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『平和のための戦争論――集団的自衛権は何をもたらすのか?』(植木千可子 ちくま新書 2015)

著者:植木 千可子[うえき ちかこ](旧姓:川勝) 国際関係論、安全保障論。
NDC:319.8 戦争と平和
NDC:392.1076 軍事史・事情


筑摩書房 平和のための戦争論 ─集団的自衛権は何をもたらすのか? / 植木 千可子 著


【目次】
まえがき(2015年1月) [003-007]
目次 [009-012]


序章 日本人は戦争を選ぶのか? 013
  準備はできているか?
  平和主義か孤立主義
  日本の行方への関心──安全保障担当者らとの交流
  「日本には選択肢がない」
  日本への警戒感
  揺れるアメリカの戦略
  中国も手詰まり
  海図なき航海
  なぜ戦争論なのか
  日本が選ぶ道
  戦争は防ぐことができる
  本書の構成


第1章 世界に訪れる変化のうねり 027
  アメリカの時代の終焉?
  これまでの世界
  アメリカの安全保障戦略
  民主主義の拡大
  アメリカの覇権維持
  懐柔するか、潰すか
  コモンズの支配
  米国の力の低下
  英米がトップにいない世界
  現状維持国と台頭国の葛藤
  これまでの覇権交替との決定的な違い


第2章 日本の安全保障をめぐる環境──なぜ集団的自衛権が必要だと考えられているのか? 047
  北朝鮮核兵器開発
  中国の軍事力増強
  海の長城
  海洋権益をめぐる海上警察の活動
  安全保障環境は厳しいのか?
  集団的自衛権のしくみ
  閣議決定が可能にする活動
  集団的自衛権を行使するとき
  「中国は脅威になってくれない」
  歴史問題と領土問題を差し引いてみると
  国家相手に、ツケは効かない
  平時の協力は増進
  湾岸戦争のトラウマ
  共同訓練の拡大
  より安全になるのか


第3章 戦争はなぜ起こるのか? どうやって防ぐか? 075
  戦争は勝敗予測の不一致で起きる
  短期楽勝の誘惑
  タイムセールの危険
  早い者勝ちの焦り
  機会の窓が閉じていく
  誤認が生む戦争


第4章 抑止力とは何か? 089
  抑止のしくみ
  夜中に吠えなかった犬
  抑止が成功するための条件
  シグナルの信憑性
  コミュニケーションの重要性
  日中ホットライン
  軍による信頼醸成
  野党やマスコミの声
  観衆費用が信憑性を上げる
  軍備増強も信憑性を上げる
  核抑止と通常兵器による抑止
  核の傘のしくみ
  冷戦後の核の傘
  中国の核戦力
  相互確証破壊にない米中
  通常兵器による抑止
  30%で抑止成立?
  小規模の侵害を抑止する難しさ
  尖閣紛争シナリオ
  制空権の争い
  離島は遠い
  基地への攻撃
  中国と日本のチキンゲーム
  小島から世界覇権まで
  太平洋進出をめぐる戦い
  法の支配への挑戦
  日米同盟の信頼性
  諸刃の剣
  明確な一線を引く
  アメリカの曖昧戦略


第5章 グレーゾーン事態の危険 149
  戦時でも有事でもない
  動員は戦争を意味する
  上陸は戦争を意味するか?
  グレーゾーンから有事への切り換え
  日本が例外なのか


第6章 強い軍備の落とし穴──安全保障のジレンマ 161
  目には目を、武器には武器を
  ジレンマが悪化する要因
  陸続きはジレンマを悪化させる
  不信感がジレンマを激化する
  ジレンマが戦争につながる危険
  日米中のジレンマのはじまり
  日本叩きと同盟漂流
  日米同盟再定義と中国脅威論
  戦略的不信
  よその戦争が終わって
  アジア回帰
  日米ガイドライン再改定
  地理と歴史が日中のジレンマを悪化させる
  人権をめぐる違いが不信感を増長させる
  共通の敵がいない
  安全保障ジレンマの緩和


第7章 リベラル抑止──戦争が割に合わない世界 195
  機会費用という考え方
  戦争の機会費用
  第1次世界大戦のころと何が違うのか
  リベラル抑止
  制度化による平和
  経済のプラスの保障
  安全保障のプラスの保障


第8章 日本の選択 209
  世界の状況
  何が問題なのか?
  目的を見失わないように
  南シナ海の紛争に参加するのか?
  日本の選択
  選択肢①現状維持
  選択肢②非軍事的国際主義
  選択肢③軍事的孤立主義
  選択肢④積極的軍事的国際主義
  選択肢⑤消極的(限定的)軍事的国際主義
  私の考え


あとがき(2015年1月 植木(川勝)千可子) [245-249]
主要参考文献 [i-iv]





【抜き書き】


・構成(pp. 24-26)

