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『国民性論――精神社会的展望』(Alex Inkeles[著] 吉野諒三[訳] 出光書店 2003//1997)

原題:National Character: A Psycho-social Perspective (Transaction Publishers, 1997)
著者:Alex Inkeles (1920-2010)
訳者:吉野 諒三[よしの・りょうぞう]
NDC:361.42 国民性.民族性



【目次】
Colophon [002]
献辞 [003]
序(1995年7月20日) [005-011]
謝辞 [013-014]
目次 [015-020]
出所一覧 [021-022]
訳語について [023-024]
本書の校正について [025-026]


◆ 第I部 国民性研究総論 ◆

第1章 国民性:最頻的人格と社会文化体系の研究 029
国民性研究の歴史的発展 030
定義の諸問題――最頻的人格としての国民性 037
人格理論――最頻的人格分析の研究法 044
  精神分析学的理論 
  学習理論 
  価値観-動機-特性の諸理論 
  フローレンス・クルックホーン
  デイビッド・マックレランド
  ハドリ・キャントリル
  チャールズ・モリス
  要約
  認知を通しての接近法
  全体論的理論

最頻的人格の経験的記述における理論的諸問題 064
  提案された一つのアプローチ――標準的な分析の諸問題
  権威に対する関係
  自己という概念
  主要な葛藤や対立、及びそれらへの対処の方法 

最頻的人格の評定における方法論的諸問題 081
  個人の人格の評定
  成人の集合的現象の研究 
  子供の養育体系の研究 
最頻的人格の形成における社会文化体系の影響 099
  幼年期(early childhood)の人格発達への家族の影響
  子供の人格の発達に与える家族外の影響
  児童期以降(post childhood)の人格発達への社会文化的影響
最頻的人格が社会体制の機能に与える影響 109
  人格と社会的統制
  人格と制度的機能
  人格の様態と社会全体の体制
結語 136
注釈 141
参考文献 148


◆ 第II部 国民性論詳説:ドイツ人、ロシア人、アメリカ人 ◆

第2章 ドイツ人の「精神」について 163
注釈 170


第3章 ロシア人の最類的人格とソビエト連邦型社会政治体制への適応 171
標本と方法 171
ロシア人の最頻的人格特性の簡潔な素描 175
  中心的な要求 
  衝動統制のあり方 
  典型的な両極性と葛藤 
  自尊心の達成と維持 
  権威との関係 
  感情機能のあり方 
  認知機能のあり方 
  意図機能のあり方 
最類的人格と社会政治体制との関係 185
社会階級を区分するもの 192
注釈 197
参考文献 198


第4章 アメリカ人の国民性の連続性と変化 200
国民性を考察する方法 202
アメリカ人の性格における連続性 207
  「約束の地」としての米国
  独立独行、自治、及び独立
  共同体としての行為、自発性、および隣人との協力
  信頼 
  その他の主題
  効率性の感覚
  楽観主義は効率性に密接に結びついている
  革新性と未知の経験に対する開放性 
  反権威主義 
  平等 
連続性の説明 217
変化しつつある志向 221
  多様性への寛容さの増大
  職業倫理、節制、倹約
  政治的自信の侵食
注釈 228
結論 231


◆ 第III部 社会文化体系の安定と変化にかかわる国民性 ◆

第5章 個人体系と社会文化体系との相互作用 239
宗教的変遷と自己同一性の危機に関するエリクソンの見解 243
逆成要求と経済発展に関するマックレランドの考え 246
工業化と個人の近代化 250
いくつかの試論 254
注釈 257


第6章 国民性と現代の政治体制 258
国民性とは何か、また、それはいかにして測定され得るか? 258
  定義に関する諸問題 263
  測定の問題
研究対象としての政治体制 265
系統的実証研究の再吟味 267
  戦後の展開
1960年代における展開 282
民主主義的性格の描写に向けて 285
いくつかの問題と展望 292
注釈 296
参考文献 297


