contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『子どものうそ、大人の皮肉――ことばのオモテとウラがわかるには』(松井智子 岩波書店 2013)

著者:松井 智子[まつい・ともこ] 認知科学、語用論。
シリーズ:そうだったんだ! 日本語
件名:会話
件名:語用論
NDC:809 言語生活
NDC:810.1 理論.日本語学
NDC:817.8 会話


子どものうそ,大人の皮肉 - 岩波書店


【目次】
はじめに――コミュニケーションに関心のあるすべての方へ [v-ix]
目次 [xi-xv]


第一章 3歳児は大人の鏡 001
1 天才かと思えば…… 002
  3歳児のすごさ
  やっぱり3歳児
  大人の鏡

2 自信たっぷりの他人を信頼する 006
  自信のない話し方
  「それ、熱いかも」
  どういう人に知識があるか判断する
  話し手がどのくらい自信をもっているか
  わかってなさそうな人からは教わらない
  他人よりも身内を信じる?
  イントネーションにも注目
  話し手がどんな証拠をもっているか
  情報源の表し方は言語によってさまざま
  ことばより行動、動詞よりも文末助詞
  情報の信頼性を見きわめることと学ぶこと

3 あいまいさには無頓着 021
  あいまいなことを言ってしまう
  電話の会話は一方通行
  他人のことばのあいまいさに気づく


第二章 うそや皮肉は難しい 031
1 子どもにとってのうそ 032
  3歳児はうそをつくことが苦手?
  マシュマロを食べないで待てる?
  うそをつかれても相手の間違いと思う
  優しいうそ

2 子どもにとっての皮肉 040
  ほめて育てる?
  気持ちはわかる
  うそか皮肉か
  皮肉? それとも優しいうそ? 

3 他人を理解する心はどう育つ?051
  「ほんもののママがいい」――みかけと中身の区別
  心の理論
  メタ表象能力
  二次的メタ表象
  優しいうそと二次の誤信念

4 ことばで心を伝えること、ことばから心を理解すること 061
  文の理解と心の理解
  語彙の意味理解と心の理解


第三章 語用障害が教えてくれること 067
1 なにげない表現につまずく 070
  慣用句や比喩
  遠まわしの言い方
  おおざっぱな表現
  省略や代名詞、簡潔なものの言い方

2 言った人の気持ちを読みとるのが難しい 080
  うそ・皮肉・冗談
  気持ちや態度を表す表現
  会話のことば、文末助詞は手がかりになる
  声の調子

3 「わかったつもり」を見直そう 095
  言い間違いとしては理解できない
  誤解はつきもの


第四章 ことばのオモテとウラがわかるということ 101
1 ひとつではない、ことばのオモテ 105
  文脈によって解釈が選ばれる
  近くて遠い?
  ことばにならないものを表現する

2 文脈は与えられるものとは限らない 113
  話し手が意図した文脈と意図した解釈
  冗談
  婉曲な言い方
  皮肉と揶揄

3 2種類のウラのメッセージ 123
  意図された文脈
  暗に伝えたかったこと
  ウラ結論を見つけやすくする手がかり

4 ことばのオモテとウラを理解するために必要な能力 131
  「何かを伝えようとしている」ことに気づく
  「なぜ何かを伝えようとしているか」を推測する
  皮肉を解釈するプロセス
  聞き手に必要な3つの仮説


第五章 意図が伝わるしくみ 139
1 相手の言いたいことはわかるもの―認知効果の期待 140
  想定内? 想定外?
  「春には必ず芽が出る」
  「わかった」と納得できる解釈
  新情報と既知情報の相互作用
  認知効果

2 自分に関係のある情報を優先処理資源は無限ではない 153
  聖徳太子のようにはできないので……
  カクテルパーティー効果
  ヒキガエルも同じ

3 コミュニケーションの鍵は関連性 160
  耳を傾けるのは投資、報酬は認知効果
  報酬が増えるなら投資額も増やす
  解釈の始まりは話し手の伝達意図に気づくこと
  世間話はなぜするの?


第六章 過大評価しがちな話し手 175
1 聞き手に責任はない 176
  子どもや外国人の聞き手には配慮できても……
  聞き手は節約志向
  親しい相手だと聞き手は自己中心的に解釈しがち
  子どものほうが自己中心的
  子どもが聞き手として成長する3段階

2 話し手の責任は問える 191
  自分の視点で聞き手を見てしまう
  親しい間であればこそ
  話し手はみんな素人
  実際の聞き手と頭に描いた聞き手のモデルは違う
  デフォルトの聞き手モデルは自分

3 コミュニケーションの消費者心理学 204
  聞き手に処理資源を使ってもらうには
  信頼できる相手なら
  わかりやすさは信頼性につながる
  興味と共感は聞き手のかまえを作る
  よく聞くこと、よく話すこと――本書のまとめとして


参考文献 [217-223]
引用文献 [224]
おわりに――コミュニケーションは失敗して当たり前(二〇一三年五月 松井智子) [225-229]




【メモランダム】
・ほとんどの公共図書館では、本書の書誌情報に件名として「語用論」「会話」の2つくらいしか入れていないが、内容から見ても「発達心理学」も件名に置くべきだと思う。



【関連記事】

  [言語獲得など]
『言葉をおぼえるしくみ――母語から外国語まで』(今井むつみ, 針生悦子 ちくま学芸文庫 2014//2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190309/1552057200


『ことばをつくる――言語習得の認知言語学的アプローチ』(Michael Tomasello[著] 辻幸夫ほか[訳] 慶應義塾大学出版会 2008//2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20110413/1302620400


