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目次とメモを置いとく場

『IoTとは何か――技術革新から社会革新へ』(坂村健 角川新書 2016)

著者:坂村 健[さかむら・けん](1951-) コンピュータ科学者。“電脳建築家”。
NDC:007.3 情報と社会:情報政策
NDC:547.4 有線通信
NDC:694.5 電気通信事業(データ伝送)


「IoTとは何か 技術革新から社会革新へ」坂村健 [角川新書] - KADOKAWA



【目次】
目次 [003-007]
はじめに [008-010]


第1章 IoTの登場 
1、IoTとユビキタス・コンピューティング 012
  IoTとは何か
  ハイプ・サイクル
  HFDSからユビキタス
  「インターネットのようにオープン」
  リアルタイムOSの必然性

2、世界をつなぐオープンシステム 028
  世界の組込みシステム化
  黒船来襲に驚く日本
  クローズなIoTとオープンなIoT
  曖昧なバズワードの潜在力


第2章 IoTの実用化とその可能性 
1、IoTの実証実験 040
  モノのトレーサビリティ
  食品から廃棄物までをもトレース
  モノのメンテナンスと汎用の重要性

2、オープンIoT 059
  インダストリー4・0
  インダストリアル・インターネット
  IoTからIoEへ――場所の認識
  目指すべき「IoE国土」日本
  建築のIoT化でプログラムできる環境を

3、IoTによるサービス 080
  サービス4・0
  2020年に向けた「おもてなし」の課題
  レガシーとなりうるサービス高度化インフラ
  既存インフラを積極的に活用
  プライバシーの概念とICカード
  組織や応用を超えたオープン性を
  クラウド展開の可能性
  クラウド化で実現するさまざまなユースケース
  CRMからVRMへ 


第3章 オープンとクローズ――日本の選択 
1、オープンのインフラがもたらす世界 110
  ベストエフォートとギャランティ
  TRONのオープン哲学
  オープンソースとオープンデータ
  情報公開の新たなスタイル
  Gov2・0の本質
  オープンAPIの効用
  世界でたったひとりにも最適化
  オープンな領域の広がり
  モノを全部インターネットで繫ぐ

2、IoTで製品はどう変わるのか 140
  オープンIoT時代のカメラ
  ナチュラル・ユーザインタフェース
  アグリゲート・コンピューティングとは何か
  オープンカメラAPI 

3、世界競争と日本のジレンマ 151
  国家レベルのプログラミング教育競争
  日本的ギャランティ志向
  オープン化とガバナンスの溝
  技術先行に陥る日本
  「データのガバナンス」と「制御のガバナンス」
  スマートグリッドの課題
  米国発のスマートグリッド構想
  日本型スマートグリッドの限界
  ガバナンス面での日本の弱さ

4、オープン・イノベーションを求めて 174
  既得権益を解体せよ
  革新を阻む日本型ビジネスモデル
  海外スマートフォン上陸の衝撃
  「スティーブ・ジョブズは、なぜ日本に生まれないのか」
  個人の権利から事業者側の義務へ
  ガバナンスチェンジの必要性 


第4章 IoT社会の実現と未来 
1、すべては「ネットワーク」と「識別」からはじまる 192
  実世界のモノ・空間・概念を識別する
  uIDアーキテクチャとucode
  場所概念の標準化
  ucodeとJANコードの違い
  ローカルからクラウド

2、アグリゲート・コンピューティング・モデルを目指して 208
  IoT化で主たる機能に特化
  ガバナンス管理が直面する矛盾
  エッジノードがクラウドに直結
  ホームサーバーが消える
  自立性を確保する新たなビジネスモデル
  ユビキタスからアグリゲートへ
  日本におけるオープンデータ実現のために


おわりに(2016年2月 坂村健) [229-237]
参考文献 [238-239]

『文化と心理学――比較文化心理学入門』(David Matsumoto[著] 南雅彦,佐藤公代[監訳] 北大路書房 2001//2000)

