contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『薬物依存症』(松本俊彦 ちくま新書 2018)

著者:松本 俊彦[まつまと・としひこ] 精神医学。薬物依存症、アルコール依存症自傷行為の研究。
シリーズ:ケアを考える
NDC:368.8 社会病理 >> 薬物依存


筑摩書房 薬物依存症 シリーズ ケアを考える / 松本 俊彦 著

 「意志が弱い」「怖い」「快楽主義者」「反社会的組織の人」……。薬物依存症は、そういったステレオタイプな先入観とともに報道され、語られてきた。しかし、そのイメージは事実なのだろうか? 本書は、薬物依存症にまつわる様々な誤解をとき、その真実に迫る。薬物問題は〈ダメ。ゼッタイ。〉や自己責任論では解決にならない。痛みを抱え孤立した「人」に向き合い、つながる機会を提供する治療・支援こそが必要なのだ。医療、そして社会はどのようにあるべきか? 薬物依存症を通して探求し、提示する。

【目次】
目次 [003-011]


はじめに 013
  「今度、ムショから出てきたら、土のなかに埋めてやる!」
  つくられたイメージ
  薬物依存症になりやすい人とは
  本書の構成


第I部 「薬物」と「依存症」  023

第1章 薬物依存症とはどのような病気なのか 024
  なぜクスリを使いたくなるのか
1 薬物とは何か 026
  人間社会と薬物の歴史
  なぜ人類は薬物を手放さないのか
2 作用から見た薬物の種類 031
  中枢神経抑制薬
  中枢神経興奮薬
  幻覚薬
3 薬物依存症とは 037
  薬物中毒ではない
  身体依存――中枢神経系の適応と効果への馴れ
  報酬系と精神依存
4 薬物依存症の特徴 047
  「大事なものランキング」の変化
  生活の単調化と孤立
  依存症者は仕事をしない?
  脳の「ハイジャック」
  他人に対する嘘と自分に対する嘘
  後戻りできない体質変化
5 薬物依存症の心理社会的要因 061
  たった一回でも依存症になるのか
  報酬系に影響を与える環境と体質
  人からの承認こそ最大の報酬


第2章 いま問題になっている薬物 068
1 わが国における薬物乱用の実態と動向 068
  地域の一般住民における薬物経験率
  精神科医療現場における薬物乱用の実態
2 覚せい剤――わが国における最重要課題 079
  強力な中枢神経興奮薬
  第一次覚せい剤乱用期
  第二次覚せい剤乱用期
  第三次覚せい剤乱用期
  覚せい剤の乱用状況と対策の課題
3 睡眠薬抗不安薬 089
  ベンゾジアゼピン受容体作動薬
  睡眠薬抗不安薬乱用者の臨床的特徴
  精神科医療と睡眠薬抗不安薬乱用
  必要なのは精神科医療の質の向上
4  危険ドラッグ 097
  危険ドラッグ・フィーバー
 「脱法」的薬物との戦いの歴史
  危険ドラッグ・フィーバーが発生した要因
  「包括指定」という規制強化がもたらしたもの
  危険ドラッグ・フィーバーの唐突な終焉
  危険ドラッグを卒業して大麻


第II部 よりよい治療・回復支援を求めて 113

第3章 刑罰や規制で薬物問題が解決できるのか 114
1 刑務所の限界 114
  薬物の欲求を忘れる場所
  人を嘘つきにする場所
  社会での孤立を作り出す場所
  心変わりをさせる場所
  再犯防止は施設内よりも社会内で
2 規制強化の限界 124
  規制強化が引き起こした弊害
  規制強化によって深刻化した健康被害
  危険ドラッグのメリットは医療アクセスのよさ
  薬物対策の二つの柱――「供給の低減」と「需要の低減」
3 健康被害に関する「啓発」の有効性 139
  「啓発」で依存症者は変わるのか
  「やめ方を教えてほしいんだよ」


第4章 薬物依存症からの回復――自助グループが発見したもの 145
1 「治癒」ではなく「回復」という目標 145
  治らないが回復できる病気
  特効薬や根治的治療法はない
2 当事者が発見した「病気」 149
  依存症治療の大転換点――自助グループの誕生
  NAの誕生とダルク
3 回復のための社会資源としての自助グループ 154
  安心して正直になれる安全な場所
  自分の過去と未来に会える場所
  「心の酔い」を覚ます場所
4 自助グループの課題と限界 165
  自助グループで回復した人は「スーパー・エリート」
  自助グループにつながりにくい理由
  自助グループなしでは回復できないのか


第5章 精神科医療に求められるもの 173
1 薬物依存症に対する医療の課題 173
  精神科医療の「招かれざる客」
  わが国における薬物依存症医療の現実
  高い治療ドロップアウト
2 薬物依存症治療に求められる条件 184
  条件① 外来ベースのプログラム
  条件② 専門医に頼らない治療プログラム
  条件③ ドロップアウトが少ないプログラム
  条件④ 様々な社会資源と連携したプログラム
  条件⑤ 安心・安全が保証されるプログラム


第6章 私たちの挑戦――スマープとは何か 189
1 スマープの立ち上げ 189
  マトリックス・モデルとスマープ/スマープの構造
2 ワークブックに込めた思い 194
  スマープのワークブックの開発
  トピック① 「強くなるより賢くなれ」
  トピック② トリガーの同定
  トピック③ トリガーへの対処
  トピック④ 依存症的行動と依存症的思考
  トピック⑤ スケジュールを立てる
  トピック⑥ 回復プロセスに関するオリエンテーション
  トピック⑦ 信頼と正直さ
  トピック⑧ 自分を傷つける関係性
3 実施にあたって心がけていること 221
  報酬を与える
  安全な場を提供する
  積極的にコンタクトをとる
  地域の様々な機関と連携する
4 スマープの効果と意義 228
  スマープの治療効果に関する研究結果
  真の効果はサポーターを増やすこと
  援助者に対する効果
5  「よいシュート」ではなく「よいパス」を出す 240
  精神保健福祉センターの取り組み――本人支援と家族支援
  タマープでの経験――「底つき」とは援助のなかで経験するもの
6 スマープ・プロジェクトが目指しているもの 247
  その後のプロジェクトの展開
  多重構造の「木」を目指して
  あえてファストフードを目指す


第7章 刑務所を出所した後に必要な支援 261
1 「刑の一部執行猶予制度」施行後における地域支援の課題 261
  刑の一部執行猶予制度とは
  刑の一部執行猶予制度の課題
2 「おせっかい電話」で薬物依存症者の孤立を防ぐ 265
  精神保健福祉センターによる積極的なアプローチ
  「Voice Bridges Project」(「声の架け橋」プロジェクト)
  東京「出会い系」システム――薬物依存症の地域支援の試み


第III部 孤立させない社会へ 277

第8章 人はなぜ薬物依存症になるのか 278
1 すべての人が薬物依存症になるわけではない 278
  拘置所からの手紙
  なぜ快楽に「飽きない」のか
2 薬物依存症の自己治療仮説 284
  依存症の本質は「快感」ではなく「苦痛」
  併存する精神障害と薬物依存症との関係
  なぜ「その薬物」を選択したのか
  「コントロールできない苦痛」を「コントロールできる苦痛」に
  自己治療仮説の意義
  「孤立の病」としての薬物依存症――「ネズミの楽園」実験


第9章 安心して「やめられない」といえる社会を目指して 302
1 「やりたい」「やってしまった」「やめられない」の意味 302
  逮捕時の「ありがとう」
  なぜ「やりたい」が進歩なのか
2 必要なのは「排除」ではなく「つながり」 305
  厳罰主義が孤立を生む
  ハームリダクションとは何か
  ポルトガルの大胆な薬物政策
3 薬物乱用防止教育の問題点 311
  偏見と差別の温床
  「ダメ。ゼッタイ。」ではダメ
  共生社会の実現を阻むキャッチコピー
4 安心して「人に依存できない」病 319
  自傷行為と薬物乱用との関係
  自立とは依存先を増やすこと


おわりに 325
  薬物依存症からの回復を妨げる報道
  刑罰にはどのような機能があるのか
  必要なのは当事者・家族に対する想像力
  「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」
  迷いを希望に変えるもの


あとがき(平成三〇年七月 松本俊彦) [337-340]
引用・参考文献 [341-350]





【抜き書き】


□p. 27 「いわゆる薬物」=「中枢神経作用薬」の簡易説明。

  本書でいう薬物とは、正しくは中枢神経作用薬、つまり、脳に作用して、私たちの思考や感情、そして行動に影響を与える化学物質のことを意味します。
  薬物――中枢神経作用薬には様々な種類があります。一方の極には、覚せい剤やコカイン、ヘロインといった違法薬物がありますが、他方の極には、医薬品、アルコール、さらにはコーヒー、タバコといった嗜好品の成分として含まれているものもあります。そう考えてみると、もちろん薬物によってその健康被害の程度や依存性には大きな違いはあるものの、「自分は薬物とは完全に無縁だ」といえる人など、まず存在しないといえるでしょう。



□pp. 029-031 人類と薬物の歴史(の一部)

   なぜ人類は薬物を手放さないのか
  このような健康被害や社会的問題の原因となっているにもかかわらず、私たち人間は、今日に至るまでなかなか薬物を完全に手放そうとはしていません。
  たとえば、社会的に許容されている薬物であるアルコールやカフェインも、歴史のなかではその使用や売買を禁止された時代があります。アルコールに関しては米国の禁酒法が有名です。それから、カフェインにしても、一六世紀初頭に、イスラム世界ではコーヒーを飲むことが反宗教的行為と見なされ、メッカ内にあるすべてのコーヒー豆が焼かれ、さらには、コーヒーを売買した者や飲んだ者が鞭打ちの刑に処される、という弾圧が行われたことがありました。それにもかかわらず、今日まで、アルコールやカフェインは世界中の多くの国で消費され、多数の愛好者を生み出してきたわけです。
  なぜでしょうか。一つには、薬物は、後述する「依存性」ゆえに、本来の需要以上の消費を生み出して、企業や反社会組織に巨利をもたらし、国や地方公共団体に対しては確実な税収を約束するという側面は無視できないでしょう。
  しかし、そこまで大きなスケールではなく、個人レベルで考えても、節度ある薬物使用は、人々が多忙でややこしい毎日と折り合いをつけるのに役立っています。たとえば、本人の健康被害や周囲への様々な迷惑は大いに問題ではあるものの、アルコールの酔いのなかで仲間との一体感を体験したり、タバコがもたらす独得の安堵感で日々の憂さをやり過ごしたりすることを、全面的に否定する気にはなれません。そして、かくいう私だって、いままさにカフェインを含有する黒い液体を摂取しながら、寝不足と疲労で曇りがちな意識の霧を振り払いながら、この文章を書いているわけです。
  中立かつ客観的な立場からいえば、薬物は諸刃〔もろは〕の剣〔つるぎ〕です。それにはつねによい面と悪い面があり、私たち人類はそれといかにしてうまくつきあっていくかが問われているのだと思います。


