著者:薮下 史郎〔やぶした・しろう〕(1943-) 応用マクロ経済学、金融論。
【目次】
目次 [003-010]
第1章 伝統的経済学の限界 011
1-1 神の見えざる手 013
新古典派経済学が無視してきたこと
「需要曲線と供給曲線」の基本
「もう一本のビール」に支払ってもよいと考える費用
「ビールをもう一本」生産するための費用
競争的市場においては需給が一致するように価格は調整される
もしビール生産が一社で独占されていたら
公的介入と市場メカニズム
市場メカニズムをひたすら信頼して大丈夫か
1-2 新古典派経済学の限界 029
「神の見えざる手」が働くためには
完全競争市場の前提条件(1)――商品の同質性
完全競争市場の前提条件(2)――情報の完全性
完全競争市場の前提条件(3)――所有権
1-3 新古典派経済学に登場しない重要なもの 036
新古典派経済学で説明できないこと
完全情報の下では貨幣も銀行も必要なくなる
市場の失敗か、政府の失敗か
グローバリゼーションは貧困問題を解決しない
第2章 新しい経済学の誕生 045
2-1 スティグリッツの経済理論 047
スティグリッツの経済理論
サムエルソンを超えた『スティグリッツ経済学』
アーマスト大学とリベラルアート教育
マサチューセッッ工科大学からケンブリッジ大学へ
イェール大学の知的緊張
ナイロビで始まった「新しい経済学」
2-2 ワシントンのスティグリッツ 063
クリントン政権での活躍
世銀在任中からIMF、財務省を批判
2-3 アカロフとスペンスの経済理論 066
なかなか受け入れられなかった「レモン市場」論文
アイビー・リーグと日本の大学
2-4 大学と社会 072
分権的な日本の大学
入試にも既得権益
第3章 非対称情報下の市場 077
3-1 非対称情報とその原因 080
売り手と買い手の情報量の差
経済が発展すればするほど非対称情報は増加する
3-2 中古車市場に見る非対称情報 083
中古車の買い手は個々の車についての情報を持たない
価格が下がると「レモン」が増える
商品の品質、価格、そして需要と供給
非対称情報下では市場が存在しなくなる
3-3 保険市場 094
成立しえない保険
不確実性とリスク
リスクに対する態度
危険回避的な人は保険に入ろうとする
事故確率は同じというのが保険の前提
保険会社は加入者の情報を知らない
危険なドライバーほどトクをする
保険料の上昇が加入者の質を悪くする
3-4 情報の質 112
情報の信頼性を保つためには費用がかかる
第4章 モラルハザードと経済活動 115
4-1 モラルハザードと保険 117
保険金詐欺
保険会社は被保険者を監視できない
4-2 モラルハザードと内生的不確実性 121
モラルハザードはなぜ発生するのか
火災防止のためにどれだけ支出するか
火災を防止するための費用と安全確率
安全確率の決定
モラルハザードの発生メカニズム
4-3 医療保険とモラルハザード 137
医療サービスは典型的な非対称市場
医療保険がもたらすモラルハザード
4-4 トレードオフ 144
安全性と効率性はトレードオフの関係
第5章 組織と制度 149
5-1 企業組織とモラルハザード 154
株主以外の経済主体と企業経営
株主は経営者を監視できない
能率給がよいか固定給がよいか
集権的管理がよいか分権的管理がよいか
5-2 制度とルール 162
機能不全に陥った中央集権的経済
見えないインフオーマル・ルール
5-3 インセンティブと報酬制度 166
安定的な賃金は一種の保険
賃金の安定性と効率性もトレードオフ
5-4 雇用制度と年功序列賃金 172
年功序列賃金
賃金体系と企業内教育
5-5 制度改革 177
確立した制度はナッシュ均衡である
第6章 マクロ経済学と非対称情報 181
6-1 失業率五・五パーセントは完全雇用か 183
失業にも種類がある
6-2 失業とケインズ経済学 190
なぜ失業は解消しないのか
6-3 不完全情報と価格・賃金の硬直性 192
メニューコスト
屈折需要曲線
労働の屈折供給曲線
6-4 効率賃金と賃金 198
賃金はなぜ下がらないか
6-5 貸し渋りと非対称情報 204
金利が上昇すると悪い借り手が増える
資金需要があっても銀行は金利を上げられない
第7章 九〇年代の日本経済と金融不安 211
7-1 高度成長から低成長、そして平成不況へ 213
真っ二つに分かれる見解
混同される短期の問題と長期の問題
7-2 昭和金融恐慌と三〇年代の大恐慌 219
昭和恐慌の真相
7-3 マネーサプライと信用量 222
貨幣金融と実物経済
7-4 バランスシート効果と経済変動 224
自己資本率が生産水準を決める
7-5 罠に陥った経済政策 228
市場の不完全性は規制撤廃では解消しない
非効率なナッシュ均衡からいかに脱するか
おわりに(二〇〇二年初夏 薮下史郎) [234-236]
参考文献 [237]