著者:信岡 朝子[のぶおか・あさこ](1974-) 比較文学。
カバー図版:Ernest Thompson Seton, Animal Heroes, New York: Charles Scribner's Sons, 1905 より(Library Book Collection/PPS通信社)
NDC:480.9 動物学 >> 動物保護
『快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ』(信岡 朝子):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部
【目次】
はじめに [003-010]
動物保護の背後にあるもの
本書の構成
目次 [011-013]
序論――東西二元論を越えて 015
「動物の扱い」の歴史と変遷
動物表象と保護思想
第I章 忘れられた作家シートン 027
一 『動物記』とアメリカ 028
1 セトン登場 028
2 「自然の捏造」をめぐる議論 030
ネイチャーフェイカーズ論争
3 論争の本質 036
「自然」と「科学」の対立
二 「人種再生」のビジョン 042
1 ネイチャースタディー運動との連動 042
ネイチャースタディーの衰退
2 自然回帰と発達心理学 048
発生反復説と退化の不安
退化の恐れとネイチャースタディー批判
3 学習と本能 056
バローズの野生動物観
自動回復する自然
三 日本科学の精神と『動物記』 063
1 平岩米吉と雑誌『動物文学』 063
平岩による「動物文学」の理念
2 「児童研究」の広がり 068
アメリカ児童研究と元良勇次郎
『動物文学』と児童への関心
3 人種的階層の不在 074
都市生活への不信
4 太平洋戦争と「日本科学」 077
文学と科学の融合
日本科学の精神
四 孤高の人々――平岩とシートンの動物観 084
1 ジャック・ロンドン再び 084
平岩のロンドン批判
高等な動物の「愛」
2 優しい野生の探究 092
平岩が見る動物の「愛」
3 科学への嫌悪と信頼 096
英雄としての動物
机上の科学への反論
平岩の考える飼育
野蛮への共感
4 観察者の系譜 111
自然回帰への恐れと欲望
擬動物主義の可能性
ローレンツからの賛辞
第II章 ある写真家の死――写真家・星野道夫の軌跡 121
一 Michioの死とその周辺 122
1 越境する旅人 122
アラスカの「アマチュア」
日本人である「利点」
2 余白の意味 128
「ヒキ」の構造
3 写真の「読み」への疑念 134
本章の目的
二 原野をめぐる言説 138
1 写真のデジタル加工をめぐる論争 138
美術〔アート〕としての動物写真
2 銃とカメラ 141
カメラによるハンティング
「汚れなき野生」の追求
3 美による感化 149
傭人される画像加工
美的価値の発見
4 Zenとエコロジー 158
アメリカでの禅への注目
エコロジー・禅・星野
三 星野が見た「アラスカ」 163
1 ラスト・フロンティアの神話 163
『ナショナル・ジオグラフィック』の思想
拡張するアメリカとNGS
融和するアラスカという幻想
2 自然保護への疑い 174
消えゆく文化への共感
土地の帰属をめぐる対立
動物を見ること、食べること
狩猟民の実像
求められたエコロジスト像
自然の秩序についてのイメージ
アラスカを生きる人々
「文化遺産」という西欧的概念
3 「不在」の描き方 202
広さと脆さへの無自覚
描ききれない生命の「不在」
4 都市的思考の罠 212
本でもテレビでもないアラスカ
「ふつう」の感覚への敬意
敗北する都市
分からないアラスカへの興味
5 問いかけるアラスカ 227
見過ごされる「分からなさ」
希望を見る力
第III章 快楽としての動物保護――イルカをめぐる現代的神話 237
一 なぜイルカなのか 238
1 映画『ザ・コーヴ』の上映中止運動 238
顔の見えない日本人漁師
2 反捕鯨運動のメディア戦略 242
イルカ追い込み漁への圧力
3 なぜイルカが問題か 245
文化批評から見た捕鯨
二 イメージの系譜学 249
1 神話の中のイルカとクジラ 249
古代ギリシャのクジラ類
イルカの友愛と怪物クジラ
2 神話から博物学へ 254
ルネサンスから近代のクジラ類図像
3 資源としてのイルカとクジラ 260
近代捕鯨とクジラ類像
4 現代捕鯨のスーパーホエール 265
商業捕鯨モラトリアムとスーパーホエール
二〇世紀のイルカ・イメージ
三 人種階層と動物保護 272
1 人間と動物の境界 272
聖書と動物裁判
人と動物の連続性
2 人種階層の誕生 279
野蛮と人種の接合
人の序列の身体化
3 野蛮な自己への恐れ 285
「下等な人々」への嫌悪
内なる野蛮の回避
四 宇宙を泳ぐイルカ 292
1 自然回帰としての対抗文化〔カウンター・カルチャー〕 292
ベビーブーマーたちの時代
科学技術の脅威
2 ジョン・C・リリィのイルカ研究 298
脳科学者リリィとイルカの出会い
ヤヌス計画の失敗
3 宇宙からきたイルカ 307
地球外生物としてのイルカ
4 人と自然を結ぶもの 312
残忍なサル、優しいイルカ
サルとイルカ
5 同一化への願望 320
自然としての女性
ガイア仮説とニューエイジ
6 惑星〔プラネット〕イメージの弊害 326
宇宙の中の野生動物
記号化する環境問題
演じられる環境保護
五 再び『ザ・コーヴ』へ 334
1 狩猟をめぐる差別 334
正しい狩猟の発明
2 シー・シェパードのレトリック 339
シー・シェパードの自己規定
正義の物語への渇望
3 救済という快楽 346
フィクションと現実の還流
「思想の生態系」の未来
おわりに(二〇二〇年六月 信岡朝子) [353-362]
注 [363-369]
文献一覧 [370-399]
初出一覧 [400]
【メモランダム】
・書評(by今村純子 @『映像学』2021年106巻 pp.134-138)。
信岡朝子著『快楽としての動物保護――『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ』講談社選書メチエ、2020年10月