第7章 高まりゆく期待:革命か進化か、それとも退化か 302
期待の性質について 302
高まりゆく期待の革命 305
衰えゆく期待の焦点 307
期待と少数者の地位 310
注釈 315
参考文献 315


◆ 第IV部 国民性国際比較の問題点 ◆

第8章 個人の近代化における国民間の差異 319
標本と調査設計 321
個人の近代性(IM)の厳密な国際比較可能な尺度構成 325
  尺度構成
基本的な質問項目と基準となるデータ 328
  基準の差異 
国民による差異の持続性 331
  「マッチング」による調整
  回帰分析に基づく調整 
国籍とその他の変数との相対的な影響の強さ 334
個人の近代化におけるある国々の有利さの説明 337
注釈 343
参考文献 347


第9章 人格の展開と国家の発展:国際比較の視点から 349
方法 350
  具体例
結果 358
  権威主義-寛容性
  実効性(efficacy)、あるいは個人的適性感
  幸福感、あるいは個人的満足感
  社会参画
逆方向の傾向 371
  慈善
  楽観主義
  科学に対する信頼 
要約と結論 375
注釈 378
参考文献 380


第10章 工業化、近代化、及び生活の質 382
生活の質の意味 383
  客観的な指標
  主観的な指標
生活の質と近代化との関連 387
  現代における比較対照 
  工業国、及び、時と共に工業化されつつある国々
生活状況と生活満足度との関連 390
文化的感受性と各国民特有の回答傾向 394
  各国内部での差異
  条件変化の効果
注釈 401
参考文献 407


第11章 「国民性」再訪 410
資料の供給源の成長 412
警告的注意 417
諸国民の幸福感 418
オランダとデンマークとの比較 424
アメリカ人の信条を求めて 428
注釈 436


索引 [439-446]


(付)日本における国民性研究[吉野京三] 448
統計数理研究所の「国民性」研究 449
「日本人の国民性」調査 449
調査50年 453
「意識の国際比較」調査 455
「データの科学」 ――統計の哲学の発展 460
「計量的文明論」の展開 464
「国民性」研究の今後と課題 464


参考文献 [466-470]
  関連する研究報告書リスト 469
  国民性調査関連の統計数理研究所・研究リポートリスト 469





【抜き書き】

   各章の所出一覧
 本書の各章は、各学術雑誌や著作に既発表のものを再編成して、一冊に統合している。原書では各章冒頭に注記されているが、一括して以下に示す。


第1章
From “National Character: The Study of Modal Personality and Sociocultural Sys-tems", by Alex Inkeles and Daniel J. Levinson (1969), in The Handbook of Social Psychology IV, 2nd ed., G. Lindzey and E. Aaronson, eds., McGraw-Hill Publishing Inc., New York. Copyright 1969 by McGraw-Hill, Inc. Reprinted by permission of the publisher.


第2章
From "National Character and Social Structure," by Alex Inkeles (June 1949), in The Antioch Review, IX, 2, 155-62. Copyright 1949 by The Antioch Review. Reprinted by permission of the publisher.


第3章
From "Modal Personality and Adjustment to the Soviet Socio-Political System," by Alex Inkeles, Eugenia Hanfmann, and Helen Beier (1958), in Human Relations, XI, 1, 3-22. Copyright 1958 by Human Relations. Reprinted by permission of the publisher Plenum Publishing Corp.


第4章
Reprinted from "Continuity and Change in the American National Character," by Alex Inkeles (1979), from the Third Century: America as a Post-Industrial Society, edited by Seymour Martin Lipset, with the permission of the publisher, Hoover Institution Press. Copyright 1979 by the Board of Trustees of Leland Stanford Junior University.


第5章
From "Continuity and Change in the Interaction of the Personal and the Sociocultural Systems," by Alex Inkeles (1971), in Stability and Social Change, Bernard Barber and Alex Inkeles, eds. Boston: Little, Brown and Co., 265-81. Copyright 1971 by Little, Brown and Co. Reprinted by permission of the publisher.


