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『フランス現代史』(小田中直樹 岩波新書 2018)

著者 : 小田中 直樹[おだなか・なおき] (1963-) 経済史。
NDC:235.07 フランス史(  第2次世界大戦後 1945-)

 

フランス現代史 - 岩波書店

 

【目次】
目次 [i-iv]
地図 [vi-vii]

 

序章 分裂と統合の弁証法 001
1 「モデル」から「先行者」へ 001
  日仏の現在
  モデルとしてのフランス
  先行者としてのフランス
2 分裂と統合の弁証法 007
  深く重層的な分裂
  「外部」による統合
  分裂と統合の弁証法
3 相対的後進国 012
  相対的後進国
  対立する利害、共通する利害

  

第一章 解放と復興―― 一九四〇年代 017
1 解放,対立,和解 018
  解放と終戦
  対立と分裂
  レジスタンス神話
2 経済復興 026
  CNR綱領
  二つのディリジスム
  モネ・プラン
3 第四共和政の成立 033
  憲法制定
  ドゴールの退場
  冷戦の開始

 

第二章 統合欧州の盟主をめざして―― 一九五〇年代 043
1 脱植民地化と欧州統合 044
  植民地の独立
  欧州統合
  迷走する政治
2 復興から成長へ 051
  購買力政策と競争力政策
  新旧中間層の軋み
  マンデス革命
3 第五共和政の成立 060
  アルジェリア戦争
  ドゴールの復活
  憲法制定

 

第三章 近代化の光と影―― 一九六〇年代 069
1 「栄光の三〇年」 070
  ゴーリスム
  欧州統合の深化
  産業政策
2 近代化のなかで 078
  ライフスタイルの変容
  メリトクラシー
  福祉国家
3 五月危機 086
  ベビー・ブーマー世代
  学生反乱、ゼネスト
  学校教育と社会階層構造

 

第四章 戦後史の転換点―― 一九七〇年代 092
1 過渡期としてのポンピドー政権 096
  ドゴールの退場
  新社会建設プログラム
  政治の左右両極化
2 「栄光の三〇年」の終焉 105
  ジスカールデスタン政権
  ニクソン・ショックと第一次石油危機
  バール・プランと第二次石油危機
3 分裂する社会 114
  複雑化する対立軸
  国民戦線
  アイデンティティ・ポリティクスの時代

 

第五章 左翼政権の実験と挫折―― 一九八〇年代 123
1 ミッテランの実験 124
  左翼政権
  過去の精算
  実験の失敗
2 新しい社会問題 134
  「暑い夏」
  ブールの行進
  スカーフ事件
3 異議申立ての諸相 141
  コアビタシオン
  宿痾としての失業
  対立軸の移動

 

第六章 停滞,動揺,模索―― 一九九〇年代 151
1 争点化する欧州統合 152
  冷戦の終結
  統合深化のインパク
  国論の二分化
2 動揺する社会 160
  テロリズムの輸入
  労働市場と社会問題
  対立軸と統合の構造
3 模索する政治 168
  経済政策の収斂
  シラク政権
  社会保障制度の整備

 

第七章 過去との断絶?―― 二〇〇〇年代 177
1 「古いフランス」と「新しいフランス」 178
  新旧対立という言説
  第二次シラク政権
  新しい世代の登場
2 グローバル化 188
  アングロサクソン
  「普通の国」へ
  グローバル化への不安、欧州統合への懐疑
3 ポピュリズム 196
  「ピープル」
  敵はだれか

 

終章 その先へ 201
  閉塞感の時代
  統合の試みは成るか
  おわりに

 

あとがき(二〇〇八年秋杜の社にて 小田中直樹) [209-212]
年表 [7-13]
索引 [1-6]

 

 

『知の分類史――常識としての博物学』(久我勝利 中公新書ラクレ 2007)

著者:久我 勝利[くが・かつとし](1955-) 編集、執筆。
件名:分類
件名:博物学
件名:百科事典
件名:資料分類法
NDC:116.5 論理学.弁証法弁証法的論理学].方法論

