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『飯田のミクロ』(飯田泰之 光文社新書 2012)

著者:飯田 泰之[いいだ・やすゆき] 経済政策。
NDC:331:経済学.経済思想
レーベル:光文社新書;606
シリーズ:新しい経済学の教科書;1
備考:新書内の「新しい経済学の教科書」シリーズは、ざっと調べた限り、この一冊で打ち止めのようだ。
 また同著者による続刊は『マクロ経済学の核心』(2017年)と題されており、『飯田のマクロ』ではなかった。やはり「新しい経済学の教科書」というシリーズ名は復活しなかった。



飯田のミクロ 飯田泰之 | 光文社新書 | 光文社


【目次】
はじめに
目次


第1章 出発点から考える経済学 
①経済学とその思考法の思想的基礎 
  個人主義自由主義
  皆の幸せを願うのも利己的
  主観価値説
  「合理的な主体」について
  資源は希少である
  欲しいものは必ず誰かの所有物
インセンティブから導かれる経済原理
  損得勘定による行動
  ノーフリーランチの原則
  短期と長期について
  長期定常状態となるレート
  購買力平価の調整機能
  金融市場による裁定
  通貨自体に上昇・下降トレンドはない
③経済学はここから始まる?
  制約付き最適化問題
  哲学用語が出てくるワケ
  絶対優位から比較優位へ
  貿易は鎖国よりマシだから行われる
  機会費用という発見
  再び立ちはだかる有限性の壁
  数学は表現に便利な“ツール”
  比較優位説を数式で説明
  生産量の可能な範囲を示すグラフ
  目標は世界全体の生産最大化
  モデル計算の仮定に注意 


第2章 個別主体の行動原理 
①個人は予算制約の中で幸せを目指す
  他人のことは気にしない
  個人の目的は幸福
  追加からの喜び限界効用
  効用が同じになる「等高線」
  効用の帳尻が合う比率
  欲望の追求には制約がある
  最適消費を図形で見る
  最適消費の論理的解釈
②消費者理論から需要関数へ
  価格と消費の関係
  変化の度合いを表す「弾力性」
  価格変化の影響を図で理解する
  上級財と下級財
  労働の供給者としての個人
  経済的な豊かさと幸福
③企業の利潤最大化行動と供給関数
  企業は利潤最大化の主体か?
  買収の対象となる企業
  プライス・テイカーの仮定
  費用最小化行動と費用関数
  利潤最大化行動と供給曲線候補
  利潤最大化条件を解く 


第3章 競争的な市場が望ましい理由 
①完全競争市場の効率性
  交換経済を単純化して考える
  経済全体で支出と収入は等しくなる
  現実でも役立つワルラス法則
  2人2財の経済を図で表す
  完全競争下の市場均衡
  誰かが得することで損する人はいるか?
  パレート最適性は最適配分の必要条件
  厚生経済学の第一基本定理
  パレート最適は無数にある
  市場経済は計画経済よりも優位にある
②生産経済の効率性
  再び生産可能性集合
  海外との取引
  貿易が経済を拡大する
  比較優位説とは何だったか
一般均衡から部分均衡へ
  経済学と功利主義 部分均衡分析
  均衡に向かう価格調整
  幸福の金銭換算
  消費者と生産者の余剰
  需給の均衡点で総余剰は最大
  政府の補助政策
  余剰分析の使い道


第4章 競争条件と企業の行動 
①不完全競争市場はなぜ問題か 
  パレート非効率を生む価格支配力
  価格支配者の都合で決まる
  効用を改善する余地ができる
  需要曲線に見るプライス・テイカ
  独占企業の利潤最大化
  限界収入は急低下
  独占による経済厚生の減少
②不完全競争下の企業行動
  寡占~他社との行動の読み合い
  寡占市場の数量競争
  無限の「読み合い」の落ち着き先
  リーダー企業はなぜ得か
  価格競争は地獄か天国か
  相手の反応を考慮した競争回避方法
③経済学における競争戦略論 
  独占企業は万能ではない
  利潤確保のためのカルテル行動
  競争回避策① ニッチ市場
  競争回避策② 差別化
  競争政策の2つの考え方


第5章 競争的な市場が望ましくない場合 
①公益事業のかかえる問題 
  再び費用関数
  損失が出ても生産を続ける領域
  自然独占問題の発生
  最善の規制が非効率を招く
  インセンティブを与える規制
②外部性と公共財 
  外部性における2つの費用
  外部経済解決のための内部化
  コースの定理ピグー政策か
  公共財と“タダ乗り”
  公共財の最適供給条件
③情報の非対称性 
  逆選択~隠された情報の問題
  逆選択への市場の対応
  モラル・ハザード~隠された行動の問題
 インセンティブを低下させる策
④経済学は再分配政策を語り得るか 
  市場の失敗としての格差問題
  出生・生育環境への保険は可能か?
  再分配を語る難しさ~経済学に言えること


