[執筆者](五十音順)
相澤 加奈 手稲渓仁会病院
池田 和隆 東京都医学総合研究所
稲田 健 東京女子医科大学
入江 智也 北翔大学
尾崎 米厚 鳥取大学
木戸 盛年 大阪商業大学
木村 永一 手稲渓仁会病院
小林 桜児 神奈川県立精神医療センター
近藤 あゆみ 国立精神・神経医療研究センター
齋藤 利和 幹メンタルクリニック
坂上 雅道 玉川大学
白坂 知彦 手稲渓仁会病院
高田 孝二 帝京大学
高野 裕治 東北大学
高橋 英彦 東京医科南科大学
田辺 等 北星学園大学
常田 深雪 手稲渓仁会病院
永井 拓 名古屋大学
成瀬 暢也 埼玉県立精神医療七夕一
西澤 大輔 東京都医学総合研究所
原田 隆之 筑波大学
廣中 直行 株式会社LSIメディエンス
藤原 淳 株式会社イナリサーチ
松田 正彦 国立精神・神経医療研究センター
松本 俊彦 国立精神・神経医療研究センター
三原 聡子 久里浜医療センター
宮田 久嗣 東京慈恵会医科大学
森 友久 星薬科大学
森田 展 彰筑波大学
和田 清 埼玉県立精神医療センター
装丁:長久 雅行
【目次】
口絵(①〜⑧)
序(2019年5月) [i-ii]
執筆者一覧 [iii]
目次 [iv-ix]
第1部 薬物依存研究の基礎
イントロダクション [廣中直行] 001
1 薬物自己投与[藤原淳] 004
1.1 薬物自己投与とは? 004
1.2 薬物自己投与の歴史 004
1.3 薬物自己投与に用いる動物 005
1.4 薬物自己投与の実際 006
1.4.1 薬物自己投与の実施 006
1.4.2 ラットの薬物自己投与 006
a. 薬物自己投与前の手続き
b. 自己投与訓練
c. 自己投与試験
1.4.3 アカゲザルの薬物自己投与 008
a. 薬物自己投与前の手続き
b. 自己投与訓練
c. 自己投与試験
文献 010
2 薬物弁別[高田孝二] 012
2.1 状態依存学習 012
2.2 薬物弁別学習 013
2.2.1 弁別訓練法 13
2.2.2 般化テスト 13
2.2.3 般化の判別 14
2.2.4 累積用量投与法 14
2.3 自覚効果 015
2.4 ヒトにおける薬物弁別実験:弁別刺激効果と質問紙による自覚効果 015
2.4.1 ヒトにおける薬物弁別実験 15
2.4.2 弁別刺激効果の変動要因 16
2.4.3 強化効果と自覚効果 17
2.5 薬物弁別実験の有用性 017
2.5.1 作用メカニズムの解明・薬物乱用能の予測 17
2.5.2 創薬への応用 18
2.6 おわりに 019
文献 019
3 身体依存性試験[森友久] 021
3.1 身体依存性試験を行うにあたり 021
3.2 身体依存の形成と退薬症候に関して 021
3.3 身の回りにある退薬症候 022
3.4 身体依存性試験 023
3.4.1 モルヒネによる身体依存の形成法 24
a. 注射法
b. Pellet法およびslow release emulsion(SRE)法
c. Infusion法
d. 薬物混入飼料法(drug-admixed food:DAF)
3.4.2 バルビツール酸系薬物の身体依存性試験 25
a. Drinking(含水)法
b. その他の方法
3.5 モルヒネの身体依存のモデルの作製と評価:実践編 025
3.5.1 モデル作製法に関して 25
3.5.2 退薬症候観察に関して 26
3.6 モルヒネの身体依存を検討することによる臨床への還元と新知見 026
3.7 今後の研究展開 028
3.8 おわりに 029
4 条件付け場所嗜好性[舩田正彦] 030
4.1 はじめに 030
4.2 条件付け場所嗜好性試験 030
4.2.1 CPP法の実験手法と意義 30
4.2.2 実験実施の留意点 32
4.2.3 CPP法の有効活用法 32
4.3 脳内報酬系の役割 034
4.4 身体依存と CPP 036
4.5 遺伝子改変動物モデルの利用 036
4.6 薬物依存再発の評価 037
4.7 おわりに 037
5 依存性薬物の行動薬理[廣中直行]038
5.1 行動薬理総論 038
5.1.1 行動薬理とは 38
5.1.2 研究方法 38
5.2 本章の構成 039
5.3 各論 039
5.3.1 アヘン類 39
5.3.2 バルビツール類 41
5.3.3 アルコール 41
5.3.4 ベンゾジアゼピン系薬物 42
5.3.5 有機溶剤 43
5.3.6 大麻 43
5.3.7 コカイン 44
5.3.8 アンフェタミン類 44
5.3.9 LSD 45
5.3.10 ニコチン(タバコ) 45
