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『日本公企業史――タバコ専売事業の場合』(村上了太 ミネルヴァ書房 2001)

著者:村上 了太[むらかみ・りょうた] (1966-) 経営学
装幀:石川 九楊[いしかわ・きゅうよう] 書家。

国鉄電電公社民営化と比して注目度の低かった専売公社に焦点を当て、その成立から民営化に至るまでの経緯を跡づけるとともに、「民営化」の意義を検証する。公社時代とJTの経営形態の相違、そして現時点でのJTの経営実態、世界のタバコ産業の動向も捉え、今なお重要な税源としての性格を有するタバコ事業を徹底分析。

https://www.minervashobo.co.jp/book/b48030.html


【目次】
まえがき(2000年6月 著者) [i-v]
目次 [vii-xii]
図表一覧 [xiii]
関連年表 [xiv]
凡例 [xv]


第1章 本書の目的と分析の枠組み 001
1 はじめに 001
2 本書の目的 001
3 専売前史 004
  (1) 江戸時代のタバコ専売 4
  (2) 江戸時代から明治時代へ 5
  (3) 煙草税則 5
  (4) 葉タバコ専売事業 7
  (5) タバコ専売事業の確立 8
4 専売公社民営化への問題提起と仮説の設定 011
  (1) 専売公社における問題提起 11
  (2) 三公社民営化の中での問題提起 13
  (3) 仮説の設定 13
5 小括 014
註 015


第2章 専売局のタバコ事業 023
1 はじめに 023
2 制度の確立と製造の近代化 023
3 専売益金という財政収入 024
4 定価改定 025
  (1) 時局の変化と増収策 25
  (2) 定価改定に関する制度 27
5 機械化政策 029
  (1) 生産性 29
  (2) 専売局の機械化政策 30
  (3) 製造工程の変遷 32
6 専売事業の諸問題 035
7 小括 037
註 


第3章 専売公社の発足 043
1 はじめに 043
2 タバコ専売事業と第二次世界大戦 043
  (1) 戦中期以降の経過 43
  (2) 敗戦直後のタバコ専売政策 44
3 公共企業体における公社の位置づけ 045
  (1) パブリック・コーポレーションと公社 45
  (2) 日本への公社制度の導入 46
4 専売局と他の二事業 048
5 財源確保のための政策とタバコ専売事業 049
  (1) ドッジ・ライン 49
  (2) シャウプ勧告 50
6 三公社の発足 052
  (1) 専売権の確立 52
  (2) 衆議院大蔵委員会 53
  (3) 参議院大蔵委員会 57
  (4) 煙草専売法からたばこ専売法へ 59
7 小括 061
註 


第4章 公社発足前後の民営化論争 071
1 はじめに 071
2 事実経過 071
3 構想の吟味 072
  (1) 諸特徴 72
  (2) 構想 73
  (3) 煙草税案 74
4 反対論者 075
  (1) 見解と吟味 75
  (2) 言論界の助力 77
5 推進論者と反対論者の諸特徴 078
6 輸出用製造企業の設立構想 079
  (1) 経過 79
  (2) 業績の予想 80
  (3) 構想の終焉 83
7 民営化論争の終焉 084
8 小括 082
註 


第5章 専売公社の経営 093
1 はじめに 093
2 経営 093
  (1) 資本蓄積 93
  (2) 葉タバコ耕作 96
  (3) 製造 99
  (4) 販売 100
3 専売納付金制度と経営の自主性 102
  (1) 専売納付金制度 102
  (2) 経営の自主性 104
4 小括 105
註 


第6章 第2次臨調型行革と専売公社民営化 111
1 はじめに 111
2 公社時代の経営形態転換論争 111
  (1) 推進論者と論争 111
  (2) 反対論者 114
3 第2次臨調 117
  (1) 日米たばこ問題 117
  (2) 答申 119
4 改革の是非 119
5 妥協点への収斂 120
  (1) 総意 120
  (2) 葉タバコ耕作農家 121
  (3) 専売公社 122
  (4) 全専売 125
  (5) 流通組織と販売店 127
  (6) 大蔵省 127
6 JTの発足 127
  (1) 経過 127
  (2) 専売改革関連法案と問題点 128
  (3) 全専売から全たばこへ 129
7 小括 130
註 