 

知の分類史―常識としての博物学 (中公新書ラクレ 236)

知の分類史――常識としての博物学 (中公新書ラクレ)

 

 
【目次】
はじめに  [003-004]
目次 [005-011]


序章 分類の歴史は人類の「知」の歴史である 015
“ただの雑学”から“体系化”へ 017
先史時代 019
古代 020
中世 022
近世 023
現代 024


第一章 博物学の豊穰 025
博物学のはじまり 027
雑学書のようなもの 029
プリニウスの博物誌 031
アリストテレスの動物分類 037
理解しがたい分類法 041
テオフラストスの大ざっぱな分け方 045
ディオスコリデスの『薬物誌』 047
分類学の父」リンネ 049
世紀の大博物誌 054
ラマルクの『動物哲学』 061
キュビエの『動物界』 066
明の時代の総結集、『本草綱目』 070
『庶物類纂』 073
フンボルト『コスモス』 076


第二章 西洋の百科事典の歴史をひもとく 081
博物誌と交差しながらたどった別の道 083
アリストテレスの著作と当時の知 084
自由七科と六芸 088
イシドルスの『語源誌』 091
イスラム圏の知 095
フーゴーの学問体系 097
バルトロマエウスの『事物の属性について』 102
ヴァンサン『大鏡』 106
トマス・アクィナスの「神の知」 111
ベーコンの「大革新」 116
『百科全書』 120
天工開物 129
『系統的百科事典』 131
ヘーゲル『エンチュクロペディー』 133


第三章 東洋の百科事典 137
類書の果たした啓蒙の役割 139
呂氏春秋』 141
『准南子』 144
『爾雅』 147
『類書』 149
『太平御覧』 153
類聚国史』 156
『和名類聚抄』 158
『塵袋』 161
『下学集』 163
『和漢三才図会』 165
和製類書 168
『嬉遊笑覧』 169
『古事類苑』 172
『廣文庫』 174


第四章 図書分類――あまりに広い「知」の森のなかで 177
本の分類史最大の発明 179
アレクサンドリア図書館の「ピケナス」 180
七略』 183
四庫全書の分類 185
ヴェーダ 189
大蔵経 191
修道院の蔵書 194
ゲスナー 198
ライプニッツの図書分類の特色 200
十進分類法 202
分類基準は各図書館ごと 207
コロン分類法 210


第五章 分類の可能性について 213
自分だけの宇宙をつくるために 215
勉強法としての分類術 217
思考訓練としての分類術 219


あとがき(二〇〇六年一〇月 久我勝利) [221-222]
参考文献 [223-225]

 

 

 

『事大主義――日本・朝鮮・沖縄の「自虐と侮蔑」』(室井康成 中公新書 2019)

著者:室井 康成[むろい・やすなり](1976-) 
地図作成:地図屋もりそん
表作成:関根美有
NDC:210.6 日本史(近代 1868- ,明治時代 1868-1912)

 

事大主義―日本・朝鮮・沖縄の「自虐と侮蔑」|新書|中央公論新社 (chuko.co.jp)

 【メモランダム】

・メタ・国民性論。
 なお、冒頭の「はしがき」・「目次」・「地図」(pp. i-xiii)で、余白下部のページ表記を一ヶ所だけミスってる(この三つは中公新書の慣例に従い、頁表記をローマ数字にしているが、十二頁のみアラビア数字になっている)。 

 

・版元の内容紹介文。

事大主義とは、強者に追随して保身を図る態度である。国民性や民族性を示す言葉として、日本や朝鮮、沖縄で使われてきた。本書は、福沢諭吉陸奥宗光柳田国男朴正熙金日成司馬遼太郎などの政治家や知識人を事大主義の観点で論じ、時代の変遷を描く。日本への「島国根性」という批判や、沖縄への差別意識はどこに由来するのか。韓国と北朝鮮の相剋の背景は何か。自虐と侮蔑が交錯した東アジアの歴史が浮き彫りに。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/03/102535.html

