編者:児玉 聡[こだま・さとし](1974-)
著者:奥田 太郎[おくだ・たろう](1973-)
著者:後藤 励[ごとう・れい](?-)
著者:亀本 洋[かめもと・ひろし](1957-)
著者:井上 達夫 [いのうえ・たつお](1954-)
シリーズ:法と哲学新書;1
NDC:369.81 社会福祉 >> 矯風事業 >> 禁酒・禁煙運動
タバコ吸ってもいいですか ― 喫煙規制と自由の相剋 - 信山社出版株式会社 【伝統と革新、学術世界の未来を一冊一冊に】
【目次】
はしがき(二〇二〇年九月末 コロナ禍で静かな吉田キャンパスの研究室にて 児玉聡) [iii-x]
目次 [xi-xiv]
喫煙はどこまで個人の自由か――喫煙の倫理学〔児玉 聡〕 003
1 喫煙と倫理学 003
禁煙談義のレベル分け
喫煙の害に関するエビデンス
喫煙規制の三つの立場
他者危害原則とパターナリズム
2 喫煙は個人の自由であるため公共空間で規制はしないという主張 009
禁煙に関する一昔前の論調
「受忍限度論」と世論に訴える論法
現在の議論とどこが違うか
3 公共空間では規制し、私的空間でしか喫煙はできないという主張 014
今日の日本の喫煙規制
今日の議論の争点
みなが喫煙に同意していれば問題ないか?
「たばこは文化だから禁止すべきでない」か?
未成年者の喫煙は許されるか?
4 私的空間でも公共空間でも禁煙すべきという主張 024
私的空間における喫煙:ミルの立場
私的空間における喫煙:グッディンの立場
喫煙者はたばこのリスクを知っているのか?
成人は自発的に喫煙しているのか?
グッディンの議論に対する
反論の検討
どのような規制が望ましいか
まとめ
文献一覧 038
註釈 040
喫煙しない自由からの闘争 ――喫煙規制問題を倫理学する〔奥田太郎〕 045
タバコ問題の現代史
1 日本における喫煙規制の最前線 048
(1) 東京都受動喫煙防止条例
規制対象施設の分類
(2) 改正健康増進法
改正健康増進法の基本的な考え方
旧健康増進法からの変更点
2 喫煙規制強化は倫理的に妥当か 056
議論の文脈
(1) 他者への危害を考える
喫煙者と非喫煙者の立ち位置
喫煙する権利ときれいな空気を吸う権利の非対等性
受動喫煙の自発性と喫煙する権利
喫煙する権利を行使するコスト
(2) 自己への危害を考える
喫煙者は体に悪いと知っている
喫煙者は体に悪いとわかったうえで喫煙している?
3 喫煙規制強化に隠された倫理的問題 069
見えなくなっている理由を疑え
特定の人間の否定をもたらす危険性
(1) 喫煙者をめぐる言説
喫煙者への人格批判
不合理で無節操な人物という喫煙者イメージ
喫煙者のポジティブなイメージ
タバコというアイテムの不思議
タバコは文化の問題か、喫煙者のライフスタイルの問題か
(2) 喫煙者の自律と禁煙の自由
嗜癖問題への二つのアプローチ
第三のアプローチの可能性
タバコ問題における治療モデルのアプローチ
タバコ問題における社会モデルのアプローチ
社会経済的要因を見て何が分かるか
社会モデルのアプローチが取りこぼすもの
第三のアプローチ
禁煙の愉しみと喫煙者の関わり
喫煙者を脱喫煙者化しない
禁煙の自由が示す論理学的機微
文献一覧 092
註釈 094
医療経済学の立場から見た喫煙と喫煙対策〔後藤 励〕 095
1 経済学から見たアディクション 096
合理的アディクションモデル
2 健康被害の不確実性と個人の楽観性の違いを考慮したモデル 101
3 禁煙先延ばしのモデル化 104
4 個人内葛藤を考慮に入れたモデル 108
5 行動経済学の発展 111
情報内容によって選択が変わる(フレーミング効果)
プロスペクト理論
6 アディクションの経済理論と喫煙対策 119
合理的アディクションモデルに基づく喫煙対策
他者への迷惑「外部性」に加え将来の自分への迷惑「内部性」も考慮する
インセンティブ付与:期待したほど効果はない?
ナッジ:少し変えるだけで効果が?
