著者:野間秀樹[のま・ひでき] (1953-) 朝鮮語学・日韓対照言語学・韓国語教育。
・2021年に平凡社ライブラリーから再刊。副題が改められ、『新版 ハングルの誕生――人間にとって文字とは何か』となった。
新版 ハングルの誕生 - 平凡社
【メモランダム】
id:Mandarineよりお断り
※ルビは亀甲括弧〔 〕のなかに示した。
※目次の小見出しに見られる、ハングルの「文字の一部」を、この記事では載せていない(何故か「はてなダイアリー」では上手くいかないため)。現状は全角スペース二つでお茶を濁している。目次を利用する場合、その部分だけは本書を直接参照してから補ってほしい。
・ハングル互換字母
・世界の特殊文字ウィキ
【目次】
目次 [003-007]
凡例 [008]
はじめに [009-013]
序章 ハングルの素描 015
一 ハングルの仕組み 016
二 『訓民正音』という書物 017
第1章 ハングルと言語をめぐって 019
一 ハングルの名 020
ハングルとは文字体系の名称である
ハングルや言語を母語話者は何と呼ぶのか
訓民正音からハングルへ――周時経〔チュ・シギョン〕
二 朝鮮語=韓国語の世界 024
世界に広がる朝鮮語
複数言語状態の朝鮮語
三 ことばと文字 028
母語、そして母国語、国語、外国語
危険な「外国語」
言語=民族=国家という幻想の等式
ことばは意味を〈持たない〉、それは意味と〈なる〉のである
他言語を書くハングル
言語と文字は異なった存在である
ことばはまず〈話されるもの〉として存在する
別々に動く言語の平面と文字の平面
四 朝鮮語=韓国語はいかなる言語か 039
朝鮮語の文法的な構造は日本語によく似ている
ことばになる順序がほとんど同じであるということ
〈てにをは〉――朝鮮語でも象は鼻が長い
日本語の語彙と朝鮮語の語彙を作る三つの層
漢字語の魔力
朝鮮漢字音、ヴェトナム漢字音、日本漢字音
訓読みの旋律〔しらべ〕、訓読みの戦慄〔おののき〕
固有語が奮闘する
固有語の述語の先駆・周時経
擬声擬態語〔オノマトペ〕の理想郷、〈オノマトペ〉としての朝鮮語へ
第2章 〈正音〉誕生の磁場 053
一 文字を〈創る〉――漢字の磁場から 054
文字を〈創る〉とは
〈文字〉とは漢字のことであった
漢字はいかに創られているか――〈六書〔りくしょ〕〉の原理と〈形音義〔けいおんぎ〕〉
漢字の根源〈象形〉と抽象化された象形〈指示〉
〈会意〉と〈形声〉――〈象形〉と〈指示〉の限界を越えるために
〈仮借〉、そして〈転注〉考――河野六郎〔こうのろくろう〕の文字論
〈形音義〉トライアングル・システムとしての〈表語文字〉
二 自己増殖装置としての漢字 062
漢字の自己増殖システムとしての〈形音義〉トライアングルと〈六書〉
〈音‐義〉の軸、〈形‐義〉の軸の変容と、〈形‐音〉の軸の鞏固〔きょうこ〕
〈形音〉線上の詠唱〔アリア〕――〈訓読〉
〈絵画〉の彼方としての〈文字〉
三 〈訓読〉の仕掛け 069
〈訓読〉の本質的な仕掛け
〈訓読〉の統字論――返り点
日本語という層〔レイヤー〕を重ねる
〈訓読〉の形態論――送り仮名
〈訓読〉=透かし出される漢字のゲシュタルト、そして〈飜訳〉
〈訓読〉の意味――〈他言語という重ね〔レイヤー〕〉
四 朝鮮語の〈訓読〉――〈口訣〔こうけつ〕〉の構造 078
朝鮮語での漢文の読み方〈口訣〉――吐〔と〕と懸吐文〔けんとぶん〕
〈順読口訣〉――朝鮮語のレイヤーに形態論的な情報を加える
漢字口訣、略体口訣からハングルの口訣へ
〈借字表記法〉――漢字を用いて朝鮮語を表記する
朝鮮語の返り読み方式の〈訓読〉――〈釈読口訣〔しゃくどくこうけつ〕〉の発見
釈読口訣の返り読みと敬語法
〈角筆〉の発見――〈点吐釈読口訣〔てんとしゃくどくこうけつ〕〉
略体口訣――かたかたへの道
借字表記法――吏読〔りとう〕
借字表記法――郷札〔きょうさつ〕
言語の線条性と言語の時間――訓読における位相的な変容
五 〈質量を有するテクスト〉 094
〈質量を有するテクスト〉を読む
レイヤーで写し取られる〈形〉
書の世界の重ね〔レイヤー〕――〈双鉤塡墨〔そうこうてんぼく〕〉
テクストを支える身体――肌触り、質量、香り
〈質量を有するテクスト〉としての『訓民正音』解例本
六 西方からの道――〈子音文字〔アルファベット〕ロード〉の終焉 100
〈訓民正音〉の創製者たちはどんな文字を知っていたか
〈短音文字の道〔アルファベット・ロード〕〉――地中海から東方への〈子音字母ロード〉
神が線を引き、人が点を打った――アラビア文字
子音文字の道の終焉――母音に〈かたち〉を与える
〈訓民正音〉――〈子音文字〔アルファベット〕〉から〈子音母音文字=全面的単音文字〔フル・アルファベット〕〉へ
第3章 〈正音〉の仕掛け 107
一 文字を〈創る〉――空気の揺らぎから〈音〔おん〕〉を切り出す 108
文字を〈創る〉――〈音〉とは何か?
