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『大学なんか行っても意味はない?――教育反対の経済学』(Bryan Caplan[著] 月谷真紀[訳] みすず書房 2019//2018)

原題:THE CASE AGAINST EDUCATION: Why the Education System Is a Waste of Time and Money
著者:Bryan Douglas Caplan(1971-) 公共経済学、公共選択論。
訳者:月谷 真紀[つきたに・まき] 翻訳家。




【目次】
コロフォン [/]
献辞 [i]
目次 [iii-viii]
序文 [ix-xi]


序章 001
シグナリング――なぜ市場は暇つぶしに報酬を払うのか 004
教育――個人にとっては利益、社会にとっては無駄 007


1 教育というマジック 011
実社会と乖離した教育 012
魔法が報酬を生むからくり 017
シグナリングの基本 019
教育は何をシグナリングするのか 021
閉じ込め症候群 026
シグナリングは「理屈に合わない」 030
  シグナリング=100%のシグナリング
  シグナリング=「知力のみのシグナリング
  シグナリングの効果が出るのに何年もかかるのはおかしい
  「市場はいつまでもだまされてはくれない」
  シグナリングと採用ミス 
お前にこの謎が解けるかな? 037
  世界最高の教育はすでに無償である
  落第vs忘却
  楽勝授業
  カンニング
  なぜ学生は休講を喜ぶのか?
教育という錬金術 044


2 実在する謎――無益な教育の遍在 045
カリキュラムの内容 046
  高校
  大学 
学習を測定すると 055
  読み書きと計算
  歴史と公民
  科学
  外国語 
実生活との関係を問う意味 069
教育で人は賢くなるのか 082
仕事力はどうやって身につくのか 087
しつけと社会性 088
人脈づくり 092
教育の偽りの約束 094


3 実在する謎――無益な教育の大きな見返り 097
認めるべきは認めよ――能力バイアスという名の亡霊 099
能力バイアスの補正――外見は中身より立派 102
  因果の逆転
  能力の見落とし 
労働経済学者vs能力バイアス 107
小麦vsもみ殼? 111
  小麦ともみ殻と授業
  小麦ともみ殻と専攻
  小麦ともみ殻とミスマッチ
学歴偏重主義は国が作った? 119
  政府の学歴偏重主義
  資格
  IQ「ロンダリング」 
教育の便益を見くびっている? 127
  失業
  福利厚生
  測定ミス  
教育の本当の見返り 131


4 シグナリングの証拠――あなたがまだ納得していないなら 133
シープスキン効果 134
不完全就業と学歴インフレ 141
雇用主の学習速度 150
  雇用主の学習に関する研究は非認知能力を無視している
  学習が頭打ちになるのは知識が完全になったことを示唆するわけではない
  シグナルは雇用主が真実を知った後もなお給与に影響する可能性がある
教育プレミアム――個人vs国家 157
  ステップ1 ――個人の1年分の教育が個人の所得に及ぼす効果を測定する
  ステップ2 ――国民の1年分の教育が個人の所得に及ぼす効果を測定する
  ステップ3 ――両者を比較する
テストの得点はどうか? 164
労働経済学者vs.シグナリング 167


5 それがシグナリングかどうか、誰が気にするのか――教育の利己的なリターン 173
教育の利己的なリターン――入門編 175
大事なものをすべて勘定に入れると 179
「優等生君」の場合 181
  報酬
  雇用
  税金と所得移転
  仕事の満足度
  幸福度
  学習の苦痛と恍惚
  健康
  授業料その他の経費
  放棄所得
  経験を考慮する
  修了の確率
  「優等生君」の結果
教育の利己的なリターン――他のみんなの場合 202
  能力と教育の利己的なリターン
  専攻と教育の利己的なリターン
  大学の質と教育の利己的なリターン
  自己費用負担と教育の利己的なリターン
  学校観vs仕事観と教育の利己的なリターン
  性別と教育の利己的なリターン
  結婚と教育の利己的なリターン
  労働参加率と教育の利己的なリターン 
賢い学生のための実践的指針 222      
疑問点 225
あなたのスプレッドシート 227