『ことばと発達』(岡本夏木 岩波新書 1985)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120617/1339858800


  [発達障害自閉症など]
発達障害かもしれない――見た目は普通の、ちょっと変わった子』(磯部潮 光文社新書 2005)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130725/1374679800


『動物感覚――アニマル・マインドを読み解く』(Temple Grantin, Catherine Johnson[著] 中尾ゆかり[訳] NHK出版 2006//2005)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160426/1461863804


『脳からみた自閉症』(大隅典子 ブルーバックス 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20180309/1520440136


自閉症遺伝子――見つからない遺伝子をめぐって』(Bertrand Jordan[著] 林昌宏[訳] 中央公論新社 2013//2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190917/1568646000




【抜き書き】


■「はじめに」(pp. iv-ix)からの抜粋。
コミュ力、会話力。

 「コミュ力」といわれると特別なもののように聞こえますが、会話を含めたすべての言語コミュニケーションの基盤になっているのは誰もがもっていることばと心を理解する能力です。〔……〕個人差はあっても、基本的な会話力は、日常会話をしているすべての人に備わっています。
 本書はこの基本的な会話力とはどういうものなのかについて、実際の会話例や心理実験の結果を通してわかりやすく説明しようとするものです。〔……〕日常会話という、自分が無意識にやっていることを客観的に把握することは至難の業といえます。そこで本書を役立てていただきたいと思います。
 本書では、幼少期にまず発達する「話を聞いて理解する力」に焦点があてられています。最終章まで読んでいただければ、「話を聞いて理解する力」が伸びると、会話力の別の側面である「相手にわかるように話す力」もおのずと向上するということがおわかりいただけるかと思います。

・構成

 本書の構成を紹介します。
 前半では、この能力が幼少期からどのように発達するのかということと、発達障害によってそれらの能力の成長が妨げられた場合にどのような困難が生じるのかを考えることを通して、会話力とは何かを探ります。
 第一章では、大人相手にようやく会話ができるようになる3歳児の会話力を見ていきます。3歳児の話すことは大人の目から見るととてもおもしろいのですが、3歳児どうしだとほとんど会話になりません。まだ自分の視点でしか会話のことばを理解できないからです。〔……〕そこで大人の境として3歳児の会話の特徴をとらえ、大人も陥る失敗のメカニズムを考えていきます。
 会話を通して相手の意図や考えていることを的確に理解できるようになるのは4歳以降です。第二章では、単純なうそを理解しはじめる4歳から、皮肉がわかるようになる9歳くらいまでの間の発達について見ていきます。〔……〕ただ、うそや皮肉を理解することは大人にとっても決して容易ではありません。それはなぜかについても考えてみます。
 会話における意図の理解が困難である場合、その原因が発達障害である可能性もあります。第三章では、高い言語能力がありながら、語用障害ともよばれる発達障害をもつ人たちの手記を通して、会話の本質をとらえたいと思います。
 後半は、会話が成功するためには何が重要なのかについて、いくつかの要素に分けて考えていきます。第四章では、会話で使われることばがどのように理解されるかを豊富な例を提示しながら説明します。ことばにはオモテとウラがあることと、文脈がことばの理解に深くかかわっていることがおわかりいただけると思います。
 第五章では、聞き手が話し手の意図を理解するプロセスを取り上げます。第四章で見るように、文脈は会話のことばの理解に不可欠ですが、聞き手が文脈を選び損ねて誤解につながる可能性は常にあります。それなのにほとんどの会話で、聞き手が話し手の意図した文脈だけを選ぶことができるのはなぜなのか、考えてみます。また聞き手は無意識に、自分の処理資源を無駄使いしないような解釈を選ぶ傾向がありますが、そのことはあまり知られていません。そのしくみも詳しく見ていきます。
 第六章では、第五章で見る聞き手の特徴をふまえ、話し手の側がどんな工夫をすれば会話が成功するかについて考えます。相手の心をつかむことに加えて、自分の癖を正しく知っておくことが肝要です。 

 筆者は語用論という言語コミュニケーションのメカニズムを研究する仕事をしてきました。
 理論的な研究からスタートしましたが、近年はコミュニケーション能力がどのように発達するかということと、コミュニケーションを困難にする発達障害がある場合にどのような支援や周囲の理解が必要かということに関心をもち、発達心理学の手法を用いて研究をしてきました。その結果を少しですが本書でもご紹介したいと思います。
 残念ながら、コミュニケーションの研究をしていても、いつも上手に会話ができるというわけではありません。でも失敗したときに、なぜかを考える材料がたくさんあるので、それを次回に生かすことができます。とくに、執筆を始めたころに3歳になった息子との会話は、「なぜ」を考えるきっかけになりました。それで、本書には息子との会話が随所に出てきます。たいていは私が反省させられた失敗談です。他のお母さん(お父さん)たちも同じような経験をされているかなと思いながら、書きました。 
 「コミュ力」ということばが一人歩きしている一方で、それが何なのかをあらためて考えてみる時間も心の余裕もないという人は多いのではないかと思います。本書を手に取って、「少しゆっくりコミュニケーションについて考えてみようか」と思ってくださったとしたら、私にとっては何より嬉しいことです。




■第6章の末尾から。

pp. 213-214

 相手との関係性から得られる満足感は、相手が自分の話を聞いてくれたという体験からも得ることができる。先に外来患者の満足度は医師の説明のわかりやすさで決まると書いたが、それと合わせて、患者の話を医師が聞いてくれたかどうかということも総合満足度を決定する要因となっているそうだ。自分が受けた好意や報酬を相手に返そうとするのは人間のもつ社会的な習性のひとつと考えられている。自分が話を聞いてもらって満足すると、相手の話も聞こうとするというのは、この習性が働いているからなのかもしれない。


