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『法哲学』(平野仁彦,亀本洋,服部高宏 有斐閣 2002)

著者:平野 仁彦[ひらの・ひとひこ](1954-) 
著者:亀本 洋[かめもと・ひろし](1957-) 
著者:服部 高宏[はっとり・たかひろ](1961-) 
装幀:デザイン集合ゼブラ+坂井哲也
シリーズ:有斐閣アルマ > Specialized
NDC:321.1 法哲学[法理学]、自然法


法哲学 | 有斐閣



【目次】
はしがき(2002年2月 執筆者一同) [i-ii]
もくじ [iii-vi]
著者紹介 [vii-viii]


第1章 現代の法と正義 001
1 法の現況と法哲学 002
  変化する社会と法
  標準化と差異化
  根本的問題
  「法哲学
  全体像と理念
  法哲学の固有性
  法哲学の現代性
  リベラル・プロジェクトをめぐって

2 公正としての正義 010
  正義をめぐる議論状況
  ロールズ『正義論』の衝撃
  功利主義批判
  功利主義の問題点
  背景的正義とその正当化手続
  原初状態と公正な手続
  無知のヴェール
  自尊
  正義の二原理
  格差原理
  公正な機会均等の原理
  リベラリズムをめぐって


第2章 法システム 023
1 法とは何か 024
  法の全体像をめぐって
  法を強制秩序とみる見方の系譜
  法を強制秩序とみる見方の問題点
  法規範
  規範性
  規範適用と法的思考
  規範体系の構造
  法の妥当性と実効性
  法学的妥当論
  事実的妥当論
  哲学的妥当論と法と道徳の関係
  近代法の成立とその諸原理
  近代法の限界と現代法の特質
  現代法の領域
  現代法の諸相
  インフォーマルな法
  法システムという見方

2 法システムの構造と機能 050
  義務賦課・権能付与・法性決定
  行為規範と裁決規範
  組織規範
  法準則と法原理
  決定と理由づけ
  権利と義務
  権利の分類
  権利・義務の諸相
  権利生成の動態的過程
  法的な紛争解決方法の特徴
  裁判の特徴
  法的思考の特徴
  法システムの社会的機能
  日本法の状況

3 法の射程と限界 068
  法の評価基準
  法と道徳
  ミルの危害原理とリベラリズム
  リーガル・モラリズム
  法による道徳の強制の是非
  不快原理
  パターナリズムの問題点
  パターナリズムの定義と類型
  パターナリズムの正当化
  パターナリズムと本人の意思
  法の限界
  自然法論と法実証主義
  社会的要求と法システム


第3章 法的正義の求めるもの 083
1 正義の観念 084
  正義観念の多様性
  戦争の正義
  応報としての正義
  互恵としての正義
  アリストテレスの正義観
  適法,あるいは道徳的正しさとしての正義
  法の一般性と衡平
  等しさとしての正義
  配分的正義
  矯正的正義
  交換的正義
  等しき者は等しく
  アリストテレスの正義観と近代ないし現代の正義観
  交換の正義の現代的意味
  分配の正義の現代的意味
  権利・義務としての正義
  調和としての正義
  共通の正義
  形式的正義
  普遍化可能性
  立場の互換性
  手続的正義
  法における手続的正義
  社会的正義

2 価値相対主義 102
  価値の主観化
  価値相対主義の定義
  実証主義的学問観
  新カント派
  価値関係的学問
  純粋法学
  メタ倫理学
  認識説と非認識説
  自然主義的誤謬
  直覚主義
  価値情緒説
  政治思想としての価値相対主義
  強固な人格と決断
  道徳的潔癖という価値相対主義の実質倫理

3 リベラルな正議論と倫理学 113
  法哲学的正義論と倫理学的正義論
  包括的な実践哲学としての倫理学
  徳の倫理と行為の倫理
  ルールの倫理
  徳の倫理とルールの倫理
  人格と責任の倫理
  徳論の意味の変容
  倫理学近代法
  近代社会とリベラリズム
  リベラリズム倫理学
  リベラルな倫理学とリベラルでない倫理学
  リベラルな正義論
  リベラルな倫理学と法学
  近代における倫理と法の役割分担
  ロールズ正義論の性格
  正と善の区別
  リベラリズムの相対性
  正と人権
  法哲学倫理学
  倫理学的正義論と法哲学的正義論との相違点


第4章 法と正義の基本問題 125
1 公共的利益 126
  公共的利益の確保
  最大多数の最大幸福
  合理的選択・目的論・将来志向
  功利主義の問題点
  少数者の犠牲
  効用の判断
  ルール功利主義
  多数者利益の限界

2 自由 133
  自由
  自由の権利
  リバタリアニズム
  個人的自由
  拡大国家批判
  市場の重視
  個人の尊厳と自己所有
  法の中立性
  リバタリアニズムの問題
  原始取得と初期格差