原題:Culture and Psychology: People Around the World, Second Edition. (Wadsworth, 2000)
著者:David Matsumoto 心理学。柔道。
監訳:南 雅彦[みなみ・まさひこ] 発達心理学
総合監修:佐藤 公代[さとう・きみよ] 発達心理学
訳者:中東 益映
訳者:マイケル 佐藤
訳者:深谷 恵子
訳者:木股 由香子
訳者:西田 宏美
訳者:今瀬 博
訳者:松下 景子
訳者:矢走 敦
訳者:細谷 路子
訳者:上野 真澄
訳者:永松 文美
カバーデザイン:林 律子[はやし・りつこ] (ラインアート日向)
件名:比較文化
件名:民族心理学
件名:文化心理学
NDC:361.5 社会心理学
備考:抄訳。
備考:公立図書館では文化心理学というキーワードが付されているが、「監訳者まえがき」では、文化心理学比較文化心理学が対照的に説明されている。


http://www.kitaohji.com/books/2220_5.html

比較文化心理学では,たとえば,感情を形成する際に,普遍性もしくは汎文化性(すなわち生得的要因)の基盤の上に,文化的差異(すなわち文化的要因)がどのように影響をおよぼしているかを研究する。その結果,文化の類似点や相違点を探るわけである。普遍性という概念と文化の相違を統合することが,本書の主題である。

【目次】
監訳者まえがき(2001年夏 カリフォルニア州サンフランシスコにて 訳者を代表して 南 雅彦) [ii-v]
目次 [vi-ix]


第1章 比較文化心理学への導入 001
心理学とはいったい何なのか 002
科学における知識と真理の創造 003
心理学における調査のプロセスを理解するということ 005
  研究と理論
  方法と知識の関係
比較文化研究と心理学 008
比較文化心理学の影響:多文化的観点をもつということ 012
  心理学の真理:心理学における文化改革
  自己の生活および他者との相互作用
本書の目的 015


第2章 文化の理解と定義 019
文化を定義することの重要性 019
日常言語における「文化」という用語の使用 020
  頻繁に使われる用語「文化」
  文化に影響されている生活の側面
  一般人のもっている文化の概念
  抽象概念としての文化
  周期的で活発な文化の性質
文化の定義 025
  過去の定義
  本書における文化の定義
    ダイナミック(活動的)
    規則システム
    集団と単位(さらに分割された下位群)
    生存
    共有
    態度,価値観,信条,規範,行動
    (集団のさらに分割された下位群である)単位間における解釈の相違
    次世代へと伝えられていき,比較的変化しにくいもの
    時代とともに変化する可能性
  どういった要素が文化に影響をおよぼしているのか
  「個人としての文化」と「社会的構成概念としての文化」
  文化 対 人格(パーソナリティ)
文化と多様性 033
    文化と人種
    文化と民族
    文化と国籍
    文化と性別
    文化と身体障害
    文化と性的嗜好
  大衆と大衆文化
普遍的文化の原理 対 文化特有の相違:エミックとエティック 039
自民族中心主義とステレオタイプ(固定的概念)への導入 042
文化を測定可能な構成概念に変えること 044
  文化を抽象的で不明瞭な構成概念から,具体的で有限の要素に整理し分類すること
文化の多様性における重要な「次元」の追求 046
    個人主義集団主義(IC)における理論的な研究
    個人主義集団主義(IC)に関する実証的実験
    個人主義集団主義(IC)の測定
心理学における文化の影響 053
結論 055


第3章 文化と自己 059
文化と自己概念 060
自己における異文化的概念化の一例:「自立している自己」と「相互依存的な自己」 063
  自立的観点からの自己解釈
  相互依存的観点からの自己解釈
  認知,動機,感情の影響
    自己認識の影響
    社会的解釈の影響
    達成動機の影響
    自己向上と自己喪失の影響
    社会的に内包された感情の影響
    社会的な内包と文化特有的感情の影響
    幸福の影響
批判的思考および自立した自己と相互依存的自己の分析評価 075
自立的観点からの自己解釈と相互依存的観点からの自己解釈を超えて:相関した自己概念と孤立した自己概念 078
多文化アイデンティティ 080
結論 082