第7章 経営形態転換論争と1990年代 141
1 はじめに 141
2 総論 141
3 専売事業からの転換 143
  (1) 葉タバコ 143
  (2) 製造 147
  (3) 流通・販売 150
4 公社制度からの転換 154
  (1) 制度上の転換 154
  (2) 関連事業 158
  (3) 官僚の動向 161
  (4) 消費者および職員 164
  (5) 経営指標による対比 167
5 消費者運動 168
  (1) アメリカ 168
  (2) 日本 171
6 業界と政界の癒着構造 172
7 特殊法人としての現状 174
  (1) 制度の矛盾 174
  (2) JT のめざすもの 175
8 小括 178
註 


第8章 民営化と財政問題 193
註 


人名索引 [201-202]
事項索引 [203-204]




【抜き書き】
□(pp. 1-15)本書第1章から。個人的なメモとして。


・(pp. 1-2)

1 はじめに

 本章は本書の目的や分析の枠組みなどを述べることにする。目的については単に消去法で得られた理由で本書は必ずしもタバコ研究を行うわけではないこと,そして枠組みについては歴史研究の必要性を訴えつつもそれを通じた現代へ接近することなどの諸点を主なポイントとして,それぞれ述べていくことにしたい。つまり,公企業【1】に関しても,その歴史を通じて現在を見ていくことや,より拡大解釈をすれば世界の中での日本のあり方という視角なども取り入れることなどが列挙されよう【2】。次に,分析の枠組みについては,タバコ企業をどのようなかたちで捉えていくかについて述べていくことにする。タバコという商品を消費するか否かの選択は,消費者の意思によって決定される。基本的なことではあるが,日本では未成年者喫煙禁止法第1条により「満20年ニ至ラサル者へ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス」と定められているため,その消費者とは満20歳以上に限定されている。本章では,一般に取り上げられている未成年者と喫煙の問題ではなく,財政問題との関連から分析を開始することにその前提を求める。


2 本書の目的
 さて,1985年4月1日をもって日本専売公社(以下,専売公社【3】)は,日本たばこ産業株式会社(以下,JT)に民営化されたことは周知の通りである【4】。同日には日〔……001……〕本電信電話公社(以下,電電公社)が日本電信電話株式会社(以下,NTT),して,1987年4月1日の日本国有鉄道(以下,国鉄)が旅客会社や貨物会社(以下,JR 各社)へと分割・民営化されるなどした。これら一連の三公社民営化【5】が断行されて以来,すでに15年の歳月が経過した。民営化後の状況も一定の把握が可能で,しかも民間企業や個人によるJT株式の所有も一定程度進行している今日においては,民営化前後の対比によって,民営化後の成果を検証することも可能ではないかと思われる【6】。単に公社経営と民間経営とを比較することにより,公社経営では不可能だったことも民間経営では可能になったというような対比のみならず,経営指標など客観的な対比を行う上で15年という歳月は一定の説得力を与えるものとなるであろう。たとえば,経営指標についていえば,後述のように対比の期間を短くすれば,株式売却による変化や民営化後の諸制度の改廃などが行われるなど,統計資料にも民間経営の「真」の姿を見えにくくさせるという懸念もある。
 民営化の問題は各事業体によって様々な側面をもっていることもまた事実である。そのような中で,あえて本書が専売公社を取り上げる主な理由は,次のとおりである。周知の通り,三公社民営化問題の主戦場が国鉄電電公社にあったわけだが,盲腸的存在とまで評された専売公社にも解決されるべき問題がなかったとは必ずしもいい切れないからである。その問題とは,専売という規制が緩和または一部で撤廃されたとはいえ,なぜ日本でタバコは今もなお自由に売買されていないのかという点が基本にある。自由に売買されていないという理由は,大きく二つある。第一点は,なぜ今もなお同一の商品に対して全国一律の価格で消費者に販売されているかである。どのような業態であってもその他の商品のように販売価格に差異が出ていないのはなぜなのだろうか。そして第二点は,地域や区域などをもって販売に関する諸規制が今もなお残されており,近接する販売店との競合が避けられているかである。一定の区域内には必ずタバコを販売する店舗があるわけだが,逆にいえばなぜ隣接する店舗では販売することができないのだろうか。