□pp. 146-147 たとえ「完治する病」でなくても諦める必要は無い、という大切な指摘。

  しかし、薬物をやめ続けていれば、薬物によって失ったもの――健康や財産、大切な人との関係性、社会からの信頼など―を少しずつ取り戻すことは可能です。そのような意味から、薬物依存症は「治らないが、回復できる病気」といわれています。
  実は、世の中に存在する病気の多くが、「治らないが、回復できる病気」という性質を持っています。その代表例は糖尿病です。糖尿病になった人は、様々な理由により血糖値を一定に保つ体内のメカニズムがきちんと機能しない体質となってしまっています。したがって、ひとたび糖尿病に罹患してしまうと、「ケーキの食べ放題のお店でどれだけたくさんスイーツを食べても問題ない」という体質は諦めなければなりませんし、好き放題の食生活を送っていれば、早晩、血管は動脈硬化でボロボロになり、腎臓や網膜など身体の様々な臓器・器官に深刻な障害を来たし、最終的には生命にかかわる事態につながります。
  しかし、毎日の食事に気をつけ、適度に運動したり、必要に応じて治療薬を服用したり、質が高くなりすぎないように日々のセルフケアを怠らないことで、糖尿病による様々な合併症を回避し、充実した人生を送ることは十分に可能です。
  薬物依存症もそれと同じです。
  〔……〕
  医学の歴史をふりかえると、依存症との戦いはそれこそ惨敗に次ぐ惨敗の歴史でした。多くの医師が果敢にも依存症に対して戦いを挑み、そのほとんどが苦い敗北を喫してきたのです。


□pp. 306-307 薬物への戦争@米国、公衆衛生、ハーム・リダクション。

  歴史的に見ると、最初に大規模な「辱めと排除の政策」をとったのは米国でした。一九七一年、ニクソン大統領は、ニューヨーク市における薬物乱用者の増加を憂い、「米国人最大の敵は薬物乱用だ。この敵を打ち破るために、総攻撃を行う必要がある」と述べ、薬物犯罪の取り締まり強化と厳罰化という「薬物戦争」政策を開始したのです。
  その結果はどうだったでしょうか。
  学術的な解析によって明らかにされたのは、実に皮肉な結果でした。取り締まり強化に莫大な予算を投じたにもかかわらず、米国内の薬物消費量は増加の一途をたどり、薬物に関連する犯罪やそれによる受刑者、そして死亡やHIV感染症などの健康被害が激増したからです。そして、厳しい規制が闇市場に巨大な利益をもたらし、かえって反社会的組織を大きく成長させてしまっていたのです。
  こうした検証結果を踏まえ、「戦争」開始から四〇年を経過した二〇一一年、薬物政策国際委員会(各国の元首脳などからなる非政府組織)は、米国の薬物政策を再検討した結果、ある重大宣言をしました。それは、「米国の薬物戦争にもはや勝利の見込みはない。この戦争は完全に失敗だった」という敗北宣言でした。さらに同委員会は各国政府に向けて、薬物依存症者に対しては刑罰ではなく医療と福祉的支援を提供するよう提言をしたのです。  
  世界保健機関(WHO)もこの動きに呼応しました。二〇一四年に公表したHIV予報・治療ガイドラインのなかで、各国に規制薬物使用を非犯罪化し、刑務所服役者を減らすよう求めるとともに、薬物依存症者に適切な治療、および、清潔な注射針と注射器を提供できる体制を整えることを提案したのです。




【関連記事】
・過去に私が読んで目次をうつした書籍の中から、本書に関係しそうなものを並べる。いざ振り返ると精神医学分野はあまり読んでこなかったことがわかった。
はてなブログではリンク埋め込みで度々エラーが出るので、念のために記事のURLを直貼りしている。


◆依存症
アディクションサイエンス――依存・嗜癖の科学』(宮田久嗣,高田孝二,池田和隆,廣中直行[編] 朝倉書店 2019)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201029/1603897200


◆依存症と社会問題、社会政策

『貧困を救えない国 日本』(阿部彩, 鈴木大介 PHP新書 2018)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190925/1569337200
……対談集。本文ではアルコール依存症だけでなく、スマホゲームへの依存の急増にも触れている。

『「正しい政策」がないならどうすべきか――政策のための哲学』(Jonathan Wolff[著] 大澤津,原田健二朗[訳] 勁草書房 2016//2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170217/1486553856
……公共政策の根拠などについて、政治哲学の立場から問題を設定し論じる本。「第三章 ドラッグ」では、行政がある種の薬物を規制を、「第六章 健康」では個人の健康(維持)への介入を扱う。


◆精神医学・臨床心理学

『こころの病に挑んだ知の巨人――森田正馬土居健郎河合隼雄木村敏中井久夫』(山竹伸二 ちくま新書 2018)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190213/1549983600

『クレイジー・ライク・アメリカ――心の病はいかに輸出されたか』(Ethan Watters[著] 阿部宏美[訳] 紀伊國屋書店 2013//2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140929/1487830373

『精神医学の科学哲学』(Rachel Cooper[著] 伊勢田哲治ほか[訳] 名古屋大学出版会 2015//2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20181013/1540226535

『トラウマ』(宮地尚子 岩波新書 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130925/1521229988

心理学化する社会――なぜ、トラウマと癒しが求められるのか』(斎藤環 PHP研究所 2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20141125/1482145388

『臨床心理学キーワード』(坂野雄二[編] 有斐閣 2000)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140513/1477122121


◆医学・医療

『医と人間』(井村裕夫[編] 岩波新書 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190821/1566313200

『不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界』(Jonathan M. Metzl, Anna Kirkland[編] 細澤仁ほか[訳] みすず書房 2015//2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160909/1473914400

国境なき医師団――終わりなき挑戦、希望への意志』(Renee C. Fox[著] 坂川雅子[訳] みすず書房 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160609/1466386141

『快感回路――なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか』(David J. Linden[著] 岩坂彰[訳] 河出文庫 2014//2011//2011)

原題:The Compass of Pleasure: How Our Brains Make Fatty Foods, Orgasm, Exercise, Marijuana, Generosity, Vodka, Learning, and Gambling Feel So Good (Penguin Books)
著者:David J. Linden(1961-)  神経科学。
訳者:岩坂 彰(1958-)  翻訳。
イラスト:Joan M. K. Tycko
カバーデザイン:木庭 貴信[こば・たかのぶ](オクターヴ
カバー装画:©Gary Waters/Ikon Images/amanaimages
カバーフォーマット:佐々木 暁[ささき・あきら] 
件名:脳
件名:快・不快
NDLC:SC364
NDC:491.371 生理学 >> 中枢神経:脳・脊髄の生理,心理学的生理学
備考:サブタイトルについて。奥付、出版社のサイトでは「なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか」と全角スペースで分かち書きしている。公共図書館では空白を省いている。


文庫版『快感回路』のカバー装画。


【目次】
目次 [003-006]
題辞 [008]


プロローグ 009
  快感研究の意味


第1章 快感ボタンを押し続けるネズミ 017
  快感(報酬)回路の発見
  不道徳な実験
  若干の科学的解説
  薬物の働き
  ドーパミンパーキンソン病
  パーキンソン病患者のギャンブル依存症
  動物の快感(報酬)回路
  すべては快感回路に還元できるのか


第2章 やめられない薬 041
  文化による薬物の好み
  ローマ時代のアヘン
  一九世紀アイルランドエーテル
  ペルーのアヤワスカ
  二〇世紀の処方薬パーティ
  酩酊への本能的欲求
  向精神薬の分類
  向精神薬と脳内の受容体
  快感のタイプと依存症
  依存症の進行
  長期増強(LTP)の発見
  長期増強と依存症の形成
  依存症の進行につながる神経化学的変化
  依存症の遺伝要因
  遺伝がすべてではない
  依存症者の責任


第3章 もっと食べたい 093
  肥満度を脳に伝えるホルモン
  満腹感を脳に伝える仕組み
  身体の仕組みはダイエットに抵抗する
  摂食行動と快感回路
  肥満の遺伝要因
  肥満とドーパミンの関係
  外食産業の戦略
  安全な痩せ薬の開発に向けて
  ストレスが引き起こす肥満
  ストレスと依存症
  薬物依存と過食の共通性


第4章 性的な脳 129
  人間は性的に特殊な動物
  動物の多様な性行動
  恋愛する脳
  脳における恋愛と性的興奮の違い
  同性愛者と異性愛者の脳
  女性の脳と身体反応のズレ
  オーガズム時の脳
  快感のないオーガズム
  薬物とオーガズム
  セックス依存症
  セックスに余韻をもたらすオキシトシン
  単婚型と乱婚型のハタネズミ
  ハタネズミから人間へ


第5章 ギャンブル依存症 169
  ギャンブル依存のリスク要因
  不確実性の快感
  脳が報酬の価値を調整する
  ギャンブル依存症者も快感に鈍感
  ゲームが引き出す快感
  人間はどんなものでも報酬にできるのか


第6章 悪徳ばかりが快感ではない 199
  ランナーズハイ
  身体的な痛みと感情的な痛み
  痛みと快感回路
  瞑想状態の脳
  神秘体験
  慈善の快感
  社会的評価を受ける快感
  隣人との比較が快感回路に影響する
  情報そのものが快感を導く
  快感を変容させる人間の能力


第7章 快感の未来 229
  カーツワイルの予測
  カーツワイルのシナリオはいつ実現するか
  遺伝子スクリーニングで依存症リスクを予測
  快感回路スキャンの応用
  対症療法的な薬物治療
  これからの依存症薬物治療
  電極埋め込み法の限界
  ニューロンを操作する光学的技法
  もしニューロンの操作が可能になったなら
  快感の社会環境


謝辞 [258-260]
訳者あとがき(二〇一一年一一月 岩坂彰) [261-264]
文庫版訳者あとがき(二〇一四年六月 岩坂彰) [265-267]
原注 [268-297] ([i-xxx])




【図表一覧】 ※簡単な説明を勝手に加えた。

図1-1 自分の快感回路を刺激するラット(J. Olds & P.M. Milner(1954)から) 020
図1-2 ヒース博士の患者(C.E. Moan & R. G. Heath(1972)の実験から) 023
図1-3 ラットの脳の快感回路 027
図1-4 ドーパミンが働くシナプスの図 029

図2-1 アヤワスカ作製中の写真(Luis Eduardo Luna博士撮影) 052
図2-2 ヘロインの作用、ニコチンの作用 065
図2-3 漫画(Joey Alison Sayersの『I'm Gonna Rip Yer Face Off!』より “Five minutes comic”) 069
図2-4 LTPの説明 078
図2-5 コカイン依存症になったラットの側坐核の中型有刺ニューロンを顕微鏡で観察した写真 085

