著者:墓田 桂[はかた・けい](1970-) 国際政治学、安全保障論。元・外務省。
件名:難民
NDLC:EG81
NDC:369.38 社会 >> 社会福祉 >> 災害.災害救助 >> 難民救済
シリアなどイスラム圏では紛争が続き、大量の難民が発生している。2015年9月、溺死した幼児の遺体写真をきっかけに、ドイツを中心に難民受け入れの輪が広がった。だが同年11月のパリ同時多発テロ事件をはじめ、欧州で難民・移民の関係した事件が続発。2016月、EU離脱を決めたイギリス国民投票にも影響した。苦しむ難民を見過ごしてよいのか、だがこのままでは社会が壊れかねない。欧州の苦悩から日本は何を学ぶか。
【目次】
はしがき [i-vi]
目次 [vii-xiii]
略語一覧 [xiv-xv]
第1章 難民とは何か 003
1 歴史のなかで 003
その起源
ダマスカスからニュー・イングランドまで
ナンセン高等弁務官の任命
国際的な人道活動の萌芽
戦間期のユダヤ難民問題
2 保護制度の確立へ 012
UNHCR
難民高等弁務官の役割
パレスチナ難民の位置付け
難民の地位に関する条約
条約の展開
関連する用語
条約による認定手続き
3 二一世紀初頭の動向 026
二〇一〇年代の人道危機
難民・国内避難民の世界的動向
移動は「強制」か
時代の映し絵として
第2章 揺れ動くイスラム圏 035
1 アフガニスタンからの連鎖 035
イスラム主義の拡大
秩序を揺さぶる思想
発火点
イラクという重しの崩壊
2 「アラブの春」以降の混乱 046
瓦解するシリア
顕在化したIS
独裁者なきリビア
衝撃を受ける既存の国家
「三〇年戦争」の見立て
アメリカの諦念
3 脅威に直面する人々 058
日常の危機――混乱が続くアフガニスタン
人口流出に見舞われる国
不安定なイラク
やむことのない難民化の現象
危機の最中のシリア
国民の半数が難民化する事態
4 流入に直面する国々 069
シリア難民が流れる国々
最大の受け入れ国、トルコ
苦境にあるヨルダン
アフリカと欧州を結ぶリビア
難民受け入れの限界
受け入れに慎重な国々
押し出す国々、引き寄せる国々
第3章 苦悩するEU 083
1 欧州を目指す人々 083
一〇〇万人規模の大移動
人々を惹きつけるEU
動く人々、動けない人々
「混合移動」という問題
EUへのルート
密航という名のビジネス
それでもやまない危険な密航
2 限界に向かう難民の理想郷 101
黄金郷としてのドイツ
「上限なき庇護権」の挫折
前線国と経由国の悲哀
最前線のギリシャ
もう一つの最前線、イタリア
批判されたハンガリー
対応に揺れたオーストリア
3 噴出した問題 117
EUの対応――シェンゲン協定とダブリン規則
既存の制度の行き詰まり
一六万人の移転計画とEUの亀裂
EUの転換点
フランスを襲った「恐怖の年」
テロリストに悪用された制度
難民問題と安全保障
さまざまな安全保障上の影響
4 晴れそうにない欧州の憂鬱 135
イスラム化するフランス
多文化主義の限界
鬱屈とした感情
「イスラム嫌い」と難民の受け入れ
5 問題の新たな展開 144
選挙で問われる難民政策
「移民排斥」の意味
山積する問題
量的にも質的にも複雑な諸問題
NATOの関与
EUとトルコの取引
欧州の事例が示唆するもの
第4章 慎重な日本 159
1 難民政策の実情 159
無縁ではなかった日本
「ボートピープル」の到来
政策の推移
「瀋陽事件」以降の動向
第三国定住難民の受け入れ
世論の動向と難民認定数
伝わらない実情
偽装申請の問題
難民認定と国益――中国とトルコの難民申請者
「難民に冷たい国」は悪いことか
2 シリア危機と日本 180
難民のための財政支援
大規模な対外援助は持続可能か
受け入れるべきだったのか
慎重な判断が求められる課題
3 関連する課題と今後の展望 190
日本の人口動態と移民政策の展開
移民導入のデメリット
中国・北朝鮮での危機のシナリオ――盤石に見える中国
北朝鮮が崩壊するとき
送り返すべきか、受け入れるべきか
二一世紀の現実のなかで
第5章 漂流する世界 203
1 二一世紀、動揺する国家 203
「難民化」する国家
帝国領に作られた国家の分解
現状維持に傾く国際社会
混沌とした世界
2 国連の希薄化、国家の復権 210
機能しない国連、機能する国連
「ポスト国連」の時代
国家と国境の復権
限界の認識
終章 解決の限界 219
根本原因は解決できるか
限界に直面する取り組み
難民の正義、国家の正義
受け入れの限界は乗り越えられるか
世界を巨視的に見たとき
今後の世界を見据えた政策へ
あとがき(二〇一六年六月 墓田 桂) [232-235]
主要参考文献 [236-246]
【図・表・地図・写真一覧】
※ここでは出典等を割愛した。
図1-1 難民の数の推移(1990~2015年) 029
表1-1 難民の数(2015年末時点、上位10件) 030
表1-2 国内避難民の数(2015年末時点、上位10件) 030
表1-3 難民の受け入れ数(2015年末時点、上位10件) 031
地図2-1 西アジアからサヘル地域にかけての国々 036
地図2-2 アフガニスタンにおけるタリバンの勢力範囲(2016年2月時点) 042
地図2-3 シリアとイラクにおけるISの勢力範囲(2016年5月時点) 047
地図2-4 リビア沿岸部における諸派の勢力範囲図(2016年3月時点) 052
写真 シリアの避難民たち(2016年1月、ロイター/アフロ) 078
表3-1 EUにおける難民申請者の数(2008年、2011~2015年) 085
地図3-1 EUに向かうルート 093
地図3-2 バルカン・ルート 094
写真 子ども2人を抱え、救助されるシリア人(2015年9月、ロイター/アフロ) 099
写真 難民申請者と自撮り写真に収まるメルケル首相(2015年9月、ロイター/アフロ) 103
写真 ピレウス港の非正規移動者のキャンプと収容施設(2016年5月、筆者撮影) 109
写真 ハンガリー国境での撮影 113
表4-1 日本における難民受け入れの状況(1978~2015年) 165
表4-2 購買力平価にもとづくGDPの実績および予測(2014年、2030年、2050年) 184
【メモランダム】
・明瞭でよい本。
・第4章は日本の制度を述べる。
ただし、2023年の報道のなかには、日本の難民認定について気になる記事もある(例難民審査参与員ら、臨時班に疑問 処理件数に開き「ふに落ちぬ」 | 毎日新聞)。
本書は「結局のところ、「難民に冷たい国」というイメージを与えながらも、適切な範囲で人道的に対処しているのが日本の難民行政の姿である」というスタンスだったが……。