 

 


【目次】
はしがき [i-vii]
目次 [viii-xii]
東アジア周辺地図 [xiii]
タイトル [001]
凡例 [002]

 

序章 「事大主義」という見方 003
  柳田国男の「日本人」像
  引き継がれる事大主義観
  韓国・北朝鮮批判としての事大主義言説

 

第1章 「国民」の誕生と他者表象 011
1 「事大」とは何か 011
  語源は『孟子』の一節
  朝鮮での「事大」の解釈
  儒教的安全保障論
  琉球での捉え方
  悪い意味ではなかった
2 福沢諭吉“造語説”の真偽 021
  漢語と訳語の組み合わせ
   『福翁自伝』で語られたこと
  明治維新直後の日朝関係
  甲申政変への福沢の関与
  福沢のいう事大主義
  一人歩きする事大主義
3 朝鮮に対する全体表象へ 033
  日清戦争
  「国民」の成立
  「他者」としての朝鮮の発見
  陸奥宗光の「事大」観
  「頼る」という意味の定着
  「事大根性ぜんぜん呈露す」

 

第2章 反転する「事大主義」――他者喪失によるベクトルの内向 045
1 韓国併合と意味の変質 045
  日露戦争勝利の内的リアクション
  他者喪失としての韓国併合
  事大主義普遍説
  反転しなかった人々
  朝鮮独立運動と事大主義観の変化
2 「島国」の国民性 058
  柳田国男の捉えた事大主義
  非主体性としての意味の確定
  「島国」という特性
  「日本=島国=事大主義」観の形成
3 大正デモクラシーと事大主義批判 067
  日本人の克服対象
  辛亥革命北一輝の事大主義観
  普通選挙導入への危惧
  事大主義の打破が叫ばれた衆議院総選挙
  政治教育と青年団運動
  政治改良論としての柳田民俗学構想
  女たちの事大主義批判

 

第3章 沖縄「事大主義」言説を追う――「島国」をめぐる認識の相克 087
1 沖縄はかく「発見」された 087
  共通課題の発見
  沖縄の自画像
  折口信夫の日琉同祖論
2 伊波普猷沖縄県民性論 095
  「事大主義」は自称か
  県民性という理解
  アイデンティティの模索
3 軍からの眼差し 104
  陸軍首脳への現地報告
  事大主義観の暴力性

 

第4章 戦後日本の超克対象として――「事大主義」イメージの再生 109
1 敗戦前後の事大主義観 109
  国民性論からの乖離
  ファシズムへの警鐘
  山川菊栄の一貫性
  「一億総懺悔」と「悔恨共同体」
2 新憲法論議の中の「事大主義」 118
  日本国憲法教育基本法
  敗戦要因としての事大主義
  白熱する事大主義論争
  国民性論への回帰
3 「良き選挙民」を育てるために 128
  戦後民俗学の新目標
  想定された民俗
  「なんぼ年寄りでも、是は確かに臆病な態度であつた」
  マス・コミュニケーションに抗せよ
4 戦後沖縄の自己表象と事大主義言説 198
  アメリカ施政下での自己認識として
  「自分で事大を主義などといったわけではない」
  読み替えの陥穽
  県政界の他者化
  現状から考えさせられたこと

 

第5章 朝鮮半島への「輸出」――南北対立の中の事大主義言説 151
1 ふたたび「他者」となった韓国・北朝鮮 151
  朝鮮の解放・分断
  日本統治下の事大主義言説
  限定的な情報
  想起される「事大主義」
2 南北いずれが事大主義か 160
  朴正煕の登場
  北朝鮮の反応
  対概念としての「主体思想
  民俗の否定
  「漢江の奇跡」と事大主義言説の変化
3 先鋭化する「事大主義」 
  イデオロギー化の恐怖
  金泳三の粛清理由
  朴正熙が仕掛けた政敵排撃
  「亡国」の論理として

 