図3-1 [上段]レプチン伝達の模式図 [下段]通常のマウスと、レフト遺伝子を持たないオビーズ・マウス 097
図3-2 視床下部の内側基底部に見られる、摂食をコントロールする回路 102

図4-1 ボノボのメス成体の同性愛行動 135
図4-2 オーガズムを測定する直腸圧プローブのデータ 152
図4-3 [上段]内側前脳快感回路の一部 [下段]小脳深部 153

図5-1 不確実性に快感を見出すかを(サルを用いて)(VTA標的領域を計測した)W. Schultzらの実験 179
図5-2 ハンス・ブライターらの実験(被験者が金銭的な損得を期待・経験する際の反応を検証する実験)の設計 186
図5-3 クラークらによる実験における、スロットマシンのニアミス画面 189
図5-4 ギャンブル依存症者と対照群の脳スキャン画像 192
図5-5 単純なビデオゲームを用いたアラン・ライスらの実験 194

図6-1 ハーボーらの実験における、側坐核の活性化を匿名寄附と引き落とし(課金?)で比較 218
図6-2 快感が経験により変容していくことを表した模式図 227

図7-1 脳にはニューロングリア細胞が詰まっている(透過型電子顕微鏡で撮影した写真) 235
図7-2 1951年に描かれた科学技術の未来としての原子力自動車 237
図7-3 光学的技法(生体多光子顕微鏡法)により脳の表面から0.5 mm奥を画像化 250





【抜き書き】


□178 註釈に神経経済学が登場。

 最近、サルやラットの実験から別のモデルが提案されている。それによると、脳はもともとある種の不確実性に快感を見出すようにできているという(認知神経科学の文献では、快感ではなく「報酬的」という用語が使われる)。

[10]近年、人間の意思決定について心理学的、神経生物学的に追求する本がいくつか出て、一般の関心を引いている。この分野はニューロエコノミクス(神経経済学)と呼ばれるようになった。たとえば Dan Ariely, Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions (New York: Harper Collins, 2008) 〔邦訳:『予想どおりに不合理』熊谷淳子訳、早川書房〕、 Jonah Lehrer, How We Decide (New York: Houghton Mifflin, 2009) 〔邦訳:『一流のプロは「感情脳」で決断する』門脇陽子訳、アスペクト〕などがある。脳内の快感回路は意思決定の中心であり、この点について詳しく説明したいところだが、これについては広く語られているので、ここでは我慢する。ニューロエコノミクスについてすでに何冊かお読みで、このテーマの基礎となる神経生物学と計算理論についてもっと深く知りたいという方には、Montague, Why Choose This Book? How We Make Decisions(New York: Dutton, 2006) をお勧めする。

 ケンブリッジ大学のウォルフラム・シュルツらが、サルにコンピューターの画面を見せ、近くのチューブから甘いシロップを出すときに画面上に合図を表示するようにして訓練する実験を行った。同時に、サルの脳に埋め込んだ電極でVTAの個々のニューロンの活動を記録した。〔…略…〕



□p. 205-207 快感と痛みと倦怠

  身体的な痛みと感情的な痛み 

 一八世紀の終わり頃、イギリスの哲学者ジェレミーベンサムが有名な言葉を残している。「自然は人間を二つの独立した支配者の下に置いた。痛みと快感だ。人間のあらゆる行為、あらゆる発言、あらゆる思考はこの二つに支配されている。この服従を逃れようと努力をすることはできるが、そのすべては結局、その服従を証明し、確認するだけに終わる」[9]。現在蓄積されている神経生物学的証拠からすると、ベンサムは半分だけ正しかった。快はたしかに人間の心の働きの指針となり、美徳へも悪徳へも導いてくれる。痛みも同じだ。しかし、痛みと快は一本の棒の両端ではない。そう考えるだけの理由がある。快の反対は痛みではないのだ。愛の反対が憎しみではなく無関心であるのと同じように、快の反対は痛みではなく倦怠、つまり感覚と経験への興味の欠如なのである。

[9]Jeremy Bentham, An Introduction to the Principles of Morals and Legislation (1789; rev. 1823; reprint, Oxford: Clarendon Press, 1907), 1.

 快感と痛みが同時に感受されうるということは、SM好きでなくともわかる。ベッカーの実験のように長距離ランナーは苦しみながらも至福を味わっているし、出産時の女性もそうだ。認知神経科学の言葉遣いで言うと、快感も、痛みも、共にサリエンス(顕現性)を示すということになる。つまり、それは潜在的に重要な経験であって、注意を向けるに値するということだ。情動とはサリエンスの通貨である。多幸感や愛のようなポジティブな情動も、恐怖や怒りや嫌悪のようなネガティブな感情も、どちらも、それは無視してはならない出来事だということを告げるものなのだ。 
 第4章で、てんかん発作や電極による脳刺激で、快感や感情を伴わないオーガズムが生じることがあるという話をしたのを覚えておいでだろうか(155ページ)。通常私たちはオーガズムを(あるいはどんなことでも)統合知覚として経験するけれども、こうした特殊な事例から、オーガズムには実際には、脳の別々の領域に由来する感覚的・識別的な要素と快感・情動の要素とがあるということがわかる。
 痛みについても同じだ。感覚的・識別的経路は視床の外側部、つまり正中から離れた部分を走り、触覚や筋の感覚に関係する皮質(一次体性感覚野)に通じている。いっぽうこれと並行して、痛みの情動感覚に関わる経路が、視床内側部を通り、島と前帯状皮質という二つの情動中枢に達している。
 視床外側部の経路にのみ損傷を受けた人は、痛覚刺激に対して不快感を報告するが、刺激の具体的な性質(鈍い痛み、鋭い痛み、冷たい、熱いなど)を表現したり、痛む場所を特定したりできない。内側の情動経路だけに損傷を受けると、反対に痛覚失象徴と呼ばれる状に陥る。痛覚刺激の質や場所はわかるが、そこに感情的な重みを伴わないのだ。痛覚失象徴の人には、痛覚刺激を受けると反射的に痛みを避けようとする(そして反射的に顔をしかめる)など正常な反応を見せるが、その痛みにそれほど煩わされないように見える。
 日常会話ではよく「心の痛み」や「苦痛に満ちた社会的状況」というような表現が聞かれるが、これは言葉の上の単なる比喩なのだろうか。それとも実際に身体の痛みを感じるのと同じ激しい情動を経験しているのだろうか。最近の研究で蓄積されてきた証拠からすると、「心の痛み」を感じているときは、身体的な痛みの経路のうち視床の内側部が活性化し、外側部が活性化していないようだ。ごく軽度の社会的苦痛(グループから除外される、ゲームで仲間に裏切られるなど)を与える実験から、こうしたときに島と前帯状皮質が有意に活性化していることが証明されている。「心の痛み」は単なる比喩ではない。脳の活動に関する限り、それはたしかに身体的な痛みと共通する部分を持つのだ。



・岩坂彰による「訳者あとがき」。黒字強調は引用者による。

□pp. 261-262 依存症の捉え方について。

 もう一つの結論は、依存症とは、人間が持つある能力の裏返しだということである。その能力とは、何でも望みの対象を(生存や繁殖の必要性とは無関係に)快感刺激にしてしまえる柔軟性である。この柔軟な能力も依存症も、共に、脳のニューロンのある種の物理的・構造的変化を基盤にしている。その変化は、学習や長期記憶のメカニズムとも同種のものなのだ。
 このような結論から著者は、悪徳と快感に対する社会の見方が見直されることを期待するが、訳者としてはもう一つ、依存症者本人が、自分の身体と脳の状態についてこうした生物学的な認識を持つことで、回復への力にしていただけるのではないかという希望を持っている。
 著者はこう言う――依存症の発症は本人の責任ではないかもしれないが、依存症からの回復は本人の責任だ、と。〈意思の力〉ではどうにもならないことがある。しかしどうにかなることもある。たとえいったん形成されたニューロンの物理的構造を元に戻すことができなくても、それに対抗する他の接続を意図的に形成することはできる。自分の責任ではないこと。自分に責任のあること。そういう見方をすることで、自分を責め続ける依存症者は少しばかり苦悩から解放されるかもしれない。このことは依存症者ばかりでなく、脳神経の機能に起因する各種の障害に苦しむ人たちについても言える。本書は、鬱病や不安障害の患者さんや家族のみなさんにも読んでいただければと願っている(その場合、読者の負担が大きいようなら、プロローグ末尾の著者の要望には反するけれども、科学的說明の詳細はすっとばしていただいてもかまわないだろう)。

□独特な用語(と訳)

 著者は、主観的な快感とともに活性化が観察される脳内の組織を〈快感回路〉(pleasure circuis)と呼ぶ。この表現はあまり一般的ではなく、脳科学の分野ではふつうこの神経回路は〈報酬系〉(reward system)と呼ばれている。本書の中でも、学術的な記述の中ではところどころ「報酬」という言葉遣いが顔を出す。当初はこの pleasure circuit を〈報酬回路〉と訳出しようかとも考えたが、実験心理学の研究書でもなく、快感という人間の主観的体験に視野を広げている本書では、快感回路という表現がふさわしいと考え直した。

□pp. 263-264

 第1章の末尾で、すべての快感はこの回路に還元されるかという問いを立てた後、著者はこう書いている。「快感回路が単独で活動しても、色合いも深みもない無味乾燥な快感が生じるだけだ」。快感は、「記憶や連想や感情や社会的意味や光景や音や匂いで飾り立てられて」はじめて力を持つ。そのようなトータルな体験の中でこそ、報酬は快感となるのだ。 
 著者リンデンには、『つぎはぎだらけの脳と心』(The Accidental Mind 、夏目大訳、インターシフト)という前著がある。〔……〕その中で著者は、脳科学の分野では、分子レベル、細胞レベルの説明と、人間の行動や意識のレベルの説明の間に、まだまだ大きなギャップがあると指摘している。〈報酬〉と〈快感〉の問題は、そのギャップの一つの表れだと言えるだろう。本書で著者は、その欠落したギャップの両側、〈快感〉体験レベルと〈快感〉回路レベルの両方を統一的な視点で捉えようとしているのだ。

『健康経済学――市場と規制のあいだで』(後藤励,井深陽子 有斐閣 2020)

著者:後藤 励[ごとう・れい] 医療経済学、行動経済学、保健医療政策。
著者:井深 陽子[いぶか・ようこ] 医療経済学。
装幀:神田 程史(レフ・デザイン工房)


健康経済学 | 有斐閣


【目次】
目次 [i-viii]


