002
社会統計分析という方法 004
  先行研究の問題点
  ランダム抽出の意義
  社会調査の2次分析
分析の基本方針 007
  社会階層という視点
  探索的な計量分析
使用データ 008
  日本版総合的社会調査(JGSS-2002,JGSS-2003,JGSS-2006,JGSS-2010)
  ワーキングパーソン調査(WPS-2000,WPS-2008)
  社会階層と社会移動全国調査(SSM-2005)
  アジア・ヨーロッパ調査(ASES-2000)
用語に関する注記 010
  基本属性
  「日本人」
統計分析に関する注記 012
  統計的有意
  原因変数・結果変数
  ソフトウェア
本書の構成 014


  第I部 英語力・英語使用

第1章 英語力――「日本人英語話者」とはどのような人か? 020
1.1 JGSSの英語力設問 020
  基本属性「英語ができる人」の割合
1.2 WPS-2000の英語力設問 023
  基本属性別
1.3 「日本人英語話者」の特徴(1)――政治意識 027
1.4 「日本人英語話者」の特徴(2)――情報への接触 030
1.5 まとめ 030
補節 自己評価型設問の使用について 032


第2章 教育機会――英語話者になれたのはどのような人か? 034
  英語達人たちの英語習得機会
  英語達人は士族ばかり?
  戦後の教育機会の開放
2.1 英語力の獲得機会 036
  格差研究の手法
  教育格差に関する先行研究
  各世代の特徴
2.2 データ 038
2.3 英語ができる人の割合、その推移 039
2.4 英語教育機会のメカニズム 043
2.5 まとめ 046
  戦前と戦後の連続性
  語学における「努力」の意味
補節 東アジア4地域の場合 049
  分析方法・変数
  分析結果


第3章 英語力の国際比較――「日本人」は世界一の英語下手か? 054
  「アジアで英語をしゃべれないのは日本人だけ」
3.1 「日本人は英語下手」言説 055
  「わが国の人々は外国語が得意だ」
  TOEFLTOEICの国別スコア
3.2 データ 059
  英語力設問
3.3 各国の英語力保持者 061
3.4 年齢構成による差 062
3.5 教育レベル・職業階層・裕福さ 066
3.6 「恵まれた」人々の英語力 068
  「日本人は英語下手」イメージの形成される文脈
3.7 TOEFLスコアは実態をとらえているか 070
3.8 まとめ 072
  「世界語」の真の意味


第4章 英語使用――どんな人が英語を使っているか? 076
4.1 英語使用の必要性と英語教育論 077
4.2 データ 079
4.3 英語使用と世代 081
4.4 英語使用とジェンダー 084
  就労者サンプルの分析
4.5 まとめ 092
補節 英語使用の必要性から見た英語教育政策論 094
  日本の英語教育目的論における「必要性」という制約


  第II部 語学 

第5章 英語学習熱――「語学ブーム」は実際どれだけのものなのか? 100
  「英語ブームを叱る!」
5.1 英語学習者の規模 102
5.2 「女性は英語好き」 言説 104
  英語学習・学習意欲のジェンダー
  他の変数による相殺?
5.3 英語学習目的 110
5.4 他の文化活動との比較 115
  「女性は語学好き」言説の妥当性
5.5 まとめ 118


第6章 英語学習者数の推移――どれだけの人が英語を学んできたか? 120
6.1 英語ブームは昔からあった 120
  英語と女性の戦後史
6.2 データ 124
6.3 英語学習者数の推移 126
6.4 ジェンダーとの対応関係 130
  外国語学習とジェンダー・世代・学歴
6.5 どのような女性が英語を学んだか? 133
6.6 まとめ 136


第7章 英語以外の外国語の学習に対する態度 137
  日本は単一言語の国【ではない】
7.1 「日本=多言語社会」に対する「日本人」の態度 138
  先行研究
7.2 「あなたは何語を学ぶことに興味がありますか」 140
7.3 基本属性との連関 142
  属性別の言語選択パタン
  対応分析
7.4 外国人との接触 147
  接触頻度別「関心のある外国語」
  外国人との接触は外国語学習への関心を生むか
7.5 英語使用・英語学習との関係 152
  英語関連の設問
  英語に関する行動・態度・能力は、英語以外の外国語への関心を生むか
7.6 まとめ 155


