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目次とメモを置いとく場

『仮説のつくりかた――多様なデータから新たな発想をつかめ』(石川博 共立出版 2021)

著者:石川 博[いしかわ・ひろし](1956-) ソーシャル・ビッグデータ、データベース、知能情報学、Web情報学。
Cover Design:小山 巧[こやま・たくみ] Shiki Design Office
件名:ビッグデータ--データ処理
件名:仮説
NDC:007.609 情報学.情報科学 >> データ処理.情報処理 >> データ管理


仮説のつくりかた - 共立出版


【目次】
口絵写真(17枚) [/]
はじめに(2021年8月 柿生にて 石川博) [iii-iv]
目次 [v-vii]


第1章 基本概念
1.1 5G時代のビッグデータ 001
  1.1.1 ビッグデータの特徴
  1.1.2 Society 5.0
  1.1.3 5G

1.2 処理の高速化 004
  1.2.1 木構造の利用
  1.2.2 部分問題解決結果の再利用
  1.2.3 局所性の利用
  1.2.4 データ削減とオンライン処理
    データ削減
    オンライン処理
  1.2.5 並列処理
  1.2.6 関数変換と問題変形
    関数変換
    問題変形

1.3 ビッグデータ応用 013


第2章 仮説
2.1 仮説とは何か 015
  2.1.1 仮説の定義
  2.1.2 仮説のライフサイクル
  2.1.3 仮説と理論,モデルの関係
  2.1.4 仮説とデータ

2.2 仮説生成のヒント 020
    リサーチクエスチョン

2.3 可視化 021
    低次元(1次元・2次元・3次元)データ
    高次元データ
    木構造
    時系列
    地図(地上,宇宙)
    統計的サマリ(平均,分散,相関)

2.4 推論 025
  2.4.1 科学哲学と仮説演繹法
    科学哲学
    仮説演繹法
  2.4.2 演繹的推論
  2.4.3 帰納的推論
  2.4.4 一般化と特殊化
    一般化
    特殊化
  2.4.5 もっともらしい推論
  2.4.6 類推
 
2.5 問題解決 037
  2.5.1 数学における問題解決
  2.5.2 問題解決のための実行手段
  2.5.3 無意識の力

2.6 身近な問題解決 041
  2.6.1 分割統治と一括計算
    Case 東京23区の人口は何人か
  2.6.2 類推
    Case 重力子仮説
  2.6.3 対称性の利用
    Case ガウスによる数列の和の計算
  2.6.4 不変量の利用
    Case タクシーの必要台数はいくつか
  2.6.5 比率に基づく推論
    Case 惑星の表面温度はどれくらいか
  2.6.6 次元解析
    Case 円運動をする電車に働く加速度
  2.6.7 確率的推論
    Case うろ覚えの電話番号

2.7 科学と仮説 052
  2.7.1 問題解決をするデータ
    ブラーエのデータ
  2.7.2 実験をするガリレオ
    ガリレオの実験
    ガリレオ慣性の法則
  2.7.3 普遍を探究するニュートン
    推論規則
    運動の3法則
    万有引力の法則
  2.7.4 観察するダーウィン


第3章 回帰
3.1 回帰の基本 073
  3.1.1 概要
  3.1.2 ケレスの軌道予測
    チチウス・ボーデの法則[Titius–Bode law]
    ガウスの挑戦
    ケレスの軌道計算
  3.1.3 最小二乗法
  3.1.4 回帰から直交回帰,そして主成分分析
  3.1.5 非線形回帰
    ニュートン法
    ガウス・ニュートン
  3.1.6 回帰からスパースモデリング
    「n≪p」問題
    次元の呪い
    スパースモデリング
    LASSO推定
    モデルの学習とテスト
    Elastic Net
    total squared variation

3.2 回帰,相関から因果関係へ 098
  3.2.1 概要
  3.2.2 遺伝学と統計学
  3.2.3 ゴルトン
    回帰概念の提唱
    二項分布とクインカス[quincunx]
  3.2.4 ピアソン
    確率分布の分類
    ヒストグラムの考案
    相関係数の定式化
    モーメントの概念
    カイ二乗分布カイ二乗検定
    科学の文法
  3.2.5 ネイマン[Jerzy Neyman]とゴセット[William Sealy Gosset]
    ネイマンの尤度と最尤推定
    t分布とt検定
  3.2.6 ライト[Sewall Green Wright]
    遺伝的浮動
  3.2.7 スピアマン[Charles Edward Spearman]
    因子モデル
  3.2.8 ナイチンゲール
  3.2.9 メンデル
    遺伝継承法則
    メンデルの実験
    メンデル学派
  3.2.10 ハーディー・ワインベルク平衡
  3.2.11 フィッシャー
    相加的ポリジェニックモデル(離散と連続の場合)
    分散分析


