contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『三八式歩兵銃――日本陸軍の七十五年』(加登川幸太郎 ちくま学芸文庫 2021//1975)

著者:加登川 幸太郎[かとがわ・こうたろう](1909-1997) 戦史研究家
解説:一ノ瀬 俊也[いちのせ・としや] (1971-) 日本近現代史軍事史・社会史)。
装丁:神田 昇和
装画:着剣した三八式歩兵銃を手に歩哨に立つ兵士(1937.09.11 馬廠、毎日新聞社
NDC:396.21 日本の陸軍史


筑摩書房 三八式歩兵銃 ─日本陸軍の七十五年 / 加登川 幸太郎 著


【目次】
図 [002-003]
地図 [004-005]
目次 [007-008]


第一章 肉弾 011
  臥薪嘗胆の一〇年
  日露開戦
  満州軍総司令部
  旅順要塞の攻囲戦
  第一回総攻撃
  さらに強襲
  第二回総攻撃
  二〇三高地をねらえ
  第3軍、第三回総攻撃を企図
  白襷隊
  二〇三高地
  血の出る二〇三高地
  奉天会戦日本海海戦


第二章 明治の新軍 050
  明治新政府は生まれたが……
  御親兵と鎮台兵
  矢継ばやの軍事政策
  不公平な徴兵
  軍旗
  内乱頻発と鎮圧
  西南戦争
  熊本籠城
  田原坂
  後装施綫〔ごそうしせん〕銃の出現
  近衛砲兵の反乱
  フランス的将軍の言動
  軍人勅諭


第三章 国防軍を目指して 088
  北の護り、屯田兵
  屯田兵西南の役に出動
  国際的舞台に
  陸軍卿自ら兵制視察に
  メッケル少佐――ドイツ兵学の導入
  ドイツ方式で軍制改革
  軍制改革・師団編成の採用
  士官教育のこと
  勤勉だった青年将校
  制式銃砲の制定――村田銃の出現
  火砲の国産化


第四章 日清戦争 127
  彼我の兵備
  日清海戦、陸海で勝利
  宣戦布告
  平壌に進撃
  黄海の海戦
  旅順強襲
  直隷決戦を前に休戦
  三国干渉
  北清事変
  講和はできたが……
  日本本土の防衛
  東京湾の防備
  清国艦隊の脅威と要塞
  さらに大きいロシア艦隊の脅威


第五章 日露戦争 165
  陸軍の拡張
  海軍の準備
  三十年式歩兵銃と速射野(山)砲
  軍需生産の状況
  弾薬の質を落とせ
  ロシア軍の新式野砲
  新式火砲購入
  保式機関砲
  万事は人力で  
  

第六章 日露再戦に備えて 190
  平時兵力を増強
  陸軍常設部隊配置の原型
 [表]陸軍平時常設軍隊の編号・部隊名・配置 [198-202]
  満州と韓国
  憲兵政治はじまる
  三八式火砲群の誕生
  四一式山砲
  野戦砲兵の主体を野砲に
  三八式歩兵銃・騎銃
  三八式機関銃
  新機関銃の開発
  騎兵用の銃
  火砲製造に着手
  三八式野砲の整備
  海岸要塞整備


第七章 攻擊精神 235
  勝って兜の緒を締めて
  日露戦争に勝てた理由
  明治四十二年の歩兵操典
  「歩兵操典」の理念
  頼りになるのは歩兵だけ
  むなしかった機械化の発送
  軍隊教育の主義
  陸軍と海軍
  軍隊はつらいところ
  人のいやがる軍隊で……
  攻撃精神偏重は危険思想


第八章 藩閥軍閥をたおせ 264
  陸軍の仮想敵はロシア
  海軍の仮想敵は米国
  国防方針などの検討
  所要兵力量決定の経緯
  朝鮮に二個師団を
  陸軍、内閣をたおす
  薩長閥、横暴
  薩の海軍、長の陸軍
  海主陸従の時なり
  ロシアとの関係改善
  陸海軍商店論
  長閥のあとに薩閥
  憲政の運用に支障あり
  海軍またも“宝刀”を抜く
  軍人の株、大暴落
  陸軍の“アキレス腱”
  軍備充実計画と補充
  士官学校出を減らせ
  陸軍の派閥抗争
  窒息しそうな陸軍
  陸軍の五大閥
  陸軍の学閥
  陸軍の兵科閥


第九章 世界大戦 313
  ヨーロッパに戦雲動く
  世界大戦と日本
  極東のドイツ勢力
  三八式歩兵銃の初陣
  青島攻撃戦
  ドイツ軍を圧倒
  青島のその後
  一九一四年(大正三年)
  速戦即決ならず
  一九一五年(大正四年)
  日露戦争とは桁ちがいの欧州戦争
  大正四年(一九一五年)
  一九一六年(大正五年)
  大正五年(一九一六年)
  一九一七年(大正六年)
  大正六年(一九一七年)
  機関銃隊の誕生
  一九一八年(大正七年)
  世界大戦の決算


第十章 二流に墜ちた陸軍 358
  航空大隊の創設
  飛行機は飛ぶものか?
  航空大隊の増加
  歩兵兵器の開発
  日本の砲兵は……
  四年式十五糎榴弾砲
  日本の砲兵部隊
  大正八年(一九一九年)
  陸軍の軍備改変
  陸軍通信部隊の遠隔
  陸軍技術本部の兵器研究方針
  軍の機械化
  魅力のなくなった陸軍


