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『ホモ・エコノミクス――「利己的人間」の思想史』(重田園江 ちくま新書 2022)

著者:重田 園江[おもだ・そのえ] (1968-) 現代思想、政治思想史、フーコー研究。


筑摩書房 ホモ・エコノミクス ─「利己的人間」の思想史 / 重田 園江 著

 経済学が前提とする「利己的で合理的な主体」はどこで生まれ、どんな役割を果たしてきたのか。私たちの価値観を規定するこの人間像の謎を思想史的に解き明かす。
 自分の利益を第一に考えて合理的に行動する主体=「経済人(ホモ・エコノミクス)」――経済学が前提とするこうした人間像はどこで生まれたのか。多くの批判にさらされながらも、それが世界を動かす原動力でありつづけているのはなぜか。「金儲け」が道徳的に蔑まれた古代・中世そして非近代の社会から、近代経済学が確立する「限界革命」の時代をへて、ホモ・エコノミクスが社会の広範な領域に浸透する現代まで。「自己利益の追求」が当たり前の価値として受け容れられるに至ったからくりを、思想史の視座から解き明かす。


【目次】
目次 [003-007]
題辞 [008]
はじめに 「社会に出ること」のとまどい [009-014]


  第一部 富と徳 015

はじめに 金儲けと道徳 016
  忘却された歴史をたどる

1 金儲けは近代以前にどう受け止められていたか 020
  富の追求が蔑まれた時代
  フーコーの欲望の扱い
  ウェーバーゾンバルト
  『金持ちの誕生』
  『嘘と貪欲』の近世史
  富とモラルをめぐる論争

2 なぜ人は貧乏人を責めるのか 037
  「嘆きのピエタ
  公正世界仮説

3 マンデヴィルとハチスン 043
  スコットランド啓蒙
  『蜂の寓話』をどう読むか
  「ほどほど」と「やりすぎ」

4 徳の擁護はどのようになされたか 051
  田園生活の理想
  戦士の徳
  「ぜいたくは敵」なのか

5 ヒュームと共感の道徳論 059
  新たな道徳を生み出す言語
  利益と共感
  なぜ社会に秩序がもたらされるのか

6 社交と洗練と文明と 067
  商業は武勇に優る
  「洗練」がほどほどに豊かで平和な社会を生み出す

7 ミニチュア化される宮廷 072
  宮廷社会の作法
  見せびらかしの消費

8 名刺の字体で頭をカチ割る 078
  名刺合戦
  現代の「封建制」か? 「未開社会」か?

9 徳の道と富の道 084
  ヒューム vs アダム・スミス
  富は頽廃する
  庶民の徳

10 フランクリンと他者の道具化 089
  清貧による立身出世
  禁欲的な富の追求?
  子どもの精神と経済人
  貪欲を肯定する世界はそれでもつづく


  第二部 ホモ・エコノミクスの経済学 101

はじめに 「科学としての経済学」の史的背景 102

ホモ・エコノミクスの語源学 105

2 イギリス歴史学派と方法論争 108
  イギリス歴史学のはじまり
  演繹対帰納
  ホモ・エコノミクス―― J・S・ミルの政治経済学
  政治経済学という語
  歴史学派のホモ・エコノミクス批判
  コントの学問分類

メンガー vs シュモラー 122
  歴史学派への挑戦
  思想の歴史的条件
  メンガーの方法
  メンガーの神話化

ジェヴォンズと経済学の数学化 134
  何の比喩になっているのか?
  限界効用逓減とは
  限界革命の担い手たち――メンガージェヴォンズワルラス
  ジェヴォンズと数学――労働価値説と効用
  ジェヴォンズは限界効用逓減をどこから思いついたのか
  限界革命の先駆者たち――効用の経済学史
  ゴッセン――忘れられた近代経済学の先駆
  ベルヌイと数学の応用
  効用と稀少性
  市場の均衡
  てこの原理との類比

ワルラスと力学の世界──物理学と経済学 162
  ホモ・エコノミクスと力学
  ワルラスと解析数学の導入
  メンガージェヴォンズワルラス
  数学と世界の成り立ち
  古典力学の形成へ
  「経済学と力学」
  人間像の単純化
  数学と物理学の導入の帰結

6 経済学の内部と外部 186
  経済学にもたらされたもの
  外部不経済――形式化と理論化の帰結
  市場は「プラスサムゲーム」か?
  経済の広大な外部


  第三部 ホモ・エコノミクスの席捲 199

はじめに ニーチェフーコーの系譜学 200
  「経済学的思考」の伸張

1 差別・犯罪・人的資本 206
  シカゴ学派第二世代・ベッカー
  差別の経済的合理性
  ベッカーと犯罪の経済学
  人的資本論
  教育は費用対効果で計れるか?
  日本の「大学改革」
  人的資本論がともたらしたもの

2 「緑の革命」――前提としてのホモ・エコノミクス 229
  シュルツの農業経済学
  慣習的農業
  緑の革命
  「緑の革命」の何が問題か
  その自然資源はどこに消えたか

ゲーム理論と社会的選択理論、そして行動主義革命 244
  ゲーム理論と社会的選択理論
  行動主義革命

4 人は費用便益計算で投票するか 250
  投票行動の費用と便益
  経済学のモデルは現実政治を説明できるか?

5 公共選択論のヴィジョン 256
  政治経済学宣言
  方法論的個人主義
  公共選択論の射程

6 政治嫌いとホモ・エコノミクスの人間像 265
  「政治嫌い」がなぜはびこるのか
  現代政治学の混沌
  社会的選択理論がもたらした皮肉な影響
  マーケティング化する政治
  公共選択論と「オーバーロード
  脱政治化の末路
  ホモ・エコノミクスは世界の見方をどう変えたか


おわりに 人間はどのような存在でありうるのか 281
  ホモ・エコノミクスは本当に批判されつくしたのか?
  ホモ・エコノミクスは「人間の自然」か?
  新しい言語世界としての経済学の歴史
  なぜ「ホモ・エコノミクスの思想史」なのか?


あとがき [293-301]
参考文献 [303-317]







【メモランダム】
・経済学の方面からなされた書評。短いが的確だと思う。
https://valeria-aikat.hatenablog.com/entry/2022/04/09/223322


・アンチ・ポストモダンの立場からの書評(筆者は経済学プロパーではなくエンジニアのようだ)。主張の否定ではなく、論拠と説得力が脆弱という指摘が沢山ある。
http://www.anlyznews.com/2022/05/blog-post.html