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目次とメモを置いとく場

『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』(Robert C. Allen[著] グローバル経済史研究会[訳] NTT出版 2012//2011)

原題:Global Economic History: A Very Short Introduction.
著者:Robert Carson Allen(1947-)
訳者:“グローバル経済史研究会”
   湯沢 威[ゆざわ・たけし] (1940-) 比較経営史、鉄道史。
   安元 稔[やすもと・みのる] (1941-) 英国経済史。
   眞嶋 史叙[まじま・しのぶ]  グローバル経済史。
NDC:332 経済史・事情.経済体制


なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか |書籍出版|NTT出版



【メモランダム】
・Robert C. Allenによる、とある著作の日本語訳。こちらの訳者名義は“グローバル経済史研究会”ではない。

http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0894-5.html



【目次】
はじめに(湯沢 威 二〇一二年八月二六日 ロンドンにて) [i-viii]
日本語版へのプロローグ(ロバート・C・アレン 二〇一二年九月五日) [ix-xiv]
謝辞 [xv-xvi]
目次 [xvii-xix]
図表目次 [xx]


第一章 大いなる分岐――「豊かな国」と「貧しい国」のルーツをたどる 003
  実質賃金


第二章 西洋の勃興――最初のグローバル化 019
  最初のグローバル化


第三章 産業革命――なぜイギリスではじまったのか 035
  文化的・政治的背景
  産業革命の説明
  綿工業
  蒸気機関
  発明の継続


第四章 工業化の標準モデル――ドイツとアメリカ 053
  技術進歩のマクロ経済的特徴


第五章 偉大なる帝国――インドの工業化の挫折 071
  グローバル化と工業化の挫折
  綿工業
  インドの近代産業


第六章 南北アメリカ――なぜ南北格差が生じたのか 087
  北米の植民地経済
  ラテンアメリカの植民地経済
  アメリカ合衆国の独立
  ラテンアメリカの独立
  教育と発明 


第七章 アフリカ――なぜ貧しいままなのか 123
  アフリカと「大いなる分岐」論争
  奴隷貿易
  合法的な商業
  植民地政策
  歴史的視点から見た現代の貧困 


第八章 後発工業国と標準モデル――帝政ロシアと日本 155
  帝政ロシア
  日本
  明治維新
  明治期の経済発展
  帝国主義期の日本(一九〇五年~一九四〇年)
  ラテンアメリカ
  工業化の標準モデルの終わり 


第九章 ビックプッシュ型工業化――ソ連・戦後日本と東アジア 177
  ソヴィエトの経済発展
  日本
  台湾・韓国・中国 


エピローグ 197


あとがき(二〇一二年九月二四日 眞縞史叙) [201-206]
文献案内 [204-215]
参考文献 [216-221]
索引 [222-224]

『グローバル経済史入門』(杉山伸也 岩波新書 2014)

著者:杉山 伸也[すぎやま・しんや] (1949-) 日本経済史、アジア経済史。
NDC:332.01 経済史学


グローバル経済史入門 - 岩波書店


【目次】
目次 [i-ii]


プロローグ 001
1 グローバリゼーションと経済史 001
  経済史から考える
  グローバル・ヒストリーの登場
2 グローバル・ヒストリーの特徴 005
  グローバル・ヒストリーと世界史
  関係史と比較史
3 グローバル経済史のなかのアジア 008
  GDPの歴史的変化
  グローバル経済の形成
  本書の時代区分


  第I部 アジアの時代―― 18世紀までの世界 015

第一章 アジア域内交易と大航海時代 016
1 アジア域内交易 016
  一六世紀の世界
  アジア域内交易
2 アジアの「大航海時代」 021
  オスマン帝国の台頭とインド航路
  国民国家の形成と重商主義政策
  ポルトガルのアジア進出
  スペインの進出と銀の輸出
  オランダ東インド会社の設立
  オランダ東インド会社の商業活動
3 環大西洋経済の形成 034
  新大陸のヨーロッパ化
  銀山の開発
  奴隷貿易
4 ヨーロッパ社会の変容――「危機の十七世紀」 040
  価格革命と生活革命


第二章 近世東アジアの国際環境――中国と日本 043
1 明治の政府と経済 043
  明朝の成立と朝貢システム
  江南デルタの発展
  「北虜南倭」と銀の流入
2 清代の政府と経済 049
  清朝の統治と対外政策
  国内経済の発展
  広東貿易の開始
3 徳川幕府の成立と対外政策 053
  アジア域内貿易と近世日本
  徳川幕府の成立と対外政策
  貿易政策と「鎖国」政策
  「鎖国」下の貿易――「四つの口」
4 徳川日本の経済成長 060
  財政膨張と「三大改革」
  農業と非農業部門の発展


