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『生物学の哲学』(森元良太,田中泉吏 勁草書房 2016)

著者:森元 良太(1975-)
著者:田中 泉吏(1980-)


生物学の哲学入門 - 株式会社 勁草書房


【目次】
目次 [i-iv]


[序章] 生物学の哲学への誘い 001
  生物学の哲学とは何か 001
  進化論への関心 002
  生物学の哲学の展開 003
  本書の概要 005


[第1章] ダーウィン進化論から進化の総合説へ 013
1.1 ダーウィン進化論 013
  生命の樹仮説 014
  自然選択説 019
  ダーウィンの独創性 027
  仮説と証拠 032
1.2 ダーウィニズムの失墜 036
  ネオ・ラマルキズムと定向進化説 037
  ヴァイスマンの生殖質説 038
  メンデル学派と突然変異説 039
  生物測定学派とメンデル学派の対立 041
  遺伝学の誕生 042
  突然変異説とメンデル学派の総合 043
  ダーウィニズムの復活44
1.3 集団遺伝学の誕生 045
  ゴールトンの先駆的業績 045
  フィッシャー 046
  ライト 049
  ホールデン 052
1.4 進化の総合説 053
  フィールドワークへの適用 053
  進化の名のもとでのさまざまな領域の総合 056


[第2章] 集団的思考と進化論的世界観 061
2.1 集団的思考 061
  集団的思考の出現 062
  正常と異常の区別 066
  集団的思考の恩恵 067
2.2 進化論的世界観 070
  決定論的世界観 070
  進化現象に関する決定論 071
  非決定論的世界観 074
  進化現象に関する非決定論:しみ出し論法 074
  進化現象に関する非決定論遺伝的浮動 077
  決定論対非決定論 077


[第3章] 利他性 079
3.1 利他性とは何か 079
  ミツツボアリの謎 079
  生物学的利他性と心理学的利他性の区別 081
  利他性の謎 082
3.2 血縁選択説 083
  遺伝子の視点 084
  血縁度 088
  ハミルトン則 089
  包括適応度 090
  ミッッボアリの謎を解く 092
3.3 形質群選択説 095
  群選択説 095
  群選択説への批判 097
  形質群選択説 097
  シンプソンのパラドクス100
3.4 選択のレベル論争 102
  個体主義 102
  平均化の誤謬 104
  広義の個体主義 106
  二つの多元論 107
  モデル多元論対プロセス多元論 108


[第4章] 大進化 109
4.1 大進化の理論 109
  漸進説 110
  断続平衡説 111
  時間尺度の問題 113
  跳躍進化説と断続平衡説 114
4.2 断続平衡説に対する評価と批判 116
  大進化のパターンと過程 117
  断続平衡説はトートロジーか 118
4.3 生層序学における化石記録の見方 120
  生層序学の暗黙知 121
  系列帯による対比 122
  地史の解明 122
  観察の理論負荷性 124
  断続平衡説の由来 126
4.4 断続平衡説と進化の総合説 126
  古生物学における革命 127
  断続平衡説と進化の総合説の関係 128
  種選択 131
  断続平衡説の意義 131


[第5章] 発生 133
5.1 発生学と進化の総合説の関係 133
  形態学の起源 133
  アカデミー論争 134
  ヘッケルの反復説 135
  発生と進化の切り離し 138
  生殖細胞系列と体細胞系列の分離 139
  遺伝子型と表現型の区別 141
  究極要因と至近要因の区別 143
  集団的思考と類型学的思考 144
5.2 ホメオボックスの発見から進化発生学へ 145
  ホメオティック突然変異 145
  ホメオボックス遺伝子とHbx遺伝子 147
  進化発生学とは 148
5.3 進化発生学がもたらした変化 151
  説明のための概念的道具立ての変化 152
  遺伝概念の変化 154
  発生概念の変化 155


[第6章] 種 159
6.1 種と分類 159
  生物の分類法 160
  種タクソンと種カテゴリー 161
6.2 種タクソンの存在論的身分 164
  自然種と本質主義 164
  本質主義は正しいか 165
  個物説 166
  新しい本質主義 167
  種タクソンに関する恒常的性質クラスター説 168
6.3 種カテゴリーに本質はあるのか 171
  種カテゴリーに関する恒常的性質クラスタ一説 172
  種の多元論 173
  恒常性 174
  実在論 175
  伝統的な本質主義との違い 175
6.4 微生物と本質主義 176
  微生物とは何か177
  微生物の重要性 179
  メタゲノミクス 181
  微生物の種概念 182
  遺伝子水平伝達 182
  恒常的性質クラスター説は巨生物中心主義を脱却できるか 185
  種カテゴリーの反実在論 186
  種の排除主義 187


参考文献 [189-209]
あとがき(2016年5月 森元良太 田中泉吏) [211-213]
索引 [215-222]