よく聞くこと、よく話すこと――本書のまとめとして
 コミュニケーションにおいて、聞き手の側が話し手の意図を推測し、文脈(ウラ前提)を選択し、ことばのオモテとウラを理解し、話し手が伝えたかったこと(ウラ結論)を導き出すという作業が不可欠であることは、第五章までで説明してきたとおりである。情報を得ることを報酬ととらえる聞き手は、自分の処理資源を投資してこのように複雑な情報処理をするのである。ただし、聞き手は節約志向である。発話解釈にかかる処理資源の無駄遣いを極力避けようとする。私たち人間は、注意を向けて処理を始めた情報が、最小限の資源の代償として報酬(認知効果)をもたらすことを期待する。これが情報の関連性への期待である。この期待は、情報を取捨選択して処理することが必要な人間が進化的な適応として身につけた生物的な方略であると考えることができる。
 ただし、大人のように文脈を選択し、ことばのウラ、あるいはウラのウラを読む能力は時間をかけて発達する。第一章と第二章では子どもが聞き手として成長する様子を見てきた。3歳から9歳くらいまでの間に、子どもの会話力が大きな変化を遂げることをわかっていただけたかと思う。聞き手としての3歳児は、まだ相手の意図がつかめず、文脈の選択もうまくできないことが多いため、自己中心的な理解にとどまる場合が多い。話し手としても、相手にはわからないかもしれないとは決して思わず、あいまいな表現を使い続けることもある。4歳くらいまでの子どもどうしの会話がひとりごとの繰り返しのように聞こえるのはそのためだ。相手の考えていることが少しずつわかるようになるのは5歳ごろで、相手が感じていることや考えていることと、ことばそのものが伝えることが別のものであることがわかるようになるのは8歳くらいからだ。この間にだんだん会話らしい会話ができるようになる。この発達段階は文化普遍的なものだろうと推測している。



pp. 214-215

 相手が感じていることや考えていることと、ことばそのものが伝えることが別のものととらえることが困難であるために、コミュニケーションに苦労するという点は第三章で見た語用障害にも通じる。3歳児が互いにひとりごとのような会話をしていても、そのことについて深く悩むことはほぼありえないのに対して、語用障害をもつ大人や学童期以上の子どもは、会話を通してわかり合えないことが苦痛になることも少なくない。手記を読むと、語用障害をもった人たちは、もたない人たちよりもコミュニケーションのことを深く理解している面があることがわかる。これからはむしろ障害をもたない人たちが、コミュニケーションについての理解を深め、語用障害をもうひとつのコミュニケーションスタイルとして受け止めることができるようにすることが大切ではないだろうか。
 3歳児も話し手について鋭い観察力をもっていて、知識のなさそうな人が言っていることは学習しない(信じない)という選択をしていることも重要だ。聞き手としてもてる力を発揮しているのだ。〔……〕重要なことは、対人コミュニケーションにおいて、ことばは声や表情や体の動きとともに伝えられるということだ。それらすべてを「聞く」という経験の積み重ねが、のちに聞き手としての姿勢を作る基盤となると考えている。3歳児が自信のありそうな人となさそうな人を見分けるのに使えた手がかりは、母親が会話でよく使っている「よ」「かな」といった文末助詞だったり、上昇調や下降調のイントネーションだった。会話の聞く力が育っている証拠と言えるだろう。そして3歳児の聞く力のもとになっているのが、乳幼児期の母子のやりとりである点も重要だ。
 子どもが乳幼児期に当たり前のコミュニケーションを周囲の大人や友達と日常的にしていれば、相手の話を聞く力は発達段階を経て自然に伸びるはずである。その意味で、本来私たちの聞き手としてのコミュニケーション力にはおそらく個人差はそれほどないと思われる。もしあるとすれば、乳幼児期から学童期に聞き手としての姿勢を育む機会が何らかの理由で奪われてしまった可能性はないか、探るべきである。



p. 224。 引用文献一覧。なお、URL直貼りは本書のまま。引用者が文字列に埋め込んだURLは、出版社か立命館生存学研究所の当該書籍のページ。 

  引用文献

リアン・ホリデー・ウィリー(二〇〇二)『アスペルガー的人生』東京書籍
ドナ・ウィリアムズ(二〇〇〇)『自閉症だったわたしへ』(新潮文庫)新潮社
グニラ・ガーランド(二〇〇〇)『ずっと「普通」になりたかった。』花風社
テンプル・グランディン(一九九七)『自閉症の才能開発――自閉症と天才をつなぐ環学習研究社
小道モコ(二〇〇九)『あたし研究――自閉症スペクトラム〜小道モコの場合』クリエイツかもがわ
佐々木正美(二〇一〇)「母子の手帖 第3回 自閉症スペクトラムの子どもに寄せて」『暮しの手帖』第4世紀9号617月号(「佐々木正美コラム :響き合う心」 http://blog.livedoor.jp/budouno_ki/archives/51358232.html に転載されている)
高橋紗都・高橋尚美(二〇〇八)『うわわ手帳と私のアスペルガー症候群―― 0歳の少女が綴る感性豊かな世界』クリエイツかもがわ
俵万智(一九八九)『サラダ記念日』(河出文庫河出書房新社
スティーブン・ピンカー(一九九五)『言語を生みだす本能(上・下)』(NHKブックス日本放送出版協会
村上由美(二〇一二)『アスペルガーの館講談社
ウェンディ・ローソン(二〇〇一)『私の障害、私の個性。』花風社
YANBARU『意味不明な人々――発達障害ADHDアスペルガー)と人格障害に取り組む』http://blog.m3.com/adhd_asperger_etc/20080204/1