第4章 文化と発達 083
「自文化」化と社会化 083
  文化と気質
    伝統的知識
    気質に関する比較文化研究
  文化と愛着行動
    伝統的知識
    愛着行動に関する比較文化研究
  文化,育児,親であること,家庭
    伝統的知識
    養育スタイルに関する比較文化研究
    経済機能として親であるということの多様性
    拡大家族
  気質,愛着行動,育児:まとめ
  文化と教育
    数学成績における国際比較
    数学能力における国際間較差について考えうる生物学上の原
    数学成績に影響を与える社会的・文化的要素
    言語
    学校制度
    親の価値観,家族の価値観
    生徒の態度と評価
    教師の教え方のスタイルと教師・学生の関係
    まとめ
  総合して考えると:文化と文化アイデンティティの発達
発達における文化と心理学的プロセス 105
  認知発達
    ピアジェの理論
    比較文化的観点から見たピアジェの理論
    ピアジェ理論の要旨と検討
    認知能力の発達に関する他の理論
  道德的推論
    コールバーグの道徳理論
    道徳的推論の比較文化研究
  社会的感情の発達
    エリクソンの社会的感情発達理論
    「自文化」化の意味でのエリクソンの理論
  その他の発達過程
結論 117


第5章 文化と感情 119
生活の感情の重要性 119
文化と感情表現 120
  顔の表情による感情表現の普遍性
  表情の中でみられる文化的相違:文化表示規則
  最近の感情表現と表示規則についての比較文化研究
文化と感情の知覚について 129
  感情認識の普遍性
  感情の知覚におけるさらなる異文化間類似性についての証拠
    「軽蔑」の普遍的表現法
    
    
  感情知覚における異文化間に存在する相違性の証拠
  感情の普遍性に対して感情知覚における文化的相違の意味するもの
文化と感情経験 140
  感情経験の普遍性
  感情経験上での文化的相違
文化と感情契機 146
  感情契機の文化的類似
  感情契機の文化的相違
  感情契機の類似と相違の共存
文化と感情評価 149
  感情評価の文化的類似
  感情評価の文化的相違
文化とその概念と感情のことば 153
  アメリカ人の日常生活における感情
  アメリカ人心理学者の観点からの感情
  感情の概念における異なる文化間における類似性と相違性

総括 160


第6章 文化と言語 163
言語と言語習得の要素 164
  言語の特性
  言語の習得
文化間の言語の相違 168
  文化と言語における語彙
  文化と語用論(プラグマティクス)
  要約 
言語と世界観:言語相関性の例 174
  サピア・ウォーフ仮説
  サピア・ウォーフ仮説を支持する初期の研究
  サピア・ウォーフ仮説に異議を唱える初期研究
  サピア・ウォーフ仮説を支持する最近の研究
  サピア・ウォーフ仮説へさらなる異議を唱える研究
  サピア・ウォーフ仮説:結論
バイリンガルにおけることばと行動様式 181
  バイリンガリズムバイリンガリズムに関するサピア・ウォーフ仮説の見解
  バイリンガリズムと米国
  バイリンガルにおける言語相対論の再考
  バイリンガルに関する誤解

結論 186


第7章 異文化間コミュニケーション 189
コミュニケーションの定義 190
コミュニケーションを構成している要素 191
  コミュニケーションの2つの形態
  符号化(エンコーディング)と符号解読(デコーディング)
  伝達経路,シグナル,メッセージ
コミュニケーション・プロセスにおける文化の役割 193
  言語的および非言語的行動エンコーディングにおける文化的な影響
  デコーディング・プロセスにおける文化的な影響
同一文化内コミュニケーション 対 異文化間コミュニケーション 194
  クロス・カルチュラル(比較文化)研究とインターカルチュラル(異文化)研究の相違点
  同一文化内コミュニケーション
  異文化間コミュニケーションのユニークな側面
効果的な異文化間コミュニケーションに向けて 205
  効果的な異文化間コミュニケーションの障害物
  異文化間コミュニケーション能力
  異文化感受性
  異文化間摩擦の対処法
結論 215