序章 消費者の健康を支える市場と規制 001
1 なぜ「健康経済学」なのか? 001
2 健康と病気の境目 003
  2-1 健康の定義 003
  2-2 病気の自然史と消費者の対処方法 004
  2-3 多様な病気の進行 006
3 健康に関連する財の流れとお金の流れ 007
  3-1 健康に関連する財 007
  3-2 財の提供者 008
  3-3 財の流れとお金の流れ 010
  3-4 財の取引の制限――市場と規制のバランス 012
4 健康経済学での理論と実証 014
  4-1 意思決定のモデル 014
  4-2 データと実証 015
  4-3 演繹と帰納 017
5 本書の構成 017
まとめ/練習問題/参考文献 020


  第I部 保健・医療・介護を学ぶための基礎 

第1章 健康に関する消費者の選択と制度 022
1 症状や病気がないとき 023
  1-1 社会保険に加入しているか? 023
  1-2 民間健康保険に加入するか? 024
  1-3 一次予防を行うか? 025
  1-4 二次予防を受けるか? 027
2 症状や病気があるとき 030
  2-1 サービス利用かセルフケアか? 030
  2-2 医療サービスか,補完・代替医療か? 031
  2-3 外来医療サービスを受けるか? 032
  2-4 入院医療サービスを受けるか? 034
3 消費者の選択の流れとニーズの大きさ 034
4 二つの医療費の概念 039
  4-1 国民医療費 039
  4-2 総保健医療支出 040
まとめ/練習問題/参考文献 042


第2章 健康経済学を学ぶための基礎 044
1 完全競争市場におけるモデル 044
2 消費者の意思決定——効用最大化 045
  2-1 選好とは何か? 045
  2-2 効用と無差別曲線 048
  2-3 予算制約 050
  2-4 効用を最大化する消費計画 051
  2-5 需要関数と需要曲線 053
  2-6 需要の価格弾力性 055
3 生産者の意思決定——利潤最大化 056
  3-1 生産関数 056
  3-2 企業の目的1 ――費用最小化 060
  3-3 企業の目的2 ――利潤最大化 061
  3-4 費用曲線 063
4 完全競争市場とパレート効率 065
5 市場の失敗と政府の介入 067
  5-1 情報の非対称性 067
  5-2 公共財と外部性 068
  5-3 不完全競争 069
  5-4 政府の介入 070
6 応用:医療費助成の理論分析 071
まとめ/練習問題/参考文献 074


第3章 経済学の実証分析:因果推論の基礎 076
1 エビデンスとは 076
  1-1 エビデンスに基づいた政策形成 076
  1-2 臨床ガイドラインにおけるエビデンス・レベル 078
2 因果推論の手法 080
  2-1 相関は因果を意味しない 080
  2-2 因果推論における問題 083
3 実験(ランダム化比較試験)の方法 084
  3-1 ランダム化比較試験 084
  3-2 経済学におけるランダム化比較試験 085
4 観察データに基づく因果効果の分析 086
  4-1 実験データと観察データ 086
  4-2 重回帰分析 088
  4-3 パネルデータ分析――固定効果分析 091
  4-4 自然実験と差の差の推定 092
  4-5 回帰不連続デザイン 097
まとめ/練習問題/参考文献 100


  第II部 消費者から見た保健・医療・介護 

第4章 健康に対する需要 104
1 健康を得ることと財を得ることのトレードオフ 105
2 グロスマン・モデル——健康を生産する 106
  2-1 効用関数 106
  2-2 健康資本への投資 107
  2-3 時間と予算の制約条件 110
  2-4 医療サービスの需要 113
  2-5 グロスマンモデルの特徴 115
3 医療サービス需要の実証分析 116
  3-1 医療サービス需要の価格弾力性はなぜ重要か? 116
  3-2 アメリカの事例―― RAND Health Insurance Experiment 118
  3-3 日本の研究 121
4 介護に対する需要 125
まとめ/練習問題/参考文献 128


第5章 保険とリスク 130
1 なぜ健康に保険は必要なのか? 131
  1-1 リスクとは何か? 131
  1-2 リスクが存在する場合の効用——期待効用 132
  1-3 保険の役割 137
2 なぜ健康保険の加入は義務化されているのか? 142
  2-1 逆淘汰 142
  2-2 リスク選択 145
3 モラル・ハザード 146
  3-1 事前と事後のモラル・ハザード 146
  3-2 モラル・ハザードに関する実証研究 148
4 日本の保険制度 149
  4-1 保険理論から見た日本の制度 149
  4-2 保険の財源 151
  4-3 保険の給付 152
まとめ/練習問題/参考文献 153


第6章 消費者の需要に対する政府の介入 155
1 外部性の内部化 155
  1-1 予防ワクチン接種への補助金 155
  1-2 受動喫煙対策 158
2 合理的アディクションモデル――依存性を持つ財の消費 
3 行動経済学と人間の非合理な行動 161
  3-1 リバタリアンパターナリズム 161
  3-2 現在バイアス 162
  3-3 リスク選好――プロスペクト理論 167
4 現状維持バイアス 172
  4-1 臓器提供の意思表示 172
  4-2 後発医薬品の利用促進政策 174
5 ナッジの応用とそれをめぐる議論 175
まとめ/練習問題/参考文献 176


  第III部 生産者から見た保健・医療・介護 

第7章 健康サービス供給の特殊性 182
1 需要と供給の独立性 182
  1-1 健康・医療における選択の違い 182
  1-2 情報の非対称性下における医師の行動 184
2 供給者誘発需要 187
  2-1 供給者誘発需要の理論と実証 187
  2-2 診療報酬の変化と供給者誘発需要 190
  2-3 情報の非対称性の有無で供給者が行動を変えるか? 193
3 どこまでが「誘発需要」なのか? 194
  3-1 健康の改善と供給者誘発需要 194
  3-2 EBMエビデンスに基づいた医療)の進展 195
4 グレーゾーンの多い個別患者における選択 198
5 医療における競争と市場の範囲 201
  5-1 医療サービス供給における競争の程度 201
  5-2 地域による医療の格差 203
  5-3 公的医療と民間医療 204
 5-4 価格の競争と質の競争 206
まとめ/練習問題/参考文献 207


第8章 保健・医療専門職の労働市場 210
1 保健・医療専門職の就業者数 210
2 医療専門職の労働市場の特徴 214
  2-1 業務独占 215
  2-2 総量規制 216
3 看護師と医師の労働市場 218
  3-1 介護職の労働市場(完全競争市場) 218
  3-2 看護師の労働市場買手独占 219
  3-3 医師の外部労働市場 226
  3-4 内部労働市場と医局制度 230
4 医師不足と偏在 233
  4-1 日本全体の医師不足 234
  4-2 医師の診療科の偏在 236
  4-3 地域の偏在 237
まとめ/練習問題/参考文献 240


第9章 健康における製造業の役割:製薬・医療機器産業 244
1 薬の分類と市場規模 244
2 研究開発型製薬産業の参入障壁 248
3 医薬品における情報の非対称性と政府の役割 250
  3-1 承認審査と保険適用・薬価の決定 250
  3-2 医療用医薬品の広告規制 254
4 新薬の研究開発費用とリスク 257
5 医療機器と再生医療 260
まとめ/練習問題/参考文献 262


第10章 介護に関わる民間企業と介護保険制度 264
1 介護の経済学的特徴 264
2 介護サービスの供給――フォーマルケアとインフォーマルケア 268
  2-1 介護保険による介護サービス 268
  2-2 介護におけるフォーマルケア供給の特徴 270
  2-3 介護におけるインフォーマルケアの重要性 273
3 家族による介護提供の影響と動機 274
  3-1 インフォーマルケアが与える就労・健康に対する影響 274
  3-2 インフォーマルケア提供の動機 276
4 介護保険――フォーマルケアを支える支払いの仕組み 277
  4-1 日本の介護保険制度 277
  4-2 アメリカの介護保険市場 279
5 介護報酬と介護サービス労働市場 280
  5-1 介護報酬 280
  5-2 介護労働市場 281
まとめ/練習問題/参考文献 282


  第IV部 政府・規制の役割 

第11章 政府の役割と診療報酬制度 288
1 政府による介入の目的 288
2 政府による介入の種類 291
  2-1 公的供給 292
  2-2 公的資金提供 293
  2-3 公的規制 295
3 診療報酬制度と保険者機能 296
  3-1 出来高払いと包括払い 297
  3-2 人頭払いと総予算制 299
  3-3 それぞれの支払い方式の短所と短所への対応 300
4 診療報酬の機能と決まり方 303
  4-1 診療報酬決定のプロセス 304
  4-2 個々の技術の診療報酬の調整 306
5 医療の質に基づいた診療報酬 308
6 医療機関の設立主体と医師個人の関係 310
まとめ/練習問題/参考文献 313


第12章 保健・医療の経済評価 316
1 医療技術評価とは何か? 317
2 費用便益分析の理論 318
  2-1 補償変分と等価変分 318
  2-2 功利主義に基づく社会厚生の分析——費用便益分析 320
3 保健・医療の経済評価の種類 322
  3-1 部分的な経済評価——費用のみの分析 322
  3-2 完全な経済評価——費用とアウトカムの両方を考慮した分析 323
4 経済学における健康の価値づけ 325
  4-1 健康の金銭的価値づけ 325
  4-2 QALY(質調整生存年)の価値づけ 327
5 経済評価で何がわかるか? 330
  5-1 配分の効率性と生産の効率性 330
  5-2 ICER(増分費用効果比) 331
  5-3 ICER の閾値 333
5-4 それぞれの経済評価が行うこと 334
まとめ/練習問題/参考文献 337


第13章 効率と公平 339
1 社会全体の望ましさ 340
  1-2 無限にあるパレート最適な状態 340
  1-2 社会厚生関数とその例 342
  1-3 効用可能性曲線と再分配の方法 345
2 社会厚生と保健・医療の経済評価 347
  2-1 厚生経済学と保健・医療の経済評価の関係 347
  2-2 保健・医療の経済評価における効率性以外の要素の考慮 349
3 健康の社会的決定要因 352
まとめ/練習問題 355


おわりに [359-362]
付録:健康経済学のデータソース [363-366]
索引 [367-375]
著者紹介 [376]



【Column一覧】
市販薬のネット販売規制とその規制緩和 013
健康に関する意思決定の強制 038
研究デザイン PICO とは? 081
ロジット・モデルと効用理論 099
長瀬効果とは? 125
オバマケアにおけるリスク選択と逆淘汰 144
なぜ感染症の撲滅は難しいのか? 157
身近で継続的に診てもらえる医師を育てる 202
医学部進学のリターン 229
製薬企業と医師の関係 256
地域包括ケアと病院 270
保健医療政策とデータ 303
現在の日本での医療技術評価の政策利用 336
日本人が重視する効率性以外の要素 351

『喫煙と禁煙の健康経済学――タバコが明かす人間の本性』(荒井一博 中公新書ラクレ 2012)