『国語教育 混迷する改革』(紅野謙介 ちくま新書 2020)

著者:紅野 謙介[こうの・けんすけ](1956-) 日本近代文学。評論。


筑摩書房 国語教育 混迷する改革 / 紅野 謙介 著


【目次】
はじめに [003-020]
  背中から未来に入る
  手段としての入試改革
  見えない具体案
  論理か文学か?
  言葉をきちんと読むために
目次 [021-024]


第1章 記述式試験の長所はどこに――プレテスト第1問の分析 025
  混乱する大学入学共通テスト 
  第二回プレテストの「国語」
  題材選択の本気度
  「指」が結ぶ三項関係
  記述式のリスク
  論点整理の矛盾
  複雑な条件はなぜ必要か
  記述式試験の長所が消えた
  正答の幅が狭すぎる
  テストは所詮テストである


第2章 複数の資料が泣いている――プレテスト第2問の分析 063
  法と契約の言説
  不都合な情報はオミットせよ
  「著作権」について考える
  名和小太郎著作権2.0』
  選択肢は正しいか
  正答への疑問
  著作権1.0から2.0へ
  設問相互の矛盾
  表を読む
  表現と内容
  これは「文学」である
  リスペクトの不在


第3章 教室の「敵」はどこにいる?――「学習指導要領」の逆襲 103
  試験から教室へ
  解説本、大セール
  解説の解説本
  国語の先生、君たちはもう終わっている!
  ゼロベースからの見直し
  推測に推測を重ねて
  学習指導要領とは?
  読解中心をやめる
  文学部を批判する
  打倒、訓詰注釈/曖昧な言葉たち
  「資質・能力」ベースの幻想
  どんな「能力」を伸ばすのか


第4章 「現代の国語」と「言語文化」――高校一年生は何を学ぶのか 147
  Evaluation と Assessment
  カリキュラム・マネジメントとは
  拘束力を強めよ
  言葉のマジック
  科目の性格
  「現代の国語」
  一五歳が見えているか
  比べて読む
  「現代の国語」の危うさ
  「言語文化」
  一学期の指導計画
  読まずに味わえるか
  小説が読めていない
  際立つ貧しさ
  悲しき「言語文化」


第5章 選択科目のゆくえ――間延びしたグランドデザイン 193
  言葉をどのように引き出すか
  「論理国語」
  絵に描いた餅は食べられるか
  「文学国語」
  「虎の穴」第二弾
  「文学」概念の狭さ
  「国語表現」
  自分を語るむずかしさ
  「古典探究」
  分かること、分からないこと
  「清光館哀史」の意義


第6章 国語教育の原点に立ちかえる――ことばの教育へ 231
  「学校化」の徹底
  「政治」の浸透
  「学習指導要領」のダブルスタンダード
  オープンダイアローグ
  「読むこと」と「書くこと」のサイクル
  テクストの複数性
  言葉に向き合う
  署名のある文章、署名のない文章
  小説の言葉
  会話を読む
  世界認識の形式 
  教育課程をどのように組み立てるか


あとがき(二〇一九年一二月九日 紅野謙介) [274-280]





【抜き書き】
・冒頭の「はじめに」がウェブ上で公開されている。
問題は「記述式試験」だけではなかった!|ちくま新書|紅野 謙介|webちくま




・構成

 まず第1章では、2018年11月に実施された第二回プレテストのうち、記述式問題である第1問について検討します〔……〕。このテスト分析を通して、教育改革の内実を探る手がかりにしたいと思います。
 第2章は、同じ第二回プレテストの第2問を分析してみます〔……〕。そして実用的といわれる文章を中心とした問題を第2問に持って来たのです〔……〕。その第2問でも大きな問題点があることが分かりました。
 第3章は、新しい「学習指導要領」解説のための解説本を読んでいくことにしました。どのような教育課程に基づき、どのような教育内容を計画しているのか。ここではその前提として、解説本の著者たちの現在の教育についての考え、また「学習指導要領」そのものの捉え方を、それらの本から抽出して批判的に検討してみました。
 第4章は、「現代の国語」と「言語文化」という必修の二科目について、いまどのような指導計画が組み立てられているのかを追及しました。教科書もまだ出来ていない現状においては、こうした解説本が手がかりになります〔……〕。
 第5章は、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」という四つの選択科目について検討を加えました〔……〕。
 第6章は、今回の改革の背景にある思想的な問題を押さえた上で、「学習指導要領」改訂の弱点を取り上げます。これまでの定番的な教材や小説にどのような可能性があるかを探り、複数の資料を読み、それらの情報を統合し、構造化するという目論見がまったく逆の、国語教育の迷走を招き寄せるであろうと指摘しました。

 



・前回の著作と今回の著作のねらい。ひきつづき「はじめに」から適宜抜粋した。

 その新共通テストで、「英語」「数学」とともに変更の目玉となっているのが「国語」です。一昨年、私が刊行した『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』ちくま新書)では、それまでに発表されていたサンプル問題や第一回試行調査(プレテスト)をつぶさに検討し、新たに導入された記述式試験の題材や設問の問題点、採点方式への疑念をあげ、公平性や正確さにおいてリスクが高いことを指摘しました。

