contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『功利主義とは何か』(Katarzyna de Lazari-Radek, Peter Singer[著] 森村進, 森村たまき[訳] 岩波書店 2018//2017)

原題:Utilitarianism: A Very Short Introduction (2017)
著者:Katarzyna de Lazari-Radek 哲学、倫理学
著者:Peter Singer 応用倫理学
訳者:森村 進  法哲学
訳者:森村 たまき 刑事法学。
NDC:151.7 倫理各論(功利主義



功利主義とは何か - 岩波書店


【目次】
凡例 [v]
序文 [vii-x]
謝辞 [xi-xii]
目次 [xiii-xiv]


第1章 起源 001
  古代の先駆者たち
  初期の功利主義者たち
  創始者ベンサム
  提唱者:ジョン・スチュアート・ミル
  学究的哲学者:ヘンリー・シジウィック


第2章 正当化 017
  ベンサムによる功利主義原理の正当化
  ミルの証明
  シジウィックの証明
  ハーサニィによる,無知の条件下での合理的選択からする議論
  スマートの態度と感情への訴えかけ
  ヘアの普遍的指令主義
  グリーン:対抗する諸原理の誤謬を指摘することによる功利主義擁護論


第3章 われわれは何を最大化すべきなのか? 049
  古典的見解
  経験機械
  選好功利主義
  多元主義帰結主義
  感覚ある存在者を超えた価値
  内在的価値:これまでの話
  快楽とは何か?


第4章 反論 079
  功利主義はわれわれに不道徳に行為せよと言うのだろうか?
  効用の測定
  功利主義はあまりに多くを要求しすぎだろうか?
  功利主義はわれわれの特別の義務を無視するのか?
  「人格の別個性」の無視
  効用の分配


第5章 規則 109
  功利主義の二つの形態
  時限爆弾
  秘密にしておく
  功利主義は自己抹消的か?


第6章 功利主義の実践 121
  功利主義を今日適用する
  生命の終わりの決定
  倫理と動物
  効果的利他主義
  人口のパズル
  国民総幸福


訳者あとがき(二〇一八年 秋分の日 訳者) [145-148]
読書案内と引用に関する注 [3-17]
人名索引 [1-2]





【メモランダム】
・いい本。①功利主義に関する主要な論点がまとまっており、②分量とコンパクトで、③訳者は「入門書だ」と謳っている。この他にも面白い点はある。
・しかし、①この本を理解するには予備知識が必要で、②圧縮された分だけ読解には時間がかかり、③功利主義と他の立場とのバランスはとれていないのでバランス感覚が読者に転嫁されている。というわけで、一般的な言葉遣いではこの本を入門書とは呼ばない。
学術書籍市場では『〜入門』が実は初学者にとって難しい本だというのはよくあることだが、2018年に刊行された本なのだから、訳者あとがきでこのへんをフォローすることはできたと思う。





【抜き書き】

・「訳者後書き」より、構成についての説明と補足(p. 146)。

 本書は定評ある「オックスフォード・ベリー・ショート・イントロダクション」の一冊として書かれたものだ。目次からもわかるように、第1章が歴史編、第2章から第5章までが理論編、第6章が応用編という整然たる構成であるだけでなく、限られた分量の中で功利主義の主要な論点をほぼ網羅的に、公平な態度と率直明晰な文章で取り上げているので、功利主義に関する今日の最も優れた入門書だと言えよう。読者は必ずしも著者たちの功利主義に賛成しないかもしれないが、功利主義の思想が真剣な検討に値することを知り、世の中(その中には哲学界の一部も含まれる)で通用している「功利主義」の理解がいかに不正確で歪められたものであるかを知ることだろう。
 なお本書の第2章から第5章までの内容の多くは、シジウィックの倫理学説の詳細な検討である著者たちの最初の共著『宇宙の視点――シジウィックと現代倫理学』(未邦訳)の内容を圧縮したものだ。(ただし本書第2章後半の、現代における功利主義の正当化論は、本書の方が詳しい。)従って本書のこの部分について、著者たちの見解をもっと詳しく知りたい読者にはその本を勧めたい。




【関連記事】
 (政治哲学〜倫理における)「功利主義」に関連する本を数冊ほど読んでいたので、簡単に並べておく。


◆経済思想のテキストなど。
『現代の経済思想』(橋本努[編] 勁草書房 2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150221/1517761205

『福祉の経済思想家たち [増補改訂版]』(小峯敦[編] ナカニシヤ出版 2010//2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150417/1473135816


リベラリズムリバタリアニズム
『政治哲学的考察――リベラルとソーシャルの間』(宇野重規 岩波書店 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160709/1469343810

『いまこそロールズに学べ――「正義」とはなにか?』(仲正昌樹 春秋社 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20161029/1476685942

リベラリズムとは何か――ロールズと正義の論理』(盛山和夫 勁草書房 2006)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140821/1481713368

リバタリアンはこう考える――法哲学論集』(森村進 信山社 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20181129/1542990923


◆正義論
『正義のアイデア』(Amartya Sen[著] 池本幸生[訳] 明石書店 2011//2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120101/1325343600

『正義論』(John Rawls[著] 川本隆史, 福間聡, 神島裕子[訳] 紀伊國屋書店 2010//1999//1971)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20101129/1290956400

『正義論の名著』(中山元 ちくま新書 2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120701/1468841522

『世界正義論』(井上達夫 筑摩選書 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20161201/1480257391


倫理学、メタ倫理学
『倫理とは何か――猫のアインジヒトの挑戦』(永井均 ちくま学芸文庫 2011//2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140805/1474002742

功利主義入門――はじめての倫理学』(児玉聡 ちくま新書 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130225/1361718000

『メタ倫理学入門――道徳のそもそもを考える』(佐藤岳詩 勁草書房 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190621/1561042800

『善と悪――倫理学への招待』(大庭健 岩波新書 2006)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20121005/1349362800


◆東洋思想、日本の思想(ここは関連記事ではないかも)
『道徳を基礎づける――孟子vs. カント、ルソー、ニーチェ』(François Jullien[著] 中島隆博,志野好伸[訳] 講談社学術文庫 2017//2002//1996)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20181205/1542996078

『日本倫理思想史 増補改訂版』(佐藤正英 東京大学出版会 2012//2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20141001/1490076395



◆DHI(Dictionary of History of Ideas)から関連しそうな記事(項目)。

Nicholas Georgescu-Roegen “Utility and Value in Economic Thought” →「効用と価値(経済思想における)」

D. H. Monro “Utilitarianism” →「功利主義