著者:荒井 一博[あらい・かずひろ](1949-) ミクロ経済学。日本経済論。
シリーズ:中公新書 La Clef;408
件名:喫煙
件名:禁煙
件名:経済学
NDLC:SC194 科学技術 >> 医学 >> 衛生学・公衆衛生 >> 健康法・長寿法
NDC:498.32 衛生学.公衆衛生.予防医学 >> 個人衛生.健康法 >> 禁煙.禁酒
備考:図書館の書誌DBにおける「件名/キーワード」について。私なら本書の内容を踏まえて「件名:行動経済学」を加える。
備考:著者のホームページで本書を全文公開している(PDFファイル)。



【目次】
はしがき [003-004]
目次 [005-010]


プロローグ [準備編]やめられない消費の経済分析 013
  特異な消費財と消費行動
  かつては薬草と考えられたタバコ
  喫煙者を苦しめる嗜癖の性質
  歴史上の人物にも多いヘビー・スモーカー
  日本人の喫煙の現状
  喫煙に起因する疾病と死亡
  喫煙と禁煙を経済学で分析する
  本書の目的と特徴
  基礎的な経済学概念について
  本書の構成と読者への注意


第一部 [実態編]喫煙で何が起きているのか 039


第一章 誰がタバコを吸っているのか 043
  ダンサーに喫煙者が多いのはなぜか
  喫煙者は現在重視で投資量が少ない
  喫煙者は危険回避度が低い?
  喫煙の危険を過大評価している喫煙者
  スペインやスウェーデンでも喫煙危険を過大評価
  危険を過大評価しているのになぜ喫煙するのか 
  自分に起こる危険は低く評価する
  軍隊におけるタバコ支給と喫煙率
  高学歴者の喫煙率は低い
  なぜ高学歴者の喫煙率は低いのか
  教育自体は喫煙行動に影響しないという考え方
  学歴効果に関する代替的仮説
  英国のシングル・マザーの六割が喫煙者
  勉強のできない子供が喫煙する理由
  喫煙を抑止する社会資本
  クラシック音楽愛好者に喫煙者が少ない理由
  喫煙危険の評価に関する男女差
  女性の喫煙率が下がらない理由
  高喫煙率の大学に入ると喫煙確率が高まる
  ピア効果のメカニズムと「ピア効果もどき」
  家族の悪い習慣は真似されやすい


第二章 喫煙はどのような害や損失を生み出すのか 095
  喫煙者の賃金は顕著に低い
  喫煙者の生産性が低くなる理由
  過去喫煙者は喫煙未経験者より賃金が高い
  男性の短命の一因は高い喫煙率と多い喫煙量
  男性の喫煙率が高い理由
  喫煙する母親が低出生体重児を産む
  上昇する日本の低体重出生率
  母親の喫煙と乳児の受動喫煙の被害
  家庭・飲食店・道路が受動喫煙の主たる場
  喫煙が引き起こす経済的損失額


第二部 [理論編]喫煙者は合理的かそれとも非合理的か 121


第三章 「将来も見通す個人」の喫煙経済理論 125
  嗜癖の近視眼的モデル
  喫煙の合理的嗜癖モデルの趣旨
  合理的嗜癖モデルの概略
  合理的嗜癖モデルが意味すること
  合理的嗜癖モデルを支持する実証結果
  自分のタイプが不明な合理的嗜癖モデル
  時間選好率が変化する合理的嗜癖モデル
  自ら喫煙しづらくする喫煙者の行動
  喫煙者の内的葛藤を表現する理論
  タバコの増税に賛成する喫煙者
  渇望が理性的判断を阻害する


第四章 「先送りする個人」の喫煙経済理論 153
  不愉快なことを先送りする行動
  禁煙に成功しない先送りのメカニズム
  先送りが生み出すカルト集団の異常行動
  時間的に非整合的な選好
  双曲割引で先送り行動を説明する
  双曲割引が生み出す非効率性
  一個人のなかに複数の自己が存在する
  現在の自己から将来の自己への内部不経済
  低い禁煙成功率
  合理的嗜癖モデルに対する懐疑
  「選択の不自由」が人間を幸福にする
  公共政策に対する見方
  選好に対する見方が規制のあり方に影響する
  外的な刺激とそれに対する反応
  内的な衝動と推定バイアス
  どのモデルが正しいのか
  棄却できないモデルの異なる政策提言


第三部 [実践編]禁煙を経済学的に考える 191


第五章 増税と禁煙条例は禁煙を促進するか 195
  タバコ課税はなぜ正当化されるのか
  わが国のタバコ税
  タバコ税が喫煙量を減らす
  若年者に対する増税効果が重要
  増税に対する女性の反応
  増税効果は嫌煙感情の効果に過ぎない?
  増税があると強いタバコを吸う?
  禁煙条例はレストランの収益に影響しない?
  飲食店の所有者は禁煙条例を嫌う?
  飲食産業の私的市場で受動喫煙は防げる?
  禁煙条例が飲食産業の雇用を増やす?
  禁煙政策に関する激しい学界内論争
  飲食産業の成長が禁煙条例を生み出した?
  飲食店で働く喫煙者も職場禁煙法を支持する
  職場の禁煙化が喫煙率を下げる
  飲食店や職場に対する禁煙条例が火災を増やす?


第六章 喫煙者が禁煙に踏み切るとき 235
  タバコの広告禁止は禁煙を促進する?
  禁煙広告・禁煙キャンペーンに効果はあるのか
  禁煙キャンペーンについて注意すること
  高学歴者は禁煙意欲が強く禁煙率が高い
  結婚すると禁煙動機が高まる
  中高年は健康ショックで禁煙する?
  健康ショックがなくても禁煙する理由は?
  禁煙補助薬は有効か
  わが国におけるニコチン・パッチ治療の効果
  禁煙促進のための試み
  大学生はどのようにして禁煙に成功したのか


第七章 私がタバコとの訣別に成功した「経済学的禁煙法」 265
  禁煙の便益を十分に認識する
  火事の心配が不要になるという快感
  タバコの臭いや汚れや性的魅力低下からの解放
  金銭的・時間的な便益
  禁煙開始のタイミング
  三の法則
  どうしても我慢できなくなったら
  本当につらいのはほんの数日
  素晴らしい出来事


参考文献 [286-306]
索引 [307-310]





【抜き書き】


・「はしがき」から、本書のテーマ説明。

 喫煙と禁煙の健康経済学は、過去10年ほどの間に目覚ましい発展を遂げた。多数の経済学者がこの分野できわめて興味深い研究を行ってきた。〔……〕この発展の背景には多くの先進国で禁煙運動が隆盛になった事情がある。それと同時に、特殊な性質を持つタバコという消費財の存在が、経済学者の新たな研究意欲を掻き立てたという事情もある。
 また、経済学には喫煙や禁煙を分析するための概念や道具がかなりそろっていたことも、禁煙運動に触発された研究の発展に寄与した。普通の消費財に関する詳しい消費理論は既に存在しており、それにタバコの持つ特殊な性質を組み入れる挑戦が行われた。タバコ課税や喫煙規制に関連する議論では、消費行動などが他者に与える害悪に関する経済学の伝統的概念やその応用が重要な役割を果たすようになっている。さらに、計量経済学の分野で開発されていたデータ分析の手法が喫煙と禁煙の健康経済学で高い有用性を発揮したことも、研究の発展に対して重要な寄与を果たした。
 こうした事情を背景として、今までに千以上の喫煙関係論文が経済学の国際学術誌に発表されている。そして、米国などにおいて健康経済学は、行動経済学などとともに、今日最も人気のある経済学分野の一つになっている。健康経済学には飲酒や肥満などを扱った研究もあるが、喫煙と禁煙に関連する問題には、とりわけ多くの理論経済学や実証経済学の研究者が関心を寄せている。
 喫煙と禁煙は学界内で激しい論争を引き起こしている研究テーマでもある。その根本的な理由は、有害な消費に対する個人の自由をどの程度尊重するかに関して思想的な違いが存在するとともに、喫煙規制に関して利害の鋭く対立する集団が存在することにある。こうした激しい論争のために、健康経済学における分析の厚みも増大した。
 本書は、このようにして形成された喫煙と禁煙の健康経済学をかなり体系的に論じたものである。〔……〕喫煙という消費行動を本書のように経済学的に分析することは、人間の興味深い諸性質も明らかにする。読者が喫煙の意味を考えるために本書が役立つことを期待したい。



・「ある程度非合理的な個人」のモデルの仮定に基づいた、禁煙への工夫をいくつか。そして、「選択肢が増えたために厚生が低くなる」こと(pp. 176-177)。

  「選択の不自由」が人間を幸福にする
 合理的嗜癖モデルに対する決定的な反証としては、喫煙に対する個人の自制現象が広く観察される事実を挙げることができる。合理的嗜癖モデルの個人であれば、最適な喫煙量をあらかじめ決定し、それを実行できるので、自制手段を講じる必要がないからである。
 自制方法は多様であるが、節煙のためにタバコの買い置きをしないことは既に触れた。〔……〕禁煙について親しい人と賭けをし、失敗したらあらかじめ決めておいた金額を支払い、成功したら受け取るという方法もありうる。禁煙意志を周囲の人たちに告げることはごく普通に見られる。これらの自制方法は喫煙の金銭的・時間的・心理的費用を高くする。
 他の方法としては、禁煙を決意したらタバコはもちろん一切の喫煙用具を捨て去ることが挙げられる。喫煙欲を刺激しないために、タバコ関連のものを目につかないようにする方法である。(場合によっては自ら費用を負担して)自分の選択肢を自ら狭める行為と解釈することもできる〔……〕。経済学で広く信じられていることに反して、選択対象が多過ぎて不適切なものが入っていると、個人の厚生(効用・幸福度)はかえって低くなる。消費者の厚生は、実際に選択・消費されるものだけでなく選択肢にも依存すると考えられるのである。タバコが入手可能であると、選択を歪めたり費用をともなう自制を必要としたりして、厚生が低くなると推察される。
 自由主義の観点からすれば、個人の選択対象は多いほど好ましい。自由度が高まり、より好ましい選択ができるからである。しかし、自己拘束を肯定する観点からすると、選択対象が多いことは自己拘束の必要性を高め、厚生の低下に帰結することもある。

『禁煙学 第4版』(日本禁煙学会[編] 南山堂 2019//2007)

編者:日本禁煙学会[にほん きんえん がっかい](2006-) 禁煙・受動喫煙防止に関する学術研究・調査の推進。2014年より一般社団法人。
編集委員:作田 学
編集委員:高野 義久
編集委員:松崎 道幸
編集委員:宮崎 恭一
NDC:498.32 衛生学.公衆衛生.予防医学 >> 個人衛生.健康法 >> 禁煙.禁酒