高等学校の教育課程について「学習指導要領」が新たに改訂され、二〇一八年三月に告示されました。二〇二二年度からはこの指導要領に基づいた教育が実施されることになります。
 この指導要領も、「主体的・対話的で深い学び」とか、「思考力・判断力・表現力」を育てるなど、抽象的ではありますが、すっと読むだけならなるほどなと思うテーマを掲げています。〔……〕しかし、そうした目標を実現するには、どのようなカリキュラムが必要で、どのような具体的プログラムが必要かは曖昧なままでした。
 〔……〕少なくとも「話すこと・聞くこと」「書くこと」にも力を注ぐという提案に、一般論でいえばだれも反対ではありません。
 でも、それはどのようにやるのか。どこまで遵守しなければならないのか。さっぱり分かりません。見えたのは、「大学入学共通テスト」のサンプルやモデルとなる試験問題です。そこからさかのぼって、どのような国語教育が構想されているのか。前著の探究はそこから始まりました。

 「大学入学共通テスト」の第二回プレテストも、二〇一八年一一月に実施されたので、もう一つのサンプルも出てきたのです。ならば、前著では検討できなかった新たな材料をもとに、さらなる検討を行ってみようというのが本書のテーマです。



【メモランダム】


・新学習指導要領
学習指導要領「生きる力」:文部科学省


・予備校講師による同意の記事(書籍への評価ではなく、国語科のテストそのものについて)。
https://note.com/gendaibun/n/nadf09fdcabb2

『小学校英語のジレンマ』(寺沢拓敬 岩波新書 2020)

著者:寺沢 拓敬[てらさわ・たくのり] (1982-) 言語社会学、応用言語学、英語教育史。
NDC:375.8932 英語教育
件名:英語教育-小学校


小学校英語のジレンマ - 岩波書店


【目次】
はじめに [i-v]
目次 [vii-x]


序章 001
  タテとヨコの制約条件
  本書の特徴
  政策の批判的読解と政策過程の分析
  時代区分の説明
  学習指導要領とは
  政策過程の階層構造
  小学校英語の政策の変遷
  本書の構成


  第I部 小学校英語、これまでの道のり 013

第1章 【第I期】小学校英語前史 014
1 戦前から戦後へ 014
  戦前の小学校英語
  「英語の必要性などわずか。小学校で英語は不要」
  戦前の私立小学校
  課外活動としての英会話クラブ
  自治体発の国際理解活動
2 英語教育の早期化と臨時教育審議会 024
3 学習と年齢効果の研究 026
  年齢と言語習得をめぐる科学的研究
  年齢効果研究と小学校英語論の関係は?
  学会の組織化
  児童英語における科学的言説


第2章 【第II期】「実験」の時代 034
1 「国際化時代」と英語教育の議論 034
  画一化の象徴とされた「公立小学校では英語を指導しない」
  研究開発学校の設置
  小学校英語に関する審議の始まり
2 研究開発学校では何が学ばれていたのか 038
  最初期の研究開発学校
  その後の拡大方向
3 小学校英語推進派の理想主義 041
  学会アピール「小学校から英語を始めよ」


第3章 【第III期】模索の時代――多様性とカオスの小学校英語 045
1 小学校に英語がやってきた 045
  「総合学習での英語活動」という答申
  早期英語への期待感、教科化への警戒感
2 総合学習での英語活動 050
  伝統的語学とは異質の「外国語会話等」
  国際理解教育のため
  音声・国際理解・体験の重視
  学級担任が指導の中心
  食い違う指導者像
  国際理解活動らしさとは
3 教育特区での小学校英語 060
  英語特区
  英語特区の取り組み
  英語特区のプロフィール
  先進的プログラムの成果は? 
  多様性とカオスの小学校英語
4 小学校英語論争の勃発 067
  一枚岩ではない賛成派・反対派
  地道な研究の蓄積


第4章 【第IV期】「外国語活動」の誕生 073
1 グローバル化時代の人材育成」と英語教育 074
  経団連提言「グローバル化時代の人材育成について」
  英語指導方法等改善の推進に関する懇談会
  「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」
2 「必修だが教科でない」 079
  中教審での審議経過
  審議前半――必修化に異議なし
  審議後半――文科省のイニシアチブ
3 特殊日本的な「外国語活動」 085
  外国語活動とは何か?
  なせ必修化を決めたのか?
  なぜ英語力育成を目標にしなかったのか?
  心理カウンセリングのような「コミュニケーションへの態度」育成論
  なぜ担任が教えるのか?
  特殊日本的な外国語活動
  妥協の産物
4 英語力は向上するのか、国語力がダメになるのか 096
  小学校英語をめぐる賛否
  放談型の論争
  英語ができる日本人は増える? 増えない?
  経験者・非経験者の比較の信頼性
  実証研究か過剰な早期英語熱を冷ました
  国語力がダメになるのか?
  論争を不毛にした「データの不足」


第5章 【第V期】教科化・早期化に向けて 109
1 トップダウン型の教育改革へ 109
  文科省主導から官邸主導への転換
  二〇一二年までの政策動向
  民主党政権下の動き
  中教審の沈黙と急展開
2 第二次安倍政権以後の改革――変質する政策審議 114
  閣議決定の謎
  教育再生実行会議・産業競争力会議自民党
  財界人の存在感
  「英語教育の在り方に関する有識者会議」
3 教科化既定路線の中の賛否 127
  深まらない議論
4 世論の期待と不安 130
  圧倒的な世論の支持
  保護者の支持
  小学校への期待を高めるものは何か?
  世論は政策を動かしたのか?
  習っている子どもは常に一割台
  学ばせる理由は社会階層で異なる