第三章 インドの植民地化とイギリス 065
1 ムガル帝国期のインド経済 065
  ムガル帝国の統治
  ムガル時代のインド経済
2 イギリス東インド会社の成立 068
  イギリス東インド会社の設立と再編
  初期のイギリス東インド会社
3 ムガル帝国の衰退と植民地化の進展 071
  カーナティック戦争
  ベンガルの植民地化
  ベンガル財政と本国費
  地域におうじた徴税システム
4 統治政策の転換と植民地支配の拡大 077
  東インド会社問題
  植民地支配の拡大
  イギリス東インド会社の終演
5 アジア三角貿易と地方貿易 081
  地方貿易商人の登場
  中国茶貿易の拡大と買付資金の不足
  アヘン貿易と自由貿易論の台頭


  第II部 ヨーロッパの時代――「長期の一九世紀」 087

第四章 「産業革命」から「パクス・ブリタニカ」へ 088
1 イギリス産業革命 088
  グローバル・ヒストリーのなかの産業革命
  産業革命の展開――石炭業と製鉄業
  産業革命の展開――綿工業
  産業革命をめぐる論争――生活水準論争と経済成長率論争
  なぜ産業革命は最初にイングランドでおきたのか?
2 「パクス・ブリタニカ」の時代 100
  工業・貿易・金融センターとしてのイギリス
  交通・通信革命の到来
  イギリスの国際収支構造と多角的決済機構の形成
  金本位制の確立
  イギリスの軍事的プレゼンス
  イギリス産業の衰退
  ドイツとアメリカの工業化
  帝国主義の時代


第五章 アジアの近代化――中国・日本・タイ 119
1 中国――アヘン戦争から日清戦争、そして辛亥革命 119
  アヘン戦争とアロー号戦争(第二次アヘン戦争
  天津条約・北京条約の締結
  洋務運動――近代化への胎動
  洋務派の近代化政策
  朝貢システムの崩壊
  日清戦争の敗北から辛亥革命
2 日本――国民国家の形成と経済成長 131
  「開国」から「開港」へ
  中央集権国家の形成と財政制度の確立
  産業政策と近代経済成長の開始
  日清・日露戦争と国際収支の危機
3 タイ――国家的独立の維持と近代化政策 140
  通商条約の締結
  チュラロンコンの時代


第六章 アジア経済のモノカルチャー化と再編 145
1 アジアの世界経済への統合化――中国・日本・インド 145
  一次産品貿易の拡大と国際的銀価低落
  中国と日本の貿易
  英国領インドの貿易
2 東南アジア島嶼部の経済開発 150
  外国資本による経済開発
  マラヤの錫鉱山の開発とゴム・プランテーション
  蘭領東インドの砂糖・ゴムのプランテーションスマトラ島の経済開発
3 東南アジア大陸部の水田開発 161
  イギリスのエーヤワディー・デルタ開発
  フランスのメコン・デルタ開発
  タイのチャオプラヤ・デルタ開発
4 グローバル経済への統合とアジア経済の再編 167


  第III部 資本主義と社会主義の時代――「短期の二〇世紀」 169

第七章 両大戦間期の世界経済とアジア 170
1 一九二〇年代の世界経済 170
  「ヴェルサイユ・ワシントン体制」の成立
  戦後経済復興と金本位制の再建
2 動揺する世界経済 176
  世界恐慌の到来
  金為替本位制の崩壊とデフレ・失業問題 
  社会主義型工業化の進展
  多国籍企業の登場
3 世界の中の日本経済 188
  金本位制復帰への模索
  浜口内閣の成立と金解禁
  一九三〇年代の通商摩擦とブロック経済の形成
4 戦間期のアジアとラテン・アメリカ 197
  一次産品貿易の縮小と交易条件の悪化
  植民地宗主国の対応
  ラテン・アメリカの経済状況


第八章 戦後世界経済の再建と動揺 204
1 戦後世界経済の再建 204
  IMFGATT体制の成立
  ブレトン・ウッズ体制の崩壊
2 「南北問題」の登場 210
  戦前と戦後の貿易と資本移動
  国連貿易開発会議(UNCTAD)プレビッシュ報告
  中国とインドの経済成長
3 変動相場制下の世界経済 216
  アジアNIEsの発展と「開発独裁
  世界経済の再編と新自由主義の台頭
  貿易不均衡とプラザ合意
  途上国の累積債務問題
  地域登校国家の形成
  多国籍企業の展開
  ソ連および東欧の社会主義圏の終焉