第十一章 騒乱のアジア大陸 399
  北方軍閥
  安直戦争
  三八式歩兵銃、大陸に戦う
  支那軍の装備兵器
  泰平組合の兵器輸出
  蒋介石の登場
  三八式歩兵銃、シベリアに戦う
  シベリアの政情
  極東全域の統一なるか
  反過激派の諸党派
  チェコ・スロバキア
  連合国軍の出兵
  大戦は終わったが
  コルチャックの登場
  大正八年のシベリア
  ウラル戦線の白衛軍
  コルチャックの横死
  尼港の惨劇
  ザバイカルの栓


第十二章 停頓する陸軍 446
  民衆に向けられた三八式歩兵銃
  軍備縮小へ
  陸軍の軍備縮小
  宇垣軍縮
  陸海軍の軍備は、どれだけ減ったか
  宇垣軍縮で生まれたもの
  航空兵科の新設
  遅かった航空の独立
  大削減の砲兵
 [表]大正十四年軍備縮小後 陸軍平時常設軍隊の編号・部隊名・配置 [466-469]
  長老たちが障害か
  全く停滞した陸軍
  軍政改革論
  陸海軍省を併合せよ
  統帥権の干犯


第十三章 再びロシアをにらんで 491
  張作霖をどうする
  国民軍の北伐
  満州に戦火揚がる
  将兵は超一流
  満州国建国
  戦火、上海にとぶ
  爆弾三勇士
  上海派遣軍の増派
  万里の長城線へ
  昭和初期の歩兵兵器
  陸軍の主力砲兵をどうする
  フランス式火砲、直輸入
  九〇式野砲と九五式野砲
  高射砲の誕生
  軍の機械化宣言も空し
  国産軍用機
  どこまで続く、ぬかるみぞ
  国防第一線、満州国境に
  陸軍軍備の充実へ
  陸軍の実力は……
  肥満体の師団
  日本的な兵器


第十四章 日中戦争 556
  破天荒な兵器を考えろ
  射程一六〇キロの火砲
  “一九三六年の危機”
  青年将校
  二・二六事件
  軍備優先・先行
  本格的軍備充実
  四一個師団、一四二個中隊
  航空優先
  三単位師団とは……
  対ソ作戦を目標に兵器、器材を整備
  九六装甲作業機
  大密林、大湿地の突破
  長城を超えてから……
  背後を固めろ……
  二、三ヶ月で片づく……
  支那大陸を征く三八式歩兵銃
  「蒋介石を相手とせず」
  機動力のない陸軍
  軍需品生産力
  三八式歩兵銃のあとつぎ


第十五章 第二次世界大戦 612
  “火遊び”
  ノモンハンとは何処か
  第23師団の実体
  はじめての対砲兵戦
  期待の航空部隊は……
  航空撃滅戦
  ノモンハン事件の教えたもの
  ドイツの電撃戦の衝撃
  大東亜戦争への道
  戦争をするか……
  七年戦争
  歴史を変えた戦闘
  関東軍
  支那派遣軍


第十六章 戦力なき戦い 671
  ガ島の三八式歩兵銃
  強気の大本営
  意外な戦いの様相
  消耗戦に引きずりこまれる
  B17 “空の要塞
  発動艇
  戦闘機を……
  不沈航空母艦
  絶対国防圏の戦略
  絶対国防圏くずれる
  特攻
  唯一の神機
  終戦時の陸軍


主なる参考文献 [733]
あとがき(昭和四十九年十二月 加登川幸太郎) [734-739]
文庫版解説 兵たちへの鎮魂の賦(一ノ瀬俊也) [741-750]





【関連記事】

昭和維新試論』
『昭和維新試論』(橋川文三 講談社学術文庫 2013//1984) - contents memorandum はてな


『機械技術史』
『新・機械技術史』(日本機械学会[編] 丸善 2011) - contents memorandum はてな


『不死身の特攻兵』
『不死身の特攻兵――軍神はなぜ上官に反抗したか』(鴻上尚史 講談社現代新書 2017) - contents memorandum はてな






【抜き書き】

・解説から。

 著者は、日露戦争の終わった明治三八年に仮採用、翌年に制定され、太平洋戦争まで用いられた小銃・三八式歩兵銃を日本陸軍史の象徴と位置づける。それは、陸軍が装備の更新をろくに行えないまま、この古い銃をもって太平洋戦争に突入したからであった。著者にとっての三八式は、装備の更新を怠り精神力にひたすら依拠した陸軍の思考法を体現するものだった。本書の問題意識は、なぜそうなったのか、の一点にあるといってよい。

 一九三八年に制定された作戦要務令の「訓練精到にして必勝の信念堅く軍紀至厳にして攻撃精神充溢せる軍隊は能く物質的威力を凌駕して戦捷を完うし得るものとす」という一文は、陸軍の苦しい内情を浮き彫りにしている。満州事変後に軍事費が増え、陸軍は兵器の刷新に取り組んだが、真っ先に取り組んだのは軽機関銃でも小銃でもなく、〔将校が指揮に用いる〕軍刀であった。著者はこれを「何とも象徴的なことに思われる」という。軍刀は三八式の先端部に装着する銃剣と同様、陸軍の攻撃精神重視の「象徴」であった。