第4章 クラスタリングニューラルネットワーク
4.1 クラスタリング 121
  4.1.1 概要
  4.1.2 クラスタリングの定義と歴史
    クラスタリングの定義
    クラスタリングの歴史
  4.1.3 分割によるクラスタリング
    k-means
    正規混合モデル
  4.1.4 階層的凝集モデル
    階層的凝集クラスタリング
    Lance-Williamsの係数
  4.1.5 クラスタリング結果の評価
    利用者による評価
    エントロピー
    ピュリティ
    内部的指標
  4.1.6 クラスタリングの展開
    スケーラビリティへの対応
    階層的アプローチに基づくクラスタリング
    密度概念に基づくクラスタリング

4.2 アーティフィシャルニューラルネットワークまたは深層学習 142
  4.2.1 概要
  4.2.2 クロスエントロピーと勾配降下法
    クロスエントロピー
    勾配降下法
  4.2.3 ニューラルネットワーク
    生物学的ニューロン
  4.2.4 人工ニューラルネットワーク
    多層パーセプトロン
    学習モデル
    バックプロパゲーション
    確率的降下法
    各種変数
  4.2.5 分類と決定木
    決定木の学習
    決定木による分類
  4.2.6 ディープラーニング(深層学習)決定木
    CNN
    GAN
    RNN
    LSTM

4.3 統合的仮説生成 160
  4.3.1 概要
  4.3.2 統合的仮説生の方法論
  4.3.3 応用
    EBPM[Evidence-Based Policy Making]
  4.3.4 データ構造
    階層的データ(空間)
    階層的データ(時間)
    階層的データ(文書)


第5章 差分による仮説生成
5.1 仮説差分法 169
  5.1.1 概要
  5.1.2 差分演算

5.2 時間における差分 170
  5.2.1 概要
  5.2.2 時系列データの分析
  5.2.3 時間差分(差分系列)
    Case 掘り出し物スポット
    個人の満足度
    集団の満足度
    Case 日銀短観全国企業短期経済観測調査
  5.2.4 差分の差分
    Case 新薬の効果
  5.2.5 時系列のモデル(平滑化とフィルタリング)
    時間平均
    移動平均
    指数平滑法
    移動平均の差分
    Case 桜の見頃推定
    総合的仮説の生成
    統合分析
    指数平滑法の差分
    Case ローカルなトレンドスポットの発見
    Case 平常時の状態
    エルニーニョ現象時の状態
    ラニーニャ現象時の状態
    南方振動
    日本への影響
    エンソの判定【原文ママ
  5.2.6 時系列予測
    MQ-RNN[Multi-Horizon Quantile Recurrent Neural Network]

5.3 空間における差分 198
  5.3.1 概要
  5.3.2 画像の時間差分
  5.3.3 医療画像の差分解析
  5.3.4 地形データの差分解析
  5.3.5 月面画像の差分
  5.3.6 画像処理
    平滑化フィルタ
    エッジ抽出
    SIFT[scale-invariant feature transform]特徴量
    動画像符号化

5.4 概念空間における差分 210
  5.4.1 概要
  5.4.2 概念間の差分を利用した概念の本質的な意味の作成
    World2Vec
    提案手法
    都市・地域やランドマークの名称を含むキーワードリストの作成
    ツイートの抽出とコーパスの作成
    実験
  5.4.3 類似した料理から容易に類推可能な国際的な料理表記方式

5.5 仮説間差分 229
  5.5.1 概要
  5.5.2 Free Wi-Fiアクセスポイント新規設置地点候補の発見
    提案手法
    可視化
    その他の観光応用:ビッグデータを活用した観光行動分析実証事業(適用事例)
  5.5.3 GWAS[Genome Wide Association Study]


第6章 仮説間補完,仮説間重ね合わせ,そして仮説間和分
6.1 概要 243
    仮説間結合(補完)
    仮説間重ね合わせ
    仮説間和分

6.2 仮説間補完 245
  6.2.1 概要
  6.2.2 背景
  6.2.3 提案システム
    密集地と避難施設の抽出
    複数の避難経路の抽出
    ハイリスク路
    混雑度の算出
    災害時活動困難度の算出
    リスク度の算出
  6.2.4 システム実行例・考察
    データセット
    抽出されたハイリスク路についての考察
    新宿四丁目南側の明治通りについての考察

6.3 モビリティサービスのための機械学習を用いた自動車の異常振動検知(仮説間重ね合わせ1) 258
  6.3.1 概要
  6.3.2 背景
  6.3.3 提案手法
    の処理の流れ
    イベント区間検出方法
    特徴量生成手法
    GMM[Gaussian Mixture Model]
  6.3.4 実験
    データセット
    実験条件
    実装
    実験結果