6 シグナリングなのかどうか、そこが気になる――教育の社会的なリターン 229
教育の社会的なリターン――入門編 230
教育の社会的なリターン――大事なものをすべて再計算する 231
  報酬から生産性へ
  雇用
  税金と所得移転
  仕事の満足度、幸福度、学習の喜び
  健康
  授業料その他の経費
  経験を考慮する
  修了の確率
教育の社会的なリターン――純粋に社会的な便益 242
  経済成長
  労働参加率
  政治
  子供(の質)の考察
社会的なリターンの算定――シグナリングを慎重に見積もった場合 254
  「優等生君」の場合・再考
  能力別の社会的なリターン
社会的なリターンの算定――シグナリングを妥当に見積もった場合 259
社会的なリターンの算定――これを妥当と言えるのか 261
社会的なリターンを探して 264
  専攻、難易度、態度と社会的なリターン
  性別と社会的なリターン
疑問点 267
  シグナリングの割合
  労働参加率と能力バイアス
  犯罪、シグナリング、シープスキン効果
教育版ドレイクの方程式 269


7 部屋の中の白い象――教育はもっと減らすべき 273
教育を支持する最も優れた主張のどこがおかしいか 276
魂を陶冶する場としての学び舎? 279
あなたの象の大きさは? 280
教育の削減――なぜ、どこで、どのように 285
  カリキュラムの贅肉を落とす
  授業料の助成金を削減する 
高額の授業料と学生の借金の秘められた謎 294
修了率を上げる? 296
シグナリングと社会正義 298
私の本音 301
なぜ教育に課税しないのか 305
オンライン教育という偽の救世主 306
社会的望ましさのバイアスによる政治 311


8 1 > 0 ――もっと職業教育が必要だ 315
なぜ職業教育の勝ちなのか 317
  職業教育の利己的なリターン
  職業教育の社会的なリターン
児童労働がなぜいけない? 321
非職業教育、あるいは1 > 0 327
子供について考え直そう 330


9 母なる学び舎――教育は魂を涵養するのか 333
価値財としての教育 336
魂の妥協案 340
聞き流されるだけのハイカルチャー 342
政治的な正しさ〔ポリティカル・コレクトネス〕というこけおどし 346
有権者の動員 350
現代のライフスタイル 351
  宗教
  結婚と離婚
  出生率
視野を広げる 357
遊びの効用 359
シニカルな理想主義者 363


10 教育と啓蒙をめぐる5つの座談会 367
座談会1 教育って何の役に立つの 368
座談会2 大学とジレンマ 374
座談会3 教育投資は割に合うか 379
座談会4 なぜあなたはアンチ教育の立場なの? 386
座談会5 教育vs啓蒙 394


結論 401
不審物を見かけたら通報を 403
結果発表 405


技術付録 修了確率と学生の質 409
  高校の修了率
  学士号の修了率
  修士号の修了率


表一覧 [104]
図一覧 [101-103]
参考文献 [53-100]
原注 [4-52]
索引 [1-3]



【表一覧】
表2-1 学問分野別の学士号取得者(2008-2009年)
表2-2 NAAL 試験項目例:レベル別
表2-3 成人の歴史と公民の知識:代表的な質問例
表2-4 成人の科学知識:代表的な質問例
表2-5 推論能力の得点の平均
表3-1 教育達成度別平均収入(2011年)
表3-2 人的資本、シグナリング、能力バイアス 
表3-3 アメリカの教育プレミアム公共セクターと民間セクター比較
表4-1 総合的社会調査(1972-2012年)のシープスキン効果
表4-2 総合的社会調査(1972-2012年)のシープスキン効果と能力バイアス
表4-3 シグナリングまとめ
表8-1 利己的な便益と社会的な便益とマイナスの印象
表9-1 英語で書かれたフィクションの史上ベストセラー 




【関連記事】

『学歴社会の法則――教育を経済学から見直す』(荒井一博 光文社新書 2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140225/1493039818
 こちらの本(『学歴社会の法則』)も、本書(『大学なんか行っても意味はない?』)も、多くのテーマが共通している。本書ほど過激ではない。


『検証・学歴の効用』(濱中淳子 勁草書房 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170321/1489629296
同上。


『選挙の経済学――投票者はなぜ愚策を選ぶのか』(Bryan Caplan[著] 長峯純一,奥井克美[監訳] 日経BP社 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140228/1493746737
 著者の過去作品。こちらも分厚い。


