著者:菅賀 江留郎[かんが・えるろう] 作家。「少年犯罪データベース」主宰。
カバー画:ラファエロ・サンツィオ「堕天使を駆逐する聖ミカエル」
NDC:327.6 刑事訴訟法
NDC:368.61 社会病理(殺人.暗殺)
内容:冤罪が発生するメカニズムを、進化心理学の知見を援用しつつ考察する。
※2021年4月に文庫化。
冤罪と人類──道徳感情はなぜ人を誤らせるのか | 種類,ハヤカワ文庫NF | ハヤカワ・オンライン
【目次】
序 捻転迷宮の入り口 [003-011]
目次 [012-018]
1 衝撃の書に導かれ未知への扉が開け放たれる 019
二俣事件の発端
山崎兵八刑事の覚悟
衝撃の書『現場刑事の告発』
山崎家の苦難
2 〈拷問王〉と呼ばれた怪物刑事の誕生とその実像 029
紅林方式の実像
怪物刑事・紅林麻雄の形成
秀才型犯罪の脆さ
紅林警部の手記
紅林警部の特異性
3 日本初のプロファイラーが〈浜松事件〉に挑戦する 043
〈浜松事件〉を完全解明する
第一事件
第二事件
武蔵屋事件
戦時ゆえの犯人像の歪み
戦時体制の実態
犯罪への戦時の影響
第三事件
ふたつの資料と決定的瞬間
苛烈な報道合戦と報道規制
プロファイルリングの先駆者
〈浜松事件〉のプロファイリング
名プロファイラーのプロフィール
埋もれた名探偵
完全なる情報統制
第四事件
4 錯誤の連続が解決した〈浜松事件〉の驚くべき真犯人 077
紅林麻雄部長刑事の登場
戦前の警察制度
紅林麻雄刑事の幸運
憲兵隊の操作
紅林刑事活躍の実態
紅林刑事の決定的役割
誰がトリックを仕掛けたか?
5 内務省と司法省の闘争が紅林刑事を英雄に祭り上げた 095
紅林刑事の逮捕劇
史上初の〈捜査功労賞〉
功労者不足
松阪広政検事総長の思惑
〈捜査功労賞〉の歴史的背景
近衛の政策に見る内務省と司法省
中野正剛事件
三者のバランス崩壊
帝国憲法の問題点
憲法を知らなかった東條英機
憲兵隊にも足をすくわれる
片輪の教育
内務省を巡る争い
松阪広政の「司法介入」
司法省の攻勢 警察権奪還計画
内務省防衛の切り札と平沼騏一郎
法律論と個人的感情
司法と警察の複雑なる関係
検察による〈司法介入〉
検察、警察、憲兵隊のバランス均衡
初めての表彰ではなかった
巨大なる虚像が屹立する
6 〈浜松事件〉の犯人から見た事件経過と犯人の父 139
誠策という少年
事件経過
第一、第二事件
事件経過――第三事件
事件経過――第四事件
取り調べ
誠策の父
7 天才分析官はなぜ〈浜松事件〉を解決できなかったのか 157
精神鑑定
誠策の死刑感
メディアの影響
検事論告要旨
精神鑑定人の批判
精神鑑定人の人物像
吉益脩夫博士の証言
戦時中の異常犯罪への見解
松本清張の資料
中村誠策の獄中日記
吉川澄一技師の情報システム構築
プロファイリングの限界
捜査官プロファイリングの重要性
小宮喬介博士のプロファイリング
小宮喬介博士のサービス精神
小池清松刑事と冤罪
戦時警察の反省
戦時警察の実態
深い傷跡
8 〈二俣事件〉など数々の冤罪を生んだ戦後警察の実態 205
強力犯係主任・紅林麻雄警部補の誕生
紅林麻雄警部補が手掛けた事件
紅林麻雄警部補と少年
軽かった刑罰
〈御殿場事件〉の再検証
田上輝彦検事の手記
田上輝彦検事の判決
国警と自治警
山崎刑事が紅林警部を呼び込んだ
国警と自治警の神話
『暴力の街』伝説
田上輝彦検事の関わり
図式的単純化
内務省解体から見えるもの
戦前の内務省解体論
奇妙な説の発信源
吉田茂vs国家警察
警察再統一の実態
内務省を支援する左翼ジャーナリスト
刑事警察の解放感
現場を去った吉川澄一
吉川澄一の絶対性
天才ゆえの非伝承
警視庁鑑識課の〈細君強奪事件〉
吉川澄一という警察システム
9 清瀬一郎の憲法改正論と紅林警部補の意外な関係 263
体制と反体制
裁判に於ける憲法問題
〈マッカーサー憲法〉作成に関与していた清瀬
清瀬一郎が成功させた真の革命
個人的挫折が生み出した清瀬理論
ファシストになりそこねた男
清瀬が戦争に与えた深刻な影響
青年将校の扇動者
歴史に禍根を残した清瀬流、弁護士流〈東京裁判史観〉
拷問と清瀬一郎 複雑怪奇なる清瀬一郎
清瀬のライバル、海野晋吉
清瀬と海野、共闘と反発
10 古畑種基博士の正しい科学が冤罪を増幅させた 305
老探偵・南部清松
法医学界の紅林警部補、古畑種基博士
古畑種基博士の功績
古畑種基博士の自信
古畑博士の〈公安医学〉
古畑博士の感情論
古畑博士の科学性
権威者の誕生
権威者の交代
権威者の失墜
警察の〈顔役〉
法医学への執念
〈下山事件〉で古畑博士と対立
ライバル喪失の不幸
古畑種基博士の変化
古畑博士の人間性
古畑博士の科学性への懐疑
小松勇作博士の数学が悲劇を生む
ベイズの精神を裏切る
弟子より見た古畑博士の科学性
真に恐るべき冤罪の扉
11 史上唯一の正しい訓練を受けた最高裁判事たち 357
少年を目覚めさせた母の力
紅林警部補が戦時体制に刻んだトリック
誤判の犠牲者
抵抗する四判事
裁判官の資格
〈司法権の独立〉確立闘争
もうひとりの訓練生
失った名誉はあまりに大きい
拷問の認定では少年は救えない
歴史に偉業を残す
人数よりも大切なもの
司法権独立運動の悲劇
民間出身の司法次官
裁判官の境遇による判決への影響
