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『サラ金の歴史――消費者金融と日本社会』(小島庸平 中公新書 2021)

著者:小島 庸平[こじま・ようへい] (1982-) 
NDC:338.77 庶民金融.消費金融.消費者金融.クレジット(質屋.金貸業)


サラ金の歴史 -小島庸平 著|新書|中央公論新社


【目次】
まえがき [i-vi]
目次 [vii-ix]


序章 家計とジェンダーから見た金融史 003
  サラ金と家族・ジェンダー
  金融史の家計アプローチ
  金融史の家計・ジェンダーアプローチ


第1章 「素人高利貸」の時代――戦前期 013
1 「貧民窟」の素人高利貸 017
  賀川豊彦と「貧民窟」新川
  伊達と任侠の貸金貸借
  好まれた「素人高利貸」
  成功モデルとしての高利貸
  重い負担と妻の収入
  貸し手と借り手の流動的な関係

2 サラリーマンと素人高利貸 032
  エリートとしてのサラリーマン
  サラリーマンに対する信用評価
  サラリーマンの素人高利貸
  素人高利貸のすすめ

3 金融機関による小口信用貸付 040
  日本昼夜銀行のサラリーマン金融
  戦時期の庶民金庫


第2章 質屋・月賦から団地金融へ―― 一九五〇〜六○年代 047
1 前提としての質屋と月賦 047
  庶民金融の代表格としての質屋
  主婦の質屋通い
  「妻の無能力」規定と借金
  月賦と主婦
  団地族と割賦販売
  金融行政の姿勢と金融機関
  サラ金と団地金融の創業者たち

2 団地金融の誕生と創業者 064
  団地金融の創業者①森田国七
  団地金融の創業者②田辺信夫
  素人高利貸と新生活運動
  団地金融の誕生
  団地金融のメリット

3 団地金融の限界と消滅 075
  団地金融と主婦
  団地金融における審査の限界
  団地金融の高コスト構造
  その後の田辺と森田


第3章 サラリーマン金融と「前向き」の資金需要高度経済成長期 085
1 創業者――「素人高利貸」からの脱却 085
  サラリーマン金融の誕生
  「信頼の輪」・アコム木下政雄
  「人間的な顔をした金融システム」・プロミス神内良一
  「人を活かす金貸し」・レイク浜田武雄
  サラ金創業者の理念と理想

2 金融技術の革新と利用者の性格 098
  マルイトの「勤め人信用貸し」
  入社試験が則ち当社の貸付調査である
  夜の遊興と「現金の救急車」
  顧客構成と借入金使途
  サラ金と企業社会

3 夫婦間のせめぎあいとサラ金 109
  小遣い制とつきあい
  「もうないわよ」と言い放つ妻
  「がまんしろ」と命じる夫

4 資金調達の隘路と資本自由化 118
  サラ金企業の成長と資金調達の隘路
  資本自由化の動き


第4章 低成長期と「後ろ向き」の資金需要―― 一九七〇~八〇年代 123
1 高度経済成長の終焉と激化する競争 123
  世界経済の激変と高度経済成長の終焉
  増える新規参入者
  武富士創業者・武井保雄の生い立ち
  貸金業者としての成長
  「アイデアマン」八谷光紀のヤタガイ・クレジット

2 資金調達環境の好転と審査基準の緩和――女性・下層の金融的包摂 140
  金利競争と融資環境の改善
  家計の悪化と女性向け融資の拡大
  信用審査の緩和
  審査基準緩和の条件①信用情報の共有
  審査基準緩和の条件②団体信用生命保険の導入

3 第一次サラ金パニックと貸金業規制 162
  第一次サラ金パニック
  サラ金三悪
  サラ金批判と立法化の困難

4 サラ金に対する行政的介入 171
  ①外資の上陸と低利規制
  ②銀行への個人向け融資要請と個人ローン元年
  ③徳田通達の打撃
  資金調達網の国際化と力関係の逆転
  出店攻勢と熾烈な競争


第5章 サラ金で借りる人・働く人――サラ金パニックから冬の時代へ 189
1 債務者の自殺・家出と精神状態 189
  サラ金と性差①家出する女性
  サラ金と性差②自殺する男性
  『日本カネ意識』

2 感情労働と債権回収の金融技術 198
  男女間の役割分担
  感情労働としての債権回収
  感情労働と重層的な労務管理
  職務の「脱人格化」と自己責任論
  債権回収者の皮膚感覚

3 貸金業規制法の制定と「冬の時代」 212
  「サラ金被害者の会」結成
  破産件数の急増
  貸金業規制法
  「冬の時代」到来
  プロミスの経営危機と救済
  銀行との関係強化
  「冬の時代」の経営改革
  進むリストラと「冬の時代」からの脱却


第6章 長期不況下での成長と新プターの代用 235
1 バブル期以降の急成長 235
  株式上場のための低利化
  バブル崩壊の影響とレイク
  銀行の消費者ローン拡大
  無人貸付機と自動契約機の歴史
  株式上場と社会的信用の向上
  躍進するアイフル
  アイフル躍進の要因