南山堂 / 内科学一般 / 禁煙学

  [執筆者]
相澤政明  相模台病院 薬剤部 部長
天貝 賢二  茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 消化器内科 部長
飯田 真美  地方独立行政法人 岐阜県総合医療センター 副院長・内科部長
石井 芳樹  元 獨協医科大学 呼吸器・アレルギー内科 主任教授・診療部長
井門 明  一般社団法人美唄市医師会 会長
臼井 洋介  静岡赤十字病院 精神神経科 副部長
遠藤 明  医療法人社団えんどう桔梗こどもクリニック/昭和大学病院 小児科 理事長/講師
尾崎 哲則  日本大学歯学部 医療人間科学分野 教授
尾崎 治夫  公益社団法人東京都医師会 会長
片山 律  Wealth Management法律事務所 弁護士/横浜たばこ病訴訟弁護団
加藤 正隆  医療法人 かとうクリニック 理事長
門倉 義幸  葉山かどくら耳鼻咽喉科昭和大学横浜市北部病院 院長/客員教授
加濃 正人  鴎友会 新中川病院 内科・精神科(禁煙外来)
亀倉 更人  北海道大学大学院歯学研究院 口腔病態学分野(前科麻酔学)准教授
川合 厚子  社会医療法人公徳会トータルヘルスクリニック 院長
川井 治之  岡山済生会総合病院 内科/がん化学療法センター 診療部長/がん化学療法センター長
川俣 幹雄  九州看護福祉大学看護福祉学部 リハビリテーション学科 教授
北田 雅子  札幌学院大学人文学部 こども発達学科 教授
北野 正剛  大分大学学長
久保田 聰美 高知県立大学看護学部 看護管理学領域 教授
栗岡 成人  NPO法人京都禁煙推進研究会(タバコフリー京都)理事
黒澤 一  東北大学大学院 医学系研究科産業医学分野 教授
鄉間 厳  堺市総合医療センター 呼吸器疾患センターセンター長・呼吸器内科 部長
齊藤 道也  みちや内科胃腸科 理事長
齋藤 百枝美 帝京大学薬学部 薬学実習推進研究センター 教授
作田 学  一般社団法人日本禁煙学会 理事長
佐々木 温子 医療法人財団アドベンチスト会 東京衛生病院 健康増進部
佐竹 見太  日本赤十字社医療センター 呼吸器内科/日本遠隔医療学会 デジタル療法分科会長
島田 和典  順天堂大学医学部 循環器内科学講座 先任准教授
下平 秀夫  帝京大学薬学部 薬学実習推進研究センター 教授
鈴木 幸男  北里大学北里研究所病院 人間ドック科 部/長北里大学薬学部 教授
高野 義久  たかの呼吸器科内科クリニック 院長
高橋 克敏  高度・急性期医療センター 公立昭和病院 代謝内科 担当部長
高橋 正行  倉病院 内科 部長
田那村 雅子 医療法人社団至心会 田那村内科小児科医院 副院長
谷口 千枝  愛知医科大学看護学部 成人看護学 (療養生活支援)講師
田淵 貴大  大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部 副部長
原 貴史  伏見駅前陳皮フ科・形成外科クリニック 院長
坪井 貴嗣  開杏林大学医学部精神神経科学教室 講師
中村 正和  公益社団法人地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター センター長
野上 浩志  子どもに無煙環境を推進協議会代表理事
橋本 洋一郎 熊本市立熊本市民病院神经内科首席診療部長
平間 敬文  医療法人光潤会平問病院 院長
藤原 久義  兵庫県立尼崎給合医療センター 名誉院長
松崎 道幸  道北勤劳者医療協会 旭川北医院 院長
三德 和子  兵庫大学看護学部 看護学科公衆衛生看護学領域 教授
宮崎 恭一  一般社团法人日本禁煙学会理事・総務委員長
村田 千里  株式会社野村総合研究所 大手町健康管理室 統括産業医
村松 弘康  中央内科クリニック 院長
森田 純二  公益財団法人香川県予防医学協会 顧問
山下 健  JCHO 大和郡山病院 産婦人科 診療部長
山本 蒔子  NPO法人禁煙みやぎ 理事長
吉井 千春  産業医科大学若松病院 呼吸器内科 診療教授

【目次】
一覧 [ii-iii]
口絵(病理画像/ブラック・リップ/喫煙による肺の変化/喫煙による影響/タバコのパッケージ) [iv-viii]
改訂4版の序(2019年10月吉日 一般社団法人 日本禁煙学会 理事長 作田 学) [ix]
初版の序(2007年1月吉日 NPO法人日本禁煙学会 理事長 作田 学) [x]
目次 [xi-xviii]


  I 喫煙の医学 


1 タバコ煙の成分 002
A. タバコ煙に含まれる成分[田淵貴大] 002
  1.粒子相とガス相の両方に含まれる物質 
    a. ニコチン 
    b. ニトロソアミン類
  2.主に粒子相に含まれる物質 
    a. 多環芳香族炭化水素類(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)
  3.主にガス相に含まれる物質 
    a. 一酸化炭素(carbon monoxide:CO)
    b. アンモニア(ammonia)
    c. ホルムアルデヒド(formaldehyde)などのアルデヒド


B. 依存症にするための製品[加濃正人] 006
  1.依存性物質としてのニコチン 
    a. 依存の起こりやすさ
    b. 使用中止の困難さ
    c. 耐性および離脱
    d. 使用者の日常生活での重要さ
    e. 依存性物質の総合評価
  2.喫煙という物質摂取経路の意味 
    a. 中枢神経作用の即時性
    b. 動物自己投与実験の解釈
  3.ニコチンの中枢神経作用の特徴 
    a. 離脱症状を緩和する効果の試み
    b. ニコチンのメンタルヘルス悪化作用
  4.「ライト」,「マイルド」の欺瞞 
    a. 代償性喫煙
    b. 低ニコチン・低タールの危険性
    c. タバコ規制条約(FCTC:タバコ規制枠組条約)第十一条
  5.依存性を高めるための添加物 
    a. アンモニウム化合物
    b. メンソール,アセトアルデヒド,レブリン酸
    c. ココア末,チョコレート,カフェイン
  6.依存症の根絶は専門家の連携から 


C. 加熱式タバコ[田淵貴大] 016
  1.加熱式タバコから出る化学物質 
  2.加熱式タバコの健康影響  


D. 加熱式タバコの人体毒性[松崎道幸] 022
  1.本人への健康影響
    a. タール・ニコチン・一酸化炭素
    b. 血管内皮機能(FMD)
    c. フレーバー
    d. シアノヒドリン
  2.周囲への健康影響
  3.禁煙阻害
  4.若い世代の喫煙促進


2 能動喫煙による疾患 026
A. 喫煙と寿命[松崎道幸] 026
  1.喫煙による寿命短縮
  2.喫煙習慣別健康寿命
  3.喫煙率と寿命の相関 


B. 悪性腫瘍[郷間 巌] 028
  1.発がんと疫学に基づくエビデンス
  2.肺がん
    a. COPDと肺がんの関係
    b. 肺がんの組織型とタバコ製品の変化
    c. 日本のエビデンス
  3.膵がん
  4.大腸がん
  5.子宮頸がん
  6.発がん性物質
    a. ニコチンそのものの問題
    b. ポロニウムの問題
  7.受動喫煙と発がんのエビデンス
  8.重複がん
  9.性差と発がん
  10.禁煙の重要性とがん死亡の関連 


C. 循環器疾患[島田和典] 038
  1.疫学的エビデンス
  2.喫煙が循環器疾患発症に関連するメカニズム
  3.喫煙と関連する循環器疾患
  4.禁煙効果 


D. 脳血管障害[橋本洋一郎] 041
  1.欧米の報告
  2.わが国の報告
  3.受動喫煙
  4.他の危険因子との相乗効果
  5.禁煙の効果
  6.脳卒中発症後の喫煙継続 
  7.脳卒中認知症予防のための多角的管理 


E. COPD慢性閉塞性肺疾患)[黒澤 一] 045
  1.COPDとは 
  2.COPDとタバコ 
    a. 最大の危険因子
    b. COPDの初発病変
  3.COPDの臨床像 
    a. COPDの病型
    b. 症状と自然歴
  4.COPDの疫学 
    a. 有病率
    b. 死因統計
  5.COPDの診断 
  6.COPDの治療 
    a. 禁煙指導と肺年齢
    b. 薬物療法と非薬物療法の融合
  7.COPDの予後 


F. その他の呼吸器疾患[吉井千春] 052
  1.喫煙関連間質性肺疾患(SRILD)
    a. RB-ILDとDIP
    b. 肺ランゲルハンス細胞組織球症
  2.気腫合併肺線維症(CPFE)
  3.自然気胸
  4.呼吸器感染症
  5.急性好酸球性肺炎(AEP) 


G. 糖尿病[村田千里] 055
  1.喫煙は糖尿病の発症率を上げる
  2.喫煙が糖代謝異常を招く原因として考えられること
  3.禁煙後の糖代謝異常
  4.糖尿病患者での喫煙の影響
  5.糖尿病患者での禁煙の影響 


H. 消化器疾患[北野正剛] 058
  1.食道がん
  2.胃食道逆流症(GERD)
  3.胃炎,消化性胃十二指腸潰瘍
  4.胃がん
  5.大腸がん
  6.炎症性腸疾患 


I. 肝・胆・膵疾患[天貝賢二] 061
  1.肝の解剖学的特徴とタバコの影響
  2.慢性肝炎・肝硬変
  3.非アルコール性脂肪肝炎(NASH),非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
  4.肝臓がん
  5.胆石症・胆のう炎
  6.胆道がん・胆のうがん
  7.急性膵炎・慢性膵炎
  8.膵がん 


J. 腎疾患[高橋克敏] 065
  1.一般成人における CKD 新規発症リスク
  2.CKD 患者における喫煙のリスクと禁煙の効果
  3.CKD 患者における禁煙治療の留意点 


K. アレルギー疾患[石井芳樹] 067
  1.アレルギー疾患患者における喫煙問題
  2.喫煙によるアレルギー炎症亢進のメカニズム
  3.喫煙は喘息を悪化させる
  4.喫煙は喘息発症を増加させる
  5.喫煙は吸入ステロイドの効果を減弱する
  6.母親の喫煙と喘息の関連
  7.他のアレルギー疾患と喫煙 


L. 産婦人科疾患[山下 健] 070
  1.産科疾患と喫煙
  2.喫煙と胎児・新生児異常
  3.喫煙者の乳汁分泌
  4.婦人科疾患と喫煙
  5.喫煙と不妊症 


M. 子どもへの影響[遠藤 明] 074
  1.出生前(胎児期)における受動喫煙の影響
    a. 子宮内発達障害
    b. 生活習慣病胎児期起源説(Fetal Origins of Adult Disease, DOHaD:developmental origins of health and disease)
    c. 乳幼児突然死症候群(sudden infant death syndrome:SIDS
    d. 先天奇形
    e. 呼吸機能
    f. 精神発達の異常
  2.出生後(乳幼児期〜思春期)の受動喫煙の影響
    a. SIDS
    b. 呼吸器疾患
    c. 成長:乳幼児の受動喫煙の有無と体重の関係
    d. 心血管系
    e. 口腔内
    f. 認知機能
    g. 受動喫煙以外の問題
      i) 喫煙者による母乳保育
      ii) タバコ誤飲
  3.小児期〜思春期の能動喫煙の影響 