5.4 おわりに 046
第2部 基礎研究の展開
イントロダクション:薬物依存の基礎研究の今後の方向性,課題と可能性,期待するところ[池田和隆] 055
6 報酬予測と意思決定の神経機構[坂上雅道] 057
6.1 はじめに 057
6.2 モデルフリープロセス 057
6.2.1 条件付けと意思決定 57
6.2.2 価値の生成と大脳基底核-ドパミン回路 57
6.2.3 報酬予測とハビット形成 58
6.3 モデルベースプロセス 058
6.3.1 行動主義と認知主義 58
6.3.2 モデルフリーとモデルベース 59
6.3.3 状態遷移学習とモデルベースシステム 59
6.4 前頭前野と推論 060
6.4.1 間接的報酬予測実験 60
6.4.2 状態遷移と報酬予測ニューロン 61
6.4.3 推移的推論と報酬予測 62
6.4.4 カテゴリー化と報酬予測 63
6.4.5 情報の抽象化と推移的推論 64
6.5 2つの神経回路と向社会性 064
6.6 おわりに 066
7 遺伝子転写カスケードと神経可塑性[永井拓] 069
7.1 はじめに 069
7.2 側坐核を構成する中型有棘神経細胞 069
7.3 サイクリックAMP応答エレメント結合
タンパク質(CREB) シグナル 071
7.4 △FosB シグナル 072
7.5 核内因子-κB (NF-κB) シグナル 073
7.6 MEF2シグナル 075
7.7 HDAC5-Npas4 シグナル 076
7.8 その他の転写因子 076
7.9 神経可塑性 077
8 薬物感受性の分子生物学的基礎[西澤大輔,池田和隆] 081
8.1 はじめに 081
8.2 アルコール(エタノール) 081
8.3 タバコ(ニコチン) 083
8.4 覚醒剤 084
8.5 その他(オピオイド,コカイン,大麻,カフェイン) 085
8.6 おわりに 087
9 薬物依存と記憶――その神経機構[高野裕治] 090
9.1 はじめに 090
9.2 心理学における記憶の考え方 090
9.3 記憶の神経機構 091
9.4 海馬における情報のコード化:空間表象と選好 091
9.5 記憶を形成するために必要な海馬のシータリズム 092
9.6 薬物依存と記憶を研究するための実験課題 093
9.7 CPPにおける海馬の神経活動記録 093
9.8 CPPにおける海馬のドパミン受容体の変化 096
9.9 薬物依存における宣言的記憶ネットワークの変容 097
9.10 脳機能ネットワークへの介入方法の開発 098
9.11 薬物依存と記憶研究における今後の課題 098
10 依存症の脳画像解析[高橋英彦] 100
10.1 はじめに 100
10.2 依存症の脳研究の背景となる心理・行動学的仮説 100
10.3 依存症のstructural MRI研究 101
10.4 依存症のfMRI研究 102
10.5 fMRI研究によるギャンブル障害と物質依存との共通点 102
10.5.1 衝動性 102
10.5.2 報酬と間への感受性 103
10.5.3 手がかり刺激への反応 103
10.5.4 報酬予測時の脳活動 103
10.6 依存症におけるドパミン神経系に関するPET研究 104
10.7 依存症に対する経頭蓋磁気刺激法 106
10.8 おわりに 107
第3部 依存・嗜癖問題の諸相
イントロダクション [高田孝二] 109
11 アルコール[白坂知彦,常田深雪,相澤加奈,木村永一,斎藤利和] 111
11.1 アルコール依存とは 111
11.2 合併症 111
11.3 アルコール依存と生物学 112
11.4 アルコール依存の診断基準 112
11.5 アルコール依存の現状と課題 113
11.6 アルコール依存治療の実際 114
11.7 関わり方のコツ 115
11.8 アルコール依存の薬物治療 116
11.8.1 依存に対する薬物療法 116
11.8.2 アルコール離脱の薬物療法 117
11.8.3 アルコール離脱の症状別の薬物療法 119
11.8.4 精神症状の合併に対する薬物療法 119
11.8.5 身体症状の合併に対する薬物療法 119
11.9 アルコール依存と地域述携 119
11.10 最後に 120
12 タバコ[入江智也] 121
12.1 タバコに関連する障害 121
12.1.1 タバコ使用障害 121
12.1.2 タバコ離脱 121
12.1.3 他のタバコ誘発性障害 121
12.2 タバコ使用障害に対する治療 122
12.2.1 医学的治療 122