6.4 かぐやDEMを用いた,機械学習による中央丘クレーター識別(仮説間重ね合わせ2) 267
  6.4.1 概要
  6.4.2 はじめに
  6.4.3 クレーターの抽出
    提案手法
    機械学習による識別
    適合率と再現率
  6.4.4 実験
    データセット
    パラメータ
    学習モデル
    識別精度


引用文献 [281-]294
索引 [295-301]



Column
1 オッカムの剃刀  016
2 数学的帰納法 030
3 フィボナッチ数列 070
4 探さなければ見つからない 082
5 ダイアグラム 111
6 教師あり学習教師なし学習 123
7 行動経済学 177
8 差分方程式 198
9 アポロ15号とNAC 画像 210
10 アンサンブル学習 245





【抜き書き】
・「はじめに」から。

 本書では多くのビッグデータユースケース(具体的な応用例)の観察に基づいて,ビッグデータを活用する応用情報システムを構築するために必要な基盤技術となる統合的な仮説生成の方法を,データ分析(人工知能機械学習データマイニング)とデータ管理(データベース)の技術を調和的に利用したアプローチに基づいて説明する.

 本書は,ビッグデータ人工知能を応用した現代の情報システムの理解と構築のための参考書というだけでなく,広く仮説について身近において参照できる,いわば仮説大全のような書になることを願う.

『銀河の片隅で科学夜話――物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異』(全卓樹 朝日出版社 2020)

著者:全 卓樹[ぜん・たくじゅ] 量子力学、数理物理学、社会物理学。
装幀:佐々木 暁[ささき・あきら] デザイン。 cozfish → HEADZフリーランス
装画:Rob Gonsalves(1959-2017) 
挿画:阿部 伸二[あべ・しんじ] イラストレーション。 カレラ
NDC:404 自然科学 >> 論文集.評論集
NDLC:M19
備考:『あさひてらす』『朝日出版社第二編集部ブログ』掲載の随筆。


銀河の片隅で科学夜話 | 書籍 | 朝日出版社


【目次】
題辞 [002]
はじめに [003-005]
目次 [006-008]


〔天空編〕
第1夜 海辺の永遠 010
第2夜 流星群の夜に 016
第3夜 世界の中心にすまう闇 028
第4夜 ファースト・ラグランジュ・ホテル 036


〔原子編〕
第5夜 真空の探求 044
第6夜 ベクレル博士のはるかな記憶 052
第7夜 シラード博士と死の連鎖分裂 058
第8夜 エヴェレット博士の無限分岐宇宙 064


〔数理社会編〕
第9夜 確率と錯誤 074
第10夜 ペイジランク――多数決と世評 082
第11夜 付和雷同社会学 090
第12夜 三人よれば文殊の知恵 098
第13夜 多数決の秘められた力 104


〔倫理編〕
第14夜 思い出せない夢の倫理学 116
第15夜 言葉と世界の見え方 122
第16夜 トロッコ問題の射程 132
第17夜 ペルシャとトルコと奴隷貴族 142


〔生命編〕
第18夜 分子生物学者、遺伝的真実に遭遇す 150
第19夜 アリたちの晴朗な世界 156
第20夜 アリと自由 164
第21夜 銀河を渡る蝶 172
第22夜 渡り鳥を率いて 180


参考文献 [186-187]
出典・図版一覧 [188-190]

『21世紀の財政政策――低金利・高債務下の正しい経済戦略』(Olivier Blanchard[著] 田代毅[訳] 日本経済新聞出版 2023//2023)

原題:Fiscal Policy under Low Interest Rates (MIT Press)
著者:Olivier Jean Blanchard(1948-)
訳者:田代 毅[たしろ・たけし] マクロ経済政策、日本経済論。
装幀:野網 雄太[のあみ・ゆうた] グラフィックデザイン
本文DTPキャップス
件名:財政政策
NDLC:DG61 経済・産業 >> 財政 >> 財政政策
NDC:343 財政 >> 財政政策.財務行政
備考:数式が幾分含まれているが、基本的に縦書き。コラムは横書き。傍注形式。


21世紀の財政政策 | 日経BOOKプラス


【目次】
献辞 [/]
日本語版への序文(2023年1月6日 オリヴィエ・ブランシャール) [001-006]
目次 [007-010]
はじめに(2022年6月 ワシントンDCにて オリヴィエ・ブランシャール) [011-015]


第1章 本書の概要 017


第2章 導入 037
2‐1 中立金利r* 040
2‐2 安全金利とリスク金利(rとr+x) 045
2‐3 中央銀行の役割―― r=r*の実現を試みるもの 048
2‐4 なぜ「r<g」が重要なのか 049
2‐5 名目金利と実質金利、実効下限制約 053
2‐6 結論 058