引用文献 [217-237]
人名索引 [238]
事項索引 [239-248]

『年収は「住むところ」で決まる――雇用とイノベーションの都市経済学』(Enrico Moretti[著] 池村千秋[訳] プレジデント社 2014//2012)

原題:The New Geography of Jobs (Houghton Mifflin Harcourt)
著者:Enrico Moretti(1968-) 労働経済学、都市経済学。
訳者:池村 千秋[いけむら・ちあき] (1971-) 翻訳。
解説:安田 洋祐[やすだ・ようすけ] マーケットデザイン、ゲーム理論
編集:中嶋 愛[なかじま・あい]
装丁:岡本 健 +  [おかもと・つよし] デザイン。
制作:関 結香
件名:労働市場--アメリカ合衆国
件名:技術革新
件名:都市経済学
NDLC:EL117
NDC:366.253 社会 >> 労働経済.労働問題 >> 労働力.雇用.労働市場:就業人口,労働移動 >> 北アメリ


年収は「住むところ」で決まる | PRESIDENT STORE (プレジデントストア)


【目次】
目次 [002-006]


日本語版への序章 浮かぶ都市、沈む都市 008
  三〇年で人口が三〇〇倍になった都市
  製造業で雇用が失われても問題ない
  繁栄の新しいエンジン
  給料は技能のり「どこで住んでいるか」で決まる
  なぜイノベーション産業は一極集中するのか
  人的資本をめぐる競争


第1章 なぜ「ものづくり」だけでは駄目なのか 032
製造業の衰退は人々の生き方まで変えた
リーバイスの工場がアメリカから消えた日
高学歴の若者による「都市型製造業」の限界
中国とウォルマート貧困層の味方?
アメリカの製造業の規模は中国と同じ
結局、人間にしかできない仕事が残る
先進国の製造業は復活しない


第2章 イノベーション産業の「乗数効果」 064
イノベーション産業の規模と広がり
エンジニアが増えればヨガのインストラクターも増える
ハイテク関連の雇用には「五倍」の乗数効果がある
新しい雇用、古い雇用、リサイクルされる雇用
本当に優秀な人は、そこそこ優秀な人材の100倍優れている
アウトソーシングが雇用を増やすこともある


第3章 給料は学歴より住所で決まる 102
シアトルとアルバカーキの「二都物語
イノベーション産業は一握りの都市に集中している
上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い
隣人の教育レベルがあなたの給料を決める
「大分岐」と新しい格差地図
健康と寿命の地域格差
離婚と政治参加の地域格差
非営利事業の地域格差


第4章 「引き寄せ」のパワー 160
ウォルマートがサンフランシスコを愛する理由
魅力的な都市の条件その1――厚みのある労働市場
魅力的な都市の条件その2――ビジネスのエコシステム
魅力的な都市の条件その3――知識の伝播
頭脳流出が朗報である理由
イノベーションの拠点は簡単に海外移転できない
変化に適応するか、さもなくば死か


第5章 移住と生活コスト 206
学歴の低い層ほど地元にとどまる
「移住クーポン」で失業を解決できるか
格差と不動産価格の知られざる関係
町のグレードが上がると困る人たち


第6章 「貧困の罠」と地域再生の条件 234
スター研究者の経済効果
バイオテクノロジー産業とハリウッドの共通点
シリコンバレーができたのは「偶然」だった
文化やアートが充実していても貧乏な都市
大学は成長の原動力になりうるか?
「ビッグプッシュ」の経済学
20世紀のアメリカに「産業革命」をもたらした政策
産業政策の可能性と落とし穴
補助金による企業誘致の理論と実際
地域活性化策の成功の条件


第7章 新たなる「人的資本の世紀」 284
科学研究が社会に及ぼす恩恵
格差の核心は教育にある
大学進学はきわめてハイリターンの投資
世界の数学・科学教育レース
イノベーションの担い手は移民?
移民は非移民に比べて起業する確率が三割も高い
移民政策の転換か、自国民の教育か
ローカル・グローバル・エコノミーの時代