エピローグ――ふたたびアジアの時代へ 233
1 グローバル経済の再編 233
  プレーヤーの交替
  グローバル経済の現在
2 南北問題からエネルギー・環境問題へ 240
  地球環境の悪化
  気候変動の要因
  「開発」と「環境」
  エネルギー問題の課題
  グローバリゼーションの彼方
  リベラリズムナショナリズムの相剋


あとがき(二〇一四年一〇月 杉山伸也) [253]
地図 [12-13]
主要参考文献 [04-11]
索引 [01-03]



【図表一覧】
表1 世界各地域の実質GDP(推定) 011
図1 イギリスの主要輸入品(1746〜1856年) 041
表2 産業技術の革新 090
表3 イギリスのGDP成長率と人口増加率 096
表4 世界の工業生産額にしめる主要国のシェア 102
図2 イギリスの国際収支(1816〜1938年) 107
図3 国際的な銀価低落 146
表5 東南アジアにおける外国直接投資額 151
表6 東南アジアの輸出額にしめる主要輸出品のシェア 156
図4 主要国の失業率 181
表8-1 海外直接投資残高(投資国別) 213
表8-2 海外直接投資残高(受入国別) 213
表9 世界主要国のGDP 219
表10 GDP年平均成長率 234
図5 1人当りGDPの推移(1970〜2012年) 236
図6 世界の平均地上気温と二酸化炭素排出量の推移(1850〜2013年) 243

『いまこそ経済成長を取り戻せ――崩壊の瀬戸際で経済学に何ができるか』(Dambisa Moyo[著] 若林茂樹[訳] 白水社 2019//2018)

原題:Edge of Chaos: Why Democracy Is Failing to Deliver Economic Growth and How to Fix It (2018)
著者:Dambisa Felicia Moyo (1969-) エコノミスト
訳者:若林 茂樹わかばやし・しげき] (1970-) エコノミスト日本政策投資銀行)。
装画:佐貫 絢郁[さぬき・あやか]
装幀:コバヤシ タケシ
組版:鈴木 さゆみ
NDC:332.06 経済史・事情.経済体制
件名:経済成長
件名:経済政策
件名:民主主義


いまこそ経済成長を取り戻せ - 白水社



【目次】
題辞 [002]
目次 [003-005]
謝辞 [007-009]


序 011
第一章 差し迫った課題は経済成長である 021
第二章 経済成長の歴史 037
第三章 ハリケーン級の逆風 051
第四章 保護主義による虚偽の公約 085
第五章 民主主義覇権への挑戦 107
第六章 近視眼的政治の危機 127
第七章 新たな民主主義の構想 151
第八章 二十一世紀型成長モデルへの変革 183


訳者あとがき(二〇一九年七月 若林茂樹) [199-201]
主要民主主義国比較表 [30-35]
文献 [14-29]
註 [3-13]
索引 [1-2]




【抜き書き】
・著者の文章には、繰り返しによる強調がかなり多い。そのため、印象的な文言を採取しようとした結果、抜粋する文字数が増えてしまった。


 「」から数ヵ所。

p. 16 真っ向から経済成長の必要性を説いている。

 人々の欲求を満たし、生活をよくするのは経済成長である。経済学的には、成長は貧困を減らし、生活水準を向上させる。政治的には、成長は自由市場、自由な人民、法の支配に欠くことのできないものだ。各個人にとっては、成長は能力を最大限に発揮するため絶対に必要である。


pp. 16-17 サマーズとクルーグマンについては『景気の回復が感じられないのはなぜか――長期停滞論争』(世界思想社)を参照。

アルゼンチン、ブラジル、〔……〕そしてトルコといった、世界でも経済規模が大きく、グローバル戦略で重要な位置づけにある新興国の成長率は年三パーセント以下である。これは一人当たりの所得を次の世代に向けて倍加し、貧困を過去のものとするのに必要とされる七パーセントを遙かに下回る〔……〕。日本経済は二十五年以上停滞しており、今後の見通しも弱い〔……〕。 IMFが二〇〇八年以降、五年連続で世界経済の成長見通しを引き下げており、二〇一四年には二〇〇八年以前のペースで経済が拡大することはないだろうと警告したことは憂慮すべきだ。こうした経済の下降を示す証拠は、世界経済が、長きにわたる構造問題など長期的かつ厳しい逆風を受け、さらに深刻な事態に陥る兆候である。
 経済成長をもたらす三要素、資本、労働、生産性は未曾有の逆風を受けて崩壊した。今では人口統計上の大移動が起き、その結果、新興国では大量の若く技能が未熟で、不満を抱えた労働者が発生している。高齢化が進む先進国では、年金と社会福祉の財源が枯渇している。所得格差の拡大、社会移動の機会消滅、資源不足、さらには技術革新による生産性向上による失業者の増加は、世界中で経済成長の脅威となっている。この逆風に対処することができなければ不況を招く。経済学者のローレンス・サマーズとポール・クルーグマンが主張するように、既存の政策が「役立たず」であるために、大惨事が引き起こされるのである。