音の単位を切り出す――音はいかにして文字足り得るか
二〇世紀言語学の〈音素〉の発見
一五世紀朝鮮〈正音学〉――〈音素〉に一番近い言語の学
日本語の音節構造
半母音の言いかた
子音連続――str!ke:ス・ト・ラ・イ・ク!
朝鮮語の音節構造――音節末の子音たち
初声、中声、終声――中国音韻学を超える
正音と仮名の本質的な違い――音素はいずこへ?
二 〈音〉から〈かたち〔ゲシュタルト〕〉へ 119
〈単音文字〉としての〈正音〉
〈正音〉二十八字、各〔おのおの〕其〔そ〕の形を象〔かたど〕る
音を〈象形〉する
音声器官の〈かたち〉を〈象形〉する
〈音〉の〈かたち〉が棲む〈正音〉
正音から一七音へ――加画と並書、異体による子音字母の派生
子音字母の派生の仕組み
初声は終声となり、終声は初声となる/性理学と陰陽五行思想の理論武装
正音学の理〔ことわり〕
母音字母――天地人のゲシュタルト
母音字母の生成――「 」、「 」と「―」合して成る
陽母音と陰母音――母音調和論
母音の消失と母音体系の変化
三 短音=音節文字システムの創出 141
〈音節文字〉としての〈正音〉――字母は原子、文字は分子
音素の平面と音節構造の平面の二層を統合する〈単音=音節文字〉システム
〈音素の平面〉と〈音節構造の平面〉の階層化
仮名、ラテン文字、正音――音節の内と外は見えるのか?
漢字との調和――漢字と同じ空間を占める〈正音〉
四 四文法システムの衝撃 148
中国音韻学の音節構造論――字母と韻母の二分法
声調がある――音には高さがある
漢字で漢字音を知る――〈直音〉と〈反切〉
〈音〉の高さが意味を区別する言語――日本語東京方言を見る
高低アクセントや声調は変化する
プロリディへの肉迫――再び〈音〉とは何か
〈高低アクセント〉に〈かたち〉を与える
四文法の地平――〈音〉を極限まで〈かたち〉にせよ
傍点が語る六〇〇年の言語史
五 音の変容を〈かたち〉にする――形態音韻論への肉迫 161
〈音〉を〈かたち〉にする最後の難問――〈正音〉の動的システムが解く
〈音素〉から〈形態素〉へ
〈異形態〉と〈音素交替〉――形態音韻論
音節構造の変容――〈終声の初期化〉
〈終声の初期化〉をいかに表記するか
〈正音〉は音韻論、音節構造論、形態音韻論の三層構造である
音の動的な変容を支える〈ゼロ字母〉「 」
〈正音〉の形態音韻論的表記で日本語を書いてみる
言語音は変容する――「ふくべ」と「外」の物語
形態音韻論的な交替――「ふくべ」と「外」が分かつもの
表語と表音の輪廻
第4章 〈正音〉エクリチュール革命――ハングルの誕生 181
一 〈正音〉革命派と漢字漢文原理主義との闘い 182
知識人たちにとって漢字漢文は生であり死であった
〈正音エクリチュール革命〉の出発点
王朝最強の頭脳集団=集賢殿
〈正音エクリチュール革命〉のイデオローグたち
『朝鮮王朝実録』がかたる崔萬理らの反〈正音〉上疏文
知識人たちの驚愕
至誠事大=漢字漢文原理主義の政治的実現
漢字漢文原理主義の思想
二 〈用音合字〉の思想――〈知〉の原子を問う 196
〈用音合字〉=音を用いて字に合す
世宗の反論――古〔いにしえ〕の文字とは
〈細胞〉としての漢字
〈原子=音素〉と、〈分子=音節〉としての〈正音〉
漢字が忘れ去られるという危機感
三 〈正音〉よ、生きとし生けるものの〈こゑ〉を聞け 202
天地自然の文――〈正音エクリチュール革命〉の理論武装
この地の〈声〉が
書けない
三極の義、二気の妙、該括〔がいかつ〕せざる莫〔な〕し