謝辞 [324-325]
解説(二〇一四年二月 (たまたま訪問中の)知識の集積地、シリコンバレースタンフォード大学より 安田洋祐) [326-335]
原注 [x-xviii]
参考文献 [i-ix]





【抜き書き】
・第3章の次の一節(p.132)が、妙な邦訳タイトルの指し示す事柄。

地域の人的資本の充実度とその地域の賃金水準の間には、きわめて強い結びつきがある。

・以下、製造業の衰退についての緒者の見解。


pp.39-40

 こうした事態〔引用者注:米国の製造業の衰退〕を金融機関のせいだとする考え方は、二〇一二年秋に一挙に盛り上がった「ウォール街オキュパイ(占拠)運動」が最初ではなく、昔から人々の心理に深く根を張っていた。オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』(一九八七年)では、一九八〇年代のアメリカ経済の変容を、誠実な市井の人々と倫理観の欠けたウォール街の戦いとして描いた。前者の象徴は、マーティン・シーン演じる実直な労働者。いまの暮らしに満足していて、労働組合の活動に熱心に取り組んでいる。一方、後者の象徴は、その息子である若き証券マン。マーティンの実の息子であるチャーリー・シーンが演じた。この若者は、競争の激しい企業買収の世界で頭角をあらわすために手段を選ばず、しまいには父親が働いている会社を崩壊の寸前まで追いやるのだ。アメリカの経済的苦悩に対するハリウッド流の解釈は、それから三〇年たっても変わっていない。二〇一〇年の映画『カンパニー・メン』では、ベン・アフレック演じるホワイトカラーの主人公が会社をクビになる。経営者がウォール街の顔色をうかがい、株価を引き上げるために、容赦ない人員整理に踏み切ったからだ。
 二つの映画には、明確な共通点がある。いずれの映画でも、「善玉」は形のあるモノをつくっている会社の人たちで(マーティン・シーンの勤務先は航空機メーカー、ベン・アフレックの勤務先は造船会社)、「悪玉」は株式やら先物やらを売り買いし、売買の注文をひっきりなしに大声で怒鳴り、人々の雇用を破壊する連中だ。『カンパニー・メン』に、こんな胸の痛くなるシーンがある。造船会社を解雇された二人の元社員が昔の仕事場を訪ねる。いまは使われなくなり、あちこちにサビが目立つようになった造船所だ。昔の職場で彼らは言う――「オレたちは、ここで物づくりをしていたんだよな」。
 強欲な金融業者と、ビジネススーツに身を包んだ上昇志向の強い若きエリートたちは、物語の悪役としては打ってつけかもしれない。しかし、ブルーカラーアメリカを本当に葬り去ったのは、ウォール街ではない。本当の犯人は歴史だ。アメリカの製造業雇用が抱えている問題は、過去半世紀の歴史を通じて強まってきた根深い経済的要因を反映した、構造的なものなのだ。その経済的要因とは、グローバル化と技術の進歩である。



p.62

 結局、〔……〕長期的なトレンドが変わると判断すべき材料はほとんどない。これは、アメリカに限らず、所得水準の高い国すべてに言えることだ。
 雇用の消失という厳しい現実を突きつけられると、時計の針を巻き戻すべきだと言う人が多い。製造業を国内外のあらゆる脅威から保護せよ、というのだ。こうしたいわば製造業保護活動家たちは、歴史の大きな潮流に逆らっている。現実には、製造業の衰退を招いた諸要因を押しとどめることは不可能に近い。11世紀はじめにイングランドの王位に即いていたクヌート王は、海に後退を命じたが、海に言うことを聞かせることはできず、溺れかけたと言い伝えられている。製造業保護活動家たちのやっていることは、これと変わらない。海の潮流と同じように、歴史の潮流を思いどおりに動かすことはできないのだ。