 本書で言いたいことは、西欧諸国は自由民主主義を本格的に改革しない限り、経済成長できないということである。政治家が、世界経済の直面する数多の困難に立ち向かうためには、民主主義を根本から変革する必要があるのだ。実際、民主主義が政治やビジネスに短期間で成果を出すことを迫った結果、資本や労働といった稀少な資源が誤った形で分配され、そして視野の狭い投資決定がなされてきた。結局、民主主義の政治プロセスこそが、無数の経済問題を作り出した元凶なのである。
 本書では、近視眼的な風潮に警鐘を鳴らし、世界経済が直面する課題、逆風を克服し、経済成長のカンフル剤となることを意図して、民主主義を改革する十の案を提示する。壮大な提案だが、それは選挙の方法を変え、政治家に対する評価方法を変え、有権者と政治家の双方が長期的な視点に立脚することを可能にするものである。



 「第一章 差し迫った課題は経済成長である」から。

p. 28

 経済学を様々な構成要素から成る多面体として観察すると、経済成長は主に次の三要素から構成される。それは、資本(経済に投入された資金の総額から赤字と負債を差し引いた金額)、労働(質量ともに計測可能なもの)、全要素生産性(労働・資本に加えて技術革新・政治制度・法規制などあらゆる生産要素を示すもの)である。
 生産性は、なぜ成長する国としない国があるのかについて、五十パーセント超を説明するとされる。透明性が確保され依拠できる法律が整備されていること、所有権が確立されていること、高い技術力を有していること、これらの要素を備えていることが生産性を向上させ、経済成長をもたらす。他方、債務や人口構成の問題は生産性の足枷となり、経済成長を抑える。


pp.30-31 これまでに考案された指標・指数(人間開発指数など)と比べても、依然GDPは有効だと著者は認識している。

GDPを絶対的尺度とすることには批判もある。サービス産業の比重の高まり、または技術革新が重要な役割を果たす形へと経済構造が変化している実態を反映していないといった批判である。非公式経済やブラックマーケット経済を捕捉できないため、GDPだけで社会の発展を測るのは適切ではないといった意見もある。過去数十年の間、経済学者、社会学者などの研究者が幸福、健康、社会発展を測る方法を考案し、人々の注目と支持を集めてきたことは驚くことではない。
 そうした批判や意見は、GDPが人類の発展を計測する絶対的な尺度とされることへ疑問を投げかけている――実際にはGDPに代わるものとして考案された指標がそれ自体GDPに依拠していたり、GDPの単なる変形であるなど、限界的な計測方法であるにもかかわらずだ。〔……〕政策立案者は代替的な計測方法に関心を持っている。GDPに代わるものではないにしても、将来の経済成長、生活水準を測る上で、GDPを補完する手法になり得るからだ。さらに捕捉すると、公共政策にとって重要なのは、つまるところ、GDP成長率ではなく、生活水準が向上したかどうかなのだ。ただし現実には、そうした別の指標で上位になるのも、GDPベースで豊かな国であって、下位になるのも同じく貧しい国なのである。



□p. 34 

 これらの指数、指標からわかることは何だろうか? 健康、幸福、人生の質など非経済系の要素は人間らしさを示す。その一方で、GDPなど経済指標は、それ以外の領域での成功を測る物差しである。上位グループの国に大きな変動はない。つまり、経済成長とは人々の生活を構成するあらゆる要素にとって重要な支柱なのだ。だからこそ、国が、幸福、福祉、そして人類の発展を遂げるためには、経済成長が必要とされるのである。
 GDP予測はその時点でのGDPを示すが、それ以上のものではない。数値が大きいことは、その国の豊かさを示すが、実態まで表すものではない。



