編者:綾部 恒雄[あやべ・つねお] (1930-2007) 文化人類学。
NDC:389 民族学、文化人類学。
【目次】
はじめに(一九九四年三月 綾部恒雄) [003-006]
目次 [007-010]
I 草創期文化人類学の古典 011
エドワード・タイラー 『原始文化』[佐々木宏幹] 012
「未開」から「文明」へ
アニミズム発生の論理
タイラーのアニミズム論をめぐる評価
ルイス・ヘンリー・モーガン 『古代社会』[小野澤正喜] 021
社会進化論的人類史
婚姻形態と親族名称の関係
『古代社会』とマルクス、エンゲルス
ジェームズ・フレーザー 『金枝篇』[佐々木宏幹] 030
金枝伝説が示す豊穣な世界
王‐祭司‐呪術師と王殺し
呪術論の諸相
進化主義的方法への批判
ハットン・ウェブスター 『未開の秘密結社』[綾部恒雄] 040
秘密結社をめぐる諸説
男子結社とイニシエーション
秘密結社の変質
アルノルト・ファン・ヘネップ 『通過儀礼』[綾部恒雄] 049
「通過」儀礼の発見
分離・過渡・統合
空間的通過儀礼と聖域
「異人」への着眼
ファン・ヘネップの先見性
ロベール・エルツ 『右手の優越』[吉田禎吾] 059
なぜわれわれは右利きなのか
言語からみた右と左
象徴的分類研究からの再評価
エルツの理論の限界
リュシアン・レヴィ=ブリュール 『未開社会の思惟』[吉田禎吾] 068
未開人の思考様式
未開心性論への批判
エミール・デュルケーム 『宗教生活の原初形態』[佐々木宏幹] 077
聖と俗――宗教の定義
トーテミズム
デュルケーム宗教論への批判
II 近代人類学の系譜
エドワード・サピア 『言語』[綾部裕子] 088
言語なしで思考は可能か
言語の構成要素はなにか
ドリフト ――言語変化の原因をさぐる
社会心理学との接点――言語・人種・文化
ブロニスラフ・マリノフスキー 『西太平洋の遠洋航海者』[青柳まちこ] 098
フィールドワークの方法論
贈与論・交換論の基礎
マリノフスキーとラドクリフ=ブラウン
マルセス・モース 『贈与論』[渡辺公三] 107
戦間期の時代状況と『贈与論』
《全体的》社会現象としての贈与・交換
ヴィルヘルム・シュミット 『民族と文化』[クネヒト・ぺトロ] 117
「文化圏」概念の導入
父権的文化と母権的文化
文化の発展史観
ウィーン学派とシュミットの理論
アーサー・モーリス・ホカート 『王権』[前川啓治] 126
「神聖なる王」の諸制度
ホカートの再評価――構造論の先駆者
デ・ヨセリン・デ・ヨング 『トリックスターの起源』[宮崎恒二] 136
ヘルメス像の両義性
文化英雄とトリックスター
人類学における本論の意義
オランダ構造人類学
岡正雄 『異人その他』[綾部恒雄] 144
フォークロアからの視点
「異人」とは何か
ルース・ベネディクト 『文化の諸型』[綾部恒雄] 154
「文化型」の理論
「全体観」の萌芽
文化の統合形態
ルース・ベネディクト 『菊と刀』[綾部恒雄] 162
日本文化の「型」を捉える
道徳規範からみた日本文化
恥の文化と罪の文化
日本における反応
E・E・エヴァンズ=プリチャード 『ヌアー族』[田中真砂子] 173
牛に生きる人々
生態学的時間(距離)と構造的時間(距離)
ヌエルの社会構造
「文化」の記述としての民族誌
石田英一郎 『河童駒引考』 184
比較民族学的手法
河童・馬・猿・水の伝承にみる文化の伝播
日本民族学への影響
アルフレッド・ラドクリフ=ブラウン 『未開社会における構造と機能』[青柳まちこ] 193
過程・構造・機能
ユーノミアとディスノミア
南アフリカにこける母の兄弟
「比較社会学」の視点
III 啓蒙的名著
マーガレット・ミード 『男性と女性』[太田和子] 202
性差の人類学的研究
男女の身体のあり方と社会
性と家族のアメリカ社会論
「フェミニスト」からの批判
ジュリアン・ピット=リヴァーズ 『シエラの人びと』[黒田悦子] 210
フランコ時代のスペイン、アンダルシーア社会史
プエブロと中央政府の緊張関係
プエブロからみた世界
政治と倫理
ジョージ・ピーター・マードック 『社会構造』[片多 順] 219
民族誌的データの集成による通文化的比較研究
核家族――人間社会の普遍的家族単位
親族名称への統計的アプローチ
本書の信頼性をめぐる問題
クライド・クラックホーン 『人間のための鏡』[片多 順] 226
文化とは何か――自然・人種・言語
人類学と現代社会の接点
エドマンド・リーチ 『高地ビルマの政治体系』[田村克己] 233
シャン型・グムサ型・グムラオ型社会モデル
社会動態論の視点
リーチの観念論的アプローチ
ロバート・レッドフィールド 『農民社会と文化――文明への人類学的アプローチ』[小泉潤二] 242
レッドフィールドと共同体研究
農民とは何か
大伝統と小伝統
歴史への接近
エドワード・T・ホール 『沈黙のことば』[綾部裕子] 253
時間の扱いは文化間で異なる
主要メッセージ体系と文化三次元論
パターンの構造
異文化間コミュニケーション論の先駆者