a. NRT【nicotine replacement therapies】
b. 非ニコチン製剤による治療
12.2.2 心理学的介入 123
a. 動機付け面接
b. 認知行動療法
12.3 タバコ使用を維持・促進する要因 124
12.3.1 生理的要因 125
12.3.2 心理学的要因 125
a. ストレス緩和効果
b. リラックス効果
c. 気分の転換
12.3.3 社会的要因 126
a. 関係性の持続・強化
b. 社会生活の満足感の向上
12.4 タバコの多様化 127
12.5 おわりに 127
13 鎮静・睡眠・抗不安薬 [稲田 健] 130
13.1 鎮静・睡眠・抗不安薬とは 130
13.2 依存一般 131
13.3 BZ-RAs【benzodiazepine receptor agonists ベンゾジアゼピン受容体作動薬】依存の特徴 132
13.3.1 BZ-RAsの渇望 132
13.3.2 BZ-RAsの耐性 132
13.3.3 BZ-RAsの脱症状 133
13.4 DSM-5における BZ-RAs 離脱の診断基準 134
13.5 離脱症状の出現頻度 134
13.6 BZ-RA5依存に関連する危険因子 134
13.7 BZ-RASによる社会機能の原害 135
13.8 BZ-RAS依存の予防・治療 135
13.8.1 BZ-RAs O FW 135
13.8.2 BZ-RAs依存の治療 135
13.8.3 BZ-RAsを必要とした病患の治換が不十分である場合 136
13.8.4 BZ-RAsに対して渇望を抱いている場合 136
13.8.5 艇脱症状のために中止が困難となっている場合 136
13.9 おわりに 137
14 覚醒剤・大麻[廣中直行] 139
14.1 化学物質使用障害と社会 139
14.2 覚醒剤 139
14.2.1 覚醒剤の薬理 139
a. 歴史
b. 薬理効果
c. 作用機序
14.2.2 覚醒剤の乱用問題 140
a. 歴史的変遷と現状
b. 診断
c. 覚醒剤乱用の背景
d. 乱用の影響
14.2.3 覚醒剤精神病 142
14.3 大麻 143
14.3.1 大麻の薬理 143
a. 歴史
b. 薬理効果
c. 作用機序
14.3.2 大麻の乱用問題 145
a. 歴史的変遷と現状
b. 診断
c. 大麻乱用の背景
d. 乱用の影響
14.3.3 大麻をめぐる議論 147
15 「危険ドラッグ」の過去・現在・未来[和田 清] 150
15.1 はじめに 150
15.2 いわゆる「脱法ドラッグ」とは何か 150
15.3 いわゆる「脱法ドラッグ」乱用の変遷 150
15.3.1 1回目:「マジックマッシュルーム」問題 151
15.3.2 2回目:ラッシュ, 5-MeO-DIPTを中心とする新規精神活性物質乱用問題 151
15.3.3 3回目:「脱法ハーブ」を中心とする新規精神活性物質乱用問題 152
15.4 「脱法ハーブ」乱用の劇的拡大 154
15.5 「脱法ドラッグ」乱用の劇的拡大理由 155
15.6 事の顛末 156
15.7 「脱法ドラッグ」問題からの教訓と
今後の課題 158
15.8 おわりに 158
16 ギャンブル[木戸盛年] 160
16.1 ギャンブル(gamble)とは 160
16.1.1 ギャンブル行動(gambling)の定義 160
16.1.2 ギャンブル行動の分類 161
16.2 日本のギャンブル産業の現状 161
16.2.1 日本のギャンブル産業の市場規模と参加実態 161
16.2.2 日本のギャンブル産業の今後 162
16.3 ギャンブル障害(gambling disorder)
とは 163
16.3.1 ギャンブル障害の診断基準の変遷と診断基準の内容 163
16.3.2 ギャンブル障害の有病率 164
16.4 ギャンブル障害への対策 165
16.4.1 海外におけるギャンブル障害への対策 165
16.4.2 日本におけるギャンブル障害への対策 165
17 インターネット[三原聡子]168
17.1 はじめに 168
17.2 ネット嗜癖のわが国の現状 168
17.3 ネット嗜癖の各国の現状 169
17.4 ネット嗜癖は依存なのか? 169
17.5 診断基準収載への動き 170
17.6 ネット嗜癖者の状態像 171
17.7 ネット嗜癖の合併精神障害 171
17.8 ネット嗜癖の治療の実態 172
17.9 韓国におけるネット嗜癖問題への
取り組みと合宿治療 172
17.10 わが国におけるネット嗜癖の対策 173