 「第二章 経済成長の歴史」から一ヵ所。

pp. 43-44

 明治期の改革を基礎として日本は二十世紀を通じて経済成長したが、近年では世界に例を見ないほど経済は停滞していた。この二十五年の間、経済成長率は平均で年率僅か〇・八五パーセントであり、好転の兆しは見られない。政策立案者は、標準的な経済モデルや経済学の教科書に、厳しい状況での対応として書かれていることはすべて行った。財政政策、政府支出の拡大、企業や家計の借入を促進するためのマイナス金利導入まで、あらゆる手段を講じたのである。
 日本経済が再び成長路線に乗るにはどうすればよいかを考える中で、人口構成の将来見通しはさらに事態を悩ましくする。〔……〕経済規模の縮減に伴う労働力不足と、生活水準低下は避けられない。たとえば〔……〕日本に移住する人が多い国と日本との経済的ギャップが縮小してくれば、日本に移住する人は減少し、労働力を維持することが難しくなる。専門家の見通しでは、現在、退職者一人を支える現役労働者は三人未満であり、二〇三〇年には二人未満になるとされる。この見通しは、「日本経済の時限暴弾」と言われている。
 楽観主義者は、たとえば、農業改革と土地利用の自由化をセットにするといった積極的な構造改革に望みを託す〔……〕。だが、これまでのところ、日本は信頼できる成長計画を打ち出せずにいる。人々は貯蓄するだけで経済や社会生活にかかる支出を抑えるなど、経済活動が停滞するリスクが益々高まっている。こうした傾向は、経済見通しを一層暗いものにする。
 日本経済を低迷させている原因を特定することは難しい。だが、日本経済の成長に、政治の安定と信頼できる法制度が重要な役割を果たしてきたこと、そして中国の隆盛から、長期的な展望で賢明な公共政策を実施することが必要であることが証明された。




 「第六章 近視眼的政治の危機」から。
□p. 128 弱点としての短期志向

 民主主義では、短期志向が強まりやすい。西欧では政治家の任期が短い。任期は通常五年未満であることから、長期的な政策課題に取り組もうとしても、選挙に中断されてしまう。当然、政治家は、月次インフレ率、失業率、GDPの改善など、すぐに成果が表れるものや、成果が分かりやすい政策で有権者にアピールするようになる。だが、このアプローチでは経済の構造問題の悪化に目が向かず、問題解決のための政策を打ち出すことができない。持続可能な経済成長のためには、政治指導者、ビジネスのリーダーが、短期的な点数稼ぎよりも長期的繁栄を重視した、より質の高い意思決定を行う必要がある。


□pp. 141-142 「民主主義的資本主義」を維持しつつ改善を行うべきという主張。二段落目で「たとえば」の二段ネストが行われている。

 民主主義的資本主義が多くのことを達成したことは疑いがない事実である〔……〕。アメリカの所得水準は過去五十年で三十倍になり、貧困は四十パーセント削減された。欧州では一九六〇年から二〇一五年までに一人当たりGDPが三倍になった。また、週当たり労働時間は三分の一に短縮した。世界経済は、途上国と先進国の経済成長によって過去二十年で三倍に拡大した。そして経済的繁栄に伴い、近代史においてかつてない長い平和の時代が到来した〔……〕。だが、それでも、世界経済が飛躍するためには、民主主義は改革の必要がある〔……〕。
 たとえば、民主主義はしばしば誤った資源配分をする〔……〕。民主主義的資本主義を採用する国の政治家は、しばしば経済成長を促進するのではなく、制約する政策を選択する。政治制度は、発展する可能性が高く、経済成長見通しをよくする資産へ重点的に資源配分するべきである。たとえば、中国とインドでは、生産性を高めるために道路を必要としていた。中国は道路を建設したが、インドでは、複雑な官僚主義と、政治的対立からインフラ建設が行き詰まった。これによりインドでは民主的な手続きが経済成長を推進する意思決定を阻害していることが明らかになった。


□pp.143-144 政治面では汚職イデオロギー対立、経済面では格差拡大が、民主主義的資本主義のネック。

 民主主義的資本主義のもう一つの短所は、大いなる成功の一方で、汚職が生まれやすいことである。二〇〇〇年代初頭のエンロンワールドコムといったアメリカの優良企業の粉飾決算事件〔……〕、国際的な大手監査法人アーサーアンダーセンや主要な投資銀行がそうした不正に関与していたことで、資本主義が組織的な不正に無力であることが明らかになった。
 また、民主主義的資本主義にはもう一つ問題がある。それは、格差に対処できないということだ〔……〕。民主主義政治は政治献金が物を言うことから、富める者と貧しい者の格差は拡大していく。富が政治に及ぼす影響が大きいことが問題の根本にある。資金量が選挙を決定することを止めなければ、政府が格差解消をしようとしても効果はない。これが過去数十年、右派と左派のいずれも格差拡大を抑止できなかった理由である。
 最終的に、民主主義では複占と行き詰まりが発生しやすいと言える。民主主義は本来、競争的な選挙を奨励するが、民主主義の先進国では〔……〕自由な競争で最良の政治を行うというよりも、旧態依然とした二つのイデオロギーのせめぎ合いになっている。西欧先進国の多くはほば二大政党制である。その最たる例はアメリカであり〔……〕共和党民主党を脅かす第三党はない。