自制と規制のバランス
個々人の行動のクセに応じた行動変容デザイン
文献一覧 132
ある喫煙者の反省文〔亀本 洋〕 137
1 喫煙の自由から病気へ 137
2 嫌煙権訴訟 138
(1) 禁煙車両設置請求
(2) 人格権侵害に基づく差止請求
(3) 受忍限度論
3 危害原理と権利 144
(1) 自由と権利
(2) 危害原理と権利侵害なき損害
(3) 権利の二つの用法
4 公衆衛生の立場 147
(1) 公衆衛生と危害原理
(2) 改正健康増進法
5 喫煙をめぐる社会情勢の変化 151
6 喫煙者の現在 153
文献一覧 154
註釈 160
ネオ・ピューリタニズムに抗して―― 喫煙の人生論と法哲学〔井上達夫〕 163
前篇 我が〈喫煙人生劇場〉 164
1 第一幕――生真面目な喫煙者 164
2 第二幕――快楽主義的非喫煙者 167
3 第三幕――充足的葉巻愛用者 172
(1) 葉巻との出会い――本郷とベルリン
(2) 「充足的喫煙」思想へ
(3) ロバート・ノージックとの会食の思い出
4 第四幕―― 一病息災の摂生者 184
後篇 喫煙者と非喫煙者の公正な共生のために 187
5 分煙の正義 187
(1) 反卓越主義と危害原則――基底原理としての正義概念
(2) 分煙規制の民主的正統性保障――「目的を欺く手段」の批判的統制
6 「分煙」の仮面をつけた「排煙」 194
(1) 改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の規制目的と規制手段
(2) 分煙目的のためのより効果的で公正なLRA ――国法・都条例の基本指針の欺瞞性
(3) 基本指針の例外的緩和・例外的強化の無用性と無根拠性
(4) 国法・都条例の違憲性
7 ネオ・ピューリタニズムに抗して 217
(1) 「魔女狩り」としての排煙
(2) ネオ・ピューリタニズムの精神構造
結語――〈それ〉は足音も立てず忍び寄り、密かに増殖し、いつの間にか私たちを支配する 230
執筆者紹介 [246]
【関連記事】
◆経済学
・依存財としてのタバコについて。後半部(理論編)では、いわゆる合理的経済人モデルと行動経済学的なモデルの2つを対比させている。本書でも参照されている。
『喫煙と禁煙の健康経済学――タバコが明かす人間の本性』(荒井一博 中公新書ラクレ 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201013/1602514800
・無標な健康経済学(医療経済学)のテキスト。とくに「第6章 消費者の需要に対する政府の介入」で、リバタリアン・パターナリズムやナッジについての議論が載っている。
『健康経済学――市場と規制のあいだで』(後藤励,井深陽子 有斐閣 2020)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201017/1602860400
・初期の行動経済学のテキスト。下記の一節では、依存性のある財と喫煙者の一見非合理的な選択を、双曲的割引モデルで分析している。その部分は下記リンク先で抜粋してある。
「タバコ・麻薬中毒は合理的か否か?」(pp. 199-201)
『行動経済学入門』(多田洋介 日経文庫 2014//2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150125/1422111600
・行動経済学の知見を現実の政策に適用してゆくときの「実際」を、サンスティーン先生が教えてくれる。
『命の価値――規制国家に人間味を』(Cass Sunstein[著] 山形浩生[訳] 勁草書房 2017//2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20191001/1569855600
◆医学・疫学
・タバコと健康の基本的な知識から、日本の禁煙運動、たばこ産業界と医学界との間の長年の応答までが載っている。「平山論文」の受容についても詳しい。
『本当のたばこの話をしよう――毒なのか薬なのか』片野田耕太 日本評論社 2019)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201005/1601823600
・日本禁煙学会が作成したこのテキストは果たして、井上達夫の言うところの「パターナリズム」、「ネオ・ピューリタニズム」の権現なのだろうか……。ただし執筆者によって喫煙の自由に対するスタンスは異なるように見えるので、一概に評価できない。
『禁煙学 第4版』(日本禁煙学会[編] 南山堂 2019//2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201009/1602169200
・アディクション研究の包括的なテキスト。入江智也「12 タバコ」は、(禁煙サイドに寄り過ぎず)中立的な記述。
『アディクションサイエンス――依存・嗜癖の科学』(宮田久嗣,高田孝二,池田和隆,廣中直行[編] 朝倉書店 2019)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201029/1603897200
◆法学(または社会運動)
・日本での喫煙規制の歩み。本書でも度々参照されている。
『現代たばこ戦争』(伊佐山芳郎 岩波新書 1999)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20081113/1226502000
・第3章に、法学・政治学からの嗜好品へのアプローチとして、法社会学者・佐藤憲一(千葉工業大学)による寄稿が参考になる。頁数は短いが「嗜好品の自由と規制」・「自由主義の元でのたばこ運動」といった点に触れている。
『嗜好品文化を学ぶ人のために』(高田公理・嗜好品文化研究会[編] 世界思想社 2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20200913/1600002000
◆科学技術社会論(またはクリティカル・シンキング教育)
学部生向けテキストで、テーマの一つが喫煙と規制。「ユニット3 喫煙を認めるか否か」(pp.58-82)では、日本のタバコ規制の代表的な論点が整理されている。下の記事では冒頭のみ抜粋している。
『科学技術をよく考える――クリティカルシンキング練習帳』(伊勢田哲治ほか[編] 名古屋大学出版会 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130629/1372431600
◆倫理・哲学
児玉聡「喫煙の自由とその限界」 in『実践する政治哲学』(宇野重規,井上彰,山崎望[編] ナカニシヤ出版 2012)
https://www.nakanishiya.co.jp/book/b134901.html
◆その他
・必読。本書でも参照されている。
『煙草は崇高である』(Richard Klein[著] 太田晋 谷岡健彦[訳] 太田出版 1997//1993)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20200929/1601319600
・タイトル通り、通念に対して挑戦的な本。編者による「第1章 イントロダクション」では、種々の主義や道徳が「健康」という言葉で覆い隠されていることを端的に指摘している。
『不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界』(Jonathan M. Metzl, Anna Kirkland[編] 細澤仁ほか[訳] みすず書房 2015//2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160909/1473914400
・文化面の記録
『女性とたばこの文化誌――ジェンダー規範と表象』(舘かおる[編] 世織書房 2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20111009/1318086000