2 長引く不況と高まる批判 257
  クレジットカードを契機とする多重債務問題
  日本型雇用・「家族の戦後体制」の動揺とサラ金
  バブル崩壊後のサラ金利用者
  商工ローンヤミ金融
  武富士の凋落
  武富士の粗雑な労務管理
  困難な貸金業企業統治
  アイフル被害者対策全国会議

3 改正貸金業法の影響と帰結 279
  スケープゴートとしてのヤミ金
  二〇〇六年の法改正に向けた攻防
  業界の反撃と決着
  改正貸金業法インパク
  改正貸金業法と「家族の戦後体制」の変容
  「ワイフリスク」と「男の家計革命」
  規制強化とヤミ金の動向
  金融技術革新のゆくえ


終章 「日本」が生んだサラ金 303
  金融技術と「人」の視点
  高利貸と民族問題
  サラ金企業と利用者の視点の統合
  「自分事」としてのサラ金問題


おわりに(二〇二一年月 小島庸平) [316-321]
引用文献一覧 [322-330]
巻末付表1 戦前期の男女別日給推移 [331]
巻末付表2 常用者労働者賃金の推移(戦後) [332]
略年表(1877-2019) [333-344]




【関連記事】
・金融の役割について
『それでも金融はすばらしい――人類最強の発明で世界の難問を解く。』(Robert J. Shiller[著] 山形浩生,森岡桜[訳] 東洋経済新報社 2013//2012) - contents memorandum はてな

『金融NPO ――新しいお金の流れをつくる』(藤井良広 岩波新書 2007) - contents memorandum はてな

『金融の世界史――貨幣・信用・証券の系譜』(国際銀行史研究会[編] 悠書館 2012) - contents memorandum はてな


マイクロファイナンスについて。
『マイクロファイナンス――貧困と闘う「驚異の金融」』(菅正広 中公新書 2009) - contents memorandum はてな

『世界は貧困を食いものにしている』(Hugh Sinclair[著] 大田直子[訳] 朝日新聞出版 2013//2012) - contents memorandum はてな

『貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス』(Esther Duflo[著] 峯陽一, Koza Aline[訳] みすず書房 2017//2010) - contents memorandum はてな


・その他
『管理される心――感情が商品になるとき』(A. R. Hochschild[著] 石川准 室伏亜希[訳] 世界思想社 2000//1983) - contents memorandum はてな





【抜き書き】


・巻末の「引用文献一覧」から抜粋。本書にはこれ以外の文献も載っている。

  【重要な参考文献】
※以下の文献は、サラ金業界や被害者運動の通史的記録として優れたものである。本書でも繰り返し利用したものの、煩雑を避けるため特に注記しなかった場合もある。本書かこれらの仕事に特に多くを負っていることを明記するとともに、より詳細にサラ金の歴史を知りたい読者には、左記の文献の参照を強く勧めたい。

朝日新聞社会部(一九七九)『サラ金朝日新聞社
井手壮平(二〇〇七)『サラ金崩壊――グレーゾーン金利撤廃をめぐる三〇〇日戦争』早川書房
宇都宮健児(二〇〇九)『弁護士、闘う――宇都宮健児の事件帖』岩波書店
沖野岩雄(一九九二)『貸金業現代史(上)・(下)』 信用產業新報社
川波洋一・前田真一郎編(二〇一二)『消費者金融論研究』消費者金融論研究会
木村達也(二〇一三〜)「消費者運動の歴史(連載)」『消費者法ニュース』九四〜
篠原茂一(一九七六)『サラ金商法のからくり――借りる方も・貸す方も・この本を…』自由国民社
プロミス社史編纂プロジェクト(一九九四)『プロミス三〇年史(I〜IV)』(本文中では、「プロミス社史」と略記)
マルイトアコムグループ社史編纂委員会編(一九九一)『マルイトアコムグループ五〇年史(総集編)・(事業編)』、凸版印刷株式会社年史センター
マルイトアコム(二〇一六)『マルイトアコムグループ八〇年史(創業期編)・(アコム近経営史編)』、出版文化社
溝口敦(一九八三)『武富士 サラ金の帝王』講談社
横田一(二〇〇八)『クレジット・サラ金列島で闘う人びと』岩波書店
レイク広報室(一九八九)『写真と証言で見るレイク25年』


 終章から。

・イントロ部分

本書の冒頭で触れた、サラ金だけが個人の窮状を救ってくれるという「奇妙な事態」は、依然として過去の遺物とはなっていない。
 とはいえ、人びとの経済的苦境につけ込む「卑劣」な貸金業者を批判するだけで、問題は解決しない。これまでにも、サラ金に対する批判には、ある種の危うさがつきまとってきた。それは、高利貸の問題を特定の民族の問題に帰して理解しようとする一部の傾向である。

