著者:青木 昌彦
聞き手:岡崎 哲二
聞き手:山形 浩生
筑摩書房 青木昌彦の経済学入門 ─制度論の地平を拡げる / 青木 昌彦 著
ひとつの社会を支える「制度」とは何なのか? 人間社会がゲームだとするならば、その均衡はいかに可能なのか? ――著者は、制度論、組織論、経済発展論など多岐にわたる領域で世界的な業績をあげ、20世紀の経済学を主導した研究者のひとりである。研ぎ澄まされた理論による斬新な研究アプローチは、経済学を超えて社会科学全般に多大な影響を及ぼした。その知性の全体像を一望し、制度論の考え方をわかりやすく解説する。
【目次】
目次 [003-005]
はしがき 007
「失われた二十年」ではなく「移りゆく三十年」 008
諸学問を架橋する「制度論」 009
本書の構成 010
謝辞 020
第1章 経済学をどう学ぶか 023
1.1 私自身、こう経済を学んできた(2008年08月) 024
1.2 経済学を学ぶ心構え――京都大学経済学部の学生諸君に招かれて(2009年04月) 036
第2章 制度分析の考え方 049
2.1 制度分析入門――そして日本の今をどう捉えるか 050
2.2 制度のシュンペーター的革新と革新の制度 070
2.3 青木先生、制度ってなんですか? 096
第3章 制度分析の応用――日本と中国の来し方・行く末 123
3.1 伝統的な経済成長モデルの限界をみつめよ――呉敬璉教授との対話 124
3.2 雁行形態パラダイム・バーション2.0――日本、中国、韓国の人口・経済・制度の比較と連結 138
3.3 中国と日本における制度進化の源泉 160
3.4 福島原発事故から学ぶ――望まれる電力産業の改革と革新 182
第4章 制度論の拡がる地平 189
4.1 制度論の拡がる地平――政策、認知、法、文化的予想、歴史をめぐって 190
4.2 資本主義はどうなるか――ミルトン・フリードマンとの対話 217
4.3 先進都市化と卓越したチーム力を競おう――2020年東京オリンピックに向けて 228
初出一覧 235
註 [ix-xv]
参照文献 [i-viii]
【関連記事】
『人生越境ゲーム――私の履歴書』(青木昌彦 日本経済新聞社 2008) - contents memorandum はてな
【抜き書き】
pp.109-111
山形 物理学を考えると、いずれはすべてのドメインを統合した第一社会学理論のようなものが生まれるのではないか、と考えたりもしますが、法学、社会学、経済学を全部まとめあげるような体形は、方向性としてありうるとお考えですか。
青木 社会科学では、これまで制度についてはいろいろな対立がありました。法実証主義やメカニズム・デザイン論が追及しているように意識的に設計されうるものであるのか、あるいはハイエク〔2007〕が考えるように進化的に、自生的に作られていくものと考えるべきなのか。あるいはサール(Searle 2010)という哲学者が考えるように、人間の権利とか義務とかいう価値と合理的な選択とは二分法的に考えるべきなのか。そうでなくゲーム理論家のビンモア(Binmore 2005)が考えるように前者(権利・義務)もある種の社会合理的な合意の選択として考えられるのか。制度派経済学者のノースが考えるように行動に関する制約なのか、あるいは社会学者の盛山和夫教授が『制度論の構図』という名著で述べたように、社会的な意味の体系というところに本質があるのか。
実はこうした対立が、ある程度ゲーム的な考えで統一的に説明できるのではないか、と思っています。先ほども示唆したように、制度を共通認識、予想と考えれば、そういうものが人間行動に何らかの規則性を生み出す。個々人にはそういう共通認識は制約として感じられるかもしれないが、それはまた人々の行動選択によって確認され、再生産されていく。そういう循環関係にあるのですが、ただ、個人のさまざまな選択の中からあるパターンが共通認識として成立していくには、何らかの人々の外部に存在する認知的な範疇の介在が資源として必要です。それが法とか、社会学が強調してきたさまざまな言語的表現や社会的シンボルの役割でもあるわけです。こうした関連性を考えていく上では、なぜそこからひとびとの共通認識を持ちうるようになるのか、ということを考えるうえで、山形さんも勉強しておられる認知科学や脳科学なども、今後はおおいに関係してくると思います。