・経済学者の山口慎太郎による、高等教育のもつ正の外部性についての短い記事。
高等教育無償化を正当化しうる5つの理由 - 山口慎太郎のブログ


・数年前に賑わした“G型大学・L型大学”の反響についても記されている、(濱口桂一郎による)記事。





【抜き書き】
・本書でも度々なされる「因果が逆なのでは?」という指摘ののひとつの例。(p. 161)

経済学者たちは教育が過小評価されていると主張したいがために、教育が過大評価されていると考えるべき強固な理由を無視している。いわゆる因果の逆転である。「国が学校教育に投資するほど国は豊かになる」ではなく、「国が豊かになるほど学校教育にお金を使う」が本当かもしれないのだ。個人レベルの話であれば、ほとんどすべての人が因果の逆転をすんなり受け入れる。なぜ、富裕層は学費の高い私立高校や高額化した大学の授業料に人より多くお金を使うのか。使えるお金が人より多いからだ。


・知能研究、遺伝vs環境論争、教育と出生数。(pp. 252-254)

  子供(の質)の考察
 大卒者の子供と高校中退者の子供を比較すると、一つのめざましい違いがある。大卒者の子供の方がはるかに学業に成功しているのだ。1950年以降に生まれたアメリカの成人を例に取ろう。両親が二人とも高校を中退している子供のうち、高校を修了するのは3%、学士号を取得するのはわずか2%しかいない。同時期に、両親が二人とも大学を卒業している子供のうち、高校を修了するのは10%、そして5%が学士号を取得している[59]。学業の成功率の差は長じて経済面、キャリア、結婚の成功率の差につながる[60]。教育にはおそらく莫大な波及効果があるのだ。
 残念ながら、この波及効果が本物かどうかを判断するには、生まれか育ちか、すなわち遺伝か生育環境かという昔からある議論を避けて通れない。子供はあらゆる測定可能な面で両親に似る。背の高い両親の子供は背が高い。同様に、成功者である両親の子供は成功者になる。なぜか。成功者である両親の子供が成功者になる可能性があるのは、育て方のおかげだ。しかしこれに対抗する説がある。成功者である両親の子供が成功者になる可能性があるのは、両親から授かった遺伝子のおかげだという。100%育ちによるものとする説では、成功の波及効果は見かけ通りの大きさである。高校時代の恋人同士が卒業すれば、二人の家庭は成功者の育成器になる。100%生まれによるものとする説では、成功の波及効果は幻想である。高校時代の恋人同士が卒業すれば、良質な住宅地に家庭を構えるだろうが、二人が子供に伝える遺伝子に変化はない。
 知能研究の歴史において、生まれか育ちか論争はほぼ膠着状態にあった。典型的な家庭では子供は生みの親に育てられるため、生まれと育ちは絡み合っており解明はお手上げだ。しかし数十年前から、科学者らが生まれか育ちかを科学研究として前進させるために、典型的な家庭――特に養子や双子を育てている家庭――の研究に力を入れ始めた。研究者らは生育環境の力を特定するために養子を研究した。もし生物学的な関係のない親に無作為に子供を割り当てても、親子で明らかに似た部分が現れたら、そのメカニズムはほぼ育ちであるはずだ。また、研究者らは遺伝子の力を特定するために一卵性双生児と二卵性双生児を研究した。一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも類似性が高ければ、そのメカニズムはほぼ生まれであるはずだ。
 「行動遺伝学」と呼ばれるこの手法では一貫して、生まれの効果が強く広範に、育ちの効果は弱く散発的に確認されている。先進国では、生まれは身長、体重、寿命のような肉体的な特性に関して育ちの効果を上回るだけでなく、知力、幸福感、人格、教育、所得のような心理的な特性に関しても育ちの効果を上回っている[61]。受精の時点であなたが両親から受け継いだ遺伝子の方が、その後に両親があなたに与えた有利な条件をすべて合わせたよりも、あなたの成功にはるかに大きな効果を及ぼすのだ。
 行動遺伝学者らは教育年数、成績、所得に対する育ちの効果を特定した[62]。養子研究でも双子研究でも概して、育ての親の教育年数が1年増えると子供の教育年数は約5週間伸びることがわかっている[63]。言いかえれば、世代から世代に波及する効果は10分の1に縮小する。同様の研究では育ちが成績に与える効果はゼロとしている[64]。学業成績が親から子に受け継がれるのは、成績は生徒の才能、態度、行動に左右されるからで、そのいずれもが遺伝子次第である。養子研究と双子研究では、育ちの効果は教育よりも所得においてさらに小さいという驚きの結果も出ている。所得が0%高い家庭で育っても、成人したときの所得は0–1%しか高くならない[65]。
 こうしたエビデンスすべてに照らせば、何にせよあなたの所得を0%上げる要素は、あなたの子供の所得を0.5%上げ、それ以降の子孫への効果はほぼゼロであると推測するのが妥当である。しかも落とし穴がある。子供が実際に働き始めるまで、労働市場から子供に対してあなたの努力への見返りは出ない。現代においてこれは数十年先の話になるから、教育の社会的なリターンへの波及効果はごくごくわずかだ。私の計算では丸めてゼロとする[66]。