第3章 金利の変遷、過去と未来 059
3‐1 安全金利の変遷 062
  (r-g)の劇的な低下
  安全金利の低下に関する潜在的な要因
3‐2 金利と経済成長率 077
3‐3 人口の影響 082
3‐4 結論 086


第4章 債務の持続可能性 091
4‐1 (r-g)<0のときの驚くべき債務ダイナミクス 097
4‐2 不確実性、持続可能性、財政余地 104
4‐3 効果的な持続可能性ルールは設計可能か? 121
4‐4 公共投資と債務の持続可能性 130
4‐5 複数均衡と中央銀行の役割 138
4‐6 中央銀行、救済、帳消し 149
  債務の貨幣化と救済
  中央銀行保有する国債を帳消しにするべきか
4‐7 結論 156


第5章 債務と財政赤字による厚生面のコストとベネフィット 159
5‐1 確実性下の債務と厚生 163
5‐2 不確実性下の債務と厚生 170
5‐3 財政政策、実効下限制約、生産の安定化 181
5‐4 議論をまとめる 189
  財政政策は実際に機能するのか。乗数の再検討
  インフレ目標とは何か
  もし長期停滞がさらに悪化したら


第6章 財政政策の実践 205
6‐1 世界金融危機後の緊縮財政 208
6‐2 日本の経験――成功か失敗か 216
  日本の債務比率の上昇を抑えつつ、生産を維持するためにどの程度のプライマリーバランスの赤字を計上できるのか
  金利が大幅に上昇したらどうなるか
  民間需要が非常に低迷したまま、巨額の財政赤字と債務比率の上昇の継続をよぎなくされたらどうなるか
6‐3 バイデンの賭け――政策金利、中立金利、経済成長率 230


第7章 要約と今後の課題 241


訳者あとがき(2023年2月 東京にて 田代毅) [249-263]
  著者オリヴィエ・ブランシャールについて
  マクロ経済政策の再検討
  本書の意義
  現在進行するインフレや長期停滞の展望と本書との関係
  本書の日本へのインプリケーション
  ブランシャールと訳者の共同研究について
参考文献 [264-272]
索引 [273-275]



【コラム一覧】
格付け会社は実際に何をしているか 110-112
SDSAはどのようなものか。SDSAに関するいくつかのインプリケーション 118-120
経常勘定と資本勘定の分別に関する代数学的考察 134-135
EUルールの改革 136-137
複数均衡と債務の安全な水準 141-143
移転による厚生の効果 175-176
実効下限制約が拘束する状況下における緊縮財政による債務と生産への影響 195,197
量的緩和国債管理政策の綱引き 196-197



【図表一覧】
図2-1 中立金利の決定 042
図2-2 中立金利の決定:代替的な表現 044
図2-3 安定金利、リスク金利、リスクプレミアム 047

図3-1 米国、ユーロ圏、日本の実質金利(1992-2020年) 063
図3-2 1325年からの実質安定金利(1325-1997年) 067
図3-3 米国の10年実質金利と10年実質経済成長率予測(1992-2021年) 068
図3-4 総貯蓄率:高所得国、高中所得国、世界(1992-2018年) 074
図3-5 実質安定金利、株式の実質期待収益率(1992-2021年) 076
図3-6 個々人の消費と総消費 080
図3-7 寿命と総資産 084
表3-1 2022年1月時点において名目金利が5年後または10年後に特定の値以下となる確率 087

図4-1 格付けと債務比率 110
図4-2 債務比率の変化の分布 118
図4-3 アビラの大聖堂 126
図4-4 複数均衡の射程 143
図4-5 2020年初頭からのイタリアとドイツの10年物国債のスプレッド 148

図5-1 資本の関数としての消費、黄金律、動学的非効率性 166
図5-2 資本収益率(1992-2020年) 170

図6-1 G20IMFの債務削減対生産安定化の姿勢(2008/06/01-2013/05/06) 210
図6-2 需給ギャップ景気循環調整後のプライマリーバランスの変化 215
図6-3 日本のプライマリーバランス(1990-2025年) 220
図6-4 物価と賃金、コモディティー価格のインフレーション、2019年第1四半期から2021年第3四半期 238

表7-1 財政政策のマクロ経済の安定化の役割に関する専門家の認識 245




【抜き書き】

 田代毅による「訳者あとがき」から。
 本書の成り立ち 

 毎年初めに開催される全米経済学会では会長の基調講演が行われる。2019年の会長講演を行ったのは本書の著者であるブランシャールであった。そのタイトルは、“Public Debt and Low Interest Rates"(公的債務と低金利)。本書を読まれた方はたびたび目にした経済成長率が金利を上回る状況、数式で示すと(r-g)<0の状況における経済分析、そして、マクロ経済政策のあり方を問う内容であった。財政面でも厚生面でも債務のコストは小さい。債務を愛する必要は無いが、債務をどのように使うかを学ぶべきだと世界に問う内容であった。〔……〕本書は、マクロ経済政策の再検討の流れを踏まえて、この講演を歴史的、理論的、そして、実践に向けたインプリケーションとして発展させているものだ。