□pp. 145-149 まとめにあたる部分。

 この章ではこれまで、民主主義の下で政策立案者がどのように間違った政策を選択し、長期的な経済成長を阻害するのかを見てきた。民主主義の欠陥に対処する前提として、自由民主主義の政治家が必ずしも短期志向だというわけではないことを理解しよう〔……〕。
 民主主義は、他のどのシステムよりも経済成長と本質的な自由をもたらすことができる。万一失敗したとしても、それを代替するものはない。経済が成長するためには、自由、効率的市場、透明性、経済を正しい方向へ導く動機づけといった民主主義的資本主義の長所を維持し、その一方で短所をなくす改革を実施しなければならない。政治指導層の深刻な短期志向を修正し、経済の長期的課題に対処できるように選挙の周期を見直す必要がある。さらに、政治的圧力から経済政策の意思決定を隔離し、機能不全を取り除かなければならない。

『古代・中世経済学史』(Barry Gordon[著] 村井明彦[訳] 晃洋書房 2018//1975)

原題:Economic Analysis before Adam Smith: Hesiod to Lessius(1975)
著者:Barry Gordon (1934-1994) 古典派、キリスト教経済思想。
訳者:村井 明彦[むらい・あきひこ](1967-)  貨幣的ミクロ経済学に基づくマクロ経済学。新オーストリア経済学。
寄稿:米田 昇平[よねだ・しょうへい](1952-) 社会思想史。
NDC:331.23 経済学.経済思想 >> 経済学説史.経済思想史 >> @ヨーロッパ
件名:経済学--歴史--古代
件名:経済学--歴史--中世


古代・中世経済学史 - 株式会社晃洋書房


【目次】
刊行によせて(米田昇平) [i-iv]
著者序文(オーストラリア、ニューサウスウェールズ州ニューカッスル大学 バーリ・ゴードン) [v-viii]
目次 [ix-xii]
凡例 [xiii]


第1章 プラトン以前 001
1 ヘシオドスと自己充足の経済学 002
2 ソロンと紀元前六世紀のアテナイ 005
3 ペリクレスアテナイの劇作家とソピスト 007
原注 訳注 013


第2章 ソクラテス派経済学の考え方 015
1 都市国家の衰退 015
2 プラトンアリストテレス 016
3 ソクラテス派経済学の基盤 017
4 特化と反成長論 019
5 目的の科学としての経済学 023
6 手段の獲得 025
7 クセノポンほかのソクラテス派の寄与 026
原注 訳注 028


第3章 ソクラテス派経済分析の四論点 030
1 貨幣の本質と機能 030
2 利子 034
3 共同所有と私的所有 036
4 価値論 037
  (1) 公正の類型 
  (2) 効用価値説の一面 
  (3) 労働 - コスト価値説の一面 
  (4) 比例的応分論の定式 
  (5) 世帯対市場 
原注 訳注 047


第4章 経済活動に関する聖書や教父の見解 049
1 旧約聖書 050
  (1) モーセ五書 
  (2) 預言者たち 
  (3) 知惠文学 
2 新約聖書 056
3 東方教父 061
4 西方教父 064
  (1) アウグスティヌス以前 
  (2) アウグスティヌス 
原注 訳注 072


第5章 法学者の経済学――ユダヤ法学、ローマ法学、教会法学 080
1 ミシュナ 080
  (1) 交換と価格 
  (2) 後見制、貸付、預託 
  (3) 所得と仕事 
  (4) のちの発展と影響 
2 ローマ法の伝統 087
  (1) 販売と物々交換の違い 
  (2) 価格 
  (3) 価値 
  (4) 貨幣 
  (5) 利子 
3 教会法 097
  (1) グラティアヌス以前 
  (2) グラティアヌスとその後 
原注 訳注 104


第6章 聖トマス・アクィナス 112
1 経済学の位置づけ 114
2 貨幣・利子・銀行業 116
  (1) 交換手段 
  (2) 共通標準または計算単位 
  (3) 保有残高としての貨幣 
  (4) 銀行業の地位 
3 価値と価格 125
4 価値、所有、所得、仕事 128
原注 訳注 133


第7章 スコラ経済学の貨幣思想、1300‐1600年 138
1 貨幣悪鋳が投げかけた問題 139
2 停止利益の容認 142
3 商品としての貨幣――為替と年金 148
原注 訳注 155


第8章 スコラ思想における価格と価値 1300‐1600年 160
1 十三世紀後半と十四世紀――オリヴィ、スコトゥス、ビュリダン、ランゲンシュタイン 162
2 十五世紀――ジェルソン、ニーダー、サンベルナルディーノ、コンソブリヌス 167
3 十六世紀――カエタヌス、ソト、アスピルクエタ、モリナ、ほか 170
原注 訳注 175


