著者:加藤 政洋[かとう・まさひろ] (1972-) 都市社会地理学。沖縄研究。
筑摩書房 大阪 ─都市の記憶を掘り起こす / 加藤 政洋 著
【目次】
目次 [003-007]
序章 路地と横丁の都市空間 009
1 下水処理場の居住空間 009
ポンプ室の上に
生活空間としての路地
再現された〈路地〉
2 空間表象としての〈横丁〉 018
法善寺裏の食傷通路
空間パッケージとしての〈横丁〉
名は実を超えて
本書の構成
第1章 大阪《南/北》考 031
1 梅田の都市景観 033
駅頭の風景
グローカル梅田
東京の匂い
2 駅と遊郭 039
二枚の写真
縁辺の遊興空間
駅前の遊郭
3 駅前ダイヤモンド 044
カタチか地価か
地霊の不在
さながら遊郭の如し
変転する駅前空間
土地利用の高度化
4 相克する《南/北》 053
《南》――方角から場所へ
岸本水府の《南》
二つの〈顔〉
インテリの《北》
宮本又次の《北》礼讃
競演から協演へ
5 明日を夢見る《北》、懐古する《南》 064
場所の履歴――場所・水辺・火災・駅
鍋井克之の予感
明日の夢、昔の夢
第2章 ラビリンスの地下街 071
1 梅田の異空間 073
裏町を歩く
地下街の原風景
ふたつの横丁
2 排除の空間 081
はじまりの地下道
変転する地下空間
繰り返される排除
3 もうひとつの都市 085
地下街の拡散
地下街ラビリンス
第3章 商都のトポロジー 093
1 起ち上がる大阪 095
焦土と化した街
織田作の戦災余話
場所への愛着
船場トポフィリア
復興の風景と場所感覚
2 同業者街の変動 104
新旧の商工地図
谷町筋の「既製服」と「機械」
船場の問屋街
丼池の繊維問屋街
玩具・人形・菓子の問屋街
道具商の街
掘割と問屋街
脱水都化の象徴
3 新しい消費空間の登場 120
拡散する《ミナミ》
《アメリカ村》の発見
自然発生のまち?
第4章 葦の地方へ 131
1 重工業地帯のテーマパーク 132
此花ユニバ
沈む地面
小野十三郎の大阪
2 新開地の風景 142
石川栄耀の〈場末論〉
此花区の新開地
3 梁石日の錯覚 148
葦しげる湿地の開発
《今里新地》の現在
第5章 ミナミの深層空間――見えない系をたどる 155
1 石に刻まれた歴史 157
京都東山の豊国廟
阿倍野墓地と千日前
2 《飛田新地》から新世界へ 161
飛田遊郭の誕生
郭の景観
青線と芸人のまち
「糸ある女」の飲み屋横丁
3 花街としての新世界 173
歓楽の混在郷
新世界は花街だった
4 釜ケ崎と黒門市場 180
第五回内国博のインパクト
スラムとしての日本橋筋
地図にないまち
原風景――鳶田の木賃宿街
釜ケ崎の成立をめぐる語り
釜ケ崎銀座の沖縄
黒門市場の成立
5 《ミナミ》――相関する諸場の小宇宙 197
千日前へ
空間的排除としての郊外化
第6章 大阪1990 ――未来都市の30年 205
1 大阪湾の新都心 207
2025年万博、夢の舞台
テクノポート大阪
2 ダイナミック大阪と「負の遺産」 213
ファッショナブルな都市空間
大阪1990の出発点
土地信託と「負の遺産」
3 都市の空間構造と〈場所〉 222
グローバル化時代の都市
場所からの発想
大阪2025の都市像
終章 界隈の解体 231
〈界隈〉のひろがり
再開発による分断
モール化する阿倍野
小野十三郎の足どり
界隈の行く末
あとがき (二〇一九年二月 加藤政洋) [245-247]
主な引用・参考文献 [248-253]
【抜き書き】
□pp. 184-185
書名が並ぶ部分。このラインナップであれば、鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』を入れた方が自然だと思う。その本のメインテーマが、まさに西成特区構想だから。
紀州街道を南へ環状線をくぐってゆくと、「宿」をひっくりかえして「ドヤ」と略称される簡易宿所の建ち並ぶ、通称「あいりん地域」にはいる――そこは「日本最大の自由労働市場」であり、「人々は、この一帯を『釜ヶ崎』と呼ぶ」(砂守勝巳『カマ・ティダ 大阪西成』)。
特定の場所イメージを喚起する釜ヶ崎に関しては、稀代の教科書的入門書である『釜ヶ崎のススメ』にはじまり、生田武志『釜ヶ崎から』、原口剛『叫びの都市』、白波瀬達也『貧困と地域』など、この十年間ですぐれた専門書の出版が相次ぐと同時に、橋下徹市政下で打ち出された「西成特区構想」にもとづく――あるいはオルタナティヴな――「まちづくり」の議論と実践も活発化している。
ドヤの利用者たる日雇い労働者の生活空間であった釜ヶ崎は、労働者の高齢化にともなって簡易宿所が福祉アパート(サポーティブハウス)に、あるいはインバウンドの旅行客を積極的に受け入れるホテル(ゲストハウス)に転用されることも多く、地図にないこのまちは急速に変容する側面をも持ち合わせている。