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『一冊でわかる 歴史』(John H. Arnold[著] 新広記[訳] 岩波書店 2003//2000)

原題:HISTORY: A Very Short Introduction
著者:John H. Arnold (1969-) フランス中世史。
訳者:新 広記[しん・ひろき](1972-) イギリス近代史。
解説:福井 憲彦[ふくい・のりひこ](1646-) フランス近現代史
装丁:後藤 葉子[ごとう・ようこ](1973-) QUESTO、森デザイン室。
シリーズ:〈1冊でわかる〉シリーズ
NDC:201 歴史学


歴史 - 岩波書店


【目次】
献辞 [iii]
まえがきと謝辞 [v-vii]
目次 [ix-x]


1 殺人と歴史 011

2 イルカの背から象牙の塔へ 022

3 実際はどうであったか」――真実、資料館、古物愛好 048

4 さまざまの声と沈黙 080

5 一〇〇〇マイルの旅路 113

6 猫殺し――過去は見知らぬ国なのか? 134

7 真実の語り 158


自分で歴史を書いてみるために――解説にかえて[福井憲彦] [181-190]
日本の読者のために[福井憲彦] [191-197]
図版一覧 [8]
読書案内 [4-7]
参考文献 [1-3]



【図版一覧】  (末尾の数字はページ数)
図1 中世のラングドック地方地図 From Heresy, Crusade and Inquisition by W.L. Wakefield, 1974  003
図2 異端カタリ派と闘う聖ドミニクス Photo © Museo del Prado, Madrid. All rights reserved.  011
図3 人類の六つの時代 By permission of the British Library, shelfmark Yates Thompson 31, f. 76  029
図4 運命の車輪 Reproduction by permission of the Syndics of the Fitzwilliam Museum, Cambridge  031
図5 バイユーのタペストリー Musée de la Tapisserie, Bayeux. Photo: AKG London/Erich Lessing  033
図6 バルトロメーオ・コッレオーニの騎馬像 Campo di San Giovannie Paolo, Venice. Photo: Archivi Alinari, Florence  041
図7 ジャンボダン Bibliothèque Nationale, Paris. Photo: AKG London  043
図8 ヘロドトスとトゥキュディデス National Archaeological Museum, Naples. Photo: Archivi Alinari, Florence  046
図9 レオポルトフォン・ランケ Syracuse University Library  051
図10 オールワームの古物収集部屋 By permission of the British Library  055
図11 ウィリアム・キャムデン Private collection. Photo: Courtauld Institute of Art  059
図12 キャムデン 「ブリタニア」のイングランド地図 By permission of the British Library, shelfmark 577f.1  065
図13 ヴォルテール Hulton Getty  061
図14 エドワード・ギボン Photo ⓒ The British Museum  070
図15 ヤーマス議会議事録から Norfolk Record Office, Y/C 19/6f.327r  087
図16 ジョン・ウィンスロップ Courtesy of the American Antiquarian Society  099
図17 逆さまの世界 By permission of the British Library, shelfmark TT E. 372 (19)  125
図18 「残酷の四段階」 The Pierpont Morgan Library. Photo: Art Resource, New York  139
図19 ソジャーナー・トルース National Portrait Gallery, Smithsonian Institution  163





【抜き書き】
・p.9

L. P. ハートーリーという小説家は次のように言っている。「過去は見知らぬ国である、そこでは人々はわれわれとは違ったふうに物事を行う」。SF作家のダグラス・アダムスはまったく逆の主張をしている。過去はまったくの異国である。しかし彼らはわれわれとまったく同じに物事を行うのだ、と。これら二通りの主張の間のどこかにあるとらえがたい何か、それがわたしたちを過去に引きつけ、歴史研究へと駆りたてるのである。


pp.12-13

 何について語ることが可能であり、あるいは何について語らねばならないのか、歴史家は決定を求められる。つまり「歴史」(歴史家が過去について語る真実の物語)は、わたしたちの関心をとらえ、現代においてふたたび語ろうと決めたことだけからできているのだ。〔……〕歴史家が真実の物語を選び出す際の理由づけは時代によって変化する。


p. 13

わたしたちは過去をそのままのかたちで提示するだけではなく、解釈する必要があるのだ。物語のコンテクストを見つけだす作業は、「何が起こったか」を述べるだけではなく、それが何を意味するかを述べようとする試みでもある。



p. 19

歴史が無味乾燥で想像力に欠ける作業のように思われるかもしれない。しかし本書を通じて、歴史が史料を取り扱い、それを提示し、説明を行なうにあたって想像力も用いる作業であることが分かってもらえることだろう。すべての歴史家にとって重要なことは、実際に何が起こったかであり、そしてそれが何を意味するのかということである。いつなんどき幻想であることが明らかになるかもしれないある種の「真実」をつかもうとする不確かな試み、そこに歴史の魅力があるのだ。



pp. 19-20

 こうした疑念は「歴史」が存在するためには不可欠である。過去が空白や解決すべき問題をもたないのなら、それらをひとつにまとめあげる歴史家の仕事など存在しないのだから。そして史料がつねに事実だけをありのままに率直に語りかけてくれるのだとすれば、歴史家の仕事がなくなるというばかりでなく、わたしたちは互いに議論することすらできなくなるだろう。歴史とは何にもましてひとつの議論なのだ。それは歴史家の間での議論であり、おそらくは過去と現在との間でなされる議論、実際に起こったこととこれから起こることとの間で行なわれる議論だと言えるだろう。議論することは重要である、それはものごとを変えてゆく可能性を生みだすのだから。


p. 21

 歴史について考えることで(今まさに行っているように)、わたしたちは過去との関係をより深く考えることができ、過去を語るために選び出した物語そのものだけでなく、その物語へたどり着いた道筋、それを語ることによってもたらされる影響を深く見つめることができる。過去が現在にふたたび割りこんでくるとき、それは強力な位置を占めるのだ。


p. 97

歴史の研究という作業のひじょうに多くの部分が退屈であり、歴史家の能力のひとつはその退屈にもめげずに作業を続け、ごく稀な発見の瞬間を待ち望むことなのである。