著者:草野 耕一[くさの・こういち](1955-) 弁護士。最高裁判所判事。
ブックデザイン:鈴木成一デザイン堂
カバーイラスト:ワタナベ ケンイチ
備考:『日本人が知らない 説得の技法』(講談社 1997年5月刊)を文庫化にあたって改題。
NDC:361.3 社会関係.社会過程
【目次】
目次 [003-010]
序章 011
誰も教えてくれなかった説得の技法
雄弁の神の像
沈黙から饒舌へ
説得の貧困
失語社会が生み出す病
ケース〈チャンスを求める女性カメラマン〉
ケース 〈親子の断絶に悩む高校生〉
ケース〈ファックスの宛先を間違ってしまった役員秘書〉
レトリックと説得の技法
第1章 何のために説得するのか 021
1 説得の王道は言葉の世界にある 021
日本人はなぜ交渉が苦手なのか
語学力だけの問題ではない
肩書きを示す日本的説得法
言葉の力を活かすことの重要性
2 相手の同意を得る 026
■ケース〈恋のライバルの鞘当て〉
人を論理的に説得しようとしてはならない
醜男は女にもてない?
蓋然性に基づく推論
目的は同意の獲得
経験則と基礎事実から推論
説得の結論は命令文
説得の力点、支点、作用点
「遊び人とは付き合うな」
説得の論理があるから説得力が生まれる
説得ダンスの舞台に誘う
説得に「勝敗」の観念は無用
3 説得の論理の作り方 049
説得の力点と支点を組み合わせる
説得の根拠は証明できない
ケース 孤独な青年は帰省するかどうか〉
特定の説得の支点に固執してはならない
ケース、どのようにして人事部長を説得するか
説得の支点を切り換える
第2章 3つの説得技法 063
1 説得の三類型 063
アリストテレスによる分類
「利害」「正不正」「美醜」とは
どの説得技法が有効か
2 最もポピュラーな功利的説得 068
相手が得する行為を奨める
功利的説得の限界と強味
3 理性に訴える規律的說得 72
規範の順守を要求する
自由な行動にも規範は必要だ
よりよき生を求める人間の理性が根拠
相手の受け入れやすい命令文を示す
婚約破棄を思いとどまらせるための説得
ターンテーブル・ドクトリン
行為規範を公式化しただけで十分か
4 感情に訴える情緒的説得 086
情緒的説得にも根拠は必要か
ケース〈アントニウスの演説〉
説得の論理の弱さを感性の力で補う
ケース〈プロポーズ想定問答〉
情緒的説得は補完的な説得類型である
ケース〈ゲチスバーグの演説〉
ケース〈北条政子の演説〉
愛を語るには情緒的説得が必要だ
第3章 功利的説得の展開方法 102
1 功利的説得の進め方 102
シンドラーはどうやってユダヤ人を救ったか
ケース〈カメラマン冴子再登場〉
企業人は個人的動機を持って行動している
オーナー経営者に対する説得
類推による説得
権威を利用した説得
セルフ・ステイキングの技法
2 交渉の説得技法 119
なぜ利益の比較をしなければならないのか
ケース〈遅筆家たちの救世主「速筆君」誕生〉
リザベーション・ポイントはどこにあるか
BATNAから考える
交渉への思い入れが見誤らせる
交法家への足枷が交渉力を生み出す場合
交渉について知っておくべき要点
3 リスクをどのように評価するか 136時間
保険をかける心理(リスク・アバース)
宝くじを買う心理(リスク・ラヴィング)
相手の心理に応じて説得の力点を変える
ケースへ進学先に反対する親をどのように説得するか〉
ケース〈私の体験談〉
4 何が相手にとって本当の利益なのか 147
ケース〈契約を不利に変更することを奨める弁護士〉
ケース〈ビスマルクの説得〉
人生の究極の目的を考える
第4章 規律的説得の展開方法 154
1 規律的説得の進め方 154
規律的説得は難しい
責任論から考える
因果関係の必要性
ケース〈事業に失敗した社長は退陣すべきか〉
結果責任論と過失責任論
社長退陣論の展開
社長擁護論の準備
2 「正しい」行いとは何か 168
なぜ嘘をついてはいけないのか
ケース〈説得王国の王子かく語りき〉
過失のない人の責任追及は酷か
機能的アプローチによる過失責任論の擁護
ケース〈ミスを犯したのかと悩む役員秘書〉
彼女の「言い訳」の問題点
同僚の仕事を疑い出したらどうなるか
信頼の原則
社長擁護論再考
経営者の責任追及を自由に許せばどうなるか
経営判断の原則
機能的アプローチは行為規範の創造を可能にする
第5章 功利主義と人権思想 194
1 行為規範の選択基準 194
現代社会が受け入れる根本規範は何か
人間は根本規範を必要としている
空気のように拡がる思想
功利主義とは何か
功利主義は機能的アプローチを可能にする
不完全な功利主義
功利主義が体現する価値観
人間のエゴイズムを認める思想
大人びた思想であるがゆえに有用だ
2 功利主義の修正と限界 211
ロールズの正義論
格差原理
古典的功利主義の反論
ケース〈三人の非行少年を告発すべきか否かに悩む音楽教師〉
どのようにして刑罰を正当化するのか
「何もするな」と教えるおかしな結論
人権思想とは何か
人権思想は功利主義を超越する
人権が侵害された場合どうすべきか
他人の人権侵害をとやかく言うのは筋違いか
個人主義・自由主義の思想
功利主義と人権思想は補完関係にある
ノージックの権原理論
人権は本当に不可侵か?
第6章 事実の証明 242
1 最善の証拠が説得力を生む 242
事実の証明には専門知識が必要だ
説得に必要な事実の確からしさ
一番重要な証拠を見つけること
小さな確からしさで人を説得できる場合
2 基礎事実をどう証明するか 248
基礎事実は証明可能な事実である
反対訊問のできない供述証拠は危険/伝聞証拠を使う時には/どういう立場の人の供述か
3 経験則の説得技法 254
経験則の確からしさは相手にも了解できる
経験則の証明は難しいが可能
例示による経験則の証明
例示の弱点は仮説によって補える
なぜ新車の値下がり率は大きいのか、類推と比喩は似て非なるものである
なぜ類推の技法が成立するのか
どのような類推が説得力を持つか
科学で解明できない世界の話
4 事失証明の具体的展開 268
ケース〈S君遊び人説の証明〉
醜聞に基づく説得推論
なぜ未来予測はあてにならないのか
日常世界の話なら未来予測の確からしさを示せる
なぜ言葉を定義しなければならないのか
言葉の定義によって何かを説得することはできない
言葉の定義は説得推論に影響する
反証可能性のない主張には説得力がない
斬新な主張の危険と魅力
類推と例示の技法で困難を乗り切る
真理は自らを露わにする
終章 失語社会を生み出したもの
なぜ日本人はレトリックを嫌悪するのか
建国叙事詩の中に民族の世界観を求める
天照への説得はどのようにしてなされたか
「大和心」は説得を嫌う
若い世代も説得を嫌っている/説得へのレクイエム
ホメロスの雄弁
人間は万物の尺度である
レトリックを否定したソクラテス=プラトン
レトリックを復権させたアリストテレス
レトリックの全盛期
レトリックの頑廃
合理主義と相対主義
明治の日本はレトリックの輸入に励んだ
日本人はレトリックに騙されたと感じている
甦る説得の技法
あとがき(一九九七年四月 草野耕一) [314-317]
文庫版あとがき(二〇〇二年一二月 草野耕一) [318-319]