・日本経済への示唆。

 日本では高債務にも関わらず金利は低下し、他方で、低成長は長期化している。 債務の爆発の懸念が長年叫ばれてきたが、金利が急激に上昇することは見られていない。その中で、経済成長率が金利を上回る状況が他の先進国同様に出現している。
 ブランシャールによる日本の財政政策の評価については第6章第2節に詳しく記述されてお り、また、「日本語版への序文」は日本の読者に向けた書き下ろしとなっている。当然ながら、高債務は望ましいものではない。しかし、需要が低迷し、民間貯蓄が拡大する中で余儀なくされたものであり、債務の活用は避けがたいものであっただろう。危機の可能性をなくすほどの安全な水準まで債務をすぐに低下させることができない以上、債務と適切に付き合っていく必要がある。

『政府は巨大化する――小さな政府の終焉』(Marc Robinson[著] 月谷真紀[訳] 日経BP 2022//2020)

原題:Bigger Government: The Future of Government Expenditure in Advanced Economies (Arolla Press, 2020)
著者:Marc L. Robinson(1953-) 財政学。財政コンサルタント
訳者:月谷 真紀[つきたに・まき](1967-) 英日翻訳。
装幀:野網デザイン事務所
件名:財政
NDLC:DG8 経済・産業 >> 財政 >> 財政史・事情
NDC:342 財政 >> 財政史・事情


日経BOOKプラス


【目次】
目次 [003-008]
図一覧 [009-010]
BOX一覧 [011-012]
日本語版序文 [013-020]


序章 021


第1章 政府支出は多すぎるのか、少なすぎるのか 027
拡大期 
縮小期 
第三期――「二つの危機のはざま」 
政府支出の国ごとの違い 
予算への重圧 

補遺1・1 「二つの危機のはざま」期の政府支出の対GDP比(%)(2007~2018年) 046


第2章 なぜ医療支出がこれほど急増したのか 047
慢性疾患 
医薬品価格の上昇と医療支出 
  医薬品の複雑さと価格上昇
  規模の問題
  高い価格の影響
治療コストを下げるイノベーション 
  なぜボーモル[William J. Baumol (1922-2017)]は間違っていたか
  コスト病は何らかの寄与をしたのか?
「コスト病」説 
新技術と医療支出 
人口の高齢化と医療費の増加 

補遺2・1 心血管疾患(CVD)による死亡率減少に医学の進歩が果たした役割 093
補遺2・2 ボーモル効果は現在効いているのか 094
補遺2・3 医療は上級財か 096
補遺2・4 長寿化と医療支出 098
  死亡時点への近接性効果
  有病状態の圧縮


第3章 医療支出の未来 103
生物科学の進歩と拡大する医療の力 
  精密医療
  カスタマイズド医療
高齢化と医療支出 
感染症の課題 
デジタル技術は救世主となるか 
  新技術と医療の生産性
  症例単位コストは一律に下がるか
  その他の節減の可能性
支出増は減速するか 
将来の医療支出を政府はどれだけ負担すべきか 
政府の医療支出の未来 


第4章 高齢化の影響 147
高齢化の未来 
介護 
  介護とコスト病
  人口高齢化の影響
老齢年金 
教育 


第5章 地球温暖化への断固たる行動――そのコストは? 165
支出への対応 
気候投資――政府支出の役割 
  政府の業務とサービスにかかるコスト
  民間部門の気候投資への補助金は?
その他の気候関連の政府支出 
政府予算と地球温暖化 
気候変動政策への支出 
カップリングと経済成長の未来 

補遺5・1 気候投資 187
  温室効果ガス排出量削減投資の必要額
  適応投資の必要額
  

第6章 インフラ不足 191
  インフラと政府支出圧力
輸送インフラ不足 
政府の追加投資はいくら必要か 
その一方で…… 
公共部門は全体的に投資不足か 
具体的な金額は? 