おわりに




【抜き書き】
・「はじめに」冒頭部分は、本書のPRポイントを長々と書き連ねた箇所。おそらく、まさに立ち読みしている層に向けた文なのだと思う。

主流派経済学(年配の読者にとっては近経といった方がなじみ深いかもしれません)への不信もかつてないほどに強くなっていると言っていいでしょう。これまでの経済学を激しく批判し、時に罵りながら自説を展開している本も増えています。〔……〕これらの経済書をいくら読んでも何かを「わかった」という実感が得られなかったという人も多いのではないでしょうか。これらの時論において批判対象の議論はもとより、その依拠する理論についてさえ詳細な解説が行われることは希〔まれ〕です。また、経済書の購読層(時には執筆者さえも!)もその基礎となる理論を十分に理解しているようには思えないことも少なくありません。
 〔……〕本書は経済学の基礎を理解するための本です。直接的な政策提言や日本経済復活の方法は述べられていませんし、試験対策のための参考書でもありません。〔……〕直接的な提言や答えがないことこそ重要なのです。
 経済学の基礎を理解した上で自分の頭で経済学的な思考ができるようになれば、誰かの主張のコピーではない、オリジナルの政策提言が生まれるかもしれません〔……〕。あえて基礎だけをゆっくりと学ぶことで見えてくるものがあるのです。本書はその機会を提供することを目指しています。
 このような基本の「キ」から経済学を学ぶのに適切な、日本語の入門書はまだまだ少ないように感じます。多くの「経済学の教科書」は、大学院レベルの教科書を読むための準備編の色彩が濃かったり、単位取得や資格試験向けの構成をとっています。つまりは、教科書が「経済学を勉強するしかない人」のための本になってしまっていて、「経済学を勉強したい人」のためのものになっていないのです。
 本書を手にとっていただいている皆さんの中には、必要に迫られて経済学を勉強するわけではない方も多いでしょう〔……〕。このような方の興味には、従来の「経済学の教科書」は応えてくれない。本書が目指すのは、「教養としての経済学を学びたい人」が「標準的な経済学」を基礎から学ぶための本です。



・関門としての数学、関門としての経済学的な思考法。

 ちょっとした興味・関心をもって、経済学を学ぶ際にぶつかるハードルは二つです。その第一は〔……〕まずは数学です。
 しかし、経済学にとって数学は本質的な問題ではありません。経済学における数学は本来議論を「簡単に」「わかりやすく」するために用いられています。わかりやすさのためのツールが、逆に理解の妨げになってしまっては何にもなりません〔……〕。数学・図を用いて解説が進む部分は、数学・図の方がわかりやすい人は式と図で、かえってわかりにくいという人は文章のみで理解できるように二重に記述をしています。
 〔……〕筆者は縁あって人文系の評論家の方と仕事をさせていただくことが多いのですが、経済学への抵抗感は多くの経済学者の想像とは別のところにあると感じます。経済学を学ぶもう一つの、そして本質的なハードルは、多くの入門書(の筆者である経済学者)がいわば無意識的に採用している経済学的な思考法や価値観にあるのです。
 当の経済学者たちも、景気分析や政策提言をする際に、それがどのような価値観から、そしていかなる思考のパターンによって導き出されているのか、明確にしてこなかったことがこの問題に拍車をかけています。
 そこで本書では、初めに経済学の前提とする思想的基礎について、これまでの入門書ではほとんど見ないくらいの紙幅を割いて説明していきます。さらに、個々の経済理論を説明する際にも、それぞれの前提となっている価値観について説明し、いちいち経済学の典型的な思考のステップを踏んで解説しました。〔……〕



・まずはミクロから学ぶこと。

 本書はミクロ経済学に関して、大学の学部で学ぶ標準的な内容を解説しています。〔……〕経済学の価値観と思考法を身につけることを重視するならば、ミクロ経済学こそが経済学入門の一冊目にふさわしいと考えます。
 〔……〕経済成長と景気変動を取り扱うマクロ経済学は、あくまでミクロ経済学を応用した一つの分野(ただし最大にして最重要の応用分野だとは思います)にすぎません。マクロ経済学のひとつひとつの想定にはミクロ経済学的な基礎があります。
 筆者の専門はマクロ経済学と、それを応用した政策分析です。そのため、ミクロ経済学については研究者というよりユーザーであると言ってよいでしょう。ミクロ経済学について、そのユーザーの視点から解説しているというのも本書の大きな特徴です。そして、そのためかマクロ経済学の基礎となる一般均衡分析について比較的詳細な説明を加えています。その意味で、本格的なマクロ経済学を学ぶ前の準備としても是非ご一読いただければと思います。