マイヤー・フォーテス 『西アフリカの宗教における「エディプス」と「ヨブ」』[田中真砂子] 264
「エディプス」と「ヨブ」のパラダイム
ヨブ的正義を表象する祖先の力
社会的不適合を癒やすエディプス的宿命
祖先崇拝における普遍的要素
クロード・レヴィ=ストロース 『野生の思考』[浜本 満] 274
哲学者であるとともに詩人
記号による知的器用仕事
アナロジーの論理が形づくる「野生の思考」
クロード・レヴィ=ストロース 『親族の基本構造』[浜本 満] 282
互酬性の原理と女性の交換体系
人間精神に内在するものとしての「新属」
ロドニー・ニーダム 『構造と感情』[浜本 満] 292
『親族の基本構造』をめぐる論争
心理学的解釈への批判
ニーダムのレヴィ=ストロース理解
梅棹忠夫 『文明の生態史観』[端 信行] 299
「日本というカード」
生態史からみた第一地域と第二地域
生態系から文明系へ――比較文明論の視座
メアリー・ダグラス 『汚穢と禁忌』[小野澤正喜] 306
『レビ記』における食物禁忌の解釈
聖性と汚れの象徴二元論
パラダイム転換期のイギリス社会人類学
アブナー・コーエン 『二次元的人間』[大谷裕文] 314
象徴と権力の弁証法
英国人類学界における位置づけ
本書への批判的価値
J・ファン・バール 『互酬性と女性の地位』[田中真砂子] 322
互酬性――交易と贈与
女性はものなのか
「養護」をめぐる両性間の関係
互酬性と社会秩序――学者行政官の視点
V 現代の視点
モーリス・フリードマン 『中国の宗族と社会』[末成道男] 332
「リネージ」による宗族の分析
中国社会の社会人類学的研究
フリードマンナーモデルの評価と方法論的問題
中根千枝 『タテ社会の人間関係』[末成道男] 339
「資格」と「場」による社会構造分析
自文化の社会人類学的考察
一つの実体としての日本――「タテ社会」をめぐる問題
山口昌男 『文化と両義性』[渡辺公三] 348
越境する知
文化の多元性を照らす「知」の作法
ヴィクター・ターナー 『儀礼の過程』[黒田悦子] 357
ンデンブの儀礼における境界性
境界性から反構造へ――コミュニタス論の展開
フランシス・L・K・シュー 『クラン・カースト・クラブ』[大谷裕文] 364
中国・ヒンドゥー・アメリカ人の世界観
心理・行動的次元からの分析――クラン・カースト・クラブ
比較接近法をめぐる評価
ルイ・デュモン 『社会人類学の二つの理論』[渡辺公三] 372
ラドクリフ=プラウンの親族関係研究をめぐる問題
エヴァンズ=プリチャード「婚姻」の構造的相対性
レヴィ=ストロースと「婚姻連帯の理論」
マーシャル・サーリンズ 『石器時代の経済学』[小野澤正喜] 381
新進化主義の転換期
サーリンズ理論の源泉と遍歴
エイダン・サウスホール 『都市人類学』[竹沢泰子] 389
都市人類学の台頭
数式化された「都市」
都市化とエスニック集団
都市とは何か
モーリス・ゴドリエ 『人類学の地平と針路』[小野澤正喜] 396
マルクス経済学から人類学へ
川田順造 『無文字社会の歴史』[渡辺公三] 402
非文字資料―文字―口頭伝承
伝承と現実
「歴史」と当事者の「現在」
歴史の可能性と文字
ネーサン・グレイザー/ダニエル・モイニハン 『人種のるつぼを越えて』[竹沢泰子] 411
「るつぼ」神話の崩壊
文化人類学の視点から
クリフォード・ギアツ 『ヌガラ―― 一九世紀バリの劇場国家』[小泉潤二] 418
国家儀礼の表現性
国家の支配と多元的組織
国家の演劇
権力の文化的次元
テクストとしての『ヌガラ』
カール・ポランニー 『人間の経済』[端 信行] 430
実体=実在的経済理論
経済人類学の先駆者
互酬・再分配・交換
エリック・ホブズボウム 『創られた伝統』[前川啓治] 437
人類学と歴史学の接点
ネーションの文化的源泉としての伝統
増殖する「伝統」のイデオロギー
ベネディクト・アンダーソン 『想像の共同体』[太田和子] 446
二つの文化システムと「ネーション」の歴史的起源
クレオール・ナショナリズムと言語(俗語)ナショナリズム
公定ナショナリズム・植民地ナショナリズムの展開
「国民国家」のゆくえ
索引 [457-461]
【抜き書き】
ギアツの文体についての言及箇所から(執筆:小泉潤二)。
これほどの時間がかかった『ヌガラ』であるが、その規模と詳細さと複雑さ、また展望の広さと問題の重さを考えれば当然のように思われる。そうした本書の内容をまとめるのはきわめて難しい。テクストを書くこと自体を極度に重視するギアツの文章は、それ以上そぎ落とせば文意不明になる直前まで省略され、一言半句に至るまで極端に慎重に磨き上げられている。文法の限界まで屈折の上に屈折を重ねながら、入れ子の中の入れ子を溢れさせるかたちで凝縮の極致を示す文体は、誰もが口をそろえる難解さと特徴的な癖の強さを帯びるとともに優美な均衡の構造を実現し、少なくとも人類学では類をみない繊細な意味の色調を定着させている。
(pp. 418-419)