第7章 ニューエコノミーの所得補助 211
将来の貧困に関する問題 
最近の歴史からの教訓 
  貧困に何が起きたか
  失業と労働市場からの排除
  就労貧困
  不完全就業、「不安定雇用」、貧困
  悲惨な未来の予測は間違っている
  情報通信技術によって雇用と賃金が破壊されなかったのはなぜか
  グローバリゼーションの影響
将来、大規模な技術的失業は起きるか 
  人工知能の影響
  楽観シナリオ
  誰が正しいのか
ワーキングプアが増える? 
フリーランスと雇用不安 
所得補助支出は将来どうなるか
  ベーシックインカムは答えになるか

補遺7・1 賃金停滞、デカップリング、貧困 257
補遺7・2 非正規労働と雇用不安 258
  一時雇用
  自営業
  呼出契約
  派遣労働
  集計指標のトレンド
補遺7・3 高技能雇用は風前の灯か 264


第8章 借り入れと通貨増発? 267
政府支出と新型コロナ禍による経済危機 
実物資源の視点 
財政赤字のマネタリーファイナンス 
負債による資金調達と実物資源制約 
財政の持続可能性と負債 
長期停滞と長期の財政赤字 

補遺8・1 プライマリーバランス 287
補遺8・2 長期停滞 288
補遺8・3 現代貨幣理論と国民のための量的緩和 291
  現代貨幣理論
  国民のための量的緩和


第9章 無駄を削減する 297
効率化による節減の余地 
潜在的な効率化による節減の規模 
新技術で節減は実現できるか 
結論 


第10章 政府は巨大化する 315
増分相当の支出削減を行う余地はあるか 
アメリカ 
  アメリカで福祉は削減できるか
  アメリカの軍事支出は削減できるか
増税は? 
税の高い福祉国家 
持続不可能な財政赤字の時代に突入するのか 

補遺10・1 アメリカの就労要件拡大による支出削減 334
補遺10・2 企業と富裕層への増税による歳入増の可能性 337
  資産税
  歳入の最大化か格差との戦いか
  企業への増税


謝辞 [345]
統計補遺 347
  第1章の統計補遺 347
  第4章の統計補遺 350
  第6章の統計補遺 356
  第10章の統計補遺 364
原注 [365-408]
参考文献 [i-xxix]




図一覧
図1 総医療支出の対GDP比(2019年) 
図2 総医療支出の対GDP比の増加(1970~2019年) 
図3 慢性疾患の有病率の増加:日本と高所得国の比較(1990~2019年) 
図1・1 1人当たり政府債務総残高:選択された先進国(2018年) 
図1・2 世界金融危機前と後の政府支出の対GDP比[A] 
図1・3 世界金融危機前と後の政府支出の対GDP比[B] 
図1・4 政府支出の対GDP比(2017年) 
図1・5 政府の医療支出の変遷(1995~2018年) 
図1・6 政府の老齢年金支出の変遷(1995~2015年) 
図1・7 医療および社会保障以外の総政府支出の変遷(1995~2015年) 
図1・8 「社会保障」支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 
図2・1 総医療支出の対GDP比:選択した高所得国 
図4・1 人口高齢化:高所得国(1950年、1985年、2020年) 
図4・2 老齢年金支出の変化(1980~2015年) 
図4・3 人口高齢化:高所得国 
図4・4 政府の年金支出予測:選択したヨーロッパ諸国 
図4・5 政府の年金支出予測:選択したEU非加盟先進国 
図8・1 世界金融危機による政府債務の増加(2007~2012年) 
図9・1 職員報酬と財およびサービスへの政府支出(2017年) 
図10・1 国防費の対GDP比:選択した先進国(1998年と2018年の比較) 
図10・2 教育支出の変遷:選択した先進国(1995~2018年) 
図10・3 歳入の対GDP比:アメリカと他の先進諸国との比較(2017年)〈統計補遺〉 
図S1・1 利払い費を除く政府支出の対GDP比:選択した先進国――10年間平均[A] 
図S1・2 利払い費を除く政府支出の対GDP比:選択した先進国――10年間平均[B] 
図S1・3 利払い費を除く政府支出の対GDP比:アメリカ(1950~2007年) 
図S1・4 利払い費を除く政府支出の対GDP比:アメリカ(2007~2019年) 
図S1・5 社会保障支出の変遷(1995~2018年) 
図S4・1 65歳以上の人口比率(1950年、1985年、2020年) 
図S4・2 80歳以上の人口比率(1950年、1985年、2020年) 
図S4・3 人口高齢化予測:アメリカ 
図S4・4 人口高齢化予測:日本 
図S4・5 人口高齢化予測:フランス 
図S4・6 人口高齢化予測:ドイツ 
図S4・7 介護支出(2017年) 
図S4・8 政府の介護支出の増加予測(2060年までの50年間) 
図S4・9 政府の介護支出の増加予測(2020~2050年) 
図S6・1 内陸輸送投資(全財源)の対GDP比 
図S6・2 道路投資(全財源)の対GDP比 
図S6・3 鉄道投資(全財源)の対GDP比 
図S6・4 輸送および水インフラ投資の対GDP比:アメリカ 
図S6・5 政府の資本支出の変遷(1995~2018年) 
図S6・6 政府の資本支出(2018年と世界金融危機前の比較) 
図S6・7 政府の資本支出:オーストラリア 
図S6・8 政府の非防衛投資:アメリカ 
図S6・9 政府の資本支出:韓国 
図S6・10 政府投資(2017年) 
図S6・11 政府の非防衛投資(2017年) 
図S10・1 環境保護支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 
図S10・2 治安支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 