第9章 偉大なるレッシウス 179
1 停止利益 181
2 貨幣喪失 182
3 貸付と為替 185
4 価格と市場 187
5 賃金の決定 189
6 独占 192
7 後代との対比 194
原注 訳注 195


訳者あとがき(二〇一八年九月良日 村井明彦) [201-211]
  著者の業績と本書の意義
  理論的示唆
  経済学史史――経済学史叙述の歴史
索引 [1-14]

『鏡映反転――紀元前からの難問を解く』(高野陽太郎 岩波書店 2015)

著者:高野 陽太郎[たかの・ようたろう] (1950-) 認知科学実験心理学
NDC:141.21 心理各論 >> 視覚
NDC:141.51 心理各論 >> 認知.認識.認知心理学


鏡映反転 - 岩波書店


【目次】
はじめに [v-x]
目次 [xi-xiv]


第1章 鏡の中のミステリー 001
1 鏡映反転 002
2 即席の説明 003
3 古代の学説 006
  プラトンの説明
  ルクレティウスの説明
4 鏡の光学的な性質 009
  鏡による反転と非反転
  奥行き方向の反転
  知覚される現象としての反転
  認知の問題としての鏡映反転


第2章 さまざまな説明 017
1 移動方法説 018
  ピアースの説明
  ファインマンの説明
  ブロックの批判
  ナヴォンの批判
  重なりあう理由
  文字の鏡映反転
2 左右対称説 024
  左右の近似的な対称性
  片腕の人物
  文字の鏡映反転
3 言語習慣説 027
  「言葉の使いかた」という説明
  論理の飛躍
  文字の鏡映反転
4 対面遭遇スキーマ説 029
  自分の鏡像と実物の他人
  文字の鏡映反転
  床の鏡
5 物理的回転説 034
  グレゴリーの説明
  観察者の回転
  自分自身の鏡映反転


第3章 鏡映反転を説明する 041
1 さまざまな鏡像 042
2 手がかり 045
  物体の種類
  比較の対象
  方向の異同
  横対した場合
  三種類の鏡映反転
3 光学反転 051
  文字の左右反転
  前後反転
4 表象反転 053
  鏡に正対した文字
  表象
  文字の表象
  左右反転の原因
  物理的回転の役割
  さまざまな表象反転
  表象反転をひき起こす対象
  表象反転と光学反転
5 視点反転 064
  視点の転換
  座標軸の変換
  回転の方法
  回転の役割
  鏡像の視点をとる理由
  視点反転をひき起こす物体
  鏡に横対したときの鏡映反転
  回転と平行移動
6 多重プロセス理論 080
  視点反転
  表象反転
  光学反転
  三つの原理


第4章 説明を検証する 085
1 実験のあらまし 086
  実験の必要性
  実験の方法
  較正〔こうせい〕
  「一つの現象」対「三つの現象」
2 「視点反転」対「表象反転」 093
  鏡映反転を否認する人
  文字の鏡像の認知
  否認者についての予測
3 調査 099
  調査の方法
  調査の結果
4 否認者 102
  自分の鏡映反転
  否認者の割合
  文字の鏡映反転
5 別解釈の検討 107
  対称性にもとづく解釈
  非対称な人体と対称な文字
  鏡映反転と対称性
  他人の鏡映反転
6 反転鏡 116
  凹面鏡と合わせ鏡
  多重プロセス理論の予測
7 「視点反転」対「表象反転」:結論 120
8 「視点反転」対「光学反転」 122
  横対の場合
  実験による検証
  視点変換の必要性
9 「表象反転」対「光学反転」 127
  「表象との比較」対「実物との比較」
  横対したヒエログリフ
  鏡映文字のC
10 三種類の鏡映反転 132


第5章 理解を深める 135
1 表象反転 136
  鏡映文字
  切り抜いた文字
  未知の文字
  学習経験の有無
  逆さ文字の鏡像:上下反転
  逆さ文字の鏡像:左右反転
  イメージ回転
  文字以外の表象反転
  未知の地図
  表象の左右
  モナリザの鏡映反転
2 視点反転 157
  位置判断についての予測
  被験者のリボン
  鏡と正対した実験者のリボン
  被験者と正対した実験者のリボン
  リボンの位置:結論
  方向の判断と反転の判断
  判断の変化
  視点変換の不安定さ
  方向の判断と反転の判断(再)
  床の鏡
  視点変換をひき起こす対象
  自動車
  右ハンドルと左ハンドル
3 光学反転 178
  上下の鏡映反転
  重力のか影響はあるか?
  立体の前後反転
  対象による違い
  上下と左右の光学反転
  光学反転の認知