終章 “鏡”としての近現代東アジア 185
  戦後日本の事大主義イメージ
  「事大主義」から「事小主義」へ
  「空気」を読む
  本当に国民性なのか
  「事大主義」を超えて

 

あとがき(二〇一九年三月四日 「平成」の終焉を来月に控えて 室井康成) [197-201]
参考文献 [203-212]

 

 

 

【メモ】
語源。「梁惠王 下」から

 齊宣王問曰:「交鄰國有道乎?」
  孟子對曰:「有。惟仁者為能以大事小,是故湯事葛,文王事昆夷。惟智者為能以小事大,故太王整事獯鬻,勾踐事吳。以大事小者,樂天者也;以小事大者,畏天者也。樂天者保天下,畏天者保其國。《詩》云:『畏天之威,於時保之。』」
  王曰:「大哉言矣!寡人有疾,寡人好勇。」

孟子/梁惠王下 - 维基文库,自由的图书馆

 

 

・この記事では著者の名前の読みを「Yasunari」としておいたが、こちらの書評の末尾で松岡正剛は、「Kousei」としている。ただ、著者のresearchmapのURL("https://researchmap.jp/muroikosei")とヘッダー部での氏名表記において、名前の読みが異なっているので、このように読み手が混乱してしまうのは仕方ないかもしれない。



 

 

 

 

『人種は存在しない――人種問題と遺伝学』(Bertrand Jordan[著] 林昌宏[訳] 中央公論新社 2013//2008)

原題:L'humanité au pluriel : La génétique et la question des races (2008)
著者:Bertrand Jordan(1939-) 分子生物学
監修:山本 敏充[やまもと・としみち](1959-) 法医遺伝学、ヒト集団遺伝学。 
訳者:林 昌宏[はやし・まさひろ](1965-) 翻訳。
装丁:細野 綾子[ほその・あやこ] ブックデザイン、タイポグラフィー。 
件名:人種学
件名:人類遺伝学
NDLC:SA51 科学技術 >> 人類学 >> 形質人類学 >> 人種学
NDC:469.6 自然科学 >> 生物科学.一般生物学 >> 人類学 >> 人種学.人種系統.人種分類学

 

人種は存在しない -ベルトラン・ジョルダン 著 山本敏充 監修 林昌宏 訳|単行本|中央公論新社

人種は存在しない -人種問題と遺伝学

人種は存在しない -人種問題と遺伝学

 

 

 【感想】
 現存する人種問題について(そして人種概念について)、要点を押さえキレイにまとめてある一般向け科学随筆。

 

 

【目次】
目次 [001-003]
凡例 [004]
謝辞 [006]
はじめに [007-011]

 

第1章 人種および人種差別に関する小史 013
啓蒙の世紀〔フランスの十八世紀〕における人種と人種差別
ピノー ――強烈なイデオロギーを打ち立てる
不本意ながらの「単一起源論」
「理論的に明らかで、永続的で消し去ることのできない」不平等
人種差別主義者の進化に関する解釈
人種差別と優生学
ナチズムからの転機

 

第2章 人種は明白なものか 031
アメリカにおける人種
人種の壁を超えるという神話
人種の特性
近代的な表現に変わる
根本的な間違い
あやふやな言葉の定義

 

第3章 科学は人種を否定する 047
「科学を装った人種差別」
ゲノムの読み取りと人間の多様性
小さな差異が大きな相違となるのか

 

第4章 差異と格差 055
われわれのDNAの構造
どの親もまったく異なるのか、まったく同じなのか
ゲノム、病気、疾病率、疾病からの保護
ハンディキャップが利点に
環境、それとも遺伝か
知能と知能指数(IQ)――複雑怪奇
厳密な実験をおこなうための条件
ほとんど意味のない研究
不平等と序列

 

第5章 ヒト集団の多様性――最初の目印 075
ミニサテライト、DNAの繰り返し
マイクロサテライト(STRs)
母方と父方の家系――部分的ではあるが、隠されたものが見える
マイクロサテライト――ゲノム全体に対する最初のアプローチ