[1]そもそも公企業とは何だろうか。それに対する一つの定義として,植草益「公企業の民営化」今井賢一小宮隆太郎『日本の企業』東京大学出版会,1989年,371ページ では「政府ないし地方公共団体がその資本の全部ないし一部を所有する企業であって,政府が資本所有する企業を「国の公企業」(state enterprise),地方公共団体が資本所有する企業を「地方公企業」(local public enterprise)」と述べられている。また,より詳しくは占部都美『改訂 企業形態論』白桃書房,1977年,324ページによると「(1)公共的所有,(2)公共目的および(3)企業的要素という三つの要素をそなえた企業形態」といえよう。

[2]比較対象の一つとして,ここでは中国のタバコ専売について若干述べておきたい。その理由の一つは,1981年以降の中国の専売制度の実施に求められる。中国国務院は, 1983年に煙草専売条例を制定し,同時に国家煙草専売局を発足させて,タバコに専売制度を導入したのである。日本においても改革の争点であった専売が,世界の潮流とともにその意義が問われて解体されていく中で,中国は1980年代に復活させたのである。専売という名の閉鎖市場のあり方が問われながらも,なぜ中国ではそのような政策を導入したのか。一見したところでは,本書の基本目的である専売公社民営化の意義とは関連性に乏しく見えるが,しかし専売という言葉をあえて復活させた中国は,日本の専売の「経験」をどのように活用して,政策を断行するのか,もちろん日本の場合との対比も必要ではあるが,中国の動向を本書では無視することができなかったのである。1991年6月29日に全人代で可決された中華人民共和国煙草専売法第1条によれば,その目的は「タバコを専売によって管理し,計画的にタバコ専売品を生産し,なおかつその形態で事業を経営し,製品の質量両面の向上を図り,消費者に対する利益を擁護し,その上で国家財政収入を保証する」とある。同法に加えて1997年7月3日に発布された中華人民共和国煙草専売法実施条例がその制度の根幹にある。そのように昨今の中国の情勢を見ると法制度上の整備が進められていると分される。既に1998年の専売による「税利」という納付金相当額は950億元に上り,国家財政収入の10%を占めるに至っている。しかし,雲南省など南部の地域を中心に,専売管理の狭間では,不法なタバコの製造や販売が行われている。『広東新聞』1999年5月5日付 において報道されたように,不法タバコは,80億元と見積もられており,不徹底な管理の実態が指摘されよう。

[3]専売公社の発足は1949年6月1日である。従来その英文社名を The Japan Monopoly Corporation(以下,旧訳)としてきたが,1974年1月1日以降は,The Japan Tobacco & Salt Public Corporation に変更した。その英訳の旧駅の点について,寺戸恭平『日本専売公社』一瀬智司・菊地祥一郎・寺戸恭平・直江重彦編著『公社・公団・事業団」教育社,1978年,124ページ では「この名称から(旧訳のこと:著者注),外国人は,『日本独占会社』と理解し,日本独占会社とはいったい何なのかと理解に苦しむ」と指摘されている。必ずしも専売と独占が同義とはいえないにしても,類似の概念であったことは確かである。厳密に専売を定義すれば、平井渡一「日清日露戦後の台湾植民地財政と専売事業」 『土地制度史学』第129号,1990年10月,18ページのように,「国家権力が特定の商品を独占的に販売あるいは製造販売すること」と説明することが一般的なものといえる。ただし,その専売が存在するのは必ずしも資本主義経済下とは断定できない。一定程度の自由化が進んだとはいえ,社会主義経済下での専売制度の導入は,既存の専売の概念を再考させる。極端にいえば,社会主義経済では,すべて何もかもが専売のはずだからであるが,改革・開放路線をばく進させる中国においてはその用語を再び使用するに至ったのである。次に専売の主体となる国家とは,官僚を中心とする集団が,政界や財界との連携も保ちながら,法律や制度を行使する統治体であると考えておこう。しかし専売は,いわゆる官業とは性格が異なる。大庭次郎『専売行政論』専売協会,1938年,73〜74ページ によると,官業は,第一に専売のように必ずしも独占を伴うものではないこと,第二に対価的または手数料原則によること,第三に財貨以外のものを提供することの諸点で専売とは区別されるからである。この注の最後に付記したいことは,前出の中国の煙草専売局を英訳すると,China's State Tobacco Monopoly Administration (CSTMA)とする場合もあるように,専売を厳密にいえば state monopoly が妥当な表現となろう。