・貿易産業・イノベーション産業のもつ大きな波及効果。


pp.83-84

イノベーション関連の雇用と地域のサービス関連の雇用の間に強い結びつきがあることの典型例とみるべきだろう。イノベーション産業は労働市場に占める割合こそわずかだが、それよりはるかに多くの雇用を地域に生み出し、地域経済のあり方を決定づけている[注 貿易部門の労働者の生産性が高く、所得も多いほど、それによって支えられる非貿易部門の雇用も多くなる。実際、アメリカでは、貿易部門の雇用の数が多く、賃金が高い都市はど、非貿易部門の雇用が多い。]。貿易部門の産業が堅調なら、その産業内に高給の雇用を創出することで地域経済に直接的に恩恵をもたらし、さらには地域の非貿易部門にも雇用を生み出すという形で間接的にも地域経済に恩恵をもたらす。しかも、そうした間接的な効果は、直接的な効果よりはるかに大きい。私がアメリカの三二〇の大都市圏の一一〇〇万人の勤労者について調査したところ、ある都市でハイテク関連の雇用が一つ生まれると、長期的には、その地域のハイテク以外の産業でも五つの新規雇用が生み出されることがわかった[Moretti, Enrico. "Local Multipliers" American Economic Review 100, no.2 (May 2010): 373-377]。
 この研究結果自体はすでに紹介したが、詳しく見るとさらに興味深いことがわかる。乗数効果によって生み出される新規の雇用は、さまざまな職種に及ぶ。五件の新しい雇用の内訳は、専門職(医師や弁護士など)が二件、非専門職(ウェーターや小売店員など)が三件となっている。アップルに関するデータを見てみよう。同社がカリフォルニア州クパティーノの本社で雇っている従業員は、一万二〇〇〇人。それ以外に、乗数効果を通じて、地元のサービス業にさらに六万人以上の雇用を生み出している(専門職が二万四〇〇〇人、非専門職が三万六〇〇〇人)。アップルが地域の雇用に対しておこなっている最大の貢献は、ハイテク以外の雇用を増やしたことなのだ(ちなみに、アップルはティム・ジェームズの顧客でもある。二〇一一年にスティーブ・ジョブズが死去した際、追悼のための記帳簿の製本を依頼した)。要するにシリコンバレーでは、ハイテク関連の雇用増が地域経済繁栄の「原因」であり、医師や弁護士や屋根職人やヨガのインストラクターの雇用増はその「結果」なのである。これは別に不思議なことではない。ヨガのインストラクターの雇用が増えるためには、その都市で暮らす誰かがヨガレッスンの料金を支払わなくてはならないのだから。

『ミルトン・フリードマンの日本経済論』(柿埜真吾 PHP新書 2019)

著者:柿埜 真吾[かきの・しんご](1987-) エコノミスト学習院大学大学院経済学研究科博士後期課程(2019年代の当時)。
装幀者:芦澤泰偉+児崎雅淑


ミルトン・フリードマンの日本経済論 | 柿埜真吾著 | 書籍 | PHP研究所



【目次】
はじめに [003-009]
目次 [011-018]


第1章 ミルトン・フリードマンの生涯 020
  最初は保険数理士になるつもりだった
  悪化する米国経済
  反ユダヤ主義が吹き荒れる
  住宅不足の真の原因は家賃統制だ
  事実から自由市場の有効性を明らかに
  ケインズ経済学に代わる新しい理論を促す
  マネタリストフリードマンの誕生
  経済的自由は政治的自由の必要条件である
  知識人の攻撃の的に
  毛沢東思想を絶賛した経済学者たち
  フリードマンの助言を無視したニクソン
  ノーベル経済学賞受賞とテレビシリーズの大反響
  全体主義者が恐れた思想
  バウチャー制度とベーシックインカムの先駆け


第2章 フリードマンの貨幣理論 045
  フリードマン大恐慌研究
  貨幣数量理論の復活
  依然として貨幣は重要な役割を果たしている
  ルールに基づく金融政策――フリードマンの先見性
  マネタリズムの理論とk%ルールの関係
  フリードマンの変動相場制擁護論――ユーロの失敗を予言
  投機擁護論の誤解――闇雲な規制には慎重だった
  実証的な分析スタイル