第6章
From "National Character and Modern Political Systems," by Alex Inkeles, in Psychological Anthropology, Francis L. K. Hsu, ed., Schenkman Books, Inc., Cambridge, New Edition 1972, 202-40. Copyright 1972 by Schenkman Books, Inc. Reprinted by permission of the publisher.


第7章
From “Rising Expectations : Revolution, Evolution or Devolution?" by Alex Inkeles (1976), Freedom and Control in a Democratic Society, Howard R. Brown, ed., Arden House Conference, American Council of Life Insurance, New York, 1977, 25-37. Copyright 1977 by the American Council of Life Insurance. Reprinted by permission of the publisher.


第8章
From “National Differences in Individual Modernity,” by Alex Inkeles (1978), in Comparative Studies in Sociology, I ,1, 47-72. Copyright 1978 by Comparative Studies in Sociology. Reprinted by permission of the publisher JAI Press, Inc.


第9章
From "Personal Development and National Development : A Cross-National Perspective." by Alex Inkeles and Larry Diamond (1979), in Comparative Studies of Life Quality, Frank Andrews and Alexander Szalai, eds., Sage Studies of Educational Sociology, London : 73-110 Sage Publications, Inc. Copyright 1979 by Sage Publications, Inc. Reprinted by permission of the publisher.


第10章
From "Industrialization, Modernization, and the Quality of Life," by Alex Inkeles (1993), in International Journal of Comparative Sociology, XXXIV, 1-2, 1-23. Copyright 1993 by International Journal of Comparative Sociology. Reprinted by permission of the publisher E. J. Brill, Inc.


第11章
From "National Character Revisited," by Alex Inkeles (1990-91), in The Tocqueville Review, XII, 83-117. Copyright 1990 by The Tocqueville Society-La Societe Tocqeville Reprinted by permission of the publisher.

  訳語について


1 本書の Nation は通常のように民族(集団)でもあるが、一方で Nation State(国民国家)としての国家や国民の意味でもある。したがって、米国のような多民族国家も全体として一つの Nation を構成していると考えている。本文中では、主として「国民」や「国家」を用いるが、必要と思われる箇所では、適宜「民族」または「国家」と訳し分けたのでご留意願いたい。このあたり、「欧米流の近代国家」が「国民国家」を意味することが当然と考えていることから問題が発している。例えば、東南アジア等の現状を知る人々は、容易には受け入れ難い認識であろう。この件については本書末の「(付)日本における国民性研究」の中の「意識の国際比較調査」も参照されたい。

2. Psychosocial は「精神社会的」と訳した。social psychology「社会心理学」は本書では、散見されるのみである。前者は、後者の初期の頃の名称であろうか? あるいは、インケルスが本書の副題を A Psycho-social Perspective としていることから、後者とは一線を画したかったのかとも思われる。本文中、両者を厳密に区分する議論はどこにも見当たらなかったが、あえて副題としたのには、national character を表面的な behaviorism(行動主義)ではなく、a psycho-social な視点から探るという立場を強調したかったのかもしれない。

3. Modal personality とは、ある国や集団の構成員のパーソナリティ全体が成す統計的分布の最類的様相(mode)を意味している。この意味で、これを「最頻的人格」と訳すことにする。インケルスは modal personalityを、面接調査などで、ある集団の各回答者が示した反応(回答)を総合した統計的分布の最頻値として現れる集団の人格という意味で用いている。

