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『社会生物学論争史――誰もが真理を擁護していた〈1・2〉』(ウリカ・セーゲルストローレ[著] 垂水雄二[訳] みすず書房 2005//2000)

原題:Defenders of the truth
著者:Ullica Christina Olofsdotter Segerstråle 有機化学、生物学。科学社会学
翻訳:垂水 雄二 (ジャーナリスト)
NDC:481.71 一般動物学 >> 動物生態学 >> 動物社会:群落,共同体,共生,寄生
件名:Edward O. Wilson 1929-2021
件名:社会生物学--歴史--20世紀


社会生物学論争史 2 | みすず書房


・版元の紹介文

 エドワード・O・ウィルソンの大著『社会生物学』(1975)は、出版されるやたちまち非難の嵐を巻き起こした。とりわけ動物行動の研究を人間社会に適用すると明言したその最終章をめぐって、社会の現状維持を正当化し人種差別を肯定する悪しき遺伝子決定論であるとの批判が向けられたのである。
 論争はイギリスにも飛び火し、やがてドーキンスとグールドは、やや論点をずらしながら、大洋をはさんで果てしなく思われる応酬をくり広げていく。だが、四半世紀をへて、社会生物学は一方でたとえば進化心理学のような学問分野を生み、また論議の焦点のいくらかはサイエンス・ウォーズやヒューマン・ゲノム・プロジェクトのほうへ移り、等々、社会生物学論争は、少なくともほぼ、終幕を迎えているといっていい。あの仮借ない戦いは、何だったのか。
 著者セーゲルストローレが科学社会学者としてインタヴューする相手は、グールド、ドーキンス、メイナード・スミス、ハミルトン、メダワー、ルリア……もちろん〈首魁〉ウィルソンとルウォンティンをはじめ、論争の立役者のほぼすべてから、ゴシップも含む得がたい証言を一手にあつめた。そこにきわめてバランスのとれた迫真の考察を加え、セーゲルストローレは論争の顛末を一気に語りおろす。社会生物学論争に言及するとき、本書を避けては通れない。
 ウィルソンと彼の社会生物学に向けられた批判の多くは、たしかに公正ではなかった。しかし、社会生物学論争が、よく言われてきたように、ただの政治的動機による〈氏か育ちか〉論争でもないことは、本書に明らかである。科学者たちは、自分たちの科学について、真剣に戦っていたように見える――これは、四半世紀の道徳劇か?
 科学の園のプランター対ウィーダー、善い科学の植えつけに励む科学者と、悪い科学の摘み取りに熱心な科学者の姿が照らし出される。ナチュラリスト対実験家、モデル化と実在主義など、さまざまな構図が影をおとす。自由意志と決定論、科学者の社会的責任、科学者共同体および社会からの認知を求める競争などの観点も導入される。そして、対立の核心へと著者の分析は迫る。
 〈文脈、文脈、みんないつも文脈についてしゃべりたがる!〉インタヴューのこんな肉声も織り込みながら、初期にはIQ論争と、近年ではサイエンス・ウォーズとのあいだにある連続性を保ちながら進展した、長く苛烈な科学論争を本書は物語る。社会生物学論争の全容に初めて光があてられたのである。


【第一巻の目次】
献辞 [i]
目次 [ii-vi]
はじめに [vii-x]


第一章 真理をめぐる闘いとしての社会生物学論争 001
科学的真理と道徳的真理は同じものか 001
学問的な工作としての社会生物学論争 006
オペラに見立てた社会生物学論争 010


  第一部 社会生物学論争で何があったのか 

第二章 社会生物学をめぐる嵐 019
創り出された社会生物学論争 019
まじめな科学的批判の欠落 023
社会生物学研究グループの活動 029
社会生物学論争は回避できたか 038
環境主義パラダイムの優越 049


第三章 衝突に突き進む同僚――ウィルソンとルウォンティンの正反対の道徳的かつ科学的課題〔アジェンダ 057
大物どうしの激突 057
ウィルソンの実証的プログラム 059
ルウォンティンの批判的な課題 066
嗜好の問題 080


第四章 英国派とのつながり 087
群淘汰から血縁淘汰へ――集団的改宗か科学的雪崩現象か 087
ビル・ハミルトン――孤独の人 094
メイナード・スミスと逸した機会 101
ジョージ・プライス――原理主義ファンダメンタリズム〕を奉じた科学者 108
コップの中の嵐か――ドーキンスと英国における論争 117


第五章 社会生物学の秘められた背景 134
ハーヴァード大学によるハミルトンの発見――トリヴァースとデヴォア 134
相互扶助論 144
〈人間と動物〉会議――触媒的な出来事 154
ウィルソン流の社会生物学――ある目的のための総合 162
名前に何かがあったのか――「社会生物学」がはらむ意味 167


