著者:河野 徹[こうの・てつ](1931-) 英文学、
NDC:930.2 英米文学史
本書が扱うのは、英米文学の一部門であるユダヤ系作家の文学ではない。英米の非ユダヤ系作家・詩人の作品において、どうのようなユダヤ人像が描かれてきたか。
イギリス文学では、チョーサー、マーロウ、シェイクスピアから、スコット、ディケンズ、G. エリオット(『ダニエル・デロンダ』)ら19世紀作家を経て、現代のT. S. エリオット、パウンド、ジョイスに至るまで、アメリカ文学ではロングフェロウ、ホーソーン、メルヴィル(『クラレル』)からヘンリー・ジェイムズ、マーク・トウェイン、ウィラ・キャザーを経て、フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、フォークナーに至るまで、それぞれのユダヤ人像を紡ぎ出している。
「ある作品の中で反ユダヤ的(もしくは親ユダヤ的)メタファーがどのように機能しているか推察すれば、その作者の人間観、社会観からパーソナリティーの基底部に迫る端緒を開けるかもしれない。」歴史的過程を鳥瞰するのではなく、個々の作品の表現に心理的分析を施すことにより、より精密な作家論ともなった本書は、英文学とユダヤ学ともに通じた著者ならではの、貴重な著作であると言えるだろう。
【目次】
目次 [i-iv]
第一部 イギリス文学のなかのユダヤ人
序章 003
第一章 中近世英文学にみるユダヤ人像(一〇六六 - 一六〇〇) 013
一 パウロ神学の影響 013
二 中世イギリスのユダヤ人―― 一二九〇年の国外追放まで 019
二 文学的ユダヤ人像の形成――聖史劇から『ヴェニスの商人』まで 026
(一) 聖史劇(mistery plays)
(二) 「女子修道院の話」(チョーサー)
(三) バラバスとシャイロック
第二章 近代英文学にみるユダヤ人像 044
一 ユダヤ人の再入国から法的解放実現まで 044
二 近代英文学にみる代表的ユダヤ人像 055
(一) アイザックとレベッカ
(二) フェイギン
(三) ダニエル・デロンダ
第三章 現代英文学にみるユダヤ人像 08
一 T・S・エリオット(「ゲロンチョン」「葉巻をくわえたプライシュタイン」他) 082
二 エズラ・パウンド(「シュティンクシュタイン(ことロスチャイルド)」他) 096
三 ジェイムズ・ジョイス(レオポルド・ブルーム) 110
四 オーウェルのユダヤ人像 120
(一) 定型的ユダヤ人観の展開
(二) 反ユダヤ主義との取り組み
(三) 反シオニズム的傾向
序章 145
第一章 ユダヤ系アメリカ人の歴史――植民地時代から南北戦争まで 150
一 植民地時代 150
二 アメリカ革命前後 153
三 中欧ユダヤ人移民の展開 155
四 南北戰爭前後 160
第二章 近代アメリカ文学にみるユダヤ人像 165
一 伝説と現実の間 165
二 ロングフェロウ(「ニューポートのユダヤ人墓地」)
三 ホイッティアー(「ラビ・イシュマエル」他)
四 ホームズ(「無言劇の教え」 他)
五 『クェイカーの都市』(G・リバード)と『行商』(O・ルピアス)
六 ホーソーン(『大理石の牧神』 他)
七 メルヴィル(『クラレル』他)
第三章 近代後期アメリカ文学にみるユダヤ人像 205
一 移民の大挙流入と反ユダヤ主義 205
二 ヘンリー・アダムズ(『モン・サン・ミシェルとシャルトル』他) 210
三 ヘンリー・ジェイムズ(『悲劇の美神』他) 221
四 マーク・トゥエイン(「ユダヤ人に関して」 他) 231
五 ウィラ・キャザー(『教授の家』他)
第四章 現代アメリカ文学に見るユダヤ人像 247
一 フランシス・スコット・フィッツジェラルド(『偉大なギャッツビー』『最後の大君』 他) 247
二 アーネスト・ヘミングウェイ(『日はまた昇る』) 255
三 トマス・ウルフ (『天使よ故郷を見よ』『時と川について』『蜘蛛の巣と岩』他) 262
四 ウィリアム・フォークナー(『響きと怒り』『サンクチュアリ』『寓話』他) 275
五 スタイロン(『ソフィーの選択』) 286
六 黒人のユダヤ人観とユダヤ人の黒人観 303
(一) ジェイムズ・ボールドウィン(『アメリカの息子の手記』 他)
(二) エドワード・ルイス・ウォラント(『質屋』)
(三) ソール・ベロー(『サムラー氏の惑星』)
(四) バーナード・マラマッド(『借家人』)
エピローグ――反ユダヤ主義は妄想か現実か 328
注 [344-367]
あとがき(二〇〇一年一月 河野 徹) [368-370]