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『教育格差――階層・地域・学歴』(松岡亮二 ちくま新書 2019)

著者:松岡 亮二[まつおか・りょうじ] 教育社会学
NDC:371.3 教育社会学、教育と文化。
NDC:372.107 日本教育史・事情(昭和時代後期・平成時代 1945-)。


筑摩書房 教育格差 ─階層・地域・学歴 / 松岡 亮二 著


【目次】
目次 [003-010]


はじめに 011
  クイズの時間です
  前口上(prologue)
  本書の構成
  現状を把握するために
  長期的な「答え合わせ」とメカニズム解明
  今を生きる子供たちのために
  「現実」と向き合う


第1章 終わらない教育格差 029
1 親の学歴と子の学歴 031
  2015年調査データで教育格差を概観する
  いつの時代にも「子どもの貧困」がある
  「子どもの貧困」と教育格差 
2 出身地域による学歴格差 042
  「生まれ」としての出身地域
  若年層において地域格差は拡大しているのか
  居住地域「分断」――格差拡大の兆し
3 意識格差――「大衆教育社会」から「階層化社会」へ 052
  階層と「教育熱」
  「教育熱」の地域格差
  「教育意識」の地域格差はなぜ生まれるのか
  近隣の「教育意識」は重要な教育「環境」
4 階層と「不利な状況」の打破 064
  「機会」を活用できる者の「生まれ」は偏っている
  受験に不利な高校からの大卒
  非三大都市圏からの大卒
  「わたしの家の経済状態は“ふつう”だったけど大卒になった」?
  教育サービスを利用せずに大卒になったのは「誰」か
  両親非大卒から大卒となった層にも「生まれ」の偏りがある
5 時代を超えて確認される格差構造 079
  教育格差の時代の趨勢
  社会経済的地位(SES)の定義


第2章 幼児教育――目に見えにくい格差のはじまり 083
1 これまでにわかっていること 084
  教育研究先進国の知見
  日本の研究
2 異なる子育てロジック 087
  「意図的養育」と「放任的養育」
   21世紀出生児縦断調査
  子育てと子供の発達・行動・性格
  保育所・幼稚園の利用格差
  習い事の開始時期
  メディア(テレビ・ゲーム)時間の抑制
  就学前の準備格差


第3章 小学校――不十分な格差縮小機能 107
1 子育ての階層格差〈個人水準の格差〉 109
  日本の「意図的養育」
  拡大する経済資本格差
  相続される文化資本
  入学時点で確認できる学力格差
  目指す教育ゴールの違い
  多種多様な学習機会の格差
  学校制度の中で評価されるための追加的学習機会
  学習努力という経験格差の拡大
  メディア消費経験の蓄積量格差
  すべての親が等しく学校関与するわけではない
2 学校・地域の格差〈集合水準の格差〉 135
  社会経済的地位(SES)の地域・学校間格差
  公立校であっても学力の学校間格差は大きい
  「みんな」が目指す教育のゴールは同一ではない
  習い事の地域・学校間格差
  通塾するのが「ふつう」?
  どれぐらい勉強するのが「ふつう」なのか
  拡大するメディア消費時間の学校前格差
  親が顔を出す学校・あまり出さない学校
  異なる「ふつう」の中で育つ小学生


第4章 中学校――「選抜」前夜の教育格差 159
  小学校時代の経験蓄積格差
1 階層格差〈個人水準の格差〉 163
  学力格差の平行移動
  身体化される「意思」
  受験学年でも「みんな」が通塾しているわけではない
  受験前の「生まれ」による努力格差
  受験学年のメディア消費
  親と学校の「つながり」格差
  「学校で何を勉強しているの?」
2 学校・地域の格差〈集合水準の格差〉 176
  社会経済的地位(SES)の地域格差
  公私立校と公立校間の学力格差
  教育熱のサウナになる学校とならない学校
  学習塾大国における分断線
  学習努力の公立中学校間格差
  メディア消費量の基準の違い
  親の学校関与は学校間で異なる
  受験までの「ふつう」な中学生活? 