 

第6章 スニップスがヒト集団を定義する 085
われわれの種のまとまりを証明する……
そうはいっても、人種には多様性があるのでは……
祖先はさまざまなヒト集団からなる
祖先と「人種」

 

第7章 さらに詳しく解説するなら…… 101
スニップスの組み合わせがハプロタイプ
コピー数多型という新顔
それでもヒトに対する見方は変わらない

 

第8章 われわれはみな、クロマニョン人の子ども 113
ホモ・サピエンス・サピエンスの移動
創始者効果と遺伝的浮動
自然選択……
性交相手の自然選択!
人種が生まれるはずが、そうならなかったわけ

 

第9章 人種ビジネス 125
マーカーの組み合わせ
血縁調査、浮気検査……
魅力的で新たな未開拓事業――祖先探し
アフリカ系アメリカ人が、こうしたサービスを利用するわけ
アメリカ先住民出身者の要求
アファーマティブ・アクション積極的差別是正措置〕が抱える矛盾
改良の余地があるテクノロジー
イデオロギーがもたらすもの

 

第10章 犬とヒト 139
犬の起源は新しい
犬種は、ヒトがつくり出した
誘導された自然選択の威力
それではヒトは、どうなっているのか

 

第11章 「人種」と病気 147
遺伝子、病気、成績、行動様式
スニップスは、しばし遺伝子に影響をおよぼす(しかし、それは稀である)
個人から集団へ
特定のヒト集団における歴史的な突然変異
バイキングの病気
アシュケナージ中欧および東欧系〕のユダヤ人の病気……
複雑怪奇な多因性遺伝子疾患
かなり特徴的な違いもある
しかし、おそらくそれは例外だ……
「人種」は医学的な指標になるか
「人種」と病気との微妙な相関関係

 

第12章 「特定ヒト集団用の」医薬品 165
新しいのは名前だけの新薬
アフリカ系アメリカ人だけを対象にする臨床試験
儲けに絡んだ対象設定
いわゆる特定ヒト集団用の医薬品に流行の兆し
疑わしい特殊性、イデオロギーに満ちあふれた見方が影響力をもつ

 

第13章 「人種」と能力 175
アフリカ人の知能指数は、「遺伝的に劣っている」のか
筋肉隆々だが(頭の中身は?)
リフトバレー州〔アフリカ大陸の東部〕のマラソンランナー
西アフリカの短距離走者は
一卵性双生児と二卵性双生児に助けを求める
分類では人を定義できない

 

第14章 旅の終わり 187

 

註 [195-208]
詳細目次 [209-211]
監修者あとがき [212-215]
訳者あとがき [216-218]
専門用語解説 [219-223]
参考資料――参考文献とウェブサイト [224-237]

 

 

 

【抜き書き】

 

