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『複雑さに挑む社会心理学――適応エージェントとしての人間[改訂版]』(亀田達也, 村田光二 有斐閣アルマ 2010//2000)

著者:亀田 達也[かめだ・たつや](1960-) 意思決定科学、社会心理学、行動生態学
著者:村田 光二[むらた・こうじ] 社会心理学
シリーズ:有斐閣アルマ;Specialized


複雑さに挑む社会心理学改訂版 | 有斐閣


【目次】
改訂版はしがき(2010年8月 亀田達也・村田光二) [i-ii]
初版はしがき(1999年11月 亀田達也・村田光二) [iii-iv]
著者紹介 [v]
本書の使い方 [vi]
目次 [vii-xi]


序章 「人間の社会性」をどう捉えるか?――適応論的アプローチ 001
1 はじめに 002
  社会的動物
  社会心理学の視座?
  本書のアプローチ

2 適応する人間像 005
  適応とは?
  発見的道具
  キノコ喰いロボット

3 人間にとっての適応環境とは? 009
  相互依存と社会性
  群れ生活と脳の進化

4 マイクロ - マクロ関係 014
  社会規範の起源
  集団錯誤
  キノコ喰いロボットのジレンマ
  マイクローマクロ・システム


  第1部 集団生活と適応

Part1 preview 026
  集団の根本的重要性


第1章 社会的影響過程――集団内行動の文法を探る 031
1 他者の物理的な存在 032
  社会的促進現象
  ザイアンスによる解釈

2 規範的影響と情報的影響 035
  集団の斉一性と同調
  規範にもとづく影響
  賞間の実行コスト
  情報にもとづく影響
  シェリフによるデモンストレーション

3 社会的影響のマクロ的帰結 045
  社会的感受性の個人差
  シマウマの群れのメタファー
  社会現象の拡大・収束を決めるもの

4 多数派と少数派 049
  少数派による影響過程
  質的な差異
  量的な差異
  社会的インパクト理論を用いたシミュレーション
  マクロ現象の発生:斉一化と住み分け


第2章 社会的交換――集団における適応 061

1「協力的なグループ」の普遍性 062

2 2つの適応概念――再び「適応」の定義をめぐって 063
  心理・情緒的な適応
  道具的な適応

3 相互依存と社会的交換 068
  社会的交換
  相互依存状況をどう捉えるか:ゲームによる表現(69)
  囚人のジレンマ
  なぜ協力するのか?

4 互恵性――“情けは人のためならず” 074
  囚人のジレンマ実験
  オタク研究からの脱出
  アクセルロッドのコンピュータ・トーナメント
  互恵的利他主義の“進化”
  ギプ・アンド・テイクの規範

5 社会的ジレンマ―― 2者関係を超えて 083
  共有地の悲劇
  社会的ジレンマ
  援助行動の不思議
  一般交換の謎
  社会規範と2次のジレンマ

6 内集団と外集団――ウチとソトを分けるもの 093
  シェリフの古典的研究
  集団間協力の可能性


第3章 グループとしての協調行為――集団を媒介とする適応 101
1 「グループとしての協調」の普遍性 102
  人類学の知見

2 グループの効率性 105
  三人寄れば文殊の知恵?
  基準モデル
  期待と実際との落差
  プロセスの損失はなぜ起こるか
  グループの非効率をどう評価するか

3 グループの意思決定 115
  グループの決定過程
  集団は極端になりやすい
  集団決定は操作できる

4 グループにおける情報処理 124
  情報の共有化
  情報サンプリングモデルの予測
  隠れたプロフィール問題と適応


第4章 社会環境と適応行動――“文化”の生成 135
1 固定社会を超えて 136
  イタリア社会の分析

2 信頼の解き放ち理論 139
  安心の日本,信頼のアメリ
  信頼の「解き放ち」機能

3 名誉の文化 144
  “タフさ”の強調
  「名誉の文化」はどこから生まれるのか?
  南部における「言い争い」殺人

4 心と文化の相互構成 151
  文化心理学
  相互独立的自己観と相互協調的自己観
  もう一度「適応」の概念をめぐって


  第2部 適応を支える認知 

Part2 preview 162
  適応的認知システム


第5章 社会的認知のメカニズム――進化論的視点 167
1 野生環境への適応と感情 168
  感情のパラドックス
  「恐れ」の適応的価値
  「怒り」と社会環境
  互恵的利他主義を支える感情

2 社会的知能の進化 175
  社会脳仮説
  マキャヴェリ的知性
  言語の社会的起源
  適応問題の解決と多元的知能

3 対人認知の特質184
  person perceptionと対人認知
  印象形成とネガティビティ・バイアス
  期待効果と既有知識
  原因帰属と期待効果

4 社会的認知のプロセス 193
  自動的な特性推論のモデル
  自動的な情報処理
  気分の判断への影響


第6章 集団間認知とステレオタイプ――ステレオタイプ化の過程 203
1 外集団差別と内集団びいき 204
  ジェノサイド
  先史時代の内集団と外集団
  最小条件集団と外集団差別
  カテゴリー化の効果
  社会的アイデンティティ理論による説明
  社会的アイデンティティが高まるとき

2 外集団認知とステレオタイプ  216
  外集団同質性効果
  ステレオタイプ
  ステレオタイプの内容と社会システムの維持
  ステレオタイプの形成
  ステレオタイプの変化

3 ステレオタイプ化 229
  「統合失調症患者」の診断
  ステレオタイプ
  ステレオタイプ化の自動性
  ステレオタイプの意識的コントロール


終章 統合的な社会心理学に向けて――試論または私論 239

1 社会心理学とメタ理論 240
  トピック中心の社会心理学
  社会心理学の多様性?

2 メタ理論の重要性 244
  一貫性の不在
  メタ理論としての適応論
  統合的な社会心理学に向けて


文献一覧 [251-266]
事項索引 [267-271]
人名索引 [272-274]





【抜き書き】
・「改訂版はしがき」から。

初版で論じた「適応」の考え方は,この10年の間に社会心理学の中でしだいに受け入れられ,適応や進化をベースにした論文集(Schaller, Simpson & Kenrick, 2006)や学術誌特集号(Group Processes and Intergroup Relations, 2004 ; Group Dynamics,
2008),教科書なども次々と刊行されています。反面,その受容のされ方とは,社会心理学のほかの諸理論と並ぶ1つのミニ理論として,いささか安易な形で起きているのではないかという危惧も感じられます。そうだとしたら,これは,適応の考え方のもつ「統合的視点」(終章の言葉を使えば「メタ理論」です)としての力を十分に生かしていない受け入れ方と言えるのではないでしょうか。
 改訂版を準備するにあたって,著者たちの頭にあったのはこのことでした。適応の考え方が受け入れられつつある今,私たちはもう一度,「メタ理論としての適応論」のもつ,本来のチャレンジ精神を思い出す時期に来ているのではないでしょうか。上で述べた行動・実験経済学の興隆や,社会神経科学の展開は,ワクワクするような知見を生み出しています。こうした知見を,「メタ理論としての適応論」の大きなフレームのもと(社会心理学の知見とどう統合し互いを豊かにしていくのか,次の 10年における大きなチャレンジはそこにあるように思われます。