BOX一覧
BOX 2・1 国の医療制度設計の違いによる影響 
BOX 2・2 新型コロナウイルスの世界的流行 
BOX 2・3 年齢調整指標 
BOX 2・4 慢性疾患患者の余命の延びと治療期間の長期化 
BOX 2・5 年齢調整した慢性疾患の発生率と有病率の比較トレンド 
BOX 2・6 寿命 
BOX 2・7 バイオ医薬品 
BOX 2・8 生産性の伸び 
BOX 2・9 コスト病説のロジック 
BOX 2・10 医療部門の生産性測定 
BOX 2・11 医療部門の低生産性の計量経済学エビデンス? 
BOX 2・12 市場の不完全性と医療サービスの過剰利用 
BOX 3・1 遺伝子編集 
BOX 3・2 再生医療 
BOX 3・3 デジタル一次トリアージシステム 
BOX 3・4 医療従事者の報酬圧迫は医療支出を頭打ちにできるか 
BOX 3・5 Do-It-Yourself〔自分でできる〕医療 
BOX 3・6 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ 
BOX 3・7 逆選択医療保険 
BOX 3・8 歳出限度額を設けるべきか 
BOX 3・9 医療支出の長期予測 
BOX 4・1 介護 
BOX 4・2 イギリスの介護危機 
BOX 5・1 公企業と気候投資 
BOX 5・2 炭素税 
BOX 5・3 規制の役割とは? 
BOX 5・4 ドイツの適応支援 
BOX 6・1 ブロードバンドへの政府の出資 
BOX 6・2 道路の有料化と将来の税を財源とする道路投資の要件 
BOX 6・3 例外の韓国 
BOX 7・1 絶対的貧困相対的貧困 
BOX 7・2 潜在的相対的貧困のトレンド 
BOX 7・3 不完全就業 
BOX 7・4 完全就業と就労貧困のトレンド 
BOX 7・5 アメリカにおける所得の不安定性 
BOX 7・6 一時雇用と二重労働市場の若者 
BOX 7・7 ドイツの貧困と非正規雇用 
BOX 7・8 ICT主導の自動化が雇用に及ぼす影響の推定 
BOX 7・9 雇用とオンライン・デジタル経済 
BOX 8・1 債務の雪だるま現象 
BOX 8・2 溶ける雪だるま 
BOX 8・3 債務の対GDP比が継続的に増えても限度を超えないのはなぜか 
BOX 10・1 税のかわりに強制保険? 