第3章 フリードマンの日本経済論 077
  フリードマンの日本への関心
  フリードマンの日本特殊論批判


第4章 日本の金融政策――固定相場制下の金融政策 085
  固定相場制下のインフレのメカニズム
  物価決定における予想の重視
  構造的インフレ論批判――特定商品で物価水準の変動は説明できない


第5章 狂乱物価から物価安定へ 095
  金融政策の失敗が招いた狂乱物価
  貨幣量の重視により物価安定を達成
  日本におけるマネタリズムの成功
  貨幣量重視の金融政策になった背景
  フリードマンの貨幣軽視への警告


第6章 日米貿易摩擦フリードマン 117
  揺れ動く日本特殊論者
  フリードマンの日米貿易摩擦批判――日本特殊論への反論
  “国際協調”に批判的だった


第7章 バブルの崩壊と金融政策 125
  バブル経済批判――「東京の株式市場は健全とは思えない」
  マネーサプライ急落を招いた日銀を批判
  フリードマンの金融政策提言はなぜ無視されたのか
  イデオロギーと経済分析上の道具を分離せず
  小宮隆太郎氏の一貫した反マネタリズム


第8章 日本の構造問題へのフリードマンの見解 141
  金融緩和の下での減税政策を主張
  「高齢化社会を迎えるにつれて、深刻な問題になるだろう」
  構造問題説批判――説得力のない日本特殊論の焼き直し
  デフレ脱却と構造改革は補完的な関係
  マネタリストオーストリアン――ハイエクの経済理論との隔たり


第9章 量的緩和のための闘い 155
  平成不況は予測可能だった
  名目利子率重視の金融政策を批判
  貨幣の成長率を高めよ
  フリードマンのデフレ予測の的中
  「流動性の罠」論の誤謬
  フリードマン量的緩和
  日銀による不完全な量的緩和の採用


第10章 実証主義者としてのフリードマンの一貫性 185
  日米の対照的な経済成績


第11章 フリードマンの遺産 193
  バーナンキFRBマネタリズムの原理を採用してデフレを回避
  アベノミクスによる大胆な金融政策の登場


おわりに 207


あとがき(2019年10月 柿埜真吾) [211-220]
  貧困対策はデフレ脱却・景気回復と矛盾せず
   チャイナ・バッシングは百害あって一利なし
   消費増税に頼った財政再建は再考すべき
   自由市場経済は市民の自由を守る
参考文献 [1-17]





【関連記事】
フリードマン著作権のひとつ。
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20101101/1288882800

『知らないと恥をかく「性」の新常識』(齋藤賢 光文社新書 2020)

著者:齋藤 賢[さいとう・けん](1994-) 理論社会学(社会システム理論、社会学的機能主義)。
NDC:367.9 性問題.性教育


知らないと恥をかく「性」の新常識 齋藤賢 | 光文社新書 | 光文社


【目次】
はじめに [003-019]
  自分と他者の尊厳を守る鍵は「知識」 
  若者論が成り立たない中で、若者の声を伝えること
  「憂国」青年の遍歴
  ジェンダー課題に目を向けた瞬間
  本書の構成
目次 [020-030]


第1章 明るみに出た女性たちへのハラスメント 031
エリートだろうが何だろうが関係ない
「おじさん」だけが問題か?
#MeTooと#KuToo
上から目線のしょうもない意見
ひどい嫌がらせを知ってしまう


第2章 日本のジェンダー格差をデータで把握しなおす 051
マクロな観点から見える格差
SDGsジェンダー
日本語で表せない「エンパワーメント」
ジェンダー不平等は先進国にとっても課題
社会システムに巣食う格差
女性の政治家が少ないことの何が問題なのか?
格差は政治システム以外にも棲みつく
「まとめ」ではなく、注意を最後に 