3 市場――効率性と倫理 144
  市場
  市場と法
  規制緩和
  経済市場の意義
  効率的なシステムとしての市場
  「政府の失敗」
  「市場の失敗」
  公共財の確保
  商品と格差
  市場規制のあり方

4 平等 154
  平等に扱うということ
  平等の理念
  法の下の平等
  分配的正義
  分配的正義の考え方
  多様な平等論
  機会の平等
  資源の平等
  福利の平等
  「平等化」批判論
  優遇措置の問題

5 共同体と関係性 166
  共同体論
  自由社会の病弊
  共同体の崩壊
  自由主義正義論批判
  正と善の区別
  「負荷なき自我」
  関係性の欠如
  共同善
  共同体論への反論
  共同体と多元的社会

6 議論 176
  議論によって
  手続的アプローチと議論
  議論の重要性
  議論プロセスの公正さ
  原理整合性
  普遍化可能性
  法的議論
  議論と法
  議論プロセスとしての法
  なお残る問題


第5章 法的思考 189
1 法的思考とは何か 190
 [1]考察対象の限定 190
  法的思考と裁判
  法的思考の担い手としての法律家
  裁判の機能と法的思考
  法的思考の現れとしての判決理由
  発見と正当化
  法学教育
  法制度・法学教育・法的思考
  法的思考の共通性
  法におけるイデオロギー
 [2]法による裁判 197
  法による裁判
  法治国家
  予測可能性
  法的安定性
  裁判と予測可能性
 [3]判決三段論法 200
  判決三段論法の構造
  要件の一部に関する三段論法
  判決三段論法の性格をめぐる論争
  事実問題と法律問題の交錯
 [4]事実認定 206
  事実認定
  経験則
  アリバイによる反証
 [5]制定法主義と判例法主義 210
  法源制度
  制定法主
  判例法主
  先例
  先例はルールかケースか
  判決理由のスタイル
  先例の解釈
  日本における判例の地位
  ルール,一般基準,原理
  原理と政策

2 制定法の適用と解釈 219
 [1]法の解釈とは何か 220
  法的推論と法の解釈
  法的推論
  法の解釈の定義
  解釈の必要性
  解釈の対象と目標
  立法者意思説
  法律意思説
  制定時客観説と適用時客観説
  主観説と客観説の実質的異同
  法文の意味が素人にとって難解な理由
  解釈と継続形成
  法の欠陥
  狭義の解釈と欠缺補充との区別
 [2]解釈の技法 232
  文理解釈
  拡張解釈と縮小解釈
  類推
  反対解釈
  勿論解釈
  論理的解釈
  概念法学的客観説
  歴史的解釈
  目的論的解釈
 [3]解釈技法の使い方 244
  正当化と討論
  法的正当化の推論構造
  法規範の正当化の構造
  法的な論拠と非法的な論拠
  制度化
  法的正当化に対する制約
  議論責任
  解釈の検算
  整合性と理性性
  立法者の理性性の想定

3 法的思考と経済学的思考 252
  「法と経済学」をなぜとりあげるか
  経済学と「法と経済学」
  経済的合理性と効率性
  パレート効率
  費用便益分析と「富」
  コースの定理
  医者とカラオケ店
  取引費用がかかる場合
  裁判所は交渉を妨害してはならない
  防音設備がある場合
  どちらが加害者でどちらが被害者か
  課税による外部費用の内部化
  所得分配
  配分の効率と分配の正義
  法学は経済学から何を学ぶべきか


第6章 法哲学の現代的展開 271
1 デモクラシーとは何か 272
  デモクラシーの制度と思想
  民主制と独裁制
  支配の政治学
  人民による人民のための統治
  ルソーの民主制観
  一般意志
  人民のための統治
  よい統治
  公益の認識可能性
  価値相対主義と多数決
  新旧功利主義
  政治家のためのデモクラシー
  デモクラシーと平等
  デモクラシーと自由
  公民的民主主義
  議会主義
  討論によるデモクラシー
  古代人の自由と近代人の自由
  自由権の分類
  精神的自由と経済的自由
  リベラル・デモクラシー
  共和主義
  直接民主制と間接民主制
  投票制度としての民主制
  民主制と人権
  共和主義の現代的課題
  シティズンシップ

2 同一性と差異 288  
  差異の主張
  問われる自由主義的な法秩序構成
  法と女性
  法の役割
  権力関係論
  民族的少数者の権利
  異なる文化の共生
  同一性と差異
  中立性の困難

3 現代法の新たな課題 297
  現代社会の新たな諸問題
  医療技術の進歩のもたらす問題
  生命倫理と法
  環境保護の価値理念
  環境保護と法
  動物の権利
  情報社会とコミュニケーションの増大
  高度情報社会と法規制
  高度情報社会における規範形成
  現代社会における規範形成


参考文献 [307-314]
事項索引 [315-320]
人名索引 [321-325]