†本書の構成
 本書の構成についてあらかじめ紹介しておく。
 第1章では世界に起こっている変化について考える。世界の歴史の中で、私たちの時代はどんな時代なのか。どんな岐路にさしかかっているのか。これらの点を概観する。
 第2章では、それらの変化が日本と東アジアに与える影響について見てみたい。日本を取り巻く安全保障環境はどうなるのか。なぜ、集団的自衛権の行使を容認する必要があるのだろうか。
 第3章では、戦争はなぜ起きるのか、について考えたい。過去に生じた戦争を参考にして、どういう時に戦争が起こりやすいか、どういう原因が多いかについて考えてみる。とりわけ、人間が操作可能な原因について考えたい。つまり、人間の性は、おいそれとは変えられないが、仕組みを変えることによって戦争を防ぐことはできるかもしれないからだ。
 第4章では、「抑止」について考えてみる。抑止は、戦争を防ぐ方法の1つだ。抑止の仕組みや、抑止が成功するための条件について考えたい。抑止は、最近、耳にすることが多くなった概念だが、実は、非常に複雑だ。この章では、尖閣諸島をめぐる紛争を抑止する場合に考えておかなくてはいけない点を検討したい。
 第5章では、グレーゾーン事態について考えてみる。後述するが、日本政府が進めている日本の安全保障政策の変更は2つある。1つが集団的自衛権の行使で、もう1つが、小規模の紛争にどう対応するかという問題だ。平時でも戦争でもない状態なので、グレーゾーン事態と呼ばれている。つまり、どの時点で自衛隊を動員するか、という問題だ。
 第6章では、安全保障のジレンマについて考える。国際政治の中で平和を保つ方法の1つに、勢力均衡がある。相手が強くなるのなら、こちらも強くなれば良い、というのが勢力均衡の考え方だ。この考え方に潜む落とし穴を探ってみたい。
 第7章では、これまでの章で見てきた戦争と平和の仕組みを基に、戦争を起きにくくする方法について考えてみたい。
 第8章は、結びの章だ。




・抑止について(pp.75-78)

◆戦争は勝敗予測の不一致で起きる
 戦争は、ある日突然には起こらない。〔……〕戦争に至るまでは、外交交渉が続く。その国にとって死活的に重要なモノ、つまり重要な国益を争っている場合、譲歩するのは難しい。交渉が行き詰まったときは、そのモノを守るために戦うか、譲歩するしかない。
 戦争をするという決定は、どの国、どの指導者にとっても重い。〔……〕戦争になって負ければ、係争中の領土や利益よりも多大な損害を被ることになる。
 戦争の原因の1つに勝敗予測の不一致がある。〔……〕A国が「自分が勝つ」と思い、B国も「自分が勝つ」と思う時、戦争が起きる蓋然性は高くなる。〔……〕双方が「自分が勝つ」と思うことがある。それには、いくつかの理由が考えられる。
 まず1つめは、予測が間違っている場合。将来を予測するのは簡単ではない。どの国も軍事的な情報は秘密にする。自国の軍隊の能力も公けにされてはいない。相手国の能力も同じだ。すると、衝突して載った場合にその結末の予測を間違えることはあり得る。
 2つめは、わざと間違える場合。負けるという予測が受け入れられない状況がある。例えば、負けるという予想は軍の組織内で認められないという場合が考えられる。ある戦いに備えてきて、今さら負けると言えないという事情がある。そんなことで戦争の危険を冒すのか、と思うが、過去にはそんなことがあった。戦前の日本である。1941年(昭和26年)夏、日本の戦況の評価は日本が負けるというものだった。ところが、この評価は広く共有されることなく葬り去られた。開戦は不可避だという認識の下、敗戦は認められなかったのである。〔……〕
 それでは、勝敗予測のズレが原因で戦争に突入する場合、どうすれば防げるだろうか? 1つ考えられるのは、未来が見えるようにすれば防げるのではないか、ということだ。未来が見える道具には「水晶玉」がある。ディズニー映画の「リトル・マーメイド」や、「眠れる森の美女」で、魔女が覗いている、あの魔法の水晶玉だ。その水晶玉が手に入れば、予め勝敗が明らかになるので、戦争は回避できる可能性が高い。水晶玉効果(crystal ball effect)と呼ばれている。




・抑止力について。(p. 90)

 抑止について、まず最初に言えることは、「非常に複雑」ということだ。「抑止が増す」と軽々に言えるようなしくみではない。また、抑止力というのは効いているかどうかを知ることはできない。効いているだろう、と推測するだけである。だからこそ、抑止成功のためには、細心の注意が必要となる。
 今日の世界では、〔……〕安全保障上、注意すべきことは、小規模の軍事衝突が戦争に激化(エスカレート)しないようにすることだ。そのためには、一方で紛争を激化させることも辞さない態度を取りながら、他方で激化を防ぐ、という至難の業を成功させないといけない。さて、可能だろうか? 〔……〕


・抑止のメカニズム解説。(pp. 91-93)

◆抑止のしくみ
 〔……〕戦争に勝利するよりも、いかに抑止するかが安全保障の重要な課題になった。抑止は、実際の軍事力行使を伴わない。相手が攻撃を仕掛ける意図を断つことによって攻撃を未然に止めることが目的だ。
 抑止のしくみはこうだ。懲罰的抑止と拒否的抑止の2通りある。
 懲罰的抑止は、攻撃を意図している側(攻撃側)に対して、攻撃したら報復することを明らかにして思いとどまらせる。〔……〕
 拒否的抑止は、攻撃側に対して、攻撃しても成功しないから無駄だと知らせて思いとどまらせる方法だ。
 〔……〕戦争の結果について見通しを誤ることがしばしばあること、楽勝だと思うことが多いこと、について見てきた。抑止が成功するためには、つまり、相手を思いとどまらせるためには、戦わずして、負けること、あるいは、苦戦することを認識させないといけない。
 〔……〕攻撃を企図している側は、自分の水品玉を覗いて「これならば成功する」と思っている。それに対して、防御側は別の水晶玉を見せて失敗することをわからせなくてはならない。


◆夜中に吠えなかった犬
 抑止は、夜中に吠えなかった犬にえられる。〔……〕泥棒がやって来て、番犬が吠えた時に、初めて泥棒が来たことがわかる。抑止に当てはめると、敵の攻撃があって初めて抑止が失敗したとわかる。抑止が効いている間は、効いているのかどうかはわからない。敵が諦めたのか、それとも、もともと敵には攻撃の意図がなかったのかの区別がつかない。また、事前に抑止が効いているのかどうかもわからない、したがって、抑止力が増加したかどうかも、実は、検証しようがない。