  第II部 小学校英語の展望 

第6章 現在までの改革の批判的検討 142
1 小学校英語三〇年の歴史を振り返る 142
  国際理解教育としてのスタート
  多様化? 画一化?
  官邸主導による教科化
  守旧派と改革派
  日本の小学校英語の特徴
  歴史的に水路づけられた特殊性
  小学校英語の経路依存性
  政策の総合調整は不可欠
  官邸主導の政治的背景
  財界の影響力
2 根拠なき計画・実行 158
  学習指導要領解説を読みこむ
  教科化の根拠
  「成果」はあったのか?
  教育の成果を検証する難しさ
  英語に親しむようになったのか
  調査そのものがない
  「課題」は本当に課題なのか


第7章 どんな効果があったのか 170
1 教育政策を支えるデータとは 170
  政策と研究のミスマッチ
  「エビデンス」の基本概念
  内的妥当性と外的妥当性
2 小学校英語の効果、これまでの研究 174
  政策エビデンスの質を左右する五つの基準
  先行研究の格づけ
3 小学校で英語を学んだ子どもの英語力・態度は向上したのか? 180
  調査データ・分析方法
  小学校英語の経験・非経験(原因変数)
  結果
  微弱な効果
  早期化に対する反証
4 根拠に基づいた議論を 188


第8章 グローバル化小学校英語 190
1 グローバル化だから小学校英語」でよいのか 190
  グローバル化という呪文
  英語使用は増えているのか
  英語使用減少の理由
2 英語ニーズのこれから 195
  短期的な予測
  訪日外国人の動向
  貿易の動向
  中長期的な見通し
  現状認識と対応策のミスマッチ
  グローバル化への対応にとって小学校英語の優先順位は?


第9章 教員の負担とさまざまな制約 204
1 誰が教えるのか 204
  学級担任の負担
  研修の有効性は?
  自己研修・授業準備の時間がとれない多忙な状況
  多忙化
2 制度、予算の制約、世論のプレッシャー 211
  学級編制をめぐる制約
  厳しい財政事情
  教育予算増額を是認しない世論
  世論の楽観
3 外部人材活用という「第三の道 219
  外部人材への依存
  空洞化する「担任が教えることこそが良い」論
  「教員の負担が大きい」と「児童ファースト」の間〔はざま〕で


おわりに [227-235]
  小学校英語のジレンマ
  今後の選択肢
  すぐにでも改善すべき点
  最後に
初出 [236]
年表 [4-6]
参考文献 [1-3]




【図・表一覧】
図序-1 政策の階層性 008
図序-2 学習指導要領に基づく時代区分 010
表1-1 1990年時点での公立小学校における国際理解プログラムの状況 023
表2-1 研究開発テーマのキーワード上位10位(1992〜2000年度) 040
表3-1 総合学習の内容(2005年) 052
表3-2 英語活動実践事例 055
図4-1 各論点の審議経過(2004〜2008年) 080
図4-2 外国語活動の目標 091
表4-1 賛成論・反対論 097-098
表5-1 2012年までの政策動向 111
表5-2 第二期教育振興基本計画に関する中教審答申と閣議決定の相違 115-116
図5-1 『We Can!』と『We Can! 2』 126
表5-3 世論調査の結果 131
表5-4 小学校英語に賛成した保護者の割合 133
図5-2 必修化支持の規定要因 135
表5-5 保護者が小学校英語に望むこと 136
表5-6 習い事として英語を学ぶ小学生 138
図5-3 子どもに英語を習わせている理由 139
図6-1 各国の英語教育開始学年 149
表6-1 財界の影響力 156
図6-2 早期化・教科化の根拠、その論理構成 160
図7-1 医療におけるエビデンス階層 173
表7-1 先行研究の政策的エビデンスの質 179
図7-2 小学校英語経験の効果 185
図8-1 英語使用率の変化,2006〜2010 192
図8-2 産業別の英語使用率の変化,2006〜2010 194
図9-1 小学校英語および教育予算増額への態度 217
表9-1 英語指導の補助者 220
表終-1 あり得るべき選択肢 230




【関連記事】
・ブックガイド(Yhoo! ニュース 2020.02.20)
小学校英語教育論ブックガイド(寺沢拓敬) - エキスパート - Yahoo!ニュース


・著者のブログ
小学校英語論争を整理した論文が出ました - にこしき


『英語教育幻想』(久保田竜子 ちくま新書 2018)


『「日本人と英語」の社会学――なぜ英語教育論は誤解だらけなのか』(寺沢拓敬 研究社 2015)


『英語教育、迫り来る破綻』(大津由紀雄ほか ひつじ書房 2013)


『新版 グローバリゼーション』(Manfred B. Steger 櫻井純理,高嶋正晴,櫻井公人 訳 岩波書店 2010//2009)


『欲ばり過ぎるニッポンの教育』(苅谷剛彦, 増田ユリヤ 講談社現代新書 2006)




【関連文献】
私がチェックした本(これからチェックする本)のリスト。
ただ、(弊ブログが内容確認済みながら未だ記事にしていない書籍なので)いずれも、出版社サイトへのリンクをはっている。


『日本の公教育』(中澤渉 中公新書 2018)


『世界と日本の小学校の英語教育――早期外国語教育は必要か』(西山教行,大木充 編著 明石書店 2015)


『「なんで英語やるの?」の戦後史』(寺沢拓敬 研究社 2014)


『教育改革のゆくえ』(小川正人 ちくま新書 2010)


『ヒューマニティーズ 教育学』(広田照幸 岩波書店 2009)

『ことばと心理――言語の認知メカニズムを探る』(石川圭一 くろしお出版 2005)