17.11 久里浜医療センターでの治療 174
17.12 合宿治療プログラム 174
17.13 ネット嗜癖の症例 174
17.14 おわりに 177
第4部 治療と回復の取り組み
イントロダクション [成瀬暢也] 191
18 治療・回復支援総論[成瀬暢也] 193
18.1 はじめに 193
18.2 依存症が精神科治療者から嫌われる理由 193
18.3 依存症の治療 194
a. 治療関係づくり
b. 治療の動機付け
c. 精神症状に対する薬物療法
d. 解毒・中毒性精神病の治療
e. 疾病教育・情報提供
f. 行動修正プログラム
g. 自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ
h. 生活上の問題の整理と解決法援助
i. 家族支援・家族教育
18.4 これまでのわが国の依存症治療の問題点 194
18.5 エビデンスに基づいた新たな依存症治療 195
18.6 海外で実践されている心理社会的治療 196
18.6.1 動機付け面接法 196
18.6.2 認知行動療法的対処スキルトレーニング 196
18.6.3 随伴性マネジメント 196
18.6.4 12ステップ・アプローチ 196
18.6.5 コミュニティ強化と家族訓練(community reinforcement and family training : CRAFT) 196
18.7 埼玉県立精神医療センターにおける
具体的治療 197
18.7.1 外来での治療継続:「ようこそ外来」の実践 197
a. 調査対象
b. 結果
c. 考察
18.7.2 入院治療を成功させるコツ:「渇望期」の適切な対応 198
18.7.3 患者への動機付け:「ごほうび療法」の積極的活用 198
18.7.4 介入ツールの積極的活用:LIFE シリーズの作成 199
18.7.5 外来での継続した集団治療プログラムの実施:LIFE プログラムの実践 200
18.8 依存症患者の特徴を理解した基本的対応 200
18.9 物質使用障害とどう向き合ったらよいのか 201
18.10 当事者中心の依存症治療・回復支援
202
18.10.1 患者意識調査 202
a. 方法・対象
b. 結果
c. 考察
18.11 これからの依存症治療・回復支援 203
18.11.1 ハームリダクションの考え方 203
18.11.2 アルコール依存症の治療改革 204
a. 治療者・支援者の意識改革:「アルコール依存症は病気であること」の徹底した啓発・教育の推進
b. 診断名の改革:「アルコール依存症」から「アルコール使用障害」への診断名使用の変更
c. 治療構造の改革:「これまでの中核群(重症群)」から「新たな中核群(軽症群)」を重視した治療構造への転換
d. 治療スタンスの改革:「不寛容・直面化・矯正・強要・一律・断酒一辺倒」から「受容・動機付け・治療・協働・個別重視・飲酒量低減」への転換
e. 人材開発の改革:「アルコール問題支援コーディネーター」の新規育成・資格化の推進
f. 地域連携の改革:地域保険・産業保険・メンタルヘルス領域との連携システム構築の推進
g. 家族支援の改革:「患者の回復支援目的の家族支援」から「家族自身を直接の支援対象とした家族支援」への転換
h. インセンティブ保障の改革:予算化・資格化などのインセンティブ保障の実現
18.12 おわりに 206
19 薬物療法[宮田久嗣] 209
19.1 はじめに 209
19.2 依存・嗜癖の薬物療法の治療ゴール 209
19.3 摂取欲求(渇望)の構造 209
19.3.1 1次性強化効果(報酬効果) 210
a. 1次性強化効果とその神経学的機序
b. 1次性強化効果を標的とした治療薬
①ナルトレキソン,ナルメフェン,アカンプロサート
②ブプロピオン,バレニクリン
③ブプレノルフィン
④抗精神病薬
⑤臨床的意義
19.3.2 離脱時の不快感 211
a. 離脱時の不快感とその神経学的機序
b. 離脱時の不快感を標的とした治療薬
1) 脳内報酬系の代償性機能低下を軽減させる薬物
①ナルメフェン(アルコール依存)
②アカンプロサート(アルコール依存)
③ブプロピオン,バレニクリン(ニコチン依存)
④アリピプラゾール
⑤臨床的意義
2) 置換療法によって離脱症状を軽減させる薬物
①メサドン(オピオイド依存)
②ブプレノルフィン(オピオイド依存)
③ベンゾジアゼピン系薬物(アルコール依存)
④ニコチン製剤(ニコチン依存)
⑤臨床的意義
19.3.3 物質や行動の報酬効果と結びついた環境刺激 214