第6章 他説を反証する 191
1 「鏡像と重なる」という説明 192
  移動方法説と左右対称説
  鏡像に重なる理由
  人間以外の鏡映反転
  左右が非対称な人体
  表象反転
2 物理的回転説 198
  物理的回転説のロジック
  いきなり見た鏡像
  鏡映文字
  未知の文字
  物理的回転の役割
3 左右軸劣後説 204
  左右軸劣後の原理
  方向の整合性
  文字の鏡映反転
  多幡の説明
  コーバリスの説明
  左右非対称な被験者


第7章 科学的解決と社会的解決 215
  現象の複雑さ
  理論外の要因
  他説とのせめぎ合い
  批判の例
  反論の例
  科学的な解決と社会的な解決


おわりに  [227-232]


謝辞 [233]
参考文献 [1-5]



【抜き書き】



◆最終章から(pp. 216-217)。

 ここまでつきあってくださった読者は、鏡映反転についての議論がかくも錯綜していることを目のあたりにして、意外の感に打たれたのではないだろうか。「鏡のなかでは左右が反対に見える」というだけのことなのだから、せいぜい二、三ページもあれば片がつくはずだ」と思うのが普通だろう。ところが、じっさいには、どのような説明が正しいのかを見きわめようとすると、これだけの議論が必要になるのである(附章には、さらに入り組んだ議論が控えている)。


   現象の複雑さ
 議論が複雑になる理由は二つある。ひとつは、鏡映反転という現象そのものの複雑さである。もうひとつは、他説とのせめぎ合いである。
 まず、現象の複雑さから。
 鏡映反転は、見かけとは裏腹に、非常に複雑な現象である。このことについては、もはや多言を要しないだろう。現象そのものが複雑なので、その説明も、どうしても複雑にならざるをえない。多重プロセス理論は、ほかの説にくらべれば、たしかに複雑な説明をしているが、その複雑さは、現象の複雑さに見合った複雑さなのである。理論をこれ以上単純にすると、説明できない現象が出てきてしまう。逆に、これ以上複雑にすると、説明が冗長になってしまう。
 いまの複雑さで、多重プロセス理論は、鏡像の認知をすべてきちんと説明することができる。これまでみてきたとおり、多重プロセス理論の予測と実験データとの差は、ほとんどの場合、「誤差の範囲内」におさまっている。

 



◆社会的な「説明」について。単純な仮説というのは魅力的だが、鏡映反転問題では厄介な面もある。(pp. 219-220)

   他説とのせめぎ合い
 鏡映反転についての議論が複雑になる理由のひとつは、いま述べたように、鏡映反転という現象そのものの複雑さなのだが、もうひとつの理由は、他説とのせめぎ合いである。
 これまで、鏡映反転について論文や本を書いたり、講演をしたり、シンポジウムを開いたりしてきたが、そうした機会に痛感したことは、「単純な現象なのだから、単純な説明ができるはずだ」という思いこみがいかに強固かということだった。多重プロセス理論のように複雑な説明は、複雑だというだけで、うさん臭く感じられてしまうようなのである。
 その思いこみを打ち破るためには、「単純な説明」をひとつひとつ取りあげて、それぞれの誤りを証明しなければならない。しかし、「単純な説明」の支持者は、なんとか自説を守り抜こうとして反論をしてくる。多重プロセス理論に向けて批判の矢も放ってくる。そうした反論や批判の誤りを明らかにするためには、どうしても複雑な議論が必要になってくるのである。
 しかし、議論が複雑になればなるほど、いかに正しい議論であっても、それを正確に理解してもらえる見込みは薄くなっていく。とくに、「誤りを見抜くためには、視野を広くとって、いろいろな事実を考慮に入れ、ややこしいロジックを辿らなければならない」という場合には、議論の正しさを理解してもらうことは、至難の業になる。「ちょっと見」で正しく感じられる単純な批判や反論のほうが、強い説得力を発揮してしまうのである。


◆(p. 224)

   科学的な解決と社会的な解決
 科学的な説明の妥当性は、基本的には、「関連するすべての事実を合理的に説明することができるか」、「説明のなかに論理的な矛盾はないか」、「確立された科学的な知識体系と矛盾することはないか」といった基準にもとづいて判断されることになっている。これらの基準をクリアしていれば、科学的には、「鏡映反転」という難問は解決したことになる。
 しかし、ほんとうに「解決した」ということになるためには、「科学的に解決した」ということを大方の人が認めるようになる必要がある。鏡映反転の問題は、まだその段階にまでは達していない。