  子供(の量)の考察
 教育程度が上がるにつれ、持つ子供の数は減る。人口統計学者はよく「完結出生数」を測定する女性が0歳までに産む子供の総数だ。2012年に高校を中退した女性は大学を修了した女性よりも産んだ子供の数が3%近く多かった。子供のいない女性は高校中退者でわずか2%、それに対して大卒者は以%だった[67]。
 話の都合上、教育がこの出生数の差の唯一の原因だとしよう。それでも疑問は残る。社会の構成員の数が減ることは社会の便益か、それとも社会の費用になるのか。これはけっして官僚が考えるような問題というわけではない。これまで延々と繰り返されてきた論争のどちらかの側につかなければ、答えの端緒すらつかめない。
 従来の考え方では人口増が環境に与える危険が重視されるが、経済的な利益――特にイノベーションがそれを相殺すると強調する批判もある[68]。新しいアイデアは経済成長のエンジンであり、そのアイデアを生み出すのは人だ。あなたの好きな作家、音楽家、科学者、起業家の半数が生まれてこなかった世界を想像してほしい。人口増を批判する人々は「人の多さ」を憂慮することも多い。しかし人の多さがそんなに悪いなら、都会の家賃がこれほど高いのはなぜだろう。人が多いことには機会、選択、刺激ある活気などすばらしい副次効果があるからだ。明らかな「社会のぶらさがり」が生まれることさえ、その「ぶらさがり」が私たちの大半と同様に生きる喜びを感じているなら、純粋な社会的便益になりうる。
 これらの問題を取り上げたのは解決するためではなく、問題を隔離するためだ。教育に関する本は人間の価値のプラスマイナスをジャッジする場ではない。第9章で教育が子供の数に及ぼす真の効果に迫る[69]。しかし出生数の低下が良いか、悪いか、どちらでもないか、どのような場合にそうなのかは読者に判断してほしい。

59 総合社会調査の統計。変数名 DEGREE、PADEG、MADEG。
60 長期的、グローバルに見た地位の世代間継承については以下を参照されたい。G. Clark 2014.
61 双子と養子研究の入門的内容として以下が参考になる。Caplan 2011b, Segal 2000, Harris 1998, and D. Rowe 1994.
62 成功に関する行動遺伝学のレビューについては以下を参照されたい。Caplan, Bryan 2011b Selfish Reasons to Have More Kids. Basic Books, pp.53-58.
63 主要な研究としては以下がある。Sacerdote 2007, Björklund et al. 2006, Behrman and Taubman 1989, and Miller et al. 2001, 1995.
64 Gill et al. 1985, Olson et al. 2001, and F. Nielsen 2006.
65 以下を参照されたい。Sacerdote 2007, Björklund et al. 2006, D. Rowe et al. 1998, and Miller et al. 1995.
66 2006-2010年の第一子誕生時の親の平均年齢は女性が23歳、男性が25歳だった。教育程度が上がるにつれ第一子誕生時の親の年齢は急激に上がるため、どれだけ在学年数が長かろうと、子供が労働市場で利益を得るまでには概して数十年かかる(Martinez et al. 2012, pp. 6-7)。
67 Monte and Elis 2014, p. 6. 「大卒者」とは学士号以上を取得した女性を意味する。
68 見逃されている人口増の社会的便益の概要については Caplan 20116, pp. 123-36 を参照されたい。また Simon, Julian. 1996. The Ultimate Resource 2. Princeton, NJ: Princeton University Press. は書籍1冊分を使って論じている。
69 第9章「現代のライフスタイル」の項。