・「はじめに」を少し長めに。本書の目的と、本書と類書との違いが分かる。下線は引用者による。

   はじめに

 最近、フランスでは「民族統計」を作成してはどうか、という議論がある。このような統計を作成すれば、雇用状況や住宅事情に関する社会的な差別の実体が明らかになるという。そうした提案がなされること自体、人種が相変わらず社会問題になっている証拠だ。もちろん、その際に「人種」という直接的な言葉が用いられることはない……。人種という言葉は、人類が同胞に対して犯した忌まわしい過ちを想起させる。〔……〕。さらに、その定義もきわめて杜撰だ。というのは、身体的な特徴、遺伝的特性、生活様式、文化という多様な要素を一緒くたにしているからである。
 以上のような理由から、人種という言葉は、少なくともわが国では政治的に正しくない表現になっている〔……〕。だが人種は、われわれの社会に内在化されたものであるかのように、周期的に話題になっている。そうした経緯を踏まえながら、本書はこの厄介なテーマを取り上げる。
 人種が今でも時事問題であり続けるのは、人種差別に反対する人々が展開する議論に、しばしば説得力が欠けるからではないだろうか。彼らの議論をまとめると、次のような感じだ(かなり単純化して言えば、である)。「人種など存在しないことは、科学が示すところだ。したがって、人種差別が存在する理由などない」【1】。このような発言は、ヒトの遺伝子はほとんど同じであるという科学的事実に依拠している。しばしば指摘されるように、無作為に選んだ二人の人物のDNAは、九九・九%が同型だ【2】。
 しかし、実際に街を歩けば、「黒人」、アラブ人、アジア人に出くわす。より科学的な観点から述べると、〇・一%の差異といえども、ヒトのDNAに含まれる三十億個の塩基【3】のうち、三百万個が異なるのだ……。この違いだけで、ヒトは明確な多様性をもつと考えられている。これを詳細に眺めると、たとえばDNA内の遺伝的多型マーカーを分析すれば、DNAレベルでヒトの集団を定義することができる。これは人種というよりも、人々の出身地域、祖先あるいは「祖先マーカー」を特定することである。これについては後述する。
 〔……〕現在では、ある人物から採取したDNAを詳細に分析すれば、その人物の祖先は、おもにアフリカ出身者であるか、ヨーロッパ出身者であるか〔……〕、ということがわかるようになった。とはいっても、これは「ヒトを人種に振り分けることができる」ことを意味するのではない。また人種間に存在する「論理的かつ明快で、消し去ることのできない永続的な序列」を指し示すのでもない。
 今日の科学の貢献をできる限り広く一般に周知させるために、本書では明らかになった事実を詳細に紹介しつつ、あらゆるタブーを排除し、これらの問題を解説する。今日の科学と強調したのは、それらのデータは最近になって明らかになったからだ。〔……〕それらのデータにより、これまでの断片的な情報でなく、総合的で信頼性の高い新たな情報収集が可能になり、ヒトのDNAの多様性について、包括的な研究がおこなえるようになった。またヒト遺伝子の構造に関する理解も深まった。
 本書ではまず、十九世紀に理論づけられた人種差別を中心に、その歴史をざっと振り返る〔……〕。本書では、一般に「人種」によって語られることについて詳細に述べる〔……〕。
 次に、人種差別に反対する人々の観点について語る。これは第二次世界大戦後に席巻した「環境絶対主義」や「文化絶対主義」という観点である。そして過去二十年間に蓄積されたヒトゲノムに関する分析結果から、個人レベルで人類に生じる不平等について問題提起する。その際に、ヒトのDNAの多様性や、個人を明確な集団に振り分けることができるのかどうかについて、最新のデータを利用して詳述する。次に、新たなタイプのヒトが登場する可能性について検証する〔……〕。仮に人種が存在するのなら、それが科学的に何を意味するのかについても判明するだろう。
 次に、属するヒト集団や遺伝子の違いによって、罹りやすい病気について探る。また、患者が属する祖先ヒト集団から導き出せる情報に医学的価値があることについて述べる。そして属するヒト集団によって不平等が生じるのかという問題について再び論じ、生物学的な観点からこうした考え方に、はたして意味があるのかどうかについて考える。
 今日、ヒト集団のゲノムの多様性について、どのように語ればよいのだろうか。われわれの社会組織にとって、ゲノムの多様性から導き出せる結論とは何だろうか。本書は、これらの重要な疑問に対する答えを見出しながら議論を進めていく。

 

・本書のスタンスは以上の通り。すこし珍しい。

 一般的な反・人種差別の本の例として、師岡康子(2013)『ヘイト・スピーチとは何か岩波書店 がある。この書籍では「一般に普及している人種分類は、実は科学的には歪で無効だ」というスタンスから、ヘイトスピーチ反対論が展開される。

 

 

【メモランダム】

・人種と構築主義についての記事。本書に直接の関係はそこまで濃くないが、上記抜粋部分と強く関係している。

 

道徳的動物日記 2020-09-11 人種は存在しない…のか?

https://davitrice.hatenadiary.jp/entry/2020/09/11/141318

 

 

 

『リバタリアニズム――アメリカを揺るがす自由至上主義』(渡辺靖 中公新書 2019)