  第III部 仕事

第8章 必要性(1)――「これからの社会人に英語は不可欠」 は本当か? 158
  「日本人」の9割に英語はいらない?
8.1 データ 160
8.2 仕事での英語使用 161
8.3 英語の必要感 164
8.4 英語の有用感 166
8.5 職種・産業との関係 167
  職種
  産業
8.6 その他の就労者属性との関係 171
  産業・企業規模
8.7 まとめ――仕事での英語の必要性 175


第9章 必要性(2)――英語ニーズは本当に増加しているのか? 178
  「英語の必要性が増えている」?
  「推移」を分析可能なデータ
9.1 現在の英語使用:2002 → 2008 180
9.2 過去1年の英語使用:2006 → 2010 181
  2010年に英語使用は減少
9.3 英語使用減少の背景 183
  基本属性別
  産業別
  企業規模別
  グローバル化で英語の使用は減る
9.4 まとめ 188
  今後の英語ニーズのゆくえ
  「英語使用ニーズ増加」言説のイデオロギー的機能


第10章 賃金――英語ができると収入が増えるのか? 191
  英語力と賃金
10.1 人的資本としての英語力 192
  ラテン語ができると収入が増える?
  「人的資本」の取り出し方
  「英語力はあるが必要ではない人」
10.2 英語力と賃金――2000年、都市部常勤職者の場 195
  変数
  年収の規定要因
10.3 英語力と賃金――2010年、全就労者の場合 198
  変数
  時間給の規定要因
10.4 まとめ 201


第11章 職業機会――英語力はどれだけ「武器」になるのか? 205
  「武器」としての英語
11.1 日本の仕事現場の不平等要因 206
11.2 英語が必要な業務への配属における男女差 207
  「英語力があれば英語が必要な仕事につけるのか?」
  データ
  分析結果
11.3 まとめ 210


  第IV部 早期英語教育

第12章 早期英語教育熱――小学校英語に賛成しているのは誰か? 214
  2011年、小学校英語必修化
  小学校英語の背景
  小学校英語と世論
12.1 小学校英語を支持する世論、3つのタイプ 217
  公教育の質向上への期待
  英語力への自信のなさ
  仕事における英語の重要性に対する認識
12.2 「英語教育はいつから始めるのがよいですか?」 220
12.3 早期英語志向に影響を与える要因 222
  分析に用いる変数
  分析結果
  英語力と早期英語教育志向
  仕事での英語の重要性と早期英語教育志向
12.4 まとめ 227


第13章 早期英語学習の効果――早期英語経験者のその後は? 230
13.1 先行研究 232
  第2言語習得研究
  「日本人」児童の追跡調査研究
13.2 データ 234
13.3 早期英語学習経験の効果 236
  傾向スコアによる共変量調整
  どのような人が早期英語を経験しやすかったのか
  早期英語学習経験の因果効果
13.4 まとめ 240
  早期英語教育プログラムの効果?
  言語習得上の効果?
  今後の課題


終章 データ分析に基づいた英語言説批判 245
  各章のまとめ
データから見た日本の英語教育政策の問題 247
  社会の英語ニーズをめぐって
  歴史的に見れば「英語のニーズは多い」はごく最近の言説
  「ニーズの低さ」を黙殺する現代
英語教育研究と社会科学 251
  社会科学的視点が重要な理由
  社会科学的視点の取り入れ方
  データの整備
「日本人と英語」という思考様式をめぐる誤謬 255
  なぜ英語熱や英語ニーズは過大に見積もられるのか
  「日本人」論的な思考様式
  「日本人と英語」をめぐる誤謬に陥らないために
結び――適確な実態把握、正しい未来像 259


初出一覧 [261-262]
文献 [263-279]
索引 [280-284]



【図・表一覧】
表序-1 ライフスタイル変数のコーディング
表序-2 使用データ(調査)の概要
表序-3 基本属性の記述統計 17

表1.1 英会話力設問(JGSS) 22
表1.2 英語読解力設問(JGSS) 22
図1.1 基本属性別「英語ができる人」の割合 23
表1.3 WPS-2000英語力設問の選択肢 24
図1.2 WPS-2000英語力の分布 24
表1.4 基本属性別・WPS-2000英語力 26
表1.5 政治意識 29
表1.6 情報への接触 31