N. 認知症精神疾患[坪井貴嗣] 078
  1.認知症と喫煙・禁煙
  2.統合失調症と喫煙・禁煙
  3.うつ病と喫煙・禁煙 


O. 皮膚科および形成外科的疾患(スモーカーズフェイス)[陳 貴史] 081
  1.皮膚自体に与える影響
  2.関連する皮膚疾患
  3.副流煙による皮膚障害
  4.口唇の黒ずみ(smoker's lip, black lip) 


P. 耳鼻咽喉科疾患[門倉義幸] 084
  1.喫煙・受動喫煙と頭頸部がん
  2.喫煙・受動喫煙と難聴・中耳炎
  3.嗄声・ポリープ様声帯
  4.喫煙と頭頸部感染症・術後合併症 


Q. 歯周疾患[尾崎哲則] 087
  1.喫煙と歯周疾患
  2.喫煙が歯周疾患に影響を与えるメカニズム
  3.禁煙と歯周疾患治療
  4.喫煙とう蝕(むし歯)との関連
  5.歯肉メラニン色素沈着症(喫煙者メラニン沈着症)


R. スポーツとタバコ[高橋正行] 091
  1.国際オリンピック委員会IOC)の方針と取り組み
  2.オリンピック以外のメガスポーツイベント
  3.日本の現状
  4.2019年ラグビーW杯と2020年東京五輪に向けた準備
  5.新型タバコについて
  6.屋外喫煙について 


3 受動喫煙による疾患と対策 094
A. 受動喫煙の影響[松崎道幸] 094
  1.受動喫煙と総死亡・心血管疾患死亡・がん死亡
  2.日本における受動喫煙の健康影響
  3.受動喫煙による死亡者数
  4.次世代への影響
  5.受動喫煙防止法令の効果 


B. サードハンドスモーキング(三次喫煙)[松崎道幸] 099
  1.サードハンドスモーキングとは
  2.サードハンドスモークの成分
  3.サードハンドスモークの生体影響
  4.サードハンドスモークの対策 


C. 化学物質過敏症[鈴木幸男] 103
  1.疾患概念
  2.発症機序
  3.臨床症状
  4.診断基準
  5.鑑別診断
  6.治療 


D. PM2.5受動喫煙[松崎道幸] 107
  1.PM2.5 と死亡率
  2.屋内の PM2.5
  3.自動車内の PM2.5
  4.屋外飲食施設の PM2.5
  5.加熱式タバコ 


E. 受動喫煙症の診断・治療・予防[松崎道幸] 110
  1.診断のポイントとプロセス
  2.受動喫煙による化学物質過敏症
  3.サードハンドスモーキング
  4.受動喫煙症の治療
  5.受動喫煙症の予防 


F. 受動喫煙防止法による効果[藤原久義] 115
  1.海外での受動喫煙防止法の衝撃
  2.受動喫煙防止法施行後の急性冠症候群,心臓発作などによる入院の減少――後ろ向き研究 
  3.受動喫煙防止法による急性冠症候群の減少――前向き研究
  4.急性冠症候群・心臓突然死減少のメカニズムからみた受動喫煙防止法の意義
  5.メタ解析による効果――心疾患,脳卒中,呼吸器疾患による入院の減少
  6.カジノでの救急車出動回数の減少
  7.わが国の受動喫煙防止条例の施行とその効果
    a. 兵庫県受動喫煙防止条例前後での急性冠症候群(急性心筋梗塞&不安定狭心症)の発生についての大規模前向き研究
    b. 兵庫県受動喫煙防止条例前後での急性冠症候群発生の地域差は条例施行に対する対応の地域差によるのかの研究



  II 禁煙の医学 


1 総 論 124
A. 喫煙率の推移[高橋正行] 124
  1.日本人の喫煙率
  2.都道府県別喫煙率
  3.世界の国別喫煙率 

B. 禁煙治療の意義[山本蒔子] 128
  1.一般診療における禁煙勧奨
  2.健康診断での禁煙勧奨 

C. やめ方の基本原則[作田 学] 130
  1.タバコは依存性(嗜癖形成性)薬物であり,大麻覚醒剤,アルコールよりも強い 
  2.タバコをやめるきっかけ,動機 
  3.禁煙するつもりのない喫煙者に対して(ハードコア層) 
  4.いつかはタバコをやめたいと思っている人に対して(ソフトターゲット層) 
  5.タバコをやめようとする人に対して 
  6.ニコチン離脱症状とその経過 
  7.タバコへの渇望に対して 
  8.再喫煙を防止する 
  9.タバコをやめて変わること 


2 禁煙の心理学 135
A. タバコの依存性[臼井洋介] 135
  1.身体的依存 
    a. 離脱症状
    b. 耐性上昇と脳内報酬系
    c. 依存症と島皮質との関係
  2.精神的依存(心理学的依存,行動的依存) 
    a. コントロール喪失(抑制喪失)を具体的な事例を通して
    b. 「1本だけならいいですか?」
    c. コントロール喪失(抑制喪失)は,なぜおこるのか?
    d. 認知の歪み
    e. 依存症は,回復しても,治癒しない
    f. 共依存
  3.タバコ会社の巧妙な戦略 


B. 禁煙の心理学(1)認知行動療法[臼井洋介] 141
  1.ニコチン依存症の精神・心理療法について
  2.認知行動療法
  3.認知行動療法の基礎となる仮説
  4.認知行動療法の実践例 


C. 禁煙の心理学(2)動機づけ面接法[北田雅子] 147
  1.患者との信頼関係を構築し面談の土台をつくる
  2.会話のなかで行動変容へ向かう言語(チェンジトーク)に気付く
  3.患者と協働的に情報を交換する方法:elicit-provide-elicit(引き出し−提供し−引き出す)


3 薬局・薬店での禁煙指導・支援 152
A. 薬の種類,副作用・相互作用[相澤政明] 152
  1.禁煙治療における薬物療法
  2.禁煙補助薬の種類
  3.副作用
  4.タバコと薬の相互作用 


B. 薬局・薬店での禁煙指導[齋藤百枝美・下平秀夫] 156
  1.薬局・薬店での禁煙支援の意義 
    a. ニコチン製剤
    b. 非ニコチン製剤
  2.薬局薬剤師による禁煙啓発活動
  3.薬局での禁煙支援の方法
  4.禁煙希望者からの基礎情報の収集
  5.一般用医薬品によるニコチン置換療法 
    a. 一般用医薬品の禁煙補助薬を選ぶ基準
    b. 一般用医薬品の禁煙補助薬のてきようかひのチェック表
    c. ニコチンガム使用法の注意
    d. ニコチンパッチ使用法の注意
  6.処方箋医薬品 
    a. 医療機関での禁煙治療を推奨する目的
    b. バレニクリン製剤
    c. パッチ製剤
      i) パッチ製剤の副作用
  7.禁煙補助薬と併用薬との相互作用
    a. 禁煙することで作用が増強される医薬品
    b. 喫煙(ニコチン)により作用(副作用)が増強する医薬品
    c. バレニクリンの作用を増強させる医薬品
  8.禁煙期間中に確認すべき事項


4 医療機関での禁煙指導・支援 163
A. これから始める禁煙外来[齊藤道也] 163
  1.禁煙外来を新たに開設する意義を理解する 
  2.保険適用で禁煙外来を行うためにすべきこと 
    a. 特掲診察料施設基準を満たす
    b. 各地方厚生局に下記の書類を提出し認可されること
    c. 診療に必要な帳票類を備える
    d. 禁煙補助薬を知る
  3.さあ禁煙外来を始めよう 
    a. ニコチン依存症管理料算定要件に従う
    b. 禁煙外来の実際の流れ
  4.禁煙外来を行う医療機関の基本姿勢 
  5.加熱式タバコに対する対応 
  6.禁煙成功率,禁煙継続率を上昇させるには 


B. 経口治療薬バレニクリンの効果と副作用[中村正和] 170
  1.バレニクリンの有効性 
  2.バレニクリンの副作用 
    a. 一般に見られる副作用
    b. その他の副作用の可能性


C. 保険適用と治療のガイドライン[飯田真美] 175
  1.禁煙治療の保険適用の背景
  2.禁煙治療の保険適用の実際
  3.わが国の禁煙に関するガイドライン,指針,チャート 
    a. 禁煙ガイドライン(2015年,2010年改訂版)
    b. 周術期禁煙ガイドライン(2015年),追補版(2018年)
    c. 若年者の禁煙治療指針
    d. わが国におけるその他の疾患ガイドライン


D. 若年者(35歳未満)の禁煙治療[飯田真美] 180
  1.若年者の喫煙の動向
  2.若年者の禁煙治療のエビデンス
  3.若年者禁煙治療における心理的治療,社会的治療 


E. 5A,5Rなどの指導法[作田 学] 183
  1.動機づけ面接法と 5R:やめようとしない患者に対して
  2.5A:禁煙したいと思う患者に対して
  3.カウンセリングと行動療法 


F. ニコチン置換療法(NRT)を使った指導法[松村弘康] 187
  1.海外と日本における NRT の歴史
  2.NRTの有効性と安全性
  3.各種 NRT 製剤による違い
  4.NRTの利点と欠点(局所的副作用を中心に)
  5.NRTの注意点(全身的副作用を中心に) 


G. バレニクリンを使った指導法[川井治之] 190
  1.バレニクリンの特徴
  2.標準的使用法
  3.投薬のコツ
  4.嘔気について
  5.精神症状への対応
  6.自動車運転時の意識障害問題
  7.今後の展望 


H. 子どもに対する禁煙支援[遠藤 明] 195
  1.子どもの喫煙による健康問題
  2.喫煙する子どものタイプ
  3.禁煙支援の具体的方法
    a. 問診
    b. 非薬物療法
    c. 薬物療法
      i) ニコチン置換療法(Nicotine Replacement Therapy:NRT)
      ii) バレニクリン:ニコチン受容体拮抗薬
  4.新型タバコ
  5.子どもの禁煙を成功に導く対策 


I. 女性に対する禁煙支援[山下 健] 199
  1.性差医療と女性の禁煙治療
  2.禁煙における性差
  3.女性のライフステージと喫煙
  4.女性特有の関連因子 
    a. 性周期
    b. 精神疾患
    c. 体重増加の懸念