著者:渡辺 靖[わたなべ・やすし] (1967-) 現代アメリカ研究、パブリック・ディプロマシー論、文化政策論、文化人類学

 

リバタリアニズム|新書|中央公論新社

 


【目次】
目次 [iii-vii]
題辞 [002]

 

第1章 リバタリアン・コミュニティ探訪 003
1 フリーステート・プロジェクト 004
  ニューハンプシャーに移住しよう
  「リバティ・フォーラム」
  若者の間で高まるリバタリアン志向
  なぜリバタリアン
2 人類を政治家から解放しよう 024
  シーステッド構想
  祖父はミルトン・フリードマン
  アメリカから“独立”した市
  自由と市場主義を徹底した先に

 

第2章 現代アメリカにおけるリバタリアニズムの影響力 043
1 「デモクラシー・ギャング」から身を守れ 044
  『のんきなジョナサンの冒険』
  リヴァイアサンではなくペンギンを
  アイン・ランドとは何者か
  トランプ大統領も愛読?
  慈悲深いリバタリアン
2 「私、鉛筆は」…… 062
  リーズン財団
  ミーゼス研究所
  リバタリアンは「非寛容」?
  経済教育財団
  もし自由を信じているなら

 

第3章 リバタリアニズムの思想的系譜と論争 081
1 自由思想の英雄たち 082
  ノーラン・チャート
  リバタリアンを分類すると
  リバタリアン通奏低音
  源流はヨーロッパにあり
  なぜアメリカで隆盛となったのか
  リバタリアニズムへの懐疑
2 自由は不自由? 099
  「縁故資本主義」
  ベーシック・インカムを容認する声も
  差別是正に政府は関与すべきか
  平和への異なるアプローチ
  「共和党こそ道を踏み外している」
  サンデルへの不満
  「リバタリアンパターナリズム

 

第4章 「アメリカ」をめぐるリバタリアンの攻防 117
1 アレッポって何? 118
  レーガン大統領は英雄か?
  リバタリアンとしてのゴールドウォーター
  四六ドルの下着
  政府の暫定的な政策ほど恒久的なものはない」
  ケイトー研究所
  リバタリアンの聖地
  「センター」の時代の終わり?
2 アメリカのムッソリーニ 137
  「トランプの党」に変貌する共和党
  ペイリオコンと「アメリカ第一主義
  「独裁制への小さな一歩」
  ローティの慧眼
  「「アメリカ第一主義」ならもっと移民を」
  フリーダムフェスト
  ジョージ・ウィル参上
  コーク兄弟の危機感

 

第5章 リバタリアニズムの拡散と壁 157
1 越境する「アイデアの共同体」 158
  中国のリバタリアン
  天則経済研究所の受難
  好対照の香港
  アトラス・ネットワーク
  シンクタンクインキュベーター
  越境するリバタリアン
2 自由への攻防 177
  中米の名門大学も
  「リベルランド」の挑戦
  「アイデンティティの政治」と「ポピュリズム
  マッカーシズム2・0
  「リベラル国際秩序」はリベラルか
  ミレニアル世代という課題

 

あとがき(平成最後の秋に 鎌倉にて 渡辺靖) [195-203]
  なせリバタリアニズム
  日本社会への含意
  より選択肢の多い社会へ
主要参考文献 [204-207]
索引 [208-213]

 

 

【抜き書き】

題辞は、Abraham Lincoln のことば。

私たちは皆、自由を謳い上げます。しかし、同じ言葉を用いているからといって、同じ意味で用いているとは限りません。
("We all declare for liberty, but in using the same word we do not all mean the same thing.")
  ――エイブラハム・リンカーン (一八六四年)

 

・巻末の214頁から初出情報を抜き書き。

本書は『中央公論』(二〇一八年四月号 二〇一九年一月号) に連載された「リバタリアンアメリカ 「保守」と「リベラル」を超えて」(全10回)を再構成のうえ加筆・修正したものです。