a. 環境刺激の2次性強化効果獲得と,その神経学的機序
b. 環境刺激の2次性強化効果獲得に対する薬物治療
19.4 衝動性 215
19.5 おわりに 215
20 認知行動療法[松本俊彦] 218
20.1 はじめに 218
20.2 再発防止モデルの治療理念と効果 218
20.2.1 治療理念 218
20.2.2 治療効果 218
20.2.3 マトリックスモデル 219
20.3 Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP) 219
20.3.1 マトリックスモデルとSMARPP 219
20.3.2 SMARPPの構造 220
20.3.3 SMARPPワークブック 220
20.3.4 各セッションの中核的内容 221
a. トリガーの同定
b. 対処スキル
c. スケジューリング(日課の計画を立てる)
20.3.5 SMARPP実施にあたっての工夫 221
20.3.6 SMARPPによる介入効果 222
20.4 SMARPP プロジェクトの展開 223
20.4.1 SMARPP の普及状況 223
20.4.2 治療プログラムの意義とは 225
20.5 おわりに 225
21 未成年者を取り巻く薬物環境[尾崎米厚] 227
21.1 未成年者の喫煙に関する環境 227
21.1.1 中高生の喫煙実態と家庭内の環境 227
21.1.2 中高生の喫煙とタバコの価格との関係 229
21.1.3 未成年者の喫煙とタバコの入手に関する環境 229
21.1.4 中高生の喫煙を取り巻く学校環境 230
21.1.5 未成年者の喫煙行動に影響を与える
環境要因 230
21.1.6 未成年者の喫煙防止対策 230
21.2 未成年者の飲酒に関する環境 232
21.2.1 中高生の飲酒実態と家庭内の環境 232
21.2.2 中高生のアルコールの入手に関する
環境 233
21.2.3 中高生の飲酒に関する社会的環境 234
21.2.4 中高生の飲酒防止対策 234
21.3 未成年者のその他の薬物に関する環境 235
22 物質使用障害に伴うさまざまなリスクとその対応[森田展彰] 237
22.1 自殺リスクのある事例 237
22.1.1 SUDと自殺の発生状況 237
22.1.2 物質使用と自殺行動の相互関係 237
22.1.3 SUDの自殺のリスクファクター 237
22.1.4 対応 238
a. 予防
b. SUDの事例への介入・治療
22.2 家庭内の暴力のリスク 238
22.2.1 家庭内の暴力とSUDの重複状況 238
a. 配偶者間暴力(domestic violence:DV)とSUD
b. 子ども虐待とSUD
22.2.2 物質使用の問題と家庭内の暴力が
重複する機序 239
22.2.3 アルコール薬物問題が子どもに与える影響および世代間連鎖 239
22.2.4 対応 239
22.3 被害体験・トラウマ体験のある事例 240
22.3.1 SUDとトラウマ体験・PTSDの合併について 240
22.3.2 トラウマがアルコール・薬物依存に結びつくメカニズム 240
a. トラウマによる急性の痛みの自己治療としてのアディクション
b. 複雑性トラウマによる認知・行動の問題としてのアディクション
22.3.3 対応 240
a. 安全な環境や治療関係をつくり出すこと
b. トラウマに伴う感情・認知・対人関係の問題
c. 過去の体験の表出と意味付け
d. 社会へのつなぎ
22.4 妊娠・出産期のリスク 242
22.4.1 アルコール使用障害が妊娠・出産に与える影響 242
a. 胎児性アルコール症候群および胎児性アルコール・スペクトラム障害
b. 流産・死産
22.4.2 違法性薬物が妊娠・出産に与える影響 243
a. メタンフェタミン(覚醒剤)の影響
b. 大麻,マリファナの影響
c. コカインの影響
d. ヘロインなどのオピエートの影響
22.4.3 対応 244
a. 評価
b. 予防・介入
22.5 薬物使用障害者における感染症のリスク 245
22.5.1 薬物使用障害では、HIV/AIDSとC型肝炎をはじめとする感染症を生じることが多い 245
22.5.2 対応 245
a. 予防と検査
b. HIV/AIDsやC型肝炎ウイルスに感染していた場合は治療の開始や継続を支援する
文献 246
23 司法・矯正領域における依存・嗜癖対策[原田隆之] 248
23.1 はじめに 248
23.2 依存・嗜癖と犯罪 248