【Columu 一覧】
1 分析法学
2 法的強制の多様性
3 法と道徳の関係
4 悪法問題
5 法類型
6 法化
7 ポスト・モダン法理論
8 権利の本質
9 ADR(裁判外紛争処理)
10 日本人の法意識
11 ミルの危害原理とバターナリズム
12 ケアの倫理
13 専門家の責任
14 法実証主義自然法論の対立をこえて
15 メタ 
16 ストア派
17 正当性と正統性
18 論理実証主義
19 自生的秩序の法
20 政治的リベラリズム
21 リアリズム法学
22 イデオロギー
23 自然言語人工言語
24 視線の往復と法律学的ヘルメノイティク
25 反証可能性
26 判決理由と傍論
27 一般条項
28 帰謬法
29 内包と外延
30 有権解釈
31 反制定法的解釈
32 類推適用
33 利益法学
34 利益衡量論
35 法的議論の理論
36 「法と経済学」の諸派
37 格差原理の厚生経済学的解釈
38 囚人のジレンマ
39 生産手段私有型民主主義と福祉国家型資本主義 




【抜き書き】


・有名な『日本人の法意識』と、後継の研究についてのコラム(67-68頁)

Column 10 日本人の法意識

 法社会学者の川島武宜は,『日本人の法意識』(1967年)の中で,西洋から継受したわが国の近代法典と伝統的な国民の文化・生活との間に大きなずれがあり,それが日本人における権利意識の欠如(「権利義務は,あるような・ないようなものとして意識されており……」),契約観念の希薄さ,慢性的な訴訟回避傾向といった特徴を生み出したと説いた。
 これに対し,比較法学者の大木雅夫は,江戸時代の民衆が強烈な権利意識をもっていたことなどを示す一方,裁判組織の未成熟という制度的要因が与えた影響の重要性を指摘し,前近代的な意識というメンタリティだけでは日本人の法意識の特徴を説明できないと主張した。
 日本人の法意識に対しては外国人研究者も関心を寄せており,なかでも J. O. ヘイリーは,日本人の裁判嫌いというのは神話にすぎず,むしろ司法制度の種々の欠陥が日本人の裁判利用の少なさの原因だと説いた。また,法と経済学の手法を用いて日本法を分析する M. ラムザイヤーは,日本人においては,紛争の両当事者は判決の期待値を事前にほぼ等しく評価できることが多いから,裁判外でも紛争を合理的に解決できると説き,それによって日本人の訴訟回避傾向を説明しようとした。


・このコラム枠内には文献情報が無かったので、勝手に関連していそうな文献をメモしておく。(巻末の参考文献には、「日本人の法意識」関連として日本語書籍が2冊だけ挙げられてはいる。)
 コラムで直接言及されているのは、次の4本のはず。その後置いたのは、ざっと調べて見つけた論文など。


Takeyoshi Kawashima (1963), “Dispute Resolution in Contemporary Japan,” Arthur von Mehren (ed.), Law in Japan: The Legal Order in a Changing Society, Harvard University Press, pp.41-72.


大木雅夫『日本人の法観念 西洋的法観念との比較』東京大学出版会、1983年 。


John O. Haley (1978), The Myth of the Reluctant Litigant, Journal of Japanese Study, vol.4, No.2, pp.359-390.
https://www.jstor.org/stable/132030


J.Mark Ramseyer 『法と経済学 ―― 日本法の経済分析』 弘文堂、1990年。


・J. O. ヘイリー論文への批判のひとつ。
田中英夫(1980)「日本におけるアメリ法研究・アメリカにおける日本法研究」『比較法学』42号、60-63頁。


・こちらは近年の法学本として。
Daniel Harrington Foote [著] 溜箭将之[訳] 『裁判と社会――司法の「常識」再考』NTT出版、2006年。






厚生経済学について(または主流派経済学の規範と思想について)(255-256頁)。

  ◆パレート効率
 規範的経済学は,(他の事情が等しければ)効率ないし厚生を最大化(あるいは最適化)すべきであるという主張を含んでいる。これは明らかに,功利主義の系譜に属する思想である。「厚生」は,全体効用に相当する。厚生経済学も,功利主義と同様,社会が個々人からなると考え,個人から独立した社会という実体を想定するものではない。
 しかし,厚生経済学は,価値観したがって効用関数が人によって異なる以上,各人の効用を単純に合計することはできないという問題,効用の個人間比較の不可能性という問題に取り組まねばならなかった。
 この問題を解決する,というよりも回避するために考え出されたのが「パレート効率」という概念である。これは,「パレート改義」という概念によって定義することができる。
 〔……〕
 以上の説明からわかるように, パレート効率の考え方では,各人の効用関数自体を比較する共通の尺度は必要でない。
 注意すべきことに,パレート最適な社会的選択肢は複数ありうる。パレート最適な選択肢の間の優劣は,定義上,パレート効率によっては決定することができない。厚生経済学の真の課題は,パレート効率的な選択肢間の優劣を決定する規範的理論を提示することにある。ちなみに,ロールズの格差原理も,そのような規範的理論の一種とみなすことができる。