【抜き書き】

□pp.2-4 から。本書でも、やはり進化論がメインテーマになるということを説明。

  進化論への関心


 本書は「生物学の哲学」の教科書として書かれている。だが、目次をみてそのなかで集中して取り上げられている話題があることに気づいた人もいるだろう。本書の大半が「進化」にかかわる話題を扱っている。進化論がおもな考察の対象なのである。
 これは偏りすぎだろうか。そうかもしれない。分子生物学やシステム生物学も生物学の主要な分野であり、重要な哲学的問題が潜んでいるが、本書ではほとんど扱わない。
 なぜ進化に関連する議論が多いのか。大きな理由の一つは、生物学の哲学という分野そのものがこれまで進化に関連する議論を中心におこなってきたということである。たとえば、生物学の哲学者エリオット・ソーバーの著した教科書は原題が『生物学の哲学』であるにもかかわらず、そこで扱われている話題は本書と同じく進化に関する議論が中心である。そのため、邦題は『進化論の射程』となっている。私たちも例に漏れず、進化論に大きな興味関心を抱いている。
 しかし、それならば『進化論の哲学』や『進化生物学の哲学』というような題名にすべきではないかといわれるかもしれない。だが、そのような題名にしなかったのは、本書の後半で古生物学、発生学、微生物学などの進化生物学以外の分野にかかわる話題も扱っているからである。ただし、それらの分野についても進化論との関係性という視座からもっぱら論じているという点では、やはり進化が興味関心の中枢を占めているのも事実である。

□〈生物学の哲学〉の勃興。4と5段落目で、多重実現について暗に触れている。

  生物学の哲学の展開


 生物学の哲学という分野はどのように成立してきたのだろうか。その歴史的経緯を簡単に振り返ることで、この分野についてもう少し詳しく解説しよう。多少専門的な内容になるので、初学者はこの部分を読み飛ばしてもかまわない。
 生物学の哲学は科学哲学の一分野であるが、20世紀の科学哲学において科学の模範は物理学であり、生物学はそれに準ずる二流の科学であるといわれてきた。根拠としてよく挙げられるのは、生物学は突き詰めれば生物についての物理学に還元されるはずだという主張である。そのため、1960年代前半までの科学哲学の主要な関心事は物理学であった。
 当時、生物学者のエルンスト・マイアはこうした状況を次のようにいましめている。「多くの物理学者や哲学者は、物理学に当てはまることは科学のほかの分野にも当てはまるという素朴な仮定をおいている。残念ながら、そうした物理学の哲学での一般化を生物学に当てはめることは的外れである」(Mayr 1965, p.197)。
 状況が変化するのは1960年代後半から1970年代にかけてである。何人かの哲学者が生物学に関連する哲学的な問題を論じ始めた。1965年にデイヴイッド・ハルが体系学についての哲学的問題を議論したのを皮切りに、マイケル・ルースは進化生物学について、ウイリアム・ウイムサットやケネス・シャフナーは還元についての論文を執筆した。この時期、還元の問題は活発に議論され、ハルやルースなども論争に加わった。生物学は進化という歴史を扱う点や、機能という物理学にはあまり馴染みのない概念を用いる点など、物理学とは異なる特徴をもつことが指摘されたのだ。
 賛否はあったものの、生物学は物理学に還元されない自律的な分野であるという考えが有力になった。これにより、当時の科学哲学における物理学帝国主義的な風潮に歯止めがかかり、科学哲学は生物学から多くを学べることに気がついた。そして、ルースが1973年に『生物学の哲学』、ハルが1974年に『生物科学の哲学』という教科書を執筆し、生物学の哲学が科学哲学の重要な一分野として確立されていくきっかけとなった。
 1980年代に入ると生物学の哲学はさらに発展し、多くの著作が出版された。代表的なものに、エリオット・ソーバーの『選択の本性』(1984)、アレックス・ローゼンバーグの『生物科学の構造』(1985)、フィリップ・キッチャーの『思い上がった野心』(1985)がある。そこでは、進化論の構造についての分析や、メンデル遺伝学が分子生物学に還元されるかどうか、あるいは人間の本性が生物学で説明できるかどうかという問題などが論じられた。また、哲学者と生物学者が一緒に研究をおこなうことも一般的になった。
 1982年には生物学について研究する歴史家、哲学者、社会学者が交流する「生物学の歴史、哲学、社会研究についての国際学会」が創設され、学際的にも広がりをみせている。そして、1986年には専門誌『生物学と哲学』が創刊された。これにより、生物学の哲学分野の論文が多数出版されるようになる。1990年代に入ると、分子生物学や進化論だけでなく、細胞学、発生学、生態学といった生物学のほかの分野についての議論も増えていった。
 近年では日本でも生物学の哲学がさかんに研究されるようになっていて、その成果の一部は『進化論はなぜ哲学の問題になるのか――生物学の哲学の現在』(2010)や『ダーウィンと進化論の哲学』(2011)などで知ることができる。また、生物学の哲学の教科書として、エリオット・ソーバーの『進化論の射程――生物学の哲学入門』(2009)とキム・ステレルニーとポール・グリフイスの『セックス・アンド・デス――生物学の哲学への招待』(2009)が翻訳されている。