著者:中原 道喜[なかはら・みちよし](1931-2015) 教師。
件名:英語--和訳
NDC:837.5 英語 >> 読本.解釈.会話 >> 英文解釈.英文和訳
http://seibunshinsha.co.jp/books/ISBN4-7922-1708-3.html
・聖文新社の廃業ののち、2021年に金子書房より復刊。電子書籍版あり。
誤訳の構造 - 株式会社 金子書房
【メモランダム】
・底本は(直接確認していないが)おそらくこちら。
『誤訳の構造――英語プロの受験生的ミス』吾妻書房 1987
https://iss.ndl.go.jp/sp/show/R100000002-I000001894241-00/
【目次】
はしがき(2003年 初春 著者) [i-ii]
目次 [iii-iv]
Part I
誤訳の罪 002
誤りは翻訳の常 005
擬似誤訳と正真誤訳 008
誤訳と悪訳 012
訳と英文和訳 014
Part II
1 名詞 020
2 前置詞 035
3 動詞 060
4 助動詞 072
5 冠詞 075
6 形容詞 080
7 副詞 093
8 接続詞 105
9 分詞 121
10 動名詞 130
11 不定詞 134
12 代名詞 145
13 関係代名詞 148
14 仮定法 161
15 比較 166
16 否定 188
17 挿入 201
18 省略表現 205
19 イディオム 210
20 文型・構文 231
21 その他 231
同形異種文
同形異構文
数詞
話法
時制
受動態
句読点
ことわざ
身体の部分を用いた表現
類似語
カタカナ語
索引 [259-262]
【抜き書き】
□日本文学にみる翻訳調(pp. 14-15)。すこし長めだが、本書のよさ・高度さが伝わると思うので。
翻訳と英文和訳
翻訳は英文和訳の一つの形であり,本質的な作業の内容においては両者相重なるが,実践的にはむしろ対照的に隔たる。たとえば,翻訳が“英文和訳的”にならないように戒めるその道の達人も多い。
通念としては,「英文和訳」は学習や授業や試験などと関係があり,原文を読みとり,日本語で表現するという二つのことができることを訳文で示さなければならないが,「翻訳」では表現の面でつじつまが合っていれば読者という採点者からいちおう合格点がもらえる。英文和訳では原文との対応が重んじられるが,翻訳では訳文の自立性が尊ばれる。英文和訳は文法にこだわりたどたどしく直訳的,翻訳は流暢で意訳的(“超訳”なる手法も包摂する),といった一般的な印象も強い。
しかし大切なのは,やはり,両者に共通すべき要素である。原文尊重の基本をくずさないで,直訳と意訳のバランスをとる。日本語として自然な,意味の通りやすい表現を前提として,原文の文体や味わいを生かし,個性的な工夫も加える。“こなれた”訳にもっぱら意を用いる“翻訳的”な名訳もときに恣意的な誤訳と紙一重であり,原文の一字一句に忠実な“英文和訳的”な正訳も悪訳と隣り合わせている。次に,参考までに,英文和訳の指導などであまりに“直訳的”として避けるようにすすめられることの多い表現形式が,日本人の文筆家の文章のなかに用いられた例をいくつか示しておく。
●無生物主語
① しかし彼の視力の減退は,年よりも若々しい女の肌に,往年の妻妾のひとりを見出すことができなかった。
中村真一郎『艶なる宴』
●不定詞
② 規範どおり書くことは化石化する方向にひたすら進むことだ。
井上ひさし『自家製文章読本』
(of. To ~ is to 〜 「~すれば必ず〜することになる」)
●動詞
③ 先生は奥さんに熱心な聴き手を見出した事を満足に思った。
芥川龍之介『手巾』
(cf. ... she found in Mr. Casaubon a listener who understood her at once...
George Eliot: Middlemarch)
●代名詞
④ ながい間の試行錯誤を通じて蓄積された中国の伝統的医術の水準が,極めて高かったのは,一つの事である。中国においてやがて,クロード・ベルナールの出現する条件があったかなかったかは,また別のことである。
加藤周一『夕陽妄語』
(cf. one thing 〜 another 「…と〜とは別のこと」)
⑤ さて最後に,しかし最少にではなく,まことに意外だったのは
中野好夫『人は獣に及ばず』
ほんの一部の例を示したにすぎないが,英語の直訳体が一つのスタイルとして用いられていることがわかる。
□英語における人を指す比喩(p. 34)
参考 世に比喩表現というものがある。「あいつはダニだ」といえば、これは『隠喩』(Metaphor)だ。「あいつはブタのように貪欲だ」のように like や as~as を用いた形式なら『隠喩』(Simili)である。ならば「俺は鳥」であってはいけないのか。「あたしはカモメ」なんて優雅なことを言ったソ連の女流宇宙飛行士だっているではないか。もっともな疑問だが、一般的には、やはりだめである。He is a queer card. これを「彼は変なカードだ」としても「あいつか奇妙なトランプ札だ」としてもだめなように。この card も「人」を表していて「変わったやつ」のことである。同様に fish も人を表すことがある。
【関連記事】
三部作の2、3作目。
『誤訳の典型』(中原道喜 聖文新社 2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120409/1460778855
『誤訳の常識』(中原道喜 聖文新社 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20121217/1355670000