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目次とメモを置いとく場

『雑草で酔う――人よりストレスたまりがちな僕が研究した究極のストレス解消法』(青井硝子 彩図社 2019)

著者:青井 硝子[あおい・がらす](1986-) ※筆名(本名:藤田拓朗)
解説:にゃるら (1994-) ライター。
解説:pha[ふぁ](1978-) ※筆名。作家、ブロガー。
植物イラスト:青井硝子、pio
カバーイラスト&デザイン:キメねこ ※筆名。漫画家。
件名:薬用植物
件名:雑草
件名:中毒
件名:幻覚
NDLC:SD121 科学技術 >> 薬学 >> 生薬学・薬用動植物学
NDC:499.87 生薬学 >> 薬用植物・薬草園


書籍情報 雑草で酔う−彩図社


【目次】
はじめに この本と著者について [003-005]
目次 [007-011]


【ハーブ/雑草編】バジル 012

【ハーブ/雑草編】ローズマリー精油) 018

【ハーブ/雑草編】睡蓮(スイレン) 022

【ハーブ/雑草編】クサノオウ 027

【ハーブ/雑草編】アジサイ 032

【キノコ編】テングタケ(毒) 039

【木の実編】ジュニパーベリー(実) 045

【ハーブ/雑草編】ホーリーバジル 052

【植物の種編】アサガオ 057

【ハーブ/雑草編】マリファニリャ(ヤクモソウ) 064

アヤワスカアナログ編】アカシア・アクミナータ 071

アヤワスカアナログ編】アカシア・コンフサ 079


幻覚植物の特殊栽培法について(クリプト - ファン栽培法) 087


生きづらい人へ――ヒトにおける2種類の脳みそについて 091


【サボテン編】ロフォフォラ・ウィリアムシー 099


人間の成長と変えられない形質について 116


草酔いの作法――キマり遊びからサイ・スポーツへ 126
  草酔いの作法の健康  
  草酔いの作法2 脳内麻薬への理解 
  草酔いの作法3 グラウンディング 
  草酔いの作法4 逆耐性について 


【日常編】肉ハイ 150

【日常編】事務ハイ 156

【日常編】車酔い 161


結局のところ、どのように生きたら生きやすいのか 165


【ハーブ/雑草編】タバコ 179


素晴らしい副題をつけた青井さんへ(にゃるら) [192-196]
青井さんのこと (pha) [197-199]
独自の言い回しや概念など一覧 [200-206]
図クレジット [207]





【抜き書き】

・巻末207頁にある、イラストの担当一覧。

  植物スケッチ
青井:クサノオウテングタケホーリーバジル、マリファニリャ、アカシア・アクミナータ、アカシア・コンフサ、アサガオ、タバコ 
pio:バジル、ローズマリー、睡蓮、アジサイ、ジュニパーベリー、ロフォフォラ・ウィリアムシー 


・あれこれを言語化するのに必要な用語を、著者は自家製でまかなっている。巻末の用語一覧から一部抜粋しておく。

   独自の言い回しや概念など一覧

 無手勝流で精神世界を探索しているため、新しい言葉が発生したりしています。文中に突然出てきて読みにくいと思うので、適宜このページを参照してください。
〔…中略…〕


・サイコアクティブ
 酔い。向精神作用。バットでぐるぐる回る酔いからアマゾン奥地で儀式する酔いまで全部含めてサイコアクティブの一種。セックスもドラッグも映画鑑賞も、心を動かす人間活動にはすべてサイコアクティブ的要素を含む。
 なお「サイコアクティブ物質」というと、吸ったり飲んだりすることで精神変容をきたす物質のこと。


・わっしょい
 脳みその一部分だけが酔っているさま。「左上の脳みそがわっしょいしている」と表現したりする。この脳みそ一部分の酔いをうまく捉えて変性意識に持っていくことを「わっしょいをキャッチする」「わっしょいキャッチ」などと表現している。煙遊び全般を通して重要な概念。