エスニック集団に対する負のイメージについて。

◆高利貸と民族問題
 貸金業者に対する憎悪の念は、人類社会において広く観察される感情である。文学の世界を見ても、シェイクスピアヴェニスの商人』に登場する高利貸のシャイロックは強欲な悪役として描かれているし、ドストエフスキー罪と罰』の主人公ラスコーリニコフは、高利貸の老女を殺害し、それを正んだ英雄主義によって正当化している。
  〔……〕
初期ナチスの幹部だった経済学者ゴットフリート・フェーダーは、利子制度を「ユダヤ的資本主義」の本質と捉え、「利子奴隷制の廃止」を訴えていた。アドルフ・ヒトラー反ユダヤ主義を開眼させたといわれる人物である(石田 二〇一五)。
 ドイツのユダヤ人が高利貸として非難されはじめたのは、一一世紀末頃にまで遡る。一二一五年には、第四回ラテラノ宗教会議によってキリスト教徒とユダヤ教徒の隔離政策が進められ、ユダヤ人は職工や商業といったほとんどの職業から締め出されてしまった。大澤(一九九一)は、ユダヤ人が高利貸に手を染めたのは、強烈な隔離・差別政策の結果であると強調している。
 だが、実際にはユダヤ人だけでなく、少なくない数のキリスト教徒もまた、金融業に従事していた。高利貸の営業は、中世のキリスト教徒にも実質的には許されていたにもかかわらず、その存在はほとんど忘却され、強欲で悪辣な高利貸のイメージは、ユダヤ人にのみ投影されてきたのである。
 こうした研究動向を紹介した佐々木(二〇〇五)は、「債権者にたいする闘いが債権者の一部、つまりユダヤ人にたいする闘いに変換されたメカニズムを追跡すること」を、新たな課題として提起している。キリスト教徒の高利貸にも向けられていたであろう憎悪が、なぜ、どのようにして忘却され、ユダヤ人高利貸に対する憎悪へと一元的に「変換」されたのか。金融取引における貸し手と借り手の間の対立が、民族間の対立へと「変換」された歴史的なプロセスが、現在の研究水準の下では問われている。
〔……〕
 戦後の日本において、サラ金業者の取り立ては、確かにしばしば過酷なものだった。サラ金に対して恨み骨髄に徹した債務者の数は、決して少なくないだろう。だが、そうしたサラ金の問題が、少数の特定民族に引きつけて理解されている一部の傾向には、危うさを覚えずにはいられない。ユダヤ人を非生産的な高利貸と断じてその「絶滅」を目指したナチス・ドイツの発想と、サラ金の引き起こしてきた問題を「第三国人」に帰して理解する偏見とは、佐々木(二〇〇五)の言う民族的な「変換」という点で、その根を同じくしている。


・本書の特徴の一つである、「利用者以外の視点」の必要性について。さらに、サラ金企業への負のイメージ。

サラ金企業と利用者の視点の統合
 サラ金の悪辣さを扇情的に書き立て、徹底的に批判する。そうした言説が必要であり、一定の社会的意義を持った時期は、確かに存在した。〔……〕これらの書が、ある種の公憤と正義感に基づいて執筆されたことは疑わない。
 だが、そうした正当な意図にもかかわらず、サラ金を批判する言説が業者の酷薄さや異常性を強調し、結果として特定の職業に対する差別的なまなざしを強化していたとすれば、それは大きな問題ではなかったか。
 そもそも、サラ金が成長した歴史的な背景を、利用者とサラ金業者の双方の資料を突き合わせて本格的に跡づける作業は、現在までほとんどなされてこなかった。利用者−被害者の側の視点に立った告発や研究が発表される一方で、サラ金から資金的な援助を受けている研究者集団も存在し、両者の間での建設的な交流は皆無に近かった。そのことが、業界に対する理解を一面的なものとし、佐々木(二〇〇五)の言う民族的な「変換」を野放しにした一因であるように思われてならない。
 サラ金の問題は、ひとまず業界とは距離を取り、歴史として批判的に整理される必要がある。だが、かといって被害者側の視点からだけでは、問題の全貌を明らかにすることは難しい。サラ金業者の主体的で革新的な経営努力が、なぜ多くの人びとを破滅に追いやったのか。その具体的なプロセスを、サラ金業者と利用者の双方の事情を踏まえ、可能な限り内在的に説明しようというのが、本書の試みだった。


・私が個人的に気に入った部分。

 サラ金各社が、ある種の高邁な経営的理想を掲げていたことは、本書でも紹介した通りである。しかし、営利を追求する企業体としてサラ金が大きく成長した後、私たちの目の前に開けたのは、自己破産と自殺者が異常に増加し、サラ金が貧困者の「セイフティネット」になるという、実に荒涼とした光景だった。
 繰り返しになるが、サラ金各社の個別的な不当・不法行為は、それとして厳しく批判されるべきである。とはいえ、サラ金の非人道性を強調するだけで、問題が本当の意味で解決するとは思われない。
 サラ金は、貯蓄超過や金融自由化というマクロな経済環境の変化と深く結びつきながら成長し、現在も日銀・メガバンクを頂点とする重層的な金融構造の中にしっかりと根を下ろしている。個人間金融から生まれたサラ金を肥大させたのは、日本の経済発展を支えてきた金融システムと、それを利用する私たち自身だった。その事実を、まずは正面から見定める必要がある。