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『大阪――都市の記憶を掘り起こす』(加藤政洋 ちくま新書 2019)

著者:加藤 政洋[かとう・まさひろ] (1972-) 都市社会地理学。沖縄研究。


筑摩書房 大阪 ─都市の記憶を掘り起こす / 加藤 政洋 著


【目次】
目次 [003-007]


序章 路地と横丁の都市空間 009
1 下水処理場の居住空間 009
  ポンプ室の上に
  生活空間としての路地
  再現された〈路地〉
2 空間表象としての〈横丁〉 018
  法善寺裏の食傷通路
  空間パッケージとしての〈横丁〉
  名は実を超えて
  本書の構成


第1章 大阪《南/北》考 031
1 梅田の都市景観 033
  駅頭の風景
  グローカル梅田
  東京の匂い
2 駅と遊郭 039
  二枚の写真
  縁辺の遊興空間
  駅前の遊郭
3 駅前ダイヤモンド 044
  カタチか地価か
  地霊の不在
  さながら遊郭の如し
  変転する駅前空間
  土地利用の高度化
4 相克する《南/北》 053
  《南》――方角から場所へ
  岸本水府の《南》
  二つの〈顔〉
  インテリの《北》
  宮本又次の《北》礼讃
  競演から協演へ
5 明日を夢見る《北》、懐古する《南》 064
  場所の履歴――場所・水辺・火災・駅
  鍋井克之の予感
  明日の夢、昔の夢


第2章 ラビリンスの地下街 071
1 梅田の異空間 073
  裏町を歩く
  地下街の原風景
  ふたつの横丁
2 排除の空間 081
  はじまりの地下道
  変転する地下空間
  繰り返される排除
3 もうひとつの都市 085
  地下街の拡散
  地下街ラビリンス


第3章 商都トポロジー 093
1 起ち上がる大阪 095
  焦土と化した街
  織田作の戦災余話
  場所への愛着
  船場トポフィリア
  復興の風景と場所感覚
2 同業者街の変動 104
  新旧の商工地図
  谷町筋の「既製服」と「機械」
  船場の問屋街
  丼池の繊維問屋街
  玩具・人形・菓子の問屋街
  道具商の街
  掘割と問屋街
  脱水都化の象徴
3 新しい消費空間の登場 120
  拡散する《ミナミ》
  《アメリカ村》の発見
  自然発生のまち?


第4章 葦の地方へ 131
1 重工業地帯のテーマパーク 132
  此花ユニバ
  沈む地面
  小野十三郎の大阪
2 新開地の風景 142
  石川栄耀の〈場末論〉
  此花区の新開地
3 梁石日の錯覚 148
  葦しげる湿地の開発
  《今里新地》の現在


第5章 ミナミの深層空間――見えない系をたどる 155
1 石に刻まれた歴史 157
  京都東山の豊国廟
  阿倍野墓地と千日前
2 《飛田新地》から新世界へ 161
  飛田遊郭の誕生
  郭の景観
  青線と芸人のまち
  「糸ある女」の飲み屋横丁
3 花街としての新世界 173
  歓楽の混在郷
  新世界は花街だった
4 釜ケ崎と黒門市場 180
  第五回内国博のインパク
  スラムとしての日本橋筋
  地図にないまち
  原風景――鳶田の木賃宿
  釜ケ崎の成立をめぐる語り
  釜ケ崎銀座の沖縄
  黒門市場の成立
5 《ミナミ》――相関する諸場の小宇宙 197
  千日前へ
  空間的排除としての郊外化


第6章 大阪1990 ――未来都市の30年 205
1 大阪湾の新都心 207
  2025年万博、夢の舞台
  テクノポート大阪
2 ダイナミック大阪と「負の遺産」 213
  ファッショナブルな都市空間
  大阪1990の出発点
  土地信託と「負の遺産
3 都市の空間構造と〈場所〉 222
  グローバル化時代の都市
  場所からの発想
  大阪2025の都市像


終章 界隈の解体 231
  〈界隈〉のひろがり
  再開発による分断
  モール化する阿倍野
  小野十三郎の足どり
  界隈の行く末


あとがき (二〇一九年二月 加藤政洋) [245-247]
主な引用・参考文献 [248-253]




【抜き書き】

□pp. 184-185
 書名が並ぶ部分。このラインナップであれば、鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』を入れた方が自然だと思う。その本のメインテーマが、まさに西成特区構想だから。


 紀州街道を南へ環状線をくぐってゆくと、「宿」をひっくりかえして「ドヤ」と略称される簡易宿所の建ち並ぶ、通称「あいりん地域」にはいる――そこは「日本最大の自由労働市場」であり、「人々は、この一帯を『釜ヶ崎』と呼ぶ」(砂守勝巳『カマ・ティダ 大阪西成』)。

 特定の場所イメージを喚起する釜ヶ崎に関しては、稀代の教科書的入門書である『釜ヶ崎のススメ』にはじまり、生田武志釜ヶ崎から』、原口剛『叫びの都市』、白波瀬達也『貧困と地域』など、この十年間ですぐれた専門書の出版が相次ぐと同時に、橋下徹市政下で打ち出された「西成特区構想」にもとづく――あるいはオルタナティヴな――「まちづくり」の議論と実践も活発化している。
 ドヤの利用者たる日雇い労働者の生活空間であった釜ヶ崎は、労働者の高齢化にともなって簡易宿所が福祉アパート(サポーティブハウス)に、あるいはインバウンドの旅行客を積極的に受け入れるホテル(ゲストハウス)に転用されることも多く、地図にないこのまちは急速に変容する側面をも持ち合わせている。