[4]民営化とは,植草益,前掲論文,375ページ によると,第一は公共法人が株式会社形態の公企業に組織変更されたもの,第二は公共法人が民間所有の認可法人に組織変更されたもの,第三は公共法人および公私混合企業が民間企業に組織変更されたものを含むものである。第一を特殊会社化,第二を認可法人化,第三を完全民営化と呼ばれている。 

[5]たとえば,松原聡「民営化と規制緩和日本評論社,1991年,101ページ では,「日本たばこに関しては,これが特殊会社という公企業であるべき積極的な根拠はみあたらない」と述べている。

[6]民営化前後の対比を試みる意義は,たとえば住田正二『官の経営,民の経営』毎日新聞社,1998年,19ページ にもあるように「第2次臨調及び国鉄再建監理委員会を通じて国鉄の民営・分割案作りの仕事に携わり,JRになってそれを実行してきた筆者の立場から,官すなわち国鉄の経営が,民すなわちJRになってどのように変わったか,その変化を支えた基本的な考え方はどうであったかを,責任者の一人として明らかにしておくことが必要である」ことにも求められている。なお,1998年3月31日現在のJT の株主は、政府および地方公共団体134万株(67%),個人その他17万株(9%),金融機関および証券会社27万株(14%),その他の法人外国法人などが17万株(11%)で構成されている「株式の状況」(http://www.jtnet.ad.jp/WWW/JT/JTI/keiei/98/8-10.html:2000年5月9日)。小数点部分を四捨五入しているため,必ずしも100%にはなっていない。なお個人の中には,同社の取締役の所有(1株から6株)も含まれている。


pp. 2-3

専売事業の対象とする財は,タバコ,塩および樟脳である。いずれも財政的要請で創設されたが,そのうち最大規模のものはタバコである。創設以来タバコ専売事業[11]は,専売当局の歳入もしくは収入においては,全体の約90%を占めてきた。タバコ専売事業の創設については,すでにその断行に向けた大蔵官僚の力強さが根底にある[12]という先行研究の分析結果を得ているため,本書の対象範囲は,主として1904年の創設から現在までとするのが妥当であろう。本書では,専売化の断行後一貫してタバコから生ずる利益相当の税金を徴税権という形で手中に収めてきた官僚と日本のタバコ市場に参入を試みる外資にも着目して一定の留意を払っていくことにしたい。
 そして,上記の分析を主眼に置いた上で留意を要することは,専売公社を民営化させた背景の一つにあったと思われる世界のタバコ産業の動向との関連性についてである。世界のタバコ産業の動向を見る場合,資本主義諸国のタバコ企業の動向を中心に,その世界戦略の中で,日本がどのように位置づけられていたのかを吟味する必要がある。つまり,専売という閉鎖された市場を,海外のタバコ企業はどのように捉えていたのかも分析課題の一つにあげられよう。

[11]タバコ専売事業とは,タバコを専売とする事業である。タバコ専売事業という用語について,ここではタバコに限定して説明しておこう。一般に,タバコは,葉タバコと製造タバコの総称である。フランク・B・ギブニー編『ブリタニカ国際大百科事典 12(第2版改訂版)』ティービーエス・ブリタニカ,1994年,475〜482ページによると,葉タバコとは,南米を原産とするナス科タバコ属(ニコチアナ属)の一年草である。収穫の時点では,茎の高さは約2mにも及ぶが,その種子の重さは1.2万粒から1.5万粒で1g程度と極めて軽量である。このことから,葉タバコは土壌からの養分の吸収が激しく,他の作物との輪作をほぼ不可能にさせる。葉タバコを乾燥・熟成させるなどして製造されるのがタバコである。

[12]この点については,遠藤湘吉『明治財政と煙草専売』 東京大学出版会,1970年 が分析の先駆といえよう。なお,本書での官僚とは,福本邦雄『官僚』弘文堂,1959年,139ページ を引用して「支配的影響力をもつ一部官吏の集団」と定義づけておく。しかし昨今では,たとえば大企業に対しても官僚制という言葉が使用されているため,辻清明『新版 現代日本官僚制の研究』東京大学出版会,1969年,173ページ を引用して官僚制を「特定の集団における組織と行動様式にあたえられた名称」と定義づけておこう。


・問題の設定(pp.11-13)。黒字強調は引用者(id:Mandarine)によるもの。また、著者による先行研究を引用した箇所の分量が多いので、ここも引用者が斜体にした。