〔…中略…〕


・譫妄
 今どこで何をやっているのか分からない精神状態。
 何かを摂取しようとするとき一番警戒するのがこれで、この状態の時に被害妄想などが発生しやすい。特にたちが悪いのが、その特殊な精神状態を認識する機能すら酔って飛ばされること。
 今どういう状態か分からないので、何をやって今どうなっているかの因果が不明になり、他人が襲いかかってくるという妄想や思い込みが本当のことであると「わかってしまう」。こうなるとどうしようもないので、シラフのときに環境をチェックしてから手元のA4用紙に「ここは安全である」と書いておき、少しでも怖いと感じたら布団被って寝る。譫妄になる危険性の高いものを体に入れるときは必須。



【メモランダム】

・とある廉〔かど〕で著者が起訴された裁判についての平易な記事。なお書籍にも、この件についての編集部による注意書きが「アヤワスカアナログ編」に挿入されている。
[リンク切れ]https://news.yahoo.co.jp/articles/0e77f17789546254ab97732ce43dd6f5fc734d45?page=1
NHK 2022/09/26]https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20220926/2010015614.html


・この書籍の編集についてのメモ:既刊7冊をまとめて書籍化したとのこと。しかし、用語の注釈が前後していたり、記述の重複も散見される。


・内容についてのメモ:本書には「酔う体験の詳細な記録」「草酔いのハウツー」だけでなく、「生き方・人間観についての著者の持論」も収められている。そして後者がくせもの(面白いが)。
 人格や性格、「生きづらさ」また「非定型発達の人が社会をサバイブしていく方法」等についての著者オリジナルの考察に、相当ページを割かれている。
 余談だが、既に鶴見済人格改造マニュアル』(太田出版 1996年)という本がある。これは「特定の薬物を摂取したり洗脳をうけて意図的に自らの脳に影響を与えることで、現代社会にあわせて自分の性格を変えて生きやすくしよう」というテーマのハウツー本だった。『人格改造マニュアル』の著者(鶴見済)は、反体制派のスタンスをとっていたり、人間関係に生きづらさの原因を見出していたり、覚醒剤所持で逮捕されたりしている。……というわけで、本書(『雑草で酔う』)のオリジナルさをどこまで評価するかは読者によって大きく異なる。


・私の感想:率直に言えば、「非・専門家だが(悩みの)当事者でもある特殊な人物による持論なので、突飛な内容が含まれているし、面白い見解も含まれている。誤読を避けるためには読み手のリテラシーが相当必要とされる」……となる。
 まず単なる読み物としてであれば、著者の興味深い人生観と勢いのある文章を楽しめる。
 が、本書をハウツー本として実際の人生に適用しようとするなら、読者はいろんな面で注意を払う必要がある(瑕は、結論部の「雑草で酔うことへのススメ」へ至るまでに論理の飛躍が大きいこと)。本書に収められている発達障害そのものに関する記述の説得性は残念ながら低いと思う。またそういった心配をわきにおいても、「著者の意図」を誤解する可能性もある。というのも、この本には読者が見知らぬ分野の知識に加え、さまざまな精神現象への興味深い分析や見解がおりこまれているので圧倒される……その副作用で読み間違いが起きえるのではないかと思う。
 もちろん著者の独特の見方を掴むという点では、これ以上ないテキストだと思う。私の感想は以上。

 気になる方は、実際に本書を――特に[人間の成長と変えられない形質について]または[結局のところ、どのように生きたら生きやすいのか]を――参照してほしい。さいわい絶版にはなっていない。ただし公共の図書館には置けないタイプの本なので、購入しないといけない。
 発達障害や薬物依存については、書籍市場には既に分かりやすい解説書が流通しているので、私としてはそちらの方を優先して読んでほしい。



・売り文句についてのメモ:彩図社の本書の商品ページに記載された文言を抜き出すと、次の通り。

 社会で生きづらさを感じたら合法的に草を吸いましょう

 うつ、発達障害パワハラブラック企業etc…

 この本は、人と付き合うごとにストレスを感じていた男がついに社会から飛び出してしまい、車上暮らしを嗜み、人付き合いをさっぱり諦めて、雑草をタバコにするという遊びを延長して極めていった結果、なにやら独自の方向に研究が進んだ。そんなおかしな経験を記すものです。