表2.1 機会格差の考え方 36
表2.2 分析に使用する変数 38
表2.3 各世代の特徴 39
表2.4 「英会話力あり」の割合の推移 40
表2.5 「英語読解力あり」の割合の推移 41
図2.1 英会話力の推移(前後2年で平滑化した割合) 42
図2.2 出身階層・英語力・本人の学力/学歴 43
図2.3 格差の推移 45
図2.4 格差の推移(ジェンダー) 46
図2.5 対照的な社会背景を持つ2人 47
図2.6 父教育年数の英語力への影響 52
表2.6 父教育年数の英語力への影響(回帰分析) 53

表3.1 「わが国の人々は外国語が得意だ」に対する同意度 56
図3.1 国別TOEFLスコア 58
表3.2 再コード方法 60
図3.2 英語力保持者の割合 61
表3.3 年齢と「英語力あり」の人の割合 63
図3.3 平均年齢を40歳とした場合の英語力 64
図3.4 年齢別・英語ができる人(IIa +IIb)(前後2歳で平滑化) 65
図3.5 分析モデル 66
図3.6 英語力の規定要因 67
表3.4 社会要因別に見た日本の英語力と順位 68
図3.7 TOEFLスコアの説明力 71
表3.5 英語力の規定要因(国別) 75

図4.1 英語使用者の割合(JGSS-2002/2003) 80
図4.2 過去1年間の英語使用経験者の割合(JGSS-2006/2010) 81
図4.3 世代別・英語使用者(JGSS-2002/2003) 82
図4.4 世代別・過去1年間の英語使用経験者(JGSS-2006/2010) 83
図4.5 ジェンダー別・英語使用者の割合 85
表4.1 現在の英語使用、ジェンダー·基本属性別(JGSS-2002/2003) 86
表4.2 過去1年の英語使用、ジェンダー・基本属性別(JGSS-2006/2010) 87
図4.6 英語使用の対応分析 88
表4.3 就労者の英語使用(上段:JGSS-2002/2003,下段:JGSS-2006/2010) 90
図4.7 英語使用の対応分析(就労者) 91
図4.8 英語教育目的におけるトリレンマ 94

図5.1 英語学習意欲(JGSS-2003/2006) 102
図5.2 英語力の有用感(JGSS-2010) 104
図5.3 語学・学習意欲のジェンダー差 106
図5.4 英語学習意欲の分布・属性別(JGSS-2003/2006) 107
表5.1 学習意欲の規定要因 109
表5.2 学習目的(JGSS-2003) 111
表5.5 学習目的のジェンダー差 111
図5.6 学習目的の対応分析(ジェンダー×世代) 113
図5.7 学習目的の対応分析(ジェンダー×ライフスタイル) 114
図5.8 「過去5,6年に行った活動」(SSM-2005) 116
図5.9 「過去5,6年に経験した文化活動」(SSM-2005)の対応分析 117

表6.1 英語・外国語関係の設問を含む世論調査(戦後) 125
表6.2 外国語学習をしている人の割合 127
表6.3 外国語学習の予定・意欲がある人の割合 128
図6.1 若年層の外国語学習・意欲 129
図6.2 「この1年間に学習したこと」(1981年)の対応分析 132
図6.3 「現在の学習活動」(1972年、女性)の対応分析 135

図7.1 「英語以外の外国語の学習に対する関心」設問 141
表7.1 興味のある言語と基本属性の関係 143
図7.2 対応分析(関心のある外国語×基本属性) 145
図7.3 外国人との接触頻度別 148
表7.2 外国人接触の影響 151
表7.3 英語関連の変数との連関 153
表7.4 英語使用・英語力・英語学習意欲の影響 154

表8.1 検討対象の変数 160
図8.1 英語使用者の割合 162
図8.2 世代別・英語使用者の割合 163
図8.3 WPS-2000「英語の必要感」 164
図8.4 世代別・英語必要感 165
図8.5 JGSS-2010「仕事での英語の有用感」 166
図8.6 世代別・英語有用感 167
図8.7 WPS-2000:職種別 169
図8.8 WPS-2000:産業別 170
図8.9 産業別の英語ニーズ 173
図8.10 企業規模(従業員規模)別の英語ニーズ 174
表8.2 英語の必要感の規定要因 177

図9.1 英語使用者数の推移2002-2008(首都圏の20歳〜59歳の就労者) 180
図9.2 英語使用者数の推移(2006 → 2010) 182
図9.3 英語使用者数の推移(世代別・ジェンダー別) 184
図9.4 英語使用者数の推移(産業別) 185
図9.5 英語使用者数の推移(企業規模別) 186
図9.6 金融危機グローバル化と英語使用の減少 187
表9.1 近年の出入国者数・貿易額 189