第3章 あなたの性を楽しむために 077
あなたも、私も、性を楽しもう 
起きている子を寝ていると思い込む
包括的性教育の必要性
「JKで性教育?!」の衝撃
頻出するアダルト系の漫画と広告
毒にも薬にもなるインターネット
「『質問箱』はやらない方がいい」
第3次生理ムーブメント
「ちゃんとした」動画の意義
「性」を架け橋に接近するカルチャーとアクティビズム


第4章 自分自身のカラダをもっと知ろう 119
女性のカラダについて
ない! ない! ない! の三連打
中絶をめぐる論争
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは
「スピリチュアル」を見分ける
#なんでないの?
避妊へのアクセスが困難な日本
低中所得国を含め当然のインフラ
なぜ自分のカラダのことを自分でコントロールできないのか?
「下ネタって括りからの解放が必要なのかも」
避妊、緊急避妊、中絶……。どれもヤバいニッポン
男性の無関心・無知の問題
汝自身を知れ!


第5章 「AV教科書化」問題にモノ申す 167
AVをめぐる問題圏へ
ふたつの前身――①ピンク映画
ふたつの前身――②ビニ本 AVの誕生
AV的表現の開花
『全裸監督』の時代
『全裸監督』に対する批判
飯島愛の活躍とセルビデオの登場
無料アダルトサイトの広がり
男性にも見られる女性向けAV
課題としてのAV
「AV教科書化」に対する問題提起
どのようなAVが望ましいのか?
営みとしてのセックスを撮る
恋愛工学の危険性
世界で制作されるAVのオルタナティブ
「自分の出す映像は果たして猥褻物なのか」
性産業をグレーゾーンに追いやる社会
自己責任論と自己責任論批判の両者を批判する


第6章 いま、「性的同意」に注目が集まるワケ 215
いま、若者たちが注目している「性的同意」
性的同意とは何か
性的同意の3つの成立条件
女性からでも
性的同意を啓発するために
神話から科学へ
日本における性暴力の問題
直近の動き
Genesisの啓発活動
配偶者や恋人間でもレイプは起こりうる
ワークショップでの実践的なロールプレイ
「共感」をベースに性をリブランディングする
「性的行為」がセックスだけとは限らない Genesis流・性的同意のコツ
性に関する価値観のすり合わせ
文化とか本能とかいろいろ言うが


最終章 セックスのコミュニケーション的転換 265
セックスのコミュニケーション的転換
コミュニケーションをサポートする
「セックスしない人たちにも使ってほしい」
テクノロジーで課題を解決する
SNSの中に舞う言葉
SNSから聴こえてくる声をどう受け止めるのか セクスティングの是非
「からかい」の弊害
「はい、論破」して何になる?
失敗のダブルスタンダード
真摯に言葉を受け止めること、そして、言葉の先を考えること
残された課題――① ハッシュタグアクティビズム
残された課題――② 「前提」が共有されない世界


おわりに(2020年9月30日 茨城の実家にて 齋藤賢) [303-312]
  僕のスタンス
  僕自身の使命 
  謝辞
参考文献 [1-12]





【抜き書き】
「はじめに」から。

◆若者論が成り立たない中で、若者の声を伝えること
 僕はジェンダー(生物学的な性差とは区別される社会的な性差のこと。〈上野2006〉参照)に関する社会課題解決に関わっているシスジェンダーヘテロセクシュアルの男性だ(シスジェンダーヘテロセクシュアルとは「異性に対して恋愛感情を持ち、割り当てられた性別に違和感を覚えない人」〈石田2019:15〉のこと)。そして、東京大学大学院で理論社会学を研究中の大学院生でもある。この本はそんな僕が社会課題解決の最前線で体験し、取材し、考えたことのうち、「性」というテーマに「あまり関心がない」「関心はあるがよく知らない」人に知ってほしいことをまとめたものである。
 〔……〕
 この本は社会課題に関するルポであると同時に、ちょっとした社会批評の様相を帯びている。この本に登場する若手アクティビストや着目する社会課題を通じての社会批評でもある。