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『理科系のための英文作法――文章をなめらかにつなぐ四つの法則』(杉原厚吉 中公新書 1994)

著者:杉原 厚吉[すぎはら・こうきち](1948-) 数理工学、計算幾何学
NDC:407 自然科学 >> 研究法.指導法.科学教育
NDC:836 英語 >> 文章.文体.作文
件名:英語 (科学技術用)


理科系のための英文作法 -杉原厚吉 著|新書|中央公論新社


【目次】
目次 ([i-iii])


第1章 談話文法を利用しよう 003
1 足りないのは文をつなぐ技術である 003
2 談話文法との出会い 005
3 初心者は安全第一 010
4 いくつかの約束など 012


第2章 話の道筋に道標を 017
1 読み手は霧の中を進まなければならない 017
2 道標としての接続詞と副詞 023
3 道標の型 034
4 道標の種類と代表例 039
  (1) 帰結を表わす道標
  (2) 理由を表わす道標
  (3) 逆接または対照を表わす道標
  (4) 焦点を絞ることを表わす道標
  (5) 情報の追加を表わす道標
  (6) 仮定条件を表わす道標
  (7) 動機を表わす道標
  (8) 類似を表わす道標
  (9) 例を表わす道標
  (10) 言い換え・要約を表わす道標
  (11) 話題の転換を表わす道標
  (12) 古い情報の確認を表わす道標
  (13) 先を指すための道標
  (14) 共通の座標軸に対する位置を表わす道標
  (15) 列挙を表わす道標
5 道標の使われ方 058


第3章 中身に合った入れ物を 067
1 文は階層構造をもっている 067
2 名詞列,形容詞句,形容詞節 081
3 節と文 083
4 仮定や約束の及ぶ範囲 087
5 用語や記号の定義 089
6 括弧とピリオド 101


第4章 動詞が支配する文型 105
1 外国人の手紙から 105
2 基本5文型では不十分である 108
3 Hornbyによる動詞の分類 112


第5章 古い情報を前に 119
1 古い情報の引き継ぎ 119
2 引き継ぎの省略 122
3 英文における引き継ぎ 124
  (1) 定冠詞による引き継ぎ
  (2) 指示形容詞による引き継ぎ
  (3) 代名詞による引き継ぎ
  (4) 冠詞と形容詞による引き継ぎ
  (5) 関係代名詞による引き継ぎ
4 同じ語句のくり返しが最もよい 132
5 新しい情報は一つずつ 133


第6章 視点をむやみに移動しない 141
1 文には視点がある 141
2 分詞構文の中の視点 146
3 to不定詞の意味上の主語 150
4 所有格と視点 154
5 一人称と視点 157
6 重文と複文における視点 158
7 文章の流れと視点 160
8 情報の新旧と視点 162


おわりに(1994年10月 杉原厚吉) [165-171]
参考文献 [172-173]


コラム
コンピュータは行間を読むのがにがて 026
誤りの検出はやさしいが訂正はむつかしい 062
チョムスキー生成文法 079
図における入れ物 098
接尾語 -able は受身を表わす 114
切りの良いところでやめてはいけない 136
特殊な視点をとる動詞 163



【抜き書き】
・「おわりに」から。

 私は,数理工学という分野に身を置く工学者である.工学者の仕事は,理論の中から役に立つ部分をすくい取ること,および,役に立つ理論を作ることである.この本は,この工学的態度をそっくりそのまま英作文の世界へ持ち込んだものだと言ってもよい.言語の専門家であったら,例外がいくつもちらついてとても断定的には言えないようなことがらを,とりあえず「仮説」という名で言いきっておいて,それが初心者の英作文に役立つという実用的価値でもって,その「仮説」の意義を認めてしまうわけである.実際,このように細部を切り捨てた断定的指針こそが,初心者には必要だと思う.言語の専門家でないからこそ,初心者の痛みがわかり,このような“蛮勇” がふるえるのかもしれない.英作文を工学的センスで――というときこえがよいが,言い換えると,利用できるものはできるだけ効率よく利用しようという工学根性で――眺めたのが,この本だと言ってもよい.
 だから,この本で作文技術を学んだ皆さんが,ついでに言語学――特に談話文法とよばれる言語学の一分野――も学んだのだと勘違いはしないでほしい.言語学は,実際に現われる言語活動の多様さを相手にした学問である.したがって,理論にとって都合の悪いことを例外とみなして切り捨てたりはしない.久野の談話文法理論においても,実際に使える文と使えない文の境界がどこかをはっきりさせることを目的として,注意深く規則を選び,きめ細かく論理を進めている.
 〔……〕
 このように,言語学として談話の規則を眺めるときには,規則に合わないものは例外だ道の端だといって切り捨てるわけにはいかない.雪を払って道の端を確認するように,細心の注意をもって,適格な文とそうでない文の境を見定めなければならない.そこには,この本とは別の,これまたおもしろい世界が広がっているのである(大江,1975:久野, 1978).