図10.1 擬似相関と人的資本としての効果 193
図10.2 賃金と英語力の関係 195
表10.1 必要性×英会話力(WPS-2000) 196
図10.3 英語力の人的資本としての効果(基準:「不要・日常会話ができる」) 197
図10.4 英語力の人的資本としての効果(基準:「不要・仕事上の交渉or通訳ができる」) 198

表10.2 必要性×英語力(JGSS-2010) 199
図10.5 英語力の人的資本としての効果(JGSS- 010)  200
表10.3 正社員・正職員の年収額(百万円、対数値)の規定要因(WPS-2000) 203
表10.4 1時間当たりの収入額(千円、対数値)の規定要因(JGSS-2010) 204
図11.1 関連のパタン 207
図11.2 英語力別「英語が必要な仕事」従事者 209
表11.1 「英語が必要な仕事に従事」の規定要因 211

表12.1 小学校英語に関する世論調査 217
図12.1 学校英語教育の開始時期に関する意見 220
表12.2 基本属性別・英語教育開始時期への意見 221
表12.3 分析に用いる変数 222
図12.2 「希望する英語教育の開始時期」の規定要因 224
図12.3 英語力と早期英語志向の関係 225
表12.4 「希望する英語教育の開始時期」の規定要因(多項ロジスティック回帰) 229

表13.1 早期英語学習経験の規定要因 237
表13.2 英語力の規定要因(ロジスティック回帰) 238
図13.1 早期英語学習経験の因果効果(共変量調整後) 239
図13.2 早期英語経験の影響プロセス(その1) 241
図13.3 早期英語経験の影響プロセス(その2) 242




【抜き書き】
・「第9章 必要性 2」の末尾(p. 190)から抜き書き。途中の文献メモは私が付加したもの。

  「英語使用ニーズ増加」言説のイデオロギー的機能
  「英語使用ニーズの増加」という説明は少なくとも日本社会全体には決して当てはまらない。むしろこの説明は、英語を重要視する少数の例外的な企業の動向を日本社会の平均像と誤認してしまった結果だと考えられる。
  実態と乖離しているにもかかわらず、この言説はなぜこれほどよく浸透しているのだろうか。その最もわかりやすい説明が、「ビジネス界にとって『英語ニーズの増加』という前提を受け入れておくのは都合がいい」というものだろう。グローバルな企業であることはプラスの企業イメージを持つ。したがって、英語ニーズの増大を喧伝し、それに対応している自社の姿勢を示せば、株主や消費者に大きなアピールになる。同様に重要なのが、この言説はビジネス英語の教育を学校教育に肩代わりさせる大義名分になる点である。なぜなら、社会全体で英語ニーズが増大していると強調し、英語の必要性が普遍的になっていると訴えれば、従来は企業内教育として行われていたビジネス英語教育を社会全体の問題として概念化できるためである。
  同様に、政府にとっても「英語使用ニーズの増加」言説は都合がよい。なぜなら、政府の経済政策や産業政策の失敗の原因を英語ニーズの増大のせいにできるからである (Kobayashi 2013)。つまり、「企業や就労者の英語力が低く、グローバル化に対応できていなかったから経済が停滞した」という「弁明」が成り立つのである。Park (2011: p. 451) によれば、1990年代末に深刻な金融危機・経済危機に見舞われた韓国では、国民の英語力不足が徹底して経済不振のスケープゴートにされてきた。2000年代末の経済危機や東日本大震災によって経済が低迷している現在の日本でも同様の事態が起きないとも限らない。

Kobayashi, Yoko, 2013, “Global English capital and domestic economy: the case of Japan from the 1970s to early 2012 ” Journal of Multilingual and Multicultural Development, Volume 34(1): 1-13.


Park, Joseph Sung-Yul, 2011, “The promise of English: Linguistic capital and the neoliberal worker in the South Korean job market”, International Journal of Bilingual Education and Bilingualism ,Volume 14(4): 443-55.

〔……〕

  以上のように、「英語使用ニーズの増加」言説は、実態を正しく反映していないだけでなく、ビジネス界や政府の特定の利益にかなうものですらあり、その点で、イデオロギーとしての性格が強い言説である。こうした言説に対して、英語教育学・応用言語学をはじめとする学術界は慎重な態度をとるベきであり、ましてや、このような言説が学術界によって安易に再生産されるような事態は最も避けられなければならないことである。この点については、終章であらためて論じたい。