・内容についてのメモ:本書は、「オーラ」「気」といったテーマもカバーしている。霊的/スピリチュアル/超常的なことがらへの言及も多い。
 ただし、黒魔術やカバラ六星占術は含まれていないので、本書が、不必要な網羅さ持っているわけではない。著者が記述するために必要な語彙を採ったという印象を受けた。
 明言されているわけではないが、ひょっとすると本書のベースは、むしろこの世界観にあるのかもしれない。





【関連文献】
・ヒッピー、対抗文化といえばこの本。
『対抗文化の思想――若者は何を創りだすか』(Theodore Roszak[著] 稲見芳勝, 風間禎三郎[訳] ダイヤモンド社 1972//1969)


・これは漫画。ある人物が戦闘(対局)中にアヤワスカでトリップする描写が一度ある。
 そして(直接的な描写が一度しかないのと同時に)この作品は、登場人物の9割が将棋に取り憑かれ、登場人物の6割が(主要な人物の9割が)、恒常的に賭博(賭け将棋)を嗜んでいるアウトローな漫画でもある。
ハチワンダイバー〈24巻〉』(柴田ヨクサル 集英社 2012.03)
ハチワンダイバー 24/柴田ヨクサル | 集英社 ― SHUEISHA ―


 なお、Wikipediaの登場人物紹介には次の通り、トリップの際の描写が載っている。

  シャンチーJr
鬼将会お抱えの医師。なまず髭を生やした怪しい雰囲気の小男。無免許医。〔……〕将棋スタイルは、様々な薬物によるドーピングで読みの力を極限に高めるという〔……〕もの。更に、そこに疑似自殺を併せる事で精神世界にトリップし、「神に最善手を授かる」という特異極まりない戦術も用いる。


【関連記事】
 弊ブログでは書籍の目次を掲載している。私の読んだ中で本書と関連が強そうな記事を下に並べた。素人目線での簡単な内容紹介もつけておく。


・総合的で完成度の高い新書。薬の作用機序から薬物治療の社会レベルの対策、民間の取り組みまで。薬物犯罪の報道ガイドラインにも言及している。
『薬物依存症』(松本俊彦 ちくま新書 2018)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201025/1603634400


西洋古典学者による大麻解禁論。本の大半は古代世界の薬物利用の話で、現代社会における麻薬についての記述は僅か。解禁論の部分は性急で説得力が弱い。
『麻薬の文化史――女神の贈り物』(Hillman[著] 森夏樹[訳] 青土社 2009//2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201121/1605884400


・麻薬類(さらにアルコールやタバコ)について、博物学的に記している。麻薬の文化史についても記述があるので、本書(『雑草で酔う』)を面白がった人にオススメ。
『〈麻薬〉のすべて』(船山信二 講談社現代新書 2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201213/1607785200


・日本の薬物犯罪捜査の歴史。ごく薄い新書ながら、麻薬組織のある種の怖さや、薬物市場の負の外部性がよくわかる。ただし「麻薬は使用者の心身にも、周囲の人間にも悪影響がある」と述べる部分は、正しいが表面的で、「同様の問題を持つアルコール類とタバコは何故許されているか」という疑問への慎重な説明も必要だろう。
『マトリ――厚労省麻薬取締官』(瀬戸晴海 新潮新書 2020)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201209/1607439600


・ざっくり発達障害について説明する新書。類書多し。
発達障害かもしれない――見た目は普通の、ちょっと変わった子』(磯部潮 光文社新書 2005)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130725/1374679800


自閉症当事者による感覚の見事な描写が光っている。
『動物感覚――アニマル・マインドを読み解く』(Temple Grantin, Catherine Johnson[著] 中尾ゆかり[訳] NHK出版 2006//2005)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160426/1461863804


神経科学者による、自閉症スペクトラム障害および発達障害についての解説。一般向けの本では、精神科医による本の方が多いので、本書もあわせて読みたい
『脳からみた自閉症』(大隅典子 ブルーバックス 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20180309/1520440136