【抜き書き】
・「補遺8・3 現代貨幣理論と国民のための量的緩和」から、従来の量的緩和とPQEとを比較している部分。下線は引用者による。

 もう一つの立場は、いわゆる「国民のための量的緩和」(PQE:People's Quantitative Easing)を使えば巨額の持続的な政府支出増の財源にできる、というものだ(Coppola, 2019)。PQEは多くの先進国の左派の間で人気を博してきた。イギリスでは労働党の前党首、ジェレミー・コービンが提案している。イギリスやフランスなどの国々の環境派政治家たちは、この一種である「グリーン量的緩和」を提唱してきた[原注:緑の党の共同党首キャロライン・ルーカス議員のレター "Britain Needs Its Own Green New Deal" Financial Times. 8 June 2019 を参照のこと。 フランスの提唱者にはジャン・ジュゼルとピエール・ラルトゥルー (Gollier, 2019: 93-6 参照)、有力な環境保護活動家(およびマクロン政権の元環境相)のニコラ・ユロ(Fondation Hulot, 2011)などがいる]。
 量的緩和(従来型の量的緩和)とは、特に世界金融危機以降、多くの先進国の中央銀行が公開市場で金融資産を大量に買い入れてきたプロセスをいう。具体的には、国民が保有する長期政府債、民間部門の債券(例えば不動産担保証券)や(日本の場合は)株式の買い入れだ。中央銀行はこれらの購入資金を通貨増発によって賄うため、資産の買い入れを通じて経済に資金を注入することになる。
 このような資産購入やその財源となる通貨増発の額は莫大だった。アメリカでは、2008年から2014年までの量的緩和プログラムで連邦準備制度が約4兆5000億ドルの資産を購入している。ヨーロッパでは、欧州中央銀行が1兆ユーロ以上費やした。量的緩和の先駆けとなった日本の資産購入額はアメリカとヨーロッパの合計額をはるかに上回る。2018年までに日銀の保有資産の総額は日本のGDPを超えていた(それに対してアメリカは約20%、EUは約40%)[出典:Takeo,Yuko,"Bank of Japan's Hoard of Assets Is Now Bigger Than the Economy", Bloombarg, 13 November 2018.]。 
 一方、PQEとは中央銀行が通貨を増発して政府支出の財源としたり、国民に直接給付したりすべきだという考え方だ。PQEの典型的な筋書は次のようになる。量的緩和の実施にあたって、中央銀行は大量の通貨を増発し、使ったが、インフレを引き起こさなかった。同じような通貨増発のプロセスを使って、政府の資金源にすればよい[原注:PQEのよくあるバリエーションに、中央銀行の通貨増発を米国インフラ銀行が発行する債券の購入に使って同銀の財源にせよと提案するものがある。 この方法と政府の直接的な資金調達に大きな違いはない]。それによって可能となる追加的な政府支出に、量的緩和を上回るインフレ効果はないだろう。しかも、金融刺激策を民間の金融市場ではなく政府を通じて行ったほうが社会に有益であり、経済を刺激する効果も高いはずだ。金融市場を利する量的緩和ではなく、国民のための量的緩和となるだろう。少なくともPQEの理屈ではそうなる。
 このロジックと、「国民のための量的緩和」という言葉そのものの問題は、(本物の)量的緩和と政府支出の財源として通貨増発を利用することを同列に扱い、完全に誤解を招いている点だ。実際にはこの二つはまったくの別物である。量的緩和は民間部門(家計と企業)にお金を与えて使わせることではない。話は逆で、民間部門は金融資産を売却する対価として、中央銀行が増発したお金を受け取るのだ。量的緩和は民間支出を刺激することを目的としてきたが、だからといって家計や企業にお金を与えることによってその目的を達成するわけではない。これは、増大した政府支出の財源にするという明確な目的で通貨を増発して政府に与えることとはまったく異なる。後者の説明として「量的緩和」というまぎらわしい言葉を用いると、財政赤字の財源にする通貨増発の規模は近年行われてきた量的緩和措置の規模と同等にできるしすべきだ、という完全に誤った考えを助長してしまう。
 すでに述べたように、経済不況の(なおかつ金融政策の効果があまりない)ときに追加支出の財源として通貨増発を使うべきだという考えを、今日多くの経済学者が持っている。しかしこのことと、量的緩和の原則を政府の資金調達に適用する考え方は一致しない。
 量的緩和が実際どれだけ民間支出を刺激することに成功しているかについてはいろいろな議論がある。多くの経済学者がその効用には懐疑的で、もっぱら新たな金融バブルを煽るばかりだったのではないかと危惧している。中央銀行が財源を提供する財政出動のほうが従来型の量的緩和よりも望ましかったのではないか、と考える向きも多い[原注:例えば、著名な貨幣理論家のヴィクトリア・チック[引用者注:Victoria Chick(1936-2023)]を筆頭とした経済学者グループが2015年3月27日付『フィナンシャル・タイムズ』紙へのレターで述べたように。彼らは多くの経済学者と同じく、政府による巨額の景気刺激策の財源を通貨増発で賄う選択肢に加え、中央銀行が通貨を増発して家計に直接給付し民間支出を刺激すること(いわゆる「ヘリコプターマネー」案)も可能だろうと指摘した。繰り返すが、ヘリコプターマネーを量的緩和の一種とみなすことはできない]。
 最も根本的な論点は、中央銀行が近年とってきた量的緩和措置の規模に関係なく、通貨増発を財源とした追加的な政府支出を行う余地は経済の余剰能力の度合いによって制約される、という事実は変わらないことだ。だから、コッポラ(F. Coppola, The Case for People's Quantitative Easing. Polity Press, 2019)らのように、PQEを気候変動や(到来するとされる)技術的失業といった巨額の長期的な政府支出圧力すべての解決策になると考えるのは、まったく非現実的である。

『あの会社はなぜ、経済学を使うのか?――先進企業5社の事例でわかる「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法』(今井誠 日経BP 2024)

著者:今井 誠[いまい・まこと]
件名:経済学
件名:経営学
NDC:331 経済学.経済思想
NDLC:DA1


あの会社はなぜ、経済学を使うのか? 先進企業5社の事例でわかる 「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法 | 日経BOOKプラス


【目次】
第1章 なぜ今、世界最先端・高成長企業は経済学者を雇うのか?
第2章 事例と理論で学ぶ ビジネス×経済学
第3章 経済学を自社のビジネスに生かす方法
第4章 ビジネスで使える経済学の学び方
おわりに 今、日本に必要な「つなぐ」人材
巻末付録 ビジネスに経済学を活用したい人のためのブックリスト