第5章 高校――間接的に「生まれ」で隔離する制度 199
  制度的に作られる学校間SES格差
1 「能力」による生徒の分離――学校間のSES格差 202
  「生まれ」と教育熱サウナ
  制度による過熱化と塾・予備校利用
  拡大する学習行動の格差
  時間の使い方の規範の違い
  授業の雰囲気・学習姿勢・帰属意識
  親の支援・教師の期待・退学
2 制度的に拡大化された教育「環境」の学校間格差 226
  学校の特徴は「生まれ」を基盤としている
  人生の分岐点 


第6章 凡庸な教育格差社会――国際比較で浮かび上がる日本の特徴 231
1 すべての社会に格差は存在する 233
  隣の花は赤い
  どの社会も大卒は高収入
2 義務教育の「答え合わせ」 236
  平均値の高い日本
  国際的に凡庸な教育格差
  「生まれ」による期待格差 
3 「効率」を追求する高校教育制度 246
  学校SESと学力の強い関連
  学習努力量の格差
  教員の学業に対する期待
  学力水準が高く格差の度合いが平均的な日本社会


第7章 わたしたちはどのような社会を生きたいのか 253
1 建設的な議論のための4ヵ条 256
  4ヵ条その① 価値・目標・機能の自覚化
  「大きな学校」と「小さな学校」
  すでに恵まれた生徒への税金による追加支援
  「正しさ」に酔わないために
  4カ条その② 「同じ扱い」だけでは格差を縮小できない現実
  4カ条その③ 教育制度の選抜機能
  4ヵ条その④ データを用いて現状と向き合う
  学校群制度
  「ゆとり」教育
  高校教育改革
  失われた可能性
  「重たい」教育論議
  現状のままでよいわけでもない
  「生まれ」と「選抜」基準
2 〈提案 1〉分析可能なデータを収集する 288
  「生まれ」による格差とその拡大の兆しを前にして
  教育制度内で分析可能なデータを蓄積していない
  現在の子供たちと次世代のためにできること
  「効果」検証の難しさ――相関と因果
  子供たちの可能性を少しでも引き出すために
  「誰」に効果があるのか
  研究知見に基づいた実践の拡散を
3 〈提案 2〉教職課程で「教育格差」を必修に! 303
  教師が再生産に寄与?
  「教育格差」を教えない教職課程
4 総括――未踏の領域 311
  岐路に立つわたしたち
  人類史上存在しなかった社会を夢見よう
  埋もれたままの「才能」


おわりに 321
  未完のままの締め口上(epilogue)
  『教育格差』の後
  本書の成分
  謝辞


註記 [334-360]
引用文献 [i-xxi]




【抜き書き】

・「はじめに」から。

  人には無限の可能性がある。
  私はそう信じているし、一人ひとりが限りある時間の中で、どんな「生まれ」であってもあらゆる選択肢を現実的に検討できる機会があればよいと思う。なぜ、そのように考えるのか。それは、この社会に、出身家庭と地域という本人にはどうしようもない初期条件(生まれ)によって教育機会の格差があるからだ。この機会の多寡は最終学歴に繫がり、それは収入・職業・健康など様々な格差の基盤となる。つまり、20代前半でほぼ確定する学歴で、その後の人生が大きく制約される現実が日本にはあるのだ。
  これは近年だけの話ではない。戦後日本社会には、程度の差こそあれ、いつだって「生まれ」による最終学歴の格差――教育格差があった。〔……〕そう、戦後日本社会に育ったあらゆる人にとって、教育格差は他人事ではなく、「古き良き時代」が存在したことはないのである。
  生まれ育った家庭と地域によって何者にでもなれる可能性が制限されている「緩やかな身分社会」、それが日本だ。現行の教育制度は建前としての「平等」な機会を提供する一方、平均寿命が80歳を超える時代となっても、10代も半ばのうちに「身の程」を知らせる過程を内包している。「生まれ」による機会格差という現状と向き合い積極的な対策を取らなければ「いつの時代にも教育格差がある」ことは変わらず、わたしたちはこの緩慢な身分制度を維持することになる。それは、一人ひとりの無限の可能性という資源を活かさない燃費の悪い非効率な社会だ。

(『教育格差』pp. 15-16)