著者:石川 圭一[いしかわ・けいいち]  音声学、心理言語学、応用言語学
NDC:801.04 言語心理学


ことばと心理 言語の認知メカニズムを探る|くろしお出版WEB


【目次】
目次 [ii-v]
はしがき [i]


第1章 音声 
1.1. 母音と子音の体系と獲得
1.2. 音節とモーラの認識と生成
  1.2.1. モーラの実在性
  1.2.2. 音節の認識と生成
1.3. アクセントの認識と生成
  1.3.1. アクセントとは
  1.3.2. 日本語話者による英語のストレスアクセントの認識
1.4. リズムの認識と生成
  1.4.1. ことばのリズムの類型
  1.4.2. 英語学習者によるリズムの生成と認知
  1.4.3. ことばのリズムと分割
1.5. 擬音語・擬態語
1.6. 親はどのように子どもの名前をつけるのか


第2章 語と文字 
2.1. 心内辞書の構造 
  2.1.1. 意味による結びつき
  2.1.2. 形による結びつき
  2.1.3. 子供の言い間違いからの示唆
  2.1.4. プライミング法による心内辞書構造の研究
2.2. 文字の認識 
  2.2.1. ストループ効果
  2.2.2. 語の読み
  2.2.3. 語の記憶
  2.2.4. 「空書」行動
  2.2.5. 文字中心の言語と音声中心の言語


第3章 文と文章の理解 
3.1. 文の記憶 
3.2. 文章の理解 
3.3. 物語の構造と理解 
3.4. 聞くこととノート・テイキング 
3.5. 比喩の理解 
  3.5.1. Metaphors We Live By
  3.5.2. 比喩の理解に関する実験


第4章 母語の獲得 
4.1. リズムと音声の獲得 
  4.1.1. 胎児の音声経験
  4.1.2. 5ヵ月児の言語の弁別
  4.1.3. 9ヵ月児のストレスパターンへの好み
  4.1.4. 8ヵ月児の語の取り出し
  4.1.5. 乳児の音声知覚に関する実験手法
4.2. からだの機能
4.3. 意味の把握
4.4. 会話の機能


第5章 外国語の習得・学習 
5.1. 第2言語の記憶と概念
5.2. 繰り返しの効果と語彙の学習
5.3. 音声英語の学習
  5.3.1. リスニングにおけるポーズの役割
  5.3.2. スピーキングにおけるプロソディーの特徴
5.4. 英語の読みと音韻
  5.4.1. 読解における構音抑制の影響
  5.4.2. 読みにおけるリズム
5.5. ことばの時間制御機構とリスニング
  5.5.1. 2つの音声処理機構がリスニングに果たす役割
  5.5.2. 聴解単位の特定化
5.6. 話すことと聞くことの関係
5.7. 外国語効果


第6章 言語と脳・思考・文化 
6.1. 脳と失語症
  6.1.1. 脳の半球左右差と機能
  6.1.2. 失語症言語聴覚士
6.2. 言語獲得の臨界期
  6.2.1. 母語獲得の場合
  6.2.2. 第2言語習得の場合
6.3. 言語と思考
  6.3.1. サピア・ウォーフの仮説
  6.3.2. 色の区別と言語
  6.3.3. 物体と物質の区分と言語形式
6.4. 言語と文化
  6.4.1. パラグラフ構造にみる文化思考パターン
  6.4.2. 説明における思考スタイルと文化差
  6.4.3. 自己観と認知的行為
  6.4.4. 文化と言語発達





【抜き書き】

   はしがき

 人は、ことばを、母語であれば特別な努力なしに、話したり聞いたりすることができる。音や文字の特徴を知り、多くの語を蓄え、文法をマスターし、他人の発する文の意味や意図を知ることができる。さらに外国語を習得することも可能である。このような言語能力は、いかに獲得され、使われているのであろうか。その心理的カニズムはどのようなものであろうか。
  本書は、ことばがどのように獲得、生成、理解、使用されるのか、その認知的・心理的カニズムを解明しようとする試みを紹介し、課題について考察する。ことばが実際どのように処理されるのかという問題について、「音声」「語と文字」「文と文章の理解」「母語の獲得」「外国語の習得・学習」「言語と脳・思考・文化」という角度から考える。
  執筆にあたっては、客観的データに基づいた実証的な研究を具体的に紹介することに努めた。ことばの処理に関する心理学的実験というものがどのようなものであるかを知ってもらうことも目的としている。言語の事象について心理学的に検討するには観察や実験が欠かせない。そこから得られた結果をどう考察するか、どのような課題が残っているか、どのように発展させられるかを、読者と一緒に考えたい。京都女子大学英文学科で担当した「心理言語学」、および、関西学院大学文学部で担当した「言語心理学」の講義内容が本書の基となっている。〔……〕

『バイリンガルの世界へようこそ――複数の言語を話すということ』(François Grosjean[著] 西山教行[監訳] 石丸久美子ほか[訳] 勁草書房 2018//2015)

原題:parler plusieurs langues: le monde des bilingues.
著者:François Grosjean 心理言語学
監訳者:西山 教行[にしやま・のりゆき](1961-) 言語教育学、フランス語教育学、言語政策.
訳者:石丸 久美子[いしまる・くみこ] 京都外国語大学国語学部准教授. 大阪大学博士(言語文化学).
訳者:大山 万容[おおやま・まよ] 京都大学国際高等教育院非常勤講師. 京都大学博士(人間・環境学).
訳者:杉山 香織[すぎやま・かおり] 西南学院大学文学部准教授. 東京外国語大学博士(学術).
装丁:吉田 憲二[よしだ・けんじ] 装丁、装画。
NDC:801.03 言語社会学.社会言語学
件名:バイリンガリズム