4 専売公社民営化への問題提起と仮説の設定

(1) 専売公社における問題提起
 タバコ専売事業の確立過程には,官僚が中心的な役割を果たしたことは先にも述べたとおりである。その背景には,財源の枯渇を懸念する官僚と,タバコの利益を海外へ持ち去ろうとする外資との相克があった。
 事後のタバコ専売事業は,その基本とする枠組みを維持しつつ,経営形態[47]の転換を図りながら,1985年にその規制が部分的にせよ,解除された。この解除に至る過程では,タバコを取り巻く環境の変化,とりわけ消費者の需要構造や国民所得との関係など,その時代の背後関係をも洗い直す必要がある。そして,タバコ専売事業の実行機関の変遷と結びつかせながら,時代に適応した経営形態の創出がどのような過程を経て行われたかを見ておく必要がある。
 民営化の評価については「民営化後に収支が改善した。しかし,①関連事業(とくにバイオ企業)への事業進出は順調には進んでいない,②内部組織改革および意識改革においてもNTT や JR ほどには進んでいない,③外国企業のたばこ部門への参入が NTI(JTのこと、以下同じ:著者注)の経営にまだ反映されていない等の問題ももっている。これらの問題は国内葉たばこ購入の義務付けを中心とする『規制の政治化』が存続し,それに伴ってたばこ製造分野について競争が導入されなかったことに関連しているであろう。さらに経営陣のトップ人事について官庁規制の影響が色濃く残っていることにも影響されていると思われる。今後はたばこ製造および同販売価格の自由化を含めて,競争体制の強化が必要であり,その過程で国内葉たばこ問題が解決され,またNTI が関連事業を積極的に展開し,事業内容を変化させてゆくことが必要であろう」[48]と述べられている。上記の評価と今日とでは経営環境に多少の変化が生じてはいるが,関連事業については後述のように医薬品事業を第二の柱に位置づけて比較的大規模な事業展開を試みている。内部組織改革については,たとえば本体の従業員の減少とは別に取締役が増え続けたという事実も見逃してはならない。さらに外国のタバコ部門については,後述のように M&Aによって世界市場への参入を本格化させはしたが,それに対して「計画の甘さ」を露呈させたとの評価も下されている。
 同様に,「新会社はどういう風な経営方針で生き抜いていくか。……第1に組織の改革である。……第2に事業の多角化を進めることである。……第3にアジア各国向けを中心に輸出努力を進めていくことである」[49]との一定の帰結を提示したものもある。この見解については必ずしも特別の意味をもったものとはいえないが,要するに製造をはじめとする諸部門での集約化,非タバコ部門の育成による収益構造の多角化,そして輸出強化によるタバコ市場の多元化などを示唆している。逆にいえば,公社時代におけるタバコへの収益依存体質からの脱却は,民営化に伴う市場開放にも関連して,従来の官僚的着想による経営ではその存続も危ぶまれるとの懸念がこの見解には含意されている。脱官僚および脱官僚組織への脱皮を実現できるのかどうか,今後の展開にも期待されるところである。
 しかしながら,JT が生き残るための方策以外に掲出すべき問題点は,いくつかある。その第一は先の指摘にもあったように,タバコと専売に関しても民営化と規制緩和が行われたとはいえ,後述のように,なぜ葉タバコ専売制度が今もなお温存されているかである。 この問題の見方を変えると,第二はなぜ改革の的を外しながらも・つまりそのような的外れの結論が一定程度予想されたにもかかわらず,そこまでしてもなぜ民営化の必要があったかである。改革の基点は基本としては定まっていたにもかかわらず,肝心の項目にはメスを入れることができない状態で,民営化が断行されたかである。そして,第三に官僚の強い意思が働いて確立された専売事業であるが,何がもしくは誰が前例踏襲を前提とする彼らを方向転換させたのかという点も考察の必要があろう。

(2) 三公社民営化の中での問題提起
 三公社民営化問題を取り上げた先行研究では,たとえば国鉄について「国鉄の改革の必要性について合意が成されたとしても,なぜ分割民営化でならなかったのか」[50]という問題点を提示したものがある。全国一社体制での民営化も選択肢の一つにあったはずだが,なぜ分割・民営化だったのか。そのような疑問は,しかし,国鉄ばかりに目を向けさせてよいのだろうか。NTT についても民営化当初は全国一社体制ではあったが,1999年より東西会社と長距離系会社に分割されたことは記憶に新しい。
 そのような流れがある中で,専売公社も、一時は,分割・民営化が提言されていた[51]。しかし,現実には分割はされず,つまり全国一社体制で独占状態を継続させたままで民営化が断行された。国鉄の場合と異なる点は,なぜ黒字を計上してきた専売公社や電電公社も民営化されたかである[52]。公社経営の非能率・非効率さに民営化の要因を求めるならば,そのような問題は,1980年代までその断行を待つ必要はどこにもなかったはずである。そして,黒字を計上していたのになぜ民営化の必要があったのかという疑問も残される[53]。