【関連記事】
・弊ブログが過去に目次を公開した僅かな書籍から、関連するものをまとめた。
・本書『教育格差』が引用文献に挙げている書籍には、星印★ を付けた。


  [学校/試験/学歴]
『立志・苦学・出世――受験生の社会史』(竹内洋 講談社学術文庫 2015//1991)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170509/1493038563
『試験と競争の学校史』(斉藤利彦 講談社学術文庫 2010//1995)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20101105/1472800457
★『教育〈思考のフロンティア〉』(広田照幸 岩波書店 2004)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20080209/1479083687
『大学の誕生〈上〉――帝国大学の時代』(天野郁夫 中公新書 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170409/1490597468
『大学の誕生〈下〉――大学への挑戦』(天野郁夫 中公新書 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170409/1490597657
『学歴分断社会』(吉川徹 ちくま新書 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120709/1341759600
『検証・学歴の効用』(濱中淳子 勁草書房 2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170321/1489629296
『〈高卒当然社会〉の戦後史――誰でも高校に通える社会は維持できるのか』(香川めい,児玉英靖,相澤真一 新曜社 2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/2018/12/17/013000
アメリカの大学の裏側』(Aki Roberts, 竹内洋 朝日新書 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190513/1557706087
『教育論の新常識――格差・学力・政策・未来』(松岡亮二[編] 中公新書ラクレ 2021)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20220201/1643641200


  [教育投資]

★『幼児教育の経済学』(James J. Heckman[編著] 古草秀子[訳] 東洋経済新報社 2015//2013)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160721/1469344547
『「学力」の経済学』(中室牧子 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160717/1469344227
『学歴社会の法則――教育を経済学から見直す』(荒井一博 光文社新書 2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140225/1493039818
奨学金が日本を滅ぼす』(大内裕和 朝日新書 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170413/1490945350


  [日本における貧困・不平等]
『日本の不平等』(大竹文雄 日本経済新聞社 2005)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/2010/12/25/000000
『日本の貧困研究』(橘木俊詔, 浦川邦夫 東京大学出版会 2006)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20090913/1252767600
『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(湯浅誠 岩波新書 2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130905/1504015001
★『子どもの貧困――日本の不公平を考える』(阿部彩 岩波新書 2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130413/1365778800
★『子どもの貧困 II ――解決策を考える』(阿部彩 岩波新書 2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140125/1390575600
マイクロファイナンス――貧困と闘う「驚異の金融」』(菅正広 中公新書 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130313/1363100400
『彼女たちの売春[ワリキリ]――社会からの斥力、出会い系の引力』(荻上チキ 扶桑社 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20121209/1461179900
『効率と公平を問う』(小塩隆士 日本評論社 2012)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120605/1338822000

『ニッポンの貧困――必要なのは「慈善」より「投資」』(中川雅之 日経BP社 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20151225/1539586857
ベーシック・インカム――国家は貧困問題を解決できるか』(原田泰 中公新書 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150523/1480259761
『経済学者 日本の最貧困地域に挑む――あいりん改革 3年8カ月の全記録』(鈴木亘 東洋経済新報社 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170721/1500002351
『貧困と地域――あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(白波瀬達也 中公新書 2017)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170901/1501854549


[海外の不平等・貧困の研究、社会運動]

『不平等、貧困と歴史』(J. G. Williamson[著] 安場保吉,水原正亨[訳] ミネルヴァ書房 2003//1991)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20131101/1488506125
『不平等について――経済学と統計が語る26の話』(Branko Milanovic[著] 村上彩[訳] みすず書房 2012//2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130417/1366124400
『貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス』(Esther Duflo[著] 峯陽一, Koza Aline[訳] みすず書房 2017//2010)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20181117/1541167922
『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』(Abhijit V. Banerjee, Esther Duflo[著] 山形浩生[訳] みすず書房 2012//2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120509/1462504488
『善意で貧困はなくせるのか?――貧乏人の行動経済学』(Dean Karlan, Jacob Appel[著] 清川幸美[訳] みすず書房 2013//2011)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20130617/1539585939
『21世紀の不平等』(Anthony B. Atkinson[著] 山形浩生,森本正史[訳] 東洋経済新報社 2015//2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170309/1488771351
『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』(Branko Milanović[著] 立木勝[訳] みすず書房 2017//2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190909/1567954800
『作られた不平等――日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ』(Robert Boyer[著] 横田宏樹[編訳] 藤原書店 2016//2014)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20170221/1487070659
『現代奴隷制に終止符を!――いま私たちにできること』(Kevin Bales[著] 大和田英子[訳] 凱風社 2011//2007)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160711/1469187072


[平等についての思想史]
『不平等との闘い――ルソーからピケティまで』(稲葉振一郎 文春新書 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160925/1473835904
『不平等論――格差は悪なのか?』(H. G. Frankfurt[著] 山形浩生[訳] 筑摩書房 2016//2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20161121/1479100968
ベーシックインカム入門――無条件給付の基本所得を考える』(山森亮 光文社新書 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20120329/1332946800