23.2.1 検挙者に関するデータ 248
23.2.2 再犯防止への対策:法制度の改革 249
23.2.3 再犯防止への対策:治療サービスの改革 249
23.2.4 RNR原則 249
a. リスク原則
b. ニーズ原則
c. 治療反応性原則
23.3 覚醒剤依存症治療の実際 251
23.3.1 日本版マトリックス・プログラム 251
a. 引き金の特定
b. コーピング訓練
c. 渇望へのコーピング
d. ラプスへの対処
23.3.2 J-MATのその他の治療要素 252
23.3.3 覚醒剤依存症治療プログラムのエビデンス 253
23.4 性犯罪治療の実際 253
23.4.1 性的アディクションの概念 253
23.4.2 性的アディクションのリスクアセスメント 253
23.4.3 治療プログラム 253
23.4.4 性的アディクション治療のエビデンス 254
23.4.5 性的アディクションへのその他のアプローチ 254
23.5 薬物依存症に対するパラダイムシフト 255
24 社会復帰[近藤あゆみ] 257
24.1 社会復帰を目指す薬物依存症者に対する生活支援のあり方 257
24.2 薬物依存症者の生活支援を行う際の
留意点 258
24.2.1 居住 258
24.2.2 就労 258
24.2.3 余暇 259
24.2.4 家族 259
24.2.5 ピア・サポート 260
24.3 薬物依存症者の生活支援を行う主な機関 260
24.3.1 医療機関(精神科病院) 260
24.3.2 精神保健福祉センター 261
24.3.3 依存症回復支援施設 262
24.3.4 自助グループ 263
24.3.5 保護観察所 263
24.4 薬物依存症者の社会復帰をめぐるわが国の課題 264
24.4.1 関係機関間の連携 264
24.4.2 差別・偏見 264
座談会[廣中直行,宮田久嗣,池田和隆,成瀬暢也,高田孝二] 271
いま,アディクションを考える意味
物質によらない嗜癖について
嗜癖に至るプロセスから行動嗜癖を考える
他の精神疾患との関連
神経科学とアディクション
脆弱性の問題
治療薬の問題
アディクションの治療とは
今後の治療と介入
国際的な流れの中で
乱用対策と社会の変化
リテラシーの問題
索引 [288-293]
[コラム]
コラム1 依存・嗜癖をめぐる用語と概念 [廣中直行] 049
a. たかが言葉,されど言葉
b. 薬物の場合
c. 行動「嗜癖」
d. 現状および日本語訳の問題
注/謝辞/文献
コラム2 製薬会社の責務と行動薬理学研究者としての思い[森友久] 052
a. 製薬会社の責務
b. 行動薬理学研究者としての思い
コラム3 行動嗜癖の動物モデルは可能か? [廣中直行] 179
a. 動物モデルの意義
b. アイオワ・ギャンブリング問題
c. 遅延報酬割引
d. スロットマシン
e. 今後の展望
コラム4 基礎と臨床のクロストーク[廣中直行,宮田久嗣] 182
a. 基礎から臨床へ
科学の知と臨床の知
基礎研究の意義と限界
基礎から臨床へのメッセージ
b. 臨床から基礎へ
臨床の立場
臨床から基礎へのメッセージ
c. まとめ
コラム5 物質と行動のアディクションは,同じ?違う?[宮田久嗣] 186
a. 症候学からみた pros and cons
b. 発病のプロセスからみた pros and cons
c. 治療の観点からみた pros and cons
d. 神経科学的観点からみた pros and cons
e. まとめ
コラム6 依存臨床の最前線――物質依存 [小林桜児] 266
コラム7 依存症治療の最前線――グループでやめ方も生き方も学ぶ[田辺等] 268
a. 行動嗜癖の治療に着手した理由
b. 依存症治療の失敗からの学び
c. ユングの指摘した精神療法の限界
d. グループは主体的に生き直す環境を提供する
e. 行動嗜癖の議論での懸念
f. グループの活用を推奨する
【抜き書き】
■ 成瀬暢也 執筆「18章 治療・回復支援総論」から。
□ pp. 203-204
欧州の“ハームリダクション”と日本の“厳罰主義”について。なお本書では、合衆国発の“ドラッグコート”については殆ど触れられていない。
18.11.1 ハームリダクションの考え方
これからの依存症治療・回復支援を考えた場合,最も重要なことは,「依存症は病気である」という正しい認識のもと,重症患者だけを特別な専門医療機関で治療している現在のシステムから,精神科医療全体で軽症の状態から治療を引き受けていくシステムへの移行である.