(3) 仮説の設定
 以上の問題を解くに当たり,設定される仮説は,第一に専売公社を中心としたタバコ専売事業の歴史を縦軸,第二に各界での議論とその変遷を横軸とした分析がそれぞれ必要となるであろう。つまり,各界での議論がタバコ専売事業にどのような影響を与えていたのかということを吟味するとすれば,特に戦後以降何か一つの線で結ばれたものがあるのではないかと思われる。
 軍事費の増大に伴う財源をタバコからも補っていくという戦前期から戦中期まで変わりがなく,公社形態から特殊会社形態になったことにすぎないと求めてはいるが,実態を見ないままにそのような結論を下しても説得力には欠けるものがある。そこで本書では,専売公社が特殊会社化された理由を導出し,さらに民営化に対する問題点や矛盾点を掲げていきたい。そして民営化とともに取り上げられるべきは,先のような湾岸戦争への財源の捻出や旧国鉄長期債務へのおける官僚の姿勢は,専売の中でも製造専売の断行を実現して以降,強力に作用してきた。事業の確立以降,問題となるのは,実行機関のあり方である。各時代の背景を下に,財源追求のためには,先進資本主義国の先例を踏まえてどのようにあるべきかという議論もいくつかは行われてきたはずである。
 上記の経過を分析するためには,次のような過程を得る必要があるように考えられる。第一段階は,縦軸をタバコ専売事業の歴史に求め,横軸をいくつかの段階で展開された経営形態に関する議論に求めることである。なお,この議論を本書では経営形態転換論争と呼ぶことにして,主に戦後の経過をまとめることにする。第二段階は,第一段階を踏まえた上で,現状分析を試みることである。戦後史の中で現状がどのように位置付けられるかを考えてみることにしたい。そして第三段階は,分析の帰結をまとめることである。

[47]経営形態とは、一種の企業形態と位置づけられる。占部都美『改訂 企業形態論』白桃書房,1977年,35ページでは,一定の行動原理が経営活動を規律する規準として持続的な性格をもち,具体的な行動に客観化されるときに成立する一定の経営制度としている上に,企業形態との一定の区別もなされている。

[48]植草益「公企業の民営化」今井賢一小宮隆太郎『日本の企業』東京大学出版会,1989年,389ページ。

[49]藤本保太『日本の専売政策』多賀出版,1990年,186ページ。なお,1997年のタバコ製造量は世界で731万トンである。そのうち最大の中国が332万トン,以下アメリカ67万トン,インド54万トン,ブラジル50万トンと続く。消費については世界で630万トンであり、中国の212万トン,アメリカの71万トン,インドの48万トン,インドネシアの20万トンと続く。日本は世界第5位で19.6万トンを消費する。“Table 1, World Leading Unmanufactured Tobacco Producing, Trading and Consuming Countries"(http://www.fas.usda.gov/tobacco/circular/1998/9802/table01.htm:2000年5月18日)より抜粋。

[50]草野厚国鉄改革』 中央公論社,1989年,9ページ。

[51]戦後改革期の民営化論争では,民営化推進論者の見解の主流は,分離・分割であった。その点については、戦後改革期のみならず,戦後の論争史においても分離・分割の諸特徴をとらえておく必要がある。そして,後述のように1980年代においても専売公社内部では,経営形態に関する勉強会が開かれた。その中でも,将来の選択肢としての一つに分割・民営化案も狙上にあった。

[52]戦後改革期において,タバコ専売事業のあり方を審議していた臨時専売制度協議会は分割・分割案も選択肢に入れていた。そして1960年代にも民間の研究機関が,専売公社の分割・民営を提示した。その点については第4章以降を参照されたい。

[53]三公社民営化の政治過程については,たとえば,飯尾潤『民営化の政治過程』東京大学出版会,1993年がある。

[54]大島國雄『公企業の経営学[第2新訂版型]』白桃書房,1987年,377ページ