4. Personality については、本書の各所でしばしば用いられる語であるが、邦訳としては、文脈に応じて「性格」、「人格」、「個性」などと訳し分けた。この語は本来、心理学ではペルソナ(persona)から来たもので、意味は、各人が意識するしないにかかわらず、対人関係において他者に見せる表情(仮面)のこととされる。このペルソナは親、兄弟姉妹、同僚、上司、伴侶など、対する人によって変化するものとされる。いずれにせよ、面接調査の状況を含む対人関係で、表面に現れる各個人の傾向を指している。狭義には、性格(character)と人格(personality)は区別されることもあるが、本書ではこの辺の区別は必ずしも明確ではない。本来、character は、心に深く刻み込まれた性格、personality は対人関係で外から観察される人格とされる。その意味では、面接調査で現れる回答傾向から分かる personality から、個人の深層あるいは集団の深層構造にある character を探ろうとしているとも言えよう。しかし、いずれにせよ、インケルスのみならず、研究者により語感が異なることも少なくなく、曖昧なことも多い。これも、むしろ、今後の研究発展のために、厳格すぎる定義を避け、いわば創造のための曖昧さを尊重すべきということであろう。
 また need や desire についても、要求、欲求など日本語でも混用されたり、あえて区別されることもあるが、インケルスはもともと厳密にしていないか、あるいは意図的に厳密な区別を避けているようにも思える。第3章章末の注釈 9)を参照のこと。

5. 序や第9章において、development が論じられているが、一般に、これは国家や社会の場合は「発展」を意味し、個人のレベルでは、心理学用語としての(心身の時間的)「発達」を意味することが多い(本項の 8. も参照のこと)。しかし、場合により、個人レベルでも、一般的な時間的変化や発展という意味でも用いられている。

6. 国民性研究では、国民全体から抽出された一部の人々に対しての調査が遂行されている。これらの人々を「標本(sample)」と称する。それは、「回答者(respondents)」の集合でもあり、彼らの回答の統計的集計を「回答データ (data)」と称する。ある集団のいわば縮図となる代表「標本」は、本来の母集団全体を偏り(bias)なく表現するように抽出する統計的無作為抽出(random sampling)することが望ましいが、現実には費用や技術的問題があり、難しいことも多い。

7. System は本書でもしばしば用いられる言葉であるが、国や社会の「体系」や「体制」、あるいは「組織」、「制度」、「原理」、さらに単純に「仕組み」や「様式」の意味で使用されることが多く、精確を期するため意図して訳し分けた部分もあるが、もはや日本語になっている「システム」とほぼ同じ意味の広義の意を示す箇所はそのままシステムと表記した。本書では、主として人格と社会(国家)体制との相互関連を論じていることが多いので、social system は「社会体制」と訳した。

8. Oral、anal は「口唇的」、「肛門的」と訳した。本来は、フロイトの発達の段階理論で、人の心身が成長していく過程を発達(development)と称し、各発達段階を「口唇期(1歳まで)」、「肛門期(1〜3歳)」、「前性器期(エディプス期)(4〜6歳)」などと対応させる精神性(psychosexual, 性の心理学的)理論が展開されている。各段階では固有の快感帯に特有の様式でリビドーの充足がはかられる。例えば口唇期では、吸う、咬むなどの活動がリビドーを満足させるが、それが阻害されると、リビドーはその段階に停滞し続ける(固着)。そのような初期(幼児)経験が成人したあとの性格も特徴づけると考えて、各々に対応して口唇的性格、肛門的性格などと称している。具体的には、ロシア人は口唇的、日本人は肛門的などという議論が出てくるが、児童期以降の経験の影響力を無視、軽視した議論として批判されている。

9. 国名の表記については、the United States は米国(一部、アメリカ合衆国、またはアメリカ)、Great Britain や England はイギリス、the United Kingdom はイギリス(連合王国)としたが、一部、後者はイギリスの代わりに英国とした。「アメリカ」はアメリカ合衆国(the United States of Amenca)の場合もあれば、アメリカ大陸全体を指す場合もあろう。あるいは、ヨーロッパから移民が開始された頃のアメリカ大陸の一部を漠然と指す場合もある。しかし、「アメリカ人」は米国人を指すのは明らかであろうから、そのまま用いた。原著の英文表記の差異が特に厳密な区別を意図していない場合が多いが、例えば10章、11章の調査データの記述では、調査対象の母集団の範囲に関わるので注意すべきであろう。

10. なお、本文中で訳者が語句を補ったものは《 》で括り、原著者による注釈( )とは区別した。但し、( )内の英単語の表記、例えば、共同社会(community)は、訳語が誤解のないように訳者が補ったものである。