第六章 適応主義への猛攻――遅ればせの科学的批判 172
適応主義のどこがまちがっているのか 172
完璧な人間などいない 179
サンマルコのスパンドレル――ロイヤル・ソサエティをうろたえさせたグールドとルウォンティン 184
スパンドレルへの反応 193
もと適応主義者の懺悔 200
トロイの木馬としての社会生物学論争 203
断続主義に断点を入れる 210


第七章 淘汰の単位と、文化との関連 218
淘汰の単位をめぐる論争における真と誤り 218
ハーヴァードの全体論と英国のお手玉遺伝学 230
淘汰のレヴェル――存在論的異議申し立て 236
文化の問題 244
ハミルトンの「人種差別的」論文 253
遺伝子は必要か 259


第八章 批判に適応する社会生物学――『遺伝子・心・文化』 269
社会生物学は自らをつくり変える――それとも? 69
メイナード・スミス数式をチェックする 278
ルウォンティン屈辱を感じる 282
エドマンド・リーチはエソロジーがお好き 292


第九章 道徳的/政治的対立はつづく 305
新しい潮流の台頭 305
「人種差別主義者」という誹謗と反論 308
ナビのエピソード――科学におけるマナーとモラル 318
批判者たちは実証的プログラムを考案する 325
もうたくさんだ! と社会生物学者たちは言う 329
誰がまちがったのか 334


注 [341-351]
用語解説 [1-9]



【第二巻の目次】
目次 [i-vi]


  第二部 社会生物学論争を読み解く 

第十章 批判者たちの心のうち 355
連結した論理と確かさの追求 355
チョムスキーの異議申し立て 363
プラトンの高貴な嘘」――批判者の論法を解く手がかり 368
真実は露見する――道徳的解釈を通してのテクスト操作 371
彼はそう言ったんだ!――言葉の力 376


第十一章 科学の庭園における攻防 381
社会のなかの科学をめぐる伝統的な見方と批判的な見方 381
何をなすべきか――科学者の責任 390
事実への怖れ 393
科学の道徳性 396
行動遺伝学をめぐる闘い 400
国学界のネオルイセンコ主義? 404


第十二章 社会生物学論争のなかのハムレットたち 415
感謝されない連結切り離し屋――ピーター・メダワー 415
両陣営に片足ずつ――メイナード・スミスとベイトソンの調停努力 425
論争に参加しなかった左翼の声――サルヴァドール・ルリア 433


第十三章 伝統の衝突 448
気心を通じ合うナチュラリストと批判的な実験主義者 448
テクストと真実 463
二分された学界と二つの真理の世界 472


第十四章 科学の本性についての対立する見方 481
「真の因果関係」対モデルと計測 481
「正しい」知能研究の正当性 488
「不自然な科学」としての社会生物学とIQ研究 491
全体論、還元主義、マルクス主義 497
定義ゲームとしての還元主義、あるいは目くそを笑う鼻くそ 503
ウィルソンがワトソンでなかった理由 509


第十五章 論争につけこむ 515
象徴的資本としての道徳的認知 515
社会生物学論争における「争点」をめぐっての闘い 523
最適化戦略家としての科学者 526


  第三部 科学をめぐる闘いの文化的な意味 

第十六章 社会生物学者とその敵――二五年後の棚卸し 353
進化的パラダイムの台頭 535
変わりゆく環境のなかで進化するウィルソン 538
社会生物学論争における道徳的な勝者 541
ウィルソン流の社会生物学―― 一つの評価 546
人間社会生物学との折り合い 551
狙いをはずした撃ち合い――グールドとドーキンスの長々しいデュエット 557
現代総合説の擁護者たち――進化はなぜ、どのようにして起こるか 566
行動の統合された研究に向けて  576


第十七章 論争による真実――社会生物学論争とサイエンス・ウォーズ 581
「反科学」に戦いを挑む科学の擁護者たち 581
サイエンス・ウォーズの政治学 590
社会生物学と反科学 594
批判の連続性と不連続性 598


第十八章 啓蒙主義的探求の解釈 607
コンシリエンス――新しいセントラル・ドグマ 607
コンシリエンスで覆い隠せる〔コンシール〕か――社会科学と芸術 616
啓蒙主義とハイパー啓蒙主義の探求 623
汝自身を知れ――長期的な啓蒙主義の目標 635


第十九章 科学的真理と道徳的真理の緊張関係 647
進化生物学――科学と価値のあいだ 647
生物学について真理を語る 656
真理とそれがもたらす結果 669


第二十章 魂を賭けた戦い――そして科学の命に懸けて 677
自由意志・決定論・罪着せ 677
新たな本質主義と新たな実存主義の出会い 686
神は必要なのか? 691
科学を引き綱につなぎとめる――情動と道徳的懸念の重要性 700


原注 [709-720]
訳者あとがき(二〇〇五年一月一日 垂水雄二) [721-725]
参考文献 [9-51]
索引 [1-8]