オノマトペ・エクリチュール――〈正音革命テーゼ〉
オノマトペ・エクリチュール――〈用音合字〉の優位
四 〈正音〉よ、くにのことばを――エクリチュール革命宣言 209
文字から文へ、文章へ
〈話されたことば〉と〈書かれたことば〉の〈時空間の捻〔ねじ〕れた鏡像関係〉
〈くにのことばが〉――〈諺解〔げんかい〕〉エクリチュールへ
王朝を称える『飛龍御天歌』――〈正音〉エクリチュールの誕生
こひねがはくは
第5章 〈正音〉エクリチュールの創出 221
一 〈正音〉よ、音を統〔す〕べむ――『東国正韻〔とうごくせいいん〕』 122
〈正音〉よ、音を統べむ
日本漢字音の母体
朝鮮漢字音の母体
朝鮮漢字音と日本漢字音は似ているのか
漢字音を〈反切〉ではなく〈正音〉で示す
教養としての漢字音――詩文の日朝交歓
予が正さねば誰が正す
『東国正韻』――朝鮮王朝の韻書
二 〈正音〉よ、三千世界を照らせ――儒仏道のみち 233
〈正音〉と仏のみち
漢字とハングルの混用
革命家たちのその後――端宗哀史
仏典の朝鮮語訳〈諺解〉
正音エクリチュールでかたられる性理学
〈正音〉よ、民と在りて、孝、忠、貞を説かん――『諺解三綱行實図』
三 〈正音〉よ、天地宇宙を学べ――『千字文〔せんじもん〕』 243
〈正音〉よ、漢字を教えよ――『千字文』
四 〈正音〉よ、我らが調べを――『杜詩諺解〔としげんかい〕』と時調 245
生きとし生けるものの〈こえ〉を聞け、〈こえ〉を書け
固有の調べ――時調を書く
五 〈正音〉よ、語れ、奏でよ――〈正音〉文芸とパンソリ 250
六 朝鮮固有語の血脈と漢字漢文の血脈の二重螺旋〔らせん〕構造 251
七 〈正音〉反革命を越えて 255
燕山君の正音反革命
正音エクリチュールの位置
第6章 〈正音〉──ゲシュタルト(かたち)の変革 261
一 〈かたち〉とは何か 262
肌触り〔テクスチュア〕を有するテクスト、質量〔マス〕を有する文字
〈ゲシュタルト〉=〈かたち〉とは何か
二 正音の形と〈かたち〉 265
字は古篆〔こてん〕に倣〔なら〕う
筆による〈線〉とはいかなるものか
筆で書くことを拒絶する字画の形
正音はなぜ筆を拒絶したのか
自らのロジカルな〈かたち〉を誇る〈ゲシュタルト〉の変革
ロジカルな〈知〉の申し子としての〈かたち〉
三 身体性を得た正音の美〈宮体〉 275
再び筆へ――『訓民正音』諺解本の正音の〈かたち〉
王朝の美の極北――〈宮体〉
第7章 〈正音〉から〈ハングル〉へ 281
一 闘う〈正音〉、たたかうハングル 282
ハングル発展の時代区分
〈正音〉から〈ハングル〉へ
闘う〈正音〉、たたかうハングル
証言するエクリチュール
南北の統一辞書へ――共通のエクリチュールを希って
二 再びゲシュタルトを問う――近代から現代へ 291
〈解き書き〉の憧憬
タイプライタの闘い――〈書く〉ことは〈打つ〉こととなった
コンピュータの登場――新たな時代の〈用音合字〉と〈かたち〉
終章 普遍への契機としての〈訓民正音〉 297
『訓民正音』を読むというできごと
〈文字が文字自らを語る書物〉としての『訓民正音』
〈訓民正音〉――エクリチュールの奇跡
文献案内 [301-316]
あとがき(二〇一〇年二月 野間秀樹) [317-319]
ハングル字母表 反切表/五十音をハングルで書く [320-323]
ハングル略年表 [324-331]
文献一覧 [332-349]
作品索引 [350-351]
人名索引 [352-356]
関連用語・事項索引 [357-368]