欧州を中心に,最も成功している効果的な薬物政策としてハームリダクションが広がっている.ハームリダクションとは,「その使用を中止することが不可能・不本意である薬物使用のダメージを減らすことを目的とした政策・プログラム・その実践」である.薬物の使用量減少を主目的とはしておらず,薬物使用をやめることよりも,ダメージを防ぐことに焦点を当てる.薬物を使っているか否か,それが違法薬物であるか否かは問われない.ハームリダクションは,科学的に実証され,公衆衛生に基づき,人権を尊重した人道的で効果的な政策であり,個人と社会の健康と安全を高めることを目的とする.
わが国でハームリダクションといえば,注射針の無料交換,公認の注射場所の提供,代替麻薬メサドンの提供ばかりがクローズアップされる.同時に実施される敷居の低いプライマリ・ヘルスケアの提供,積極的な啓発活動,乱用者のエンパワメントなどに力を入れていることは知られていない.
わが国は,薬物問題に対して「ダメ.ゼッタイ.」に象徴される「不寛容・厳罰主義」を一貫して進めてきた,先進国では稀有な国である.これらは,「薬物依存症は病気」とする視点とは対極にある.臨床的には,「不寛容・厳罰主義」では治療にならないどころか,「反治療的」である.さらには,偏見や人権侵害を助長する可能性がある.
ハームリダクションのプログラムにつながっていることが,適切な情報・相談支援や医療支援・行政サービスにつながりやすくし,薬物問題の深刻化を防ぐ,プログラムにつながり断薬へと動機付けられることも期待できる.ハームリダクション政策は,個人・社会の薬物使用による相対的ダメージを減少させる.たとえば,救急医療利用回数の減少,医療費の減少,就業率の向上,薬物目的の犯罪の減少などの成果が報告されている.
世界の先進国もかつては厳罰主義で対応していた.しかし,それではうまくいかなかった反省に立って,大きく方向転換をしてきた経緯がある.それが米国を中心としたドラッグコートであり,欧州などを中心としたハームリダクションである.このような状況で,わが国でもはじめの一歩として「刑の一部執行猶予制度」が施行された.この制度の成否は地域での受け皿の準備によるところが大きい.この制度に精神科医療はついていけるのかが問われる.しかし、今のところその動きはみられない.
アルコール依存症についても,ハームリダクションの考え方は有用である.飲酒問題を責めても問題は解決しない.彼らは,周囲に迷惑をかけ責められる対象かもしれないが,医療の役割は依存症の治療である.医療が罰する側に立って,家族とともに患者を責め立てることは,医療の役割の放棄である.アルコール依存症患者の飲酒をやめさせることばかりにとらわれ,「病者」に対する支援の視点が今のところ見えてこない.「患者を甘やかしてはいけない」と言われてきた所以である.批判して突き放すのではなく,飲酒をしているか否かにかかわらず,必要な支援を提供することが求められる.
アルコール依存症患者は,さまざまな形で生活が困窮し重大な問題を抱えることが多い.その生活の支援を提供する中で,アルコール問題への介入を強制的ではなく提供していくそれは,「飲酒をやめさせる」ためのものではなく,「生活の支援」であり,「生きることの支援」である「飲酒している人にこそ支援が必要」である.わが国でハームリダクション政策を急ぎ取り入れることを提案しているのではない.このような視点こそ,医療者に必要な考えであることを強調したい.