J. 妊婦に対する禁煙支援[山下 健] 203
  1.妊婦の喫煙状況
  2.妊婦の禁煙の妨げとなる問題点について
    a. 若年者が多く,精神的・人格的に未熟である.また喫煙の害についての理解に乏しい
    b. 周囲の喫煙環境があり,協力が得られないことが多い
    c. 医師や助産師の指導が不十分であること
  3.妊娠は人生最大の禁煙チャンス
  4.妊婦に対する薬物療法
  5.妊婦への禁煙指導の実際
  6.再喫煙予防 


K. 精神疾患患者に対する禁煙支援[川合厚子] 207
  1.精神疾患の有無の確認
  2.精神疾患がある場合の禁煙治療
    a. 精神疾患患者の禁煙治療のポイント
    b. うつについて
    c. 治療薬の選択
  3.精神疾患患者の禁煙へのアプローチ
  4.精神疾患患者における禁煙のメリット 


L. 禁煙後の体重増加とその防止[佐々木温子] 212
  1.禁煙で体重は一時的に増える
  2.体重増加により発症,悪化がもたらされる可能性のある病気
  3.体重増加の背景
    a. エネルギー摂取量増加
    b. エネルギー消費量低下
    c. 好ましくない生活習慣
    d. 脳報酬系からみた機序
  4.体重にこだわる喫煙者への対応・情報の伝え方
  5.指導のタイミング
  6.具体的な指導 


M. 歯科における禁煙支援[亀倉更人] 217
  1.歯科疾患とタバコ
  2.歯科界の現況
  3.歯科における禁煙指導の特徴
    a. 受診する患者層が幅広い
    b. 繰り返しかつ継続的に禁煙指導が行える
    c. 口腔保険指導の中に介入を組み入れやすい
    d. 口腔は自分自身で直接見ることができるので,動機づけが行いやすい
    e. 全身疾患の症状がまだ現れていない段階で介入することができる
  4.すすめ方 
    a. 無関心期
    b. 関心期
    c. 準備期
    d. 実行期
    e. 維持期


N. 病院・診療所の薬剤師の役割[相澤政明] 221
  1.薬剤師が禁煙の重要性を認識する
  2.薬剤師による禁煙指導の有用性
  3.服薬指導における禁煙指導
  4.集団教育における禁煙指導
  5.薬学の視点から行う禁煙指導 


O. 禁煙外来における看護師の役割[谷口千枝] 223
  1.禁煙治療に看護師が携わる必要性
  2.看護師の行う禁煙支援 
    a. 知識・スキルの獲得
    b. 自己効力感を高める


P. 行政保健師の役割[三徳和子] 225
  1.行政保健師の役割
  2.自治体のタバコ対策に関する条例や計画と保健師活動
  3.タバコ対策問題の気づきと問題解決ための各種支援者・機関へのつなぎ
  4.信頼のあるネットワークとまちづくり 


Q. クリニカルパス[谷口千枝] 227
  1.クリニカルパスとは 
    a. 初診
    b. 再診


R. 遠隔治療[佐竹晃太] 229
  1.「遠隔医療」とは
  2.禁煙における「遠隔医療」の現状
    a. 禁煙における遠隔治療
    b. 禁煙におけるオンライン診療
    c. 禁煙オンライン診療への期待と今後の展望
  3.ICT・スマートフォンアプリを活用した最新の禁煙治療 


S. 外来治療からのドロップアウト防止策[加藤正隆] 233
  1.外来治療からのドロップアウトの要因
  2.ドロップアウト防止は初診から
  3.再診時の問題解決方法
  4.保険適用による禁煙外来の最終診療時の問題点
  5.今後の課題 


T. 治療終了後の再喫煙防止[加藤正隆] 236
  1.ニコチン依存症は再発率の高い慢性疾患
  2.“1本の喫煙” で,3か月後には70〜90%が再喫煙
  3.再喫煙の防止策 


U. 日本のクイットライン[宮崎恭一] 238
  1.日本の対策
  2.諸外国の情報
  3.企業へのアプローチ
  4.今後の展望 


V. 禁煙推進に果たす医師会の役割[尾崎治夫] 241
  1.医師会の役割
  2.地区医師会での取り組み
  3.東京都医師会での取り組み



  III 世界の潮流と日本の現状


1 総 論 246
A. タバコ規制条約(FCTC)の歴史と非感染性疾患(NCD),MPOWER[作田 学] 246
  1.タバコ規制条約(FCTC=タバコ規制枠組条約)の歴史
  2.タバコ規制条約(FCTC)の目的(タバコ規制条約の前文による)
  3.ガイドラインとは何か
  4.タバコ規制条約(FCTC)の条文
  5.NCDとは何か
  6.MPOWER


2 受動喫煙の防止 250
A. わが国における受動喫煙関連の実態(疫学)[川俣幹雄] 250


B. 受動喫煙防止法・条例制定を推進する[井門 明] 253
  1.改正健康増進法ならびに東京都受動喫煙防止条例
  2.条例制定を全国に及ぼす


3 禁煙教育 257
A. 幼稚園・小学校・中学校での教育[平間敬文] 257
  1.教育する側が生徒に伝えなければならないこと
    a. 依存性薬物としてのタバコへの理解を深める
    b. 喫煙のもたらす健康被害に対して国は
  2.健康被害についての禁煙教育の実際
    a. 新型(加熱式)タバコについて
  3.学校での喫煙率の低下とそれに伴う変化について
  4.禁煙教育のこれからの課題 


B. 高校・大学での喫煙防止教育[松村弘康] 261
  1.禁煙・喫煙防止教育の理論と必要性
  2.禁煙・喫煙防止教育の方法と実際 
    a. 喫煙だけでなく受動喫煙の害を伝える
    b. 「なぜ吸い始めるのか」を考えさせる
    c. タバコ会社に騙されていることを伝える
    d. 「なぜやめられないのか」を考えさせる
    e. 「なぜ売っているのか」を考えさせる
      i) 有害性の過小評価
      ii) 経済効果の過大評価(誤解)
      iii) 政治的背景の悪影響(海外との比較) 
    f. 参加型・体験型授業やイベントの実践


C. 成人へ向けた教育[松村弘康] 264
  1.禁煙・喫煙防止教育の必要性
  2.タバコ規制条約(FCTC)の周知
  3.成人への禁煙教育の方法と実際
    a. 喫煙・受動喫煙の害と依存性
    b. 禁煙やタバコのない生活の利点
    c. タバコ会社に関するさまざまな情報
    d. さまざまな対象者に,適切な教育を提供
    e. 禁煙推進団体や学会への参加を推奨
    f. 健康,経済,環境への悪影響を伝える


4 タバコのパッケージ 267
A. FCTC 第十一条と世界の潮流[宮崎恭一] 267
  1.効果的な包装・ラベル規制の策定 
  2.世界の潮流 


B. 日本の現状[宮崎恭一] 270


5 その他の重要な事項 273
A. タバコの陳列販売を禁止する[宮崎恭一] 273
  1.自販機も店頭陳列も宣伝媒体となる
  2.タバコの陳列禁止の法規制が必要であるのは国民の願い 


B. タバコを値上げする[高野義久] 276
  1.FCTC 第6条「タバコの需要を減少させるための価格及び課税に関する措置」
  2.MPOWER 政策パッケージ
  3.タバコ小売価格の国際比較
  4.価格弾力性
  5.タバコの価格弾力性と値上げの効果
  6.若年者・低所得者層の喫煙と健康の社会的決定要因
  7.健康のためのタバコ課税へ 


C. タバコと労働生産性[高野義久] 280
  1.喫煙による労働時間の損失
  2.病欠・疾病就業による労働生産性の低下
    a. 喫煙とアレルギーを含む気道疾患
    b. 喫煙と腰痛
    c. 喫煙とメンタルヘルス
      i) うつ病
      ii) 睡眠障害
      iii) 自殺
      iv) 禁煙によるストレスの改善
  3.喫煙と労働災害
  4.労働者の死亡のリスク


6 各国が守らねばならないこと[片山 律] 285
A. FCTC 第5条 3項と世界の潮流 285
  1.条約の規定
    a. タバコ規制条約(FCFT)5条3項
    b. ガイドライン
  2.タバコ規制政策とタバコ産業の根本的な利益相反および政策干渉
  3.世界の潮流 他国の例 
    a. タイのタバコ規制,FCFT第5条3項の履行
    b. 韓国のタバコ会社の民営化とタバコ規制
    c. 日本の場合


B. たばこ事業法との矛盾[片山 律] 287
  1.財務省(政府)の利益相反
  2.大蔵省(財務省)官僚の天下り
  3.JT から官公庁への天上がり
  4.族議員
  5.JT による政策妨害・干渉行為
  6.政府によるタバコ産業の助長
  7.タバコ産業関係者の講演会・シンポジウムへの送り込み
  8.タバコ産業の「社会的責任」活動 


C. 医学研究者の利益相反問題[野上浩志] 290
  1.日本禁煙学会における利益相反規定
  2.利益相反が必須・重要な理由
  3.医学論文掲載誌の多くも利益相反からタバコ業界助成の研究論文は掲載しない方向
  4.日本禁煙学会以外にも国内での事例が増加
  5.タバコ製品の有害性に関する世界医師会声明・勧告(2007.10)
  6.世界医師会声明・勧告を受ける形で日本禁煙学会は声明を公表(2007.12.10)
  7.喫煙科学研究財団の解散を勧告(2008年8月,以下概要) 
  8.喫煙科学研究財団関係者を厚生労働省文部科学省の委員及び科学研究費の審査員に選任しないよう要請(2010年10月,以下概要)
  9.利益相反の最近の動向 



  IV 日本禁煙学会認定制度 


1 日本禁煙学会の認定制度について[作田 学] 298
 1.認定制度の意義
 2.禁煙サポーター(禁煙指導ができる日本禁煙学会会員)の認定
 3.認定指導者・専門指導者の認定
 4.申請書類の送付先
 5.認定更新制度
 6.教育施設などの認定
 7.研修カリキュラム


2 試験問題例 303


  付録 
情報サイト [308-310]
禁煙治療保険診療用パス [311-312]
禁煙治療の実際(Column) 313
 ①初診時「別に」から始まった高校生の禁煙治療[高野義久] 310
 ②アイコスをなかなか処分できなかった女性の禁煙治療[高野義久] 314
 ③5年間にわたり、死を迎えるまで禁煙を望んだ症例[田那村雅子] 315
 ④遠隔(オンライン)診療による禁煙治療[田那村雅子] 316
 ⑤「禁煙は野球の盗塁と同じですね」と語った一例[村田千里] 317
 ⑥外科の先生の声かけのタイミングが良く禁煙に成功した例[村田千里] 318
 ⑦透析中の禁煙治療[栗岡成人] 319
 ⑧忘れられないケース[栗岡成人] 320
 ⑨再喫煙を繰り返し来院した真面目な男性の場合[森田純二] 321
 ⑩CACO (asthma and COPD overlap) の喫煙者が禁煙してからの行動にびっくり![森田純二] 322 


索引 [322-326]