12 山崎刑事の推理と人情、紅林警部の栄光と破滅 391
少年のプロフィール
山崎兵八刑事の思わぬ失敗
山崎兵八刑事の推理
山崎兵八刑事の人情
見返りを求めない人と家族の難儀
紅林警部の嘆き節
紅林警部の最後
紅林憲兵候補生の悲壮な決意
総帥権独立への暗躍 紅林麻雄の超人的な活躍
紅林警部の転落
13 進化によって生まれた道徳感情が冤罪の根源だった 421
冤罪被害者たちの苦難
アダム・スミス『道徳感情論』に見る市民感情
進化生物学にみる〈道徳感情論〉
人間行動生態学に見る〈道徳感情論〉
情報の歪みがもたらす悲劇
アダム・スミスの〈公平な観察者〉
〈公平な観察者〉は〈進化〉そのもの
すべての情報を持つ〈公平な裁判官〉
判断の多様性を確保せよ
〈血縁淘汰〉の恐ろしさ
冤罪を生む〈道徳感情〉
利他主義を超える
〈システムの人〉と保守主義
認知バイアス克服の難しさ
俯瞰の眼だけでは克服できない
サイコパスの真の恐怖
自己欺瞞による錯誤
恐怖の感情を学ぼうとするサイコパス
サイコパスの刑罰
訓練の重要性
歴史を動かす〈道徳感情〉
〈道徳感情〉と言語
〈間接互恵性〉と時間概念
『道徳感情論』の真のテーマは情報
〈認知バイアス〉を克服する民主政治
〈因果〉も〈物語〉も断ち切る仏教思想と民主主義
裁判と〈認知バイアス〉克服
理論を超越する人物
14 「死んでも残るアホーだからだ」山崎兵八の遺言 493
面白すぎる記録
止まってしまった時計
人が変わってしまった
精神鑑定の問題
私は不幸ではなかった
妄執を捨て去ることができたのか
残るはずだ
あとがき [508-525]
『道徳感情論』と進化心理学の読み解きは冤罪が鍵になるのではと思い至ったこと
史上初の本格的な内務省本のはずが先を越され多角的見地の大切さを思い知ること
図式的理解批判がじつは図式的理解の誤りでもあることと読者の責任について
書庫派が書庫には存在しないものを入手できたことを多くの人々に感謝すること
書庫派が最重要たる書庫資料を入手できずに皆様方に協力を仰ぐことと文明の基礎
百科全書的一冊の最後をもう一冊の奇書の奇説と冤鬼とによって締め括ること
参考文献 [I-X]
【関連記事】
[裁判・捜査と冤罪]
『「自白」はつくられる――冤罪事件に出会った心理学者』(浜田寿美男 ミネルヴァ書房 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20171217/1514126746
『裁判官はなぜ誤るのか』(秋山賢三 岩波新書 2002)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20090921/1253458800
『警察の社会史』(大日方純夫 岩波新書 1993)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190305/1551711600
[ヒトの心・進化心理学]
『進化でわかる人間行動の事典』(小田亮,橋彌和秀,大坪庸介,平石界[編] 朝倉書店 2021)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20220721/1658358000
『モラルの起源――実験社会科学からの問い』(亀田達也 岩波新書 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190929/1569682800
『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(吉川浩満 河出書房新社 2018)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190805/1564930800
『ヒトの本性――なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(川合伸幸 講談社現代新書 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20210205/1612450800
『人間進化の科学哲学――行動・心・文化』(中尾央 名古屋大学出版会 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190221/1550674800
[Adam Smithの『道徳感情論』]
『アダム・スミス――『道徳感情論』と『国富論』の世界』(堂目卓生 中公新書 2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20090125/1232809200
『道徳感情論』(Adam Smith[著] 村井章子,北川知子[訳] 日経BP社 2014//2009//1579)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140317/1490168821
【関連サイト】
・本書の著者(菅賀江留郎)が、進化心理学について大いに参考にしたというサイト。
https://shorebird.hatenablog.com/