バイリンガルの世界へようこそ - 株式会社 勁草書房


【目次】
日本語版序文(二〇一八年五月六日 スイス、ヌーシャテルにて フランソワ・グロシャン) [i-ii]
序 [iii-vii]
目次 [viii-xi]
凡例 [xi]


第1章 バイリンガルの世界 001
バイリンガリズムをどのように定義するか 
フランス語圏の国々 
フランス 


第2章 バイリンガリズムの特徴 021
言語知識と言語使用 
なまり(アクセント) 
相補性の原理 
言語の変化 
言語モード 
言語の選択 
他の言語の介入 
他の言語が求めずとも入ってくるとき 


第3章 バイリンガルになる 075
バイリンガリズムになる要因 077
同時的バイリンガリズム 081
継続的バイリンガリズム 086
バイリンガルの子どもとその複数言語 091
家庭におけるバイリンガル 098
  両親の接し方
  変化の要因
バイリンガルの子どもと共に暮らす 107
学校でのバイリンガリズム 112
  バイリンガリズムを励まさない学校
  バイリンガリズムを励ます学校


第4章 バイリンガリズムのさまざまな側面 131
バイリンガリズムのイメージ 131
  これまでのイメージ
  現在のイメージ
  バイリンガル話者はバイリンガリズムをどのように考えているか
バイリンガリズムの種類を分類することの危険性 143
バイリンガリズムの効果 147
イカルチュラリズム 158
  バイカルチャーの人をどのように特徴づけるか
  バイカルチャーになる
  バイカルチャーであること
  人格が変わるのか
  どのようなアイデンティティ
例外的なバイリンガル 180
  ポリグロット、第二言語教師、通訳、翻訳者
  手話と口話バイリンガルである「ろう者」
  バイリンガル作家


結論 201


参考文献 [207-216]
監訳者あとがき [217-224]
索引 [ii-viii]
訳者紹介 [i]






【抜き書き】


・以下、「監訳者あとがき」(pp. 217-223)から。

 本書はフランソワ・グロジャン「バイリンガルの世界へようこそ――複数言語を話すこと」(原題:さまざまな言語を話すことバイリンガルの世界)François Grosjean (2015), Parler plusieurs langues - le monde des bilingues, Albin Michel の全訳です。

□著者。

 心理言語学者グロジャン
 グロジャンの専門は心理言語学で、知覚や言語受容・産出、手話を研究しており、本書の取り扱うバイリンガリズムの分野で国際的な第一人者です。これまでに一三冊の著作と、バイリンガリズム、言語の知覚と受容、言語産出、手話とろう者のバイリンガリズム失語症自然言語処理、応用言語学に関する二〇〇本以上の論文があります。
 グロジャンはこれまで英語による著述を行ってきましたが、本書はフランス語で書かれたバイリンガリズムに関する初めての啓蒙書です。一般向けの著作で平明な記述ではありますが、心理言語学や言語教育学の最新の知見を活用するもので、知的な妥協を行っているものではありません。


□日本での「バイリンガル」観

 日本においてもバイリンガリズムは人々の関心を集め、いわばあこがれの的となっています。英語を日本語のように話したい、ネイティブ並みの発音でぺらぺらと話せるのなら、なんとすてきなのだろう。〔……〕メディアは過剰なまでに英語と日本語のバイリンガリズムを賞賛しています。そのため日本人の多くはバイリンガリズム、それも日本語と英語のバイリンガリズムに対する過大な期待や夢を思い描いているのではないでしょうか。
 実際のところ、これまでバイリンガリズムはきわめて特殊な能力であると考えられてきました。
 バイリンガルとは二つ以上の言語を母語なみによく知り、自由自在に使える人と考えられてきました。同時通訳者のように二言語をマスターしていなければ、バイリンガルと名乗ることはできないかのように考えられてきたのです。そして、そのような卓越した言語能力を身につけるには幼少時から二言語による教育を受けなければならないと考えられてきたのではないでしょうか。


□本書における「バイリンガル」の範囲。

 ところが本書を一読された皆さんは、グロジャンの提出するバイリンガリズム観にずいぶんと驚き、また戸惑ったのではないでしょうか。グロジャンによれば、人類のおよそ半数はバイリンガルか、あるいは三言語以上を使用するプルリリンガル(複言語話者)であり、バイリンガルは決して珍しい現象ではないのです。
 グロジャンはバイリンガルをきわめて広い意味でとらえ、母語(第一言語)とほかの外国語(第二言語)といった組み合わせだけではなく、第一言語とその方言といった組み合わせもバイリンガルであると主張します。日本では、標準語(共通語)と方言の組み合わせをバイリンガルととらえることは少ないと思いますが、グロジャンのとなえるバイリンガル観こそむしろ現実の言語使用により即したものといえます。 

 グロジャンは、二言語以上を日常生活の中で定期的に使用する人をバイリンガルと定めます。このような観点から見ると、日本においても日常生活のなかで標準語以外にも何らかの言語をさまざまなレベルで使用している人がいることに気がつきます。〔……〕このような人々は二つ以上の言語について均等な能力を持つことなく、その技能は均等に発達しているわけではありませんが、グロジャンはそのような言語能力を持つ人々をバイリンガルと考えているのです。




【関連記事】
・読みやすい一般向けの新書。
『ことばの力学――応用言語学への招待』(白井恭弘 岩波新書 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20180321/1521231822
……特に「2章 国家と言語――言語政策